ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
橙の光が弾けた瞬間、森の空気が変わった。
目の前に立っているのは、さっきまでの女じゃない。甲冑じみた装甲をまとい、果実みたいな意匠を身に刻んだ異形の戦士――鎧武。湿った森の匂いの中に、金属と何か甘ったるい気配が混じる。
「先に名を知っているなら、見逃す理由はない」
鎧武が低く言う。
「上等だ」
言い返すより先に、俺は地を蹴っていた。
一直線。最短。様子見なんてしない。さっきの路地裏で分かった。この手の連中に先を渡すとろくなことにならない。なら、最初から喉元へ食らいつく。
テガソードを振り下ろす。
重い一撃だった。けれど鎧武は慌てない。橙色の刀が斜めに走り、真正面で受けるんじゃなく、角度で流す。火花が散った。衝撃が腕を抜ける。流されたその瞬間、もう片方の武器が横から差し込んでくる。
「っ!」
銃にも剣にも見える細身の刃。
紙一重で首を引き、森の風を頬で切る。速い。しかも、ただ振ってるんじゃない。無駄がねえ。真面目な性格がそのまま剣筋に出てるみたいだった。
「荒いな」
「うるせえよ」
吐き捨てて、テガソードを返す。
上からじゃない。今度は横。木々の隙間も、足場の根も、まとめて薙ぐように払う。鎧武は半歩沈み、そのまま潜る。避けるだけじゃない。地面を使って、次の踏み込みに繋げてくる。森の中だってのに、こいつの動きは乱れない。
金属音が連続する。
斬る。受ける。流す。押し返す。
テガソードの重さはこっちが上だ。だが、押し切れない。相手はまっすぐ受けない。刃をずらし、角度を殺し、こっちの力を噛み砕くみたいに捌いてくる。
「いい腕だな」
思わず漏れた。
「そっちも」
鎧武の返しは短い。無駄口のための口じゃない。必要な時だけ開く声だ。
次の瞬間、鎧武が一度だけ大きく引いた。
距離を取る動きに見えた。違う。嫌な勘が先に走る。
その背後。
何もなかった空間が、不意に裂けた。
「……は?」
空間そのものが割れている。裂け目の奥は森の色じゃない。もっと暗くて、ぬるい異界の色だ。そこから、獣とも虫ともつかない影が這い出してくる。
インベス。
名前までは知らなくても、面倒なもんが増えたのは一目で分かった。
「数で来る気かよ!」
「あなたを止めるには、それが早い」
鎧武は冷たく言い切った。
裂け目から飛び出した怪物どもが、一斉に散る。正面に二体。横へ一体。さらに後ろ。森の木々が死角になる。鬱陶しい。しかも、あいつらだけを見れば本体の剣が飛んでくる。
初撃をテガソードで叩き割る。
次を蹴る。
だが、その隙間へ橙の刃が滑り込んだ。
「ぐっ……!」
脇腹に浅く走る。浅い。それでも浅いだけで済んだのは運がいい。あと半歩遅けりゃ、もっと深く持っていかれていた。
舌打ちする暇もない。
前からインベス。横から鎧武。さらに背後の気配。
一対一なら押し潰せる。だが、これじゃ駄目だ。数が死角を埋めてくる。森の木立まで向こうの味方みたいに働いて、間合いを作る前に足を止められる。
「どうした!」
鎧武の声が飛ぶ。
「その程度か!」
「抜かせ!」
吠えるように返し、テガソードを振り抜く。前の二体をまとめて弾く。だが弾いたところへ、別の一体が枝の上から飛びかかってきた。
面倒だ。
こいつら、ただの置物じゃない。数の圧だけで十分うざいのに、本体がそれを前提に詰めてくる。戦い方ができてやがる。
鎧武がまた来る。
今度は低い。足を刈りにきている。そこへ前からインベス。
悪い重なりだ。
受け切るしか――そう思った、その瞬間。
光が走った。
一筋だった。
白く鋭い線が木々の間を裂き、飛びかかってきたインベスの胴を真っ直ぐ貫く。勢いのまま、そいつの身体が後ろへ弾かれ、木の幹に叩きつけられた。
「何っ……!」
鎧武が初めてはっきりと声を揺らした。
俺もそっちを見る。
森の奥、木立の間に楓が立っていた。手にしているのは弓だ。普通の弓じゃない。霊力みたいな光をまとった、見たことのない武装。その横で雪庭が静かに目を細めている。
「吠さん、下がってください!」
楓の声が飛ぶ。
次の矢が放たれる。
もう一体。さらに一体。インベスの群れの中へ、寸分違わず突き刺さる。速い。正確すぎる。初めて見る力だった。けれど、驚いてる暇はない。
十分だ。
隙ができた。
鎧武の視線が一瞬だけ楓へ向く。
その間に、俺は腰へ手をやっていた。
指先が、あのリングに触れる。
ガヴ。
テガソードの言葉が脳裏を掠める。異世界の人間との間に生まれた戦士。母の世界を守るために戦ったライダー。俺と似た戦士だと、あいつは言った。
「……使うぞ」
誰に言うでもなく呟く。
ここで切るしかねえ。
俺はガヴのセンタイリングを掲げた。
呼応するように、金のテガソードが鈍く光る。手の中へ吸い付くみたいな重み。迷いはもう無かった。
リングを装填する。
森の中に、はっきりと音声が響いた。
『ライダーリング! ガヴ!』
その直後、弾けるような明るい音が重なる。
『ポッピングミ! ジューシー!』
光が走った。
赤と果実色のきらめきが、俺の腕を、肩を、胸を、一気に包み込んでいく。鎧武が目を見開くのが見えた。楓も、雪庭も、息を呑む気配を隠せない。
だが、もう遅い。
力が噛み合う。
ゴジュウウルフの獣じみた感覚に、別の軽さと跳ねるような熱が重なる。骨の奥が弾む。視界が一段高くなる。身体が、次の一歩を待ちきれずにうずいていた。
光が弾けた。
俺は新しい姿のまま、森の真ん中へ立つ。
目の前では鎧武が、さっきまでとは違う目でこっちを見ていた。
「……それが、お前の新しい力か」
俺は肩を鳴らし、口の端を吊り上げる。
「ここからだ」