ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
翌朝の寺は、昨日の戦いが嘘みたいに静かだった。
朝日は本堂の屋根を薄く照らし、境内の石畳にはまだ夜露が残っている。鳥の声が聞こえ、どこかで箒が地面を擦る音がした。けれど、よく見れば嘘ではない。石畳は何