ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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その信仰心と本能

蒸気機関車の形をした光が消えたあと、境内には白い蒸気の名残みたいな輝きが漂っていた。禽次郎はイーグルシューター50を下ろし、倒れた広輝を見つめている。その背中に勝ち誇った様子はない。若い奴を倒したあとに残る、苦い静けさだけがあった。

 

 けれど、その静けさを許さない男がいた。

 

「広輝ィ……!」

 

 刃牙の声が、獣の咆哮になって境内を震わせた。

 

 竜儀とぶつかっていたアマゾンが、息子の姿を見たまま固まる。ほんの一瞬だった。次の瞬間には、その全身から殺気が噴き上がる。爪が軋み、肩が膨らみ、喉の奥で低い唸りが渦を巻いた。

 

 ガオレッドになった竜儀は、その正面に立つ。

 

「いやさか……その怒り、受け止めねばなりません」

 

「黙れ」

 

 刃牙の声は低かった。言葉というより、噛み砕く前の唸りに近い。

 

「俺の息子を倒した奴らを、許す理由がない」

 

「怒りは当然。されど、その牙を誰に向けるかは、あなたが選ぶべきです」

 

「選ぶ必要などない」

 

 刃牙が地面を蹴った。

 

「邪魔する奴は、全部噛み砕く」

 

 アマゾンの身体が、竜儀へ向かって真っ直ぐ迫る。獣の突進だった。速さだけじゃない。怒りと殺意と、父親の痛みが混ざった重さがある。

 

 竜儀も引かなかった。

 

 ガオレッドの拳を握り、真正面から踏み込む。刃牙の爪と竜儀の拳がぶつかり、火花が散った。衝撃で地面の砂利が跳ねる。刃牙は止まらない。片腕を弾かれても、すぐ反対の爪を振り下ろす。竜儀はそれを受け、肩で押し返し、体当たりで距離を詰めた。

 

「獣は怒りで走る。牙は敵を裂くためにある」

 

 刃牙が吠える。

 

「牙は守るためにもある。命は、殺意に従うためだけのものではありません」

 

「綺麗事を吠えるな!」

 

「吠えるなら、祈りと共に!」

 

 竜儀の拳が刃牙の胸を打つ。

 

 だが刃牙は、後ろへ下がるより先に竜儀の腕を掴んだ。喉の奥からさらに深い咆哮が漏れる。あたりの空気がざわついた。見えない獣の気配が、刃牙へ集まっていくようだった。

 

 統牙。野生の牙と爪と生命力を、自分のものとして束ねる力。

 

 刃牙の攻撃が、一段重くなる。

 

 竜儀は受け止めた。だが、足が滑る。ガオレッドの脚が地面に深く跡を刻み、膝がわずかに落ちた。それでも姿勢を崩さない。信仰を支えに立つ男の背中は、簡単には折れなかった。

 

 刃牙は低く身を沈める。

 

 次の瞬間、竜儀の肩口へ食らいついた。

 

「ぐっ……!」

 

 アマゾンの牙がガオレッドの装甲に食い込む。硬い装甲が軋み、火花が散った。竜儀は反射的に引き剥がそうとせず、両足を踏みしめる。噛みつかれた痛みを受け止めるように、拳を震わせながら耐えた。

 

「殺す……MiucSも、お前らも、俺の邪魔をするなら全部……!」

 

「ぐっ……その牙、痛みだけで研がれたものですか……!」

 

「俺から奪う奴は、全部敵だ!」

 

 刃牙の声が装甲越しに響く。

 

 その言葉の中には、MiucSへの憎しみだけではない。広輝を倒された怒り。失うことへの恐れ。これ以上奪われたくないという叫び。けれど、それを全部牙に変えてしまえば、次に傷つくのは別の誰かだ。

 

 竜儀の指が、刃牙の肩を掴んだ。

 

「ならば、あなたはまた誰かから奪う獣になる!」

 

 竜儀の拳が、刃牙の側頭部へ叩き込まれた。

 

 鈍い音が響く。刃牙の牙が肩口から外れ、体が横へ揺れた。竜儀は逃がさない。踏み込み、もう一度殴る。さらに腰を落とし、暴れる刃牙を地面へ押さえつけた。

 

 刃牙は獣のように暴れる。爪が地面を裂き、砂利が跳ねる。それでも竜儀は押さえ込んだ。力だけではない。怒りに吞まれそうな相手を、その怒りごと受け止めるために、全身で抑えていた。

