ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
黒亞が倒れた。
長い銀髪が地面へ流れ、伸ばされた手は、銭山の方へ向いたまま止まっている。宝星も、広輝も、刃牙も、もう立てない。五人で並んでいたMiucSリベンジャーズは、王を名乗った男だけを残して崩れていた。
銭山願之介は、しばらく黒亞を見ていた。
オーズの装甲に隠れて表情は読めない。けれど、空気は変わっていた。余裕が消えたわけじゃない。怒りに呑まれているわけでもない。ただ、沈んだ熱が、あいつの足元からじわじわ広がっていく。
「黒亞……」
短い声だった。
その一言に、路地裏で見た王様気取りの薄い笑みはなかった。家臣と呼んだ相手を倒された男の声だった。だからこそ、気に入らない。大事にしているなら、なおさらだ。大事なものを、どうして自分の下に置こうとする。
俺は王鎧武装を握り直し、銭山へ一歩踏み出した。
「これで残りは、てめぇだけだ」
銭山がゆっくりと俺へ向く。
「我が家臣を倒し、なお吠えるか」
「ああ。王様気取りを止めるまでな」
銭山の手に、メダジャリバーが現れた。刃が重い光を帯びる。その反対の手には、もう一本。大振りの斧、メダガブリュー。片方は鋭く斬るための剣。もう片方は、叩き潰すための斧。二つを構えたオーズは、さっきまでより一回り重く見えた。
「王様気取り、か」
銭山の声が低く響く。
「ならば見せてやろう。家臣の痛みも、願いも、怒りも、すべて背負う者が王だ」
「背負うって言葉、便利だな」
俺はオージャカリバーを構えた。もう片方の手で、ウルフデカリバー50を抜く。二本の刃が、銭山の二刀と向き合う。
「だったらこっちも、二本で行ってやるよ」
「来い、狼」
「言われなくても!」
地面を蹴った。
最初にぶつかったのは、オージャカリバーとメダジャリバーだった。火花が散る。銭山は一歩も下がらない。すぐ横からメダガブリューが重く振り下ろされ、俺はウルフデカリバー50で受けた。腕に衝撃が走る。骨まで響くような重さだった。
受け止めた瞬間、銭山は踏み込んでくる。メダジャリバーが低く走り、俺の腹を狙った。オージャカリバーで弾き、ウルフデカリバー50で斬り返す。銭山はメダガブリューの腹でそれを受け、力任せに押し返してきた。
重い。
ただ力があるだけじゃない。一本一本の斬撃に、倒れた家臣たちの分まで重さを乗せているみたいだった。
「軽いな、狼。お前の剣は己の怒りしか背負っていない」
「てめぇの剣こそ重すぎんだよ」
俺は歯を食いしばって押し返す。
「背負ってるんじゃねえ、押し潰してるだけだろ!」
「押し潰される弱さを、俺は放置しない。だから管理する。だから導く」
「導くって言葉で鎖をかけんな!」
剣と剣がまたぶつかる。
銭山はオーズの力を切り替えながら攻めてきた。速い形で間合いを詰めたと思えば、次には重いコンボで真正面から叩き潰してくる。こっちはオージャカリバーで受け、ウルフデカリバー50で荒く斬り返すしかない。王の剣と狼の剣。二つを重ねても、銭山の二刀はまだ重かった。
「欲望は悪ではない」
銭山が、斬り結びながら言う。
「欲望があるから、人は立ち上がる。奪われた者が、二度と奪われぬ世界を望んで何が悪い」
「望むだけなら悪くねえよ」
メダガブリューの一撃を受け流し、俺は踏み込む。だが、メダジャリバーが横から割り込み、俺の刃を弾いた。
「ならば邪魔をするな」
「そのために他人を家臣だの駒だの言うから気に入らねえんだよ!」
「力を持つ者が秩序を作らねば、弱き者はまた奪われる」
「てめぇは弱い奴を守りたいんじゃねえ。自分の箱に閉じ込めたいだけだ!」
銭山の斬撃が、そこで一段深くなった。
メダガブリューが俺の二刀をまとめて押し込み、メダジャリバーの刃が肩を掠める。火花が散り、身体が後ろへ流された。踏ん張る前に、もう一撃。重い横薙ぎが腹へ入り、俺は地面を転がった。
すぐに立つ。
その前に、銭山が腰の反対側へ手を伸ばした。
「まだ何か隠してやがったのか」
「王は国の力を預かる」
銭山の手には、別のライドウォッチがあった。
「従う者も、従わなかった者も、その力は戦のために使われる」
「従わなかった者……?」
「器が足らず、我が国に収まれなかった者達だ」
胸の奥が、冷たくなる。
銭山はオーズの変身に使っているスロットとは反対側へ、そのライドウォッチを装填した。
『スーパー1!』
音声が響く。
