ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
宝星が倒れた瞬間、戦場の音がひとつ減った。
錬成が砕け散った光は、まだ境内のあちこちで宝石の破片みたいに瞬いている。角乃はキラメイバスターを下ろし、暁宝星が戦闘不能になったのを確認していた。銭山の顔からは笑みが消え、黒亞の空気は鋭く尖る。
その一瞬の揺らぎを、広輝は怒りに変えた。
「余所見してる場合か」
低い声が落ちた時には、もうアマゾンオメガの腕から刃が伸びていた。
広輝は地面を蹴り、禽次郎へ一直線に迫る。トッキュウ1号になった禽次郎は、体を半身にしてレールスラッシャーを構えた。刃と刃がぶつかり、甲高い音が境内に走る。広輝の一撃は重い。若さの勢いと、復讐に向かう迷いのなさが、そのまま刃になっていた。
「いやいや、若い子は本当にせっかちだね」
禽次郎は言いながら受け流す。だが、広輝の刃は受け流された途中で形を変えた。伸びた刃先が曲がり、禽次郎の脇腹を狙う。禽次郎は後ろへ跳び、装甲の表面を掠めた火花を見下ろした。
「あんたに俺の道を語られる筋合いはない」
「道、ね。一本しかないと思い込むには、まだ早い年頃だと思うがね」
「黙れ」
広輝は短く吐き捨て、さらに踏み込んだ。
身体の表面が波打つ。腕の刃が長くなり、肩から胸にかけての装甲が厚くなる。禽次郎が距離を取ろうとすれば、広輝の脚部が強化され、一気に跳躍して間合いを潰す。横へ回れば、刃が枝分かれするように伸び、逃げ道を削った。
禽次郎はイーグルシューター50を一度構え、牽制の弾を撃つ。だが、広輝の胸部装甲が盛り上がり、弾を弾いた。火花だけが散り、広輝の足は止まらない。
「俺の身体は変わる。あんたの経験じゃ追いつけない」
「なるほど、今の若者は成長が早い」
「茶化すな!」
広輝の爪撃が、複数の方向から襲いかかる。
禽次郎はレールスラッシャーで弾き、身を沈め、滑るように位置を変える。だが完全には逃げきれない。一本の刃が肩を掠め、赤い装甲に傷を残した。広輝はその隙を見逃さず、さらに間合いを詰める。
「茶化してるわけじゃないさ。ただ、その成長を復讐だけに使うのは、もったいないと思ってね」
「復讐以外に何がある」
広輝の声が、初めて少しだけ荒くなった。
「MiucSを潰す。奪った奴らを消す。それだけだ」
「それだけで、君の先が全部埋まってしまうのかい」
「埋まっていい」
言い切った広輝の刃が、禽次郎の足元を裂いた。
地面に刻まれた傷が、まだ新しい線みたいに残る。禽次郎はその線を見て、少しだけ黙った。広輝の身体は変わる。刃も装甲も脚も、その場で必要なものへ変化する。そこへいちいち付き合っていたら、経験でどうにかする前に追いつかれる。
なら、見るべきは身体ではない。
禽次郎はレールスラッシャーを持ち直し、地面へ刃先を滑らせた。
「何をしてる」
「線路を引いてるのさ」
光の線が、地面に走った。
それはただの軌跡ではなかった。砂利の上を抜け、石段の端をなぞり、木の根元を回り込んで、境内の一角に光の線路を作っていく。禽次郎はさらにレールスラッシャーを振り、空中にも淡い線を引いた。まるで見えない足場に線路だけが通っているように、いくつもの軌道が広がっていく。
「ふざけるな。戦いの最中だぞ」
「だからこそだよ。線路がなければ、どこへ進むかも分からんだろう」
広輝が突っ込んだ。
だが、踏み込んだ足元で光の線路がきらめく。進行方向がわずかにずれ、広輝の刃は禽次郎の装甲を捉える直前で逸れた。広輝は即座に腕を変化させ、刃を伸ばして角度を補おうとする。けれどその刃も、別の線路の光に触れ、軌道を滑らされた。
「何だ、これは……!」
「道案内だよ」
禽次郎は線路の上を滑るように移動した。足元の光が彼の身体を運び、広輝の次の踏み込みから半歩だけずらす。その半歩が、広輝の刃を空振りさせた。
「俺はもう決めてる。MiucSを潰す。それだけだ」
「終点をひとつに決めるには、君はまだ若すぎる」
「うるさい!」
広輝は脚部をさらに強化し、線路を飛び越えるように高く跳んだ。空中で腕の刃が分裂し、上から禽次郎を囲む。逃げ場をなくすための変化。考えは悪くない。だが、禽次郎は上を見て、レールスラッシャーを軽く振った。