 

「私は……あなたの怒りを笑いません」

 

「なら、退け!」

 

「退けません。怒りに身を任せた先で、あなたが何を失うか知っているからです!」

 

 刃牙が竜儀を跳ね飛ばす。

 

 巨体が離れ、二人は同時に立ち上がった。刃牙の呼吸は荒い。竜儀の肩口には、牙の跡が深く残っている。だが竜儀の目は逸れていなかった。

 

「お前に何が分かる!」

 

 刃牙が叫ぶ。

 

「獣になるしかなかった奴の気持ちが!」

 

「分かるなどと、軽々しくは申しません」

 

「なら黙れ!」

 

「ですが」

 

 竜儀が一歩前へ出る。

 

「目を逸らしてはならないものがあることは知っています」

 

 刃牙が唸り、爪を構えた。

 

 竜儀は胸の前で拳を握る。ガオレッドの赤い装甲が、光を受けて強く見えた。彼の信じるもの、祈るもの、その奥にある荒ぶる衝動。全部を抱えたまま、竜儀は叫んだ。

 

「私は常に自分の中にある何かと戦っている! それは、決して眼を逸らしてはならない事! だからこそ!!」

 

 ガオメインバスターが、その手に現れる。

 

 竜儀は砲身を構えた。そこに宿るのは、獣を従わせるための力ではない。命と向き合い、荒ぶる牙を受け止め、それでも進むための力だった。

 

「あなたの牙を、ここで止めます」

 

 刃牙は答えなかった。

 

 代わりに、最後の咆哮を上げる。統牙の力がさらに膨れ上がり、刃牙の背にいくつもの獣の影が重なって見えた。爪。牙。荒れた息。森の奥から溢れ出るような野性が、アマゾンの身体に集まっていく。

 

「俺は止まらん! 広輝を傷つけた奴らを――!」

 

「命の咆哮よ、殺意を越えて響け!」

 

 ガオメインバスターが展開する。

 

 ファイナルモード。

 

 砲口に赤い光が集まり、竜儀の背後で獅子の幻影が吠えた。風が押し広げられ、境内の木々が揺れる。刃牙はそれでも止まらない。真正面から、牙を剥いて突っ込んでくる。

 

 竜儀も逃げない。

 

「ガオメインバスター、ファイナルモード!」

 

 刃牙の爪が届く寸前、竜儀が叫んだ。

 

「いやさかァァァッ!」

 

 砲撃が放たれた。

 

 赤い獣の光が、刃牙の突進と正面からぶつかる。最初の一瞬、刃牙は押し込もうとした。爪を立て、牙を剥き、光そのものを噛み砕こうとする。だが、ガオメインバスターの咆哮は止まらない。

 

 それは殺意を押し返す光だった。

 

 獣を従わせる力ではなく、獣と向き合う力。怒りを否定せず、しかしその先で誰かを傷つけることを許さない力。

 

 刃牙の爪が砕ける。

 

 アマゾンの装甲に亀裂が走り、咆哮が途切れた。赤い光が刃牙の身体を呑み込み、次の瞬間、アマゾンは大きく吹き飛ばされた。地面を転がり、石段の手前で止まる。変身が解け、森元刃牙の姿が現れた。

 

 刃牙は倒れたまま、荒い息を吐いている。

 

 それでも、片腕だけが動いた。

 

 手は、広輝の方へ伸びていた。届く距離ではない。それでも刃牙は、意識が薄れかけたまま、息子のいる方へ手を伸ばしていた。

 

 竜儀はガオメインバスターを下ろす。

 

 しばらく、その手を見ていた。

 

「その牙は、守るためにも使えるはずです」

 

 刃牙は答えない。

 

 ただ伸ばした手だけが、広輝の方を向いたまま止まっていた。

 

 宝星、広輝、刃牙。三人が倒れたことで、戦場の空気は明らかに傾いた。リベンジャーズの側から余裕が消えていく。銭山は黙ったまま動かないが、その沈黙の奥で怒りが膨らんでいるのが分かる。

 

 そして、黒亞が静かに息を吸った。

 

「銭山様の家臣を、次々と……許しません」

 

 赤い瞳が鋭く光る。

 

 黒亞の前で、バルイーグルとなった陸王が剣を構え直した。いつものように柔らかく笑っているが、その足は一歩も引いていない。

 

「君の相手はまだ僕だよ。余所見するには、少し早い」

 

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