銭山の腕に、別の力が重なった。五つの手。ファイブハンド。パワーハンドが俺のオージャカリバーを真正面から掴み、力任せに押し返してくる。ウルフデカリバー50を振ろうとしたところへ、エレキハンドの電撃が走った。指先が痺れ、刃が一瞬跳ねる。
「見ろ。従わぬ者の力も、王の手にあれば国を守る刃となる」
「ふざけんな……!」
冷熱ハンドが空気を歪ませる。熱と冷気が交互に叩きつけられ、俺の動きが鈍る。レーダーハンドがこちらの踏み込みを読んだように、銭山の身体が先に動く。ミサイルハンドから放たれた弾が、距離を取ろうとした俺の足元を爆ぜさせた。
「従うか否かは小さな差だ。力は、正しく使う者の下に集められるべきだ」
「それを奪うって言うんだよ!」
「奪ったのではない。預かった」
「勝手に決めてんじゃねえ!」
叫びながら斬りかかる。
だが、パワーハンドに押さえられた。エレキハンドがウルフデカリバー50を弾く。銭山はそのまま、別のライドウォッチを取り出した。
「ならば、これも奪った力と呼ぶか」
「……てめぇ」
『クローズ!』
クローズマグマナックルが、銭山の手に現れた。
炎が渦巻く。銭山はメダジャリバーとメダガブリューを一度引き、ファイブハンドで俺の武器を封じたまま、一気に踏み込んできた。腹に、燃える拳が叩き込まれる。
「ぐっ……!」
火花と熱が装甲の内側まで響く。俺は後ろへ飛ばされ、膝をつきかけた。立とうとした瞬間、ミサイルハンドの追撃が足元で爆ぜ、視界が揺れる。
「従わなかった者にも、願いはあった」
銭山が近づいてくる。
「だが、その願いは小さすぎた。己一人のためにしか燃えなかった」
「だから奪ったのかよ」
「違う。預かったのだ。大きな欲望のために。奪われぬ世界を作るために」
「それが気に入らねえって言ってんだろ!」
立ち上がって斬り込む。だが、今度はクローズマグマナックルの炎拳が、俺の二刀ごと押し返してきた。腕が跳ね上がる。がら空きになった胸へ、銭山の拳がもう一度入る。
息が詰まった。
「なぜ分からん。俺が欲する世界は、弱き者が二度と奪われぬ世界だ」
「その世界に」
俺は歯の隙間から声を絞る。
「てめぇに逆らう奴の居場所はあんのかよ!」
銭山の動きが、一瞬だけ止まった。
だが、本当に一瞬だけだった。
「逆らう者も、いずれ理解する」
「それを支配って言うんだよ!」
叫びは、拳で潰された。
クローズマグマナックルの炎が腹へめり込み、俺はまた吹き飛ばされる。背中が地面に叩きつけられた。オージャカリバーを握る手が痺れ、ウルフデカリバー50の刃が土を削る。
遠くで、誰かが俺を呼んだ気がした。
陸王か。角乃か。竜儀か。禽次郎か。よく分からない。ただ、倒れたら終わる。そう思った。
銭山が歩いてくる。
「遠野吠。まだ間に合う。我が家臣となれ。お前の牙も、怒りも、俺が正しく使ってやる」
「……ざけんな」
「何?」
「ふざけんなって言ってんだよ!」
俺は地面を殴るようにして立った。
身体は痛い。腕は重い。二本の剣はまだ握っているのに、さっきよりずっと遠く感じる。それでも銭山から目を逸らす気はなかった。
「仲間ってのは、てめぇの下に置くもんじゃねえ」
息を吸う。痛みが胸に刺さる。
「勝手に転んで、勝手に立って、勝手に横に並ぶもんだ」
「それでは失う。自由など、奪われる隙でしかない」
「失うのが怖いからって、全部縛ってんじゃねえよ!」
銭山の拳に炎が灯る。
「ならば、吠えるだけの狼として砕けろ」
「砕けねえよ」
俺は二本の剣を構え直した。
「俺はまだ、負けるつもりがねえ!」
叫んだ瞬間、空間が震えた。
境内の上に、黄金の裂け目が走る。角乃が来た時と同じような、けれどもっと荒々しいゲート。その向こうから、何かが飛び込んできた。
オルガブースター5050。
その名を知らなくても、分かった。こいつは俺に使えと言っている。向こうの世界から、ここまで届いた力だ。
「おや、また新しいお客さんだ」
陸王の声が聞こえた。
「向こうの世界から……吠に応えて来たのね」
角乃の声もする。
銭山が警戒する。
「何だ、その力は」
「さぁな、けどな」
飛び込んできたオルガブースター5050を掴む。手の中で熱が走った。拒まれていない。むしろ、早く使えと急かされているみたいだった。
「てめぇをぶっ潰すのに、丁度良いからな!」
『オルガブースター5050!』
音声が響き、クワガタオージャーの装甲が変わる。
