ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

7 / 31
果実の狼

 橙の光が弾けた瞬間、森の空気が変わった。

 

 目の前に立っているのは、さっきまでの女じゃない。甲冑じみた装甲をまとい、果実みたいな意匠を身に刻んだ異形の戦士――鎧武。湿った森の匂いの中に、金属と何か甘ったるい気配が混じる。

 

「先に名を知っているなら、見逃す理由はない」

 

 鎧武が低く言う。

 

「上等だ」

 

 言い返すより先に、俺は地を蹴っていた。

 

 一直線。最短。様子見なんてしない。さっきの路地裏で分かった。この手の連中に先を渡すとろくなことにならない。なら、最初から喉元へ食らいつく。

 

 テガソードを振り下ろす。

 

 重い一撃だった。けれど鎧武は慌てない。橙色の刀が斜めに走り、真正面で受けるんじゃなく、角度で流す。火花が散った。衝撃が腕を抜ける。流されたその瞬間、もう片方の武器が横から差し込んでくる。

 

「っ!」

 

 銃にも剣にも見える細身の刃。

 

 紙一重で首を引き、森の風を頬で切る。速い。しかも、ただ振ってるんじゃない。無駄がねえ。真面目な性格がそのまま剣筋に出てるみたいだった。

 

「荒いな」

 

「うるせえよ」

 

 吐き捨てて、テガソードを返す。

 

 上からじゃない。今度は横。木々の隙間も、足場の根も、まとめて薙ぐように払う。鎧武は半歩沈み、そのまま潜る。避けるだけじゃない。地面を使って、次の踏み込みに繋げてくる。森の中だってのに、こいつの動きは乱れない。

 

 金属音が連続する。

 

 斬る。受ける。流す。押し返す。

 

 テガソードの重さはこっちが上だ。だが、押し切れない。相手はまっすぐ受けない。刃をずらし、角度を殺し、こっちの力を噛み砕くみたいに捌いてくる。

 

「いい腕だな」

 

 思わず漏れた。

 

「そっちも」

 

 鎧武の返しは短い。無駄口のための口じゃない。必要な時だけ開く声だ。

 

 次の瞬間、鎧武が一度だけ大きく引いた。

 

 距離を取る動きに見えた。違う。嫌な勘が先に走る。

 

 その背後。

 

 何もなかった空間が、不意に裂けた。

 

「……は?」

 

 空間そのものが割れている。裂け目の奥は森の色じゃない。もっと暗くて、ぬるい異界の色だ。そこから、獣とも虫ともつかない影が這い出してくる。

 

 インベス。

 

 名前までは知らなくても、面倒なもんが増えたのは一目で分かった。

 

「数で来る気かよ!」

 

「あなたを止めるには、それが早い」

 

 鎧武は冷たく言い切った。

 

 裂け目から飛び出した怪物どもが、一斉に散る。正面に二体。横へ一体。さらに後ろ。森の木々が死角になる。鬱陶しい。しかも、あいつらだけを見れば本体の剣が飛んでくる。

 

 初撃をテガソードで叩き割る。

 

 次を蹴る。

 

 だが、その隙間へ橙の刃が滑り込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

 脇腹に浅く走る。浅い。それでも浅いだけで済んだのは運がいい。あと半歩遅けりゃ、もっと深く持っていかれていた。

 

 舌打ちする暇もない。

 

 前からインベス。横から鎧武。さらに背後の気配。

 

 一対一なら押し潰せる。だが、これじゃ駄目だ。数が死角を埋めてくる。森の木立まで向こうの味方みたいに働いて、間合いを作る前に足を止められる。

 

「どうした!」

 

 鎧武の声が飛ぶ。

 

「その程度か!」

 

「抜かせ!」

 

 吠えるように返し、テガソードを振り抜く。前の二体をまとめて弾く。だが弾いたところへ、別の一体が枝の上から飛びかかってきた。

 

 面倒だ。

 

 こいつら、ただの置物じゃない。数の圧だけで十分うざいのに、本体がそれを前提に詰めてくる。戦い方ができてやがる。

 

 鎧武がまた来る。

 

 今度は低い。足を刈りにきている。そこへ前からインベス。

 

 悪い重なりだ。

 

 受け切るしか――そう思った、その瞬間。

 

 光が走った。

 

 一筋だった。

 

 白く鋭い線が木々の間を裂き、飛びかかってきたインベスの胴を真っ直ぐ貫く。勢いのまま、そいつの身体が後ろへ弾かれ、木の幹に叩きつけられた。

 

「何っ……!」

 

 鎧武が初めてはっきりと声を揺らした。

 

 俺もそっちを見る。

 

 森の奥、木立の間に楓が立っていた。手にしているのは弓だ。普通の弓じゃない。霊力みたいな光をまとった、見たことのない武装。その横で雪庭が静かに目を細めている。

 

「吠さん、下がってください!」

 

 楓の声が飛ぶ。

 

 次の矢が放たれる。

 

 もう一体。さらに一体。インベスの群れの中へ、寸分違わず突き刺さる。速い。正確すぎる。初めて見る力だった。けれど、驚いてる暇はない。

 

 十分だ。

 

 隙ができた。

 

 鎧武の視線が一瞬だけ楓へ向く。

 

 その間に、俺は腰へ手をやっていた。

 

 指先が、あのリングに触れる。

 

 ガヴ。

 

 テガソードの言葉が脳裏を掠める。異世界の人間との間に生まれた戦士。母の世界を守るために戦ったライダー。俺と似た戦士だと、あいつは言った。

 

「……使うぞ」

 

 誰に言うでもなく呟く。

 

 ここで切るしかねえ。

 

 俺はガヴのセンタイリングを掲げた。

 

 呼応するように、金のテガソードが鈍く光る。手の中へ吸い付くみたいな重み。迷いはもう無かった。

 

 リングを装填する。

 

 森の中に、はっきりと音声が響いた。

 

『ライダーリング! ガヴ!』

 

 その直後、弾けるような明るい音が重なる。

 

『ポッピングミ! ジューシー!』

 

 光が走った。

 

 赤と果実色のきらめきが、俺の腕を、肩を、胸を、一気に包み込んでいく。鎧武が目を見開くのが見えた。楓も、雪庭も、息を呑む気配を隠せない。

 

 だが、もう遅い。

 

 力が噛み合う。

 

 ゴジュウウルフの獣じみた感覚に、別の軽さと跳ねるような熱が重なる。骨の奥が弾む。視界が一段高くなる。身体が、次の一歩を待ちきれずにうずいていた。

 

 光が弾けた。

 

 俺は新しい姿のまま、森の真ん中へ立つ。

 

 目の前では鎧武が、さっきまでとは違う目でこっちを見ていた。

 

「……それが、お前の新しい力か」

 

 俺は肩を鳴らし、口の端を吊り上げる。

 

「ここからだ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。