空中の光の線路が曲がる。
禽次郎の身体が横へ滑り、広輝の着地点から外れた。広輝は地面に着くと同時に振り向くが、その足元にも線路が走っていた。踏み込みたい方向へ、思うように力が乗らない。
「俺の身体は適応する!」
「なら、こちらは道を変える」
「道なんていらない!」
「いるさ。人は怒りだけでは、長く走れん」
広輝の沈黙が、怒りより重く落ちた。
次の瞬間、彼は線路そのものを壊すことに決めた。腕の刃を巨大化させ、光の線路ごと地面を叩き割る。何本かの線が砕け、光が散る。だが、禽次郎は慌てなかった。
砕かれた光が、逆に一本の流れへ集まり始める。
遠くから、汽笛のような音が聞こえた。
広輝が顔を上げる。
禽次郎はイーグルシューター50を構えていた。トッキュウ1号の赤い装甲の前で、イーグルシューター50の銃口へ光の線路が吸い込まれていく。黒鉄の車体。金色の縁取り。白い蒸気のような光。銃口の前に形を取り始めたのは、古い蒸気機関車を模した巨大なエネルギー弾だった。
「そんな古いものに、何ができる」
「古いからこそ、遠くまで走ってきたものもある」
禽次郎の声は、いつもの軽さを少し残していた。だが、その奥には冗談では済まない重さがある。
「俺は過去を忘れない」
「忘れなくていい」
禽次郎は照準を広輝へ合わせる。
「だが、過去だけを燃料にして走るな」
広輝は巨大化した腕刃を構えた。逃げる気はない。正面から受けるつもりだ。若さと怒りで、真正面から突っ込んでくる。
「さあ、出発進行だ」
「止まるかよ……!」
「止めるんじゃない。君の線路を、少し曲げるだけさ」
汽笛が高く鳴った。
禽次郎が引き金を引く。
「トッキュウ・スチームイーグルシュート!」
蒸気機関車型のエネルギー弾が、光の線路の上を走り出した。
ただ飛ぶのではない。線路を踏みしめるように、白い蒸気を噴き上げながら突進する。黒鉄と金の車体が光を纏い、真正面から広輝へ迫った。広輝は腕刃を振り下ろし、受け止めようとする。
衝突した瞬間、刃が軋んだ。
広輝の細胞が反応し、刃をさらに厚く、さらに硬く変えようとする。だが、エネルギー弾は止まらない。線路の光が車輪のように回り、蒸気機関車が刃を押し砕く。
「俺は……止まらない……!」
「止まらなくていい」
禽次郎の声が、汽笛の音の向こうから届く。
「だが、行き先は一つじゃない」
刃が砕けた。
蒸気機関車型の光が、アマゾンオメガの胸へ直撃する。爆発が広がり、広輝の身体が大きく吹き飛ばされた。地面へ叩きつけられ、転がり、ようやく止まる。装甲が光の粒になって剥がれ、変身が解除された。
森元広輝は、人の姿で倒れていた。
禽次郎はイーグルシューター50を下ろし、ゆっくりと近づく。広輝は完全には意識を失っていない。片手で地面を掴み、起き上がろうとしている。だが身体はもう動かない。
「俺は……まだ……」
「まだ走れるさ」
禽次郎は、その場にしゃがみ込まなかった。見下ろすでもなく、ただ少し離れた位置で、広輝の顔を見た。
「若い者は、まだ走れる。終点を間違えなければね」
広輝は言い返そうとして、言葉にならなかった。怒りは消えていない。MiucSへの憎しみも、簡単に薄れるものではない。それでも、「行き先は一つじゃない」という言葉だけは、倒れた彼の胸に引っかかったように見えた。
その静けさを、獣の咆哮が破った。
「広輝ィ……!」
刃牙だった。
ガオレッドとなった竜儀とぶつかり合っていたアマゾンが、息子の倒れた姿を見て、怒りを剥き出しにする。喉の奥から響いた声は、ただの父親の叫びではなかった。獣の王として周囲の牙を呼び寄せる、殺意に満ちた咆哮だった。
境内の空気が震える。
竜儀はその咆哮を真正面から受け、足を開いて構え直した。
「いやさか……その怒り、受け止めねばなりません」
銭山の表情も硬い。
「宝星に続き、広輝まで……」
黒亞が低く告げる。
「銭山様、私が――」
「焦るな」
銭山の声が、黒亞の言葉を止めた。
「だが、許すな」
その一言で、リベンジャーズ側の空気がさらに重くなる。
禽次郎は倒れた広輝から視線を外さないまま、小さく息を吐いた。勝った。だが、勝っただけでは終わらない。広輝を倒したことで、次に燃え上がるものがある。