赤い王の鎧に、さらに荒々しい力が重なった。肩から腕へ、獣のような厚みが加わる。両手に展開されたのは、ガブティラファング。剣を握るためではなく、殴り抜くための牙だった。
クワガタオージャーカーニバル。
胸の奥で、狼の吠え声と、王の号令と、獣の咆哮が重なる。
俺は剣を下ろし、拳を握った。
「こっからは、王様の剣じゃねえ」
ガブティラファングが唸る。
「はぐれ者の拳で、てめぇを止める!」
銭山がファイブハンドとクローズマグマナックルを構える。
先に来たのはパワーハンドだった。俺は真正面から拳を叩きつける。ガブティラファングが噛み砕くようにパワーハンドを弾いた。エレキハンドの電撃が走る。構わず踏み込む。身体に火花が散っても、止まらない。
ミサイルハンドから弾が放たれる。
俺は拳を連打した。飛んでくる弾を、ひとつずつ殴り落とす。爆風を裂き、前へ出る。クローズマグマナックルの炎拳が迫る。俺のガブティラファングと真正面からぶつかった。
炎が押し返される。
「馬鹿な……王の力が、国の力が押されるだと!」
「国じゃねえ」
右の拳。左の拳。銭山の防御を叩き続ける。
「てめぇが勝手に集めた鎖だ!」
「俺は奪われぬ世界を作る!」
「だったらまず、てめぇが奪うのをやめろ!」
拳が銭山の胸へ入る。
オーズの装甲が大きく揺れた。銭山は後退しながらも、まだ倒れない。メダジャリバーとメダガブリューを再び呼び出し、ファイブハンドとクローズマグマナックルの力まで重ねて、俺を止めようとする。
全部盛りみたいな力だった。
奪ったもの。預かったと言い張ったもの。従わせたもの。従わなかったもの。銭山が国と呼んだものが、全部あいつの前に壁を作っている。
俺は止まらない。
ガブティラファングが唸る。拳に岩みたいな重さが集まっていく。地面が割れ、砕けた石が拳の周りで渦を巻いた。クワガタオージャーカーニバルの力と、俺自身の狼の牙が、ひとつに重なる。
「王に牙を剥くか、遠野吠!」
「ああ」
俺は拳を振りかぶる。
「てめぇみたいな王様を止めるためにな!」
銭山が真正面から構える。
メダジャリバー。メダガブリュー。ファイブハンド。クローズマグマナックル。全部の力が、俺の一撃を受け止めようと集まっている。
構うか。
俺は踏み込んだ。
「王様岩烈パンチ!」
拳が、銭山の防御へ叩き込まれる。
最初に砕けたのは、重なった刃の光だった。次にファイブハンドの力が弾け、クローズマグマナックルの炎が押し潰される。岩みたいな拳圧と、ガブティラファングの牙が、銭山の作った壁を全部噛み砕いていった。
最後に、拳がオーズの胸へ届く。
衝撃が爆ぜた。
銭山の身体が大きく吹き飛び、地面へ叩きつけられる。オーズの装甲が光の粒になって剥がれ、金色の長い髪が土の上へ広がった。変身が解除された銭山願之介は、荒く息をしながら空を見上げている。
戦場が静かになる。
俺はクワガタオージャーカーニバルのまま、少し離れた位置で立っていた。見下ろしたくはなかった。こいつを倒したのは、踏みにじるためじゃない。止めるためだ。
銭山は、震える手を伸ばそうとした。
その先には、倒れた黒亞たちがいる。
「俺は……守ろうとした」
掠れた声が漏れる。
「奪われぬ国を……」
「守りたいなら、まず相手を信じろよ」
俺は言った。
銭山の目が、ゆっくりとこちらへ向く。
「信じて、失えばどうする」
「失うのは怖えよ」
その言葉だけは、軽く言えなかった。
誰かを失うのは怖い。俺だって怖い。仲間が倒れるのを見るのは嫌だ。手を伸ばしても届かないことだってある。だから、銭山が何を恐れていたのかは、少しだけ分かる。
でも。
「怖いからって閉じ込めたら、それはもう守るじゃねえ」
銭山は答えなかった。
倒れていた黒亞の手が、かすかに動く。銭山へ向かって、力なく伸びた手。命令されたからじゃない。家臣だからじゃない。彼女自身が、銭山を案じて伸ばした手だ。
銭山はそれを見た。
長い沈黙が落ちる。
王と家臣。統治と秩序。あいつが何度も使った言葉の外側で、倒れた仲間が自分の意思で手を伸ばしている。たぶん、銭山は初めてそれを見た。支配しなくても、縛らなくても、誰かがそばにいようとする瞬間を。
俺は拳を下ろす。
「王様ごっこは終わりだ、銭山」
銭山は目を閉じた。
メダジャリバーも、メダガブリューも、スーパー1とクローズのライドウォッチも、地面へ転がっている。預かったと銭山が言った力は、今はもう誰の手にも握られていなかった。
戦いは終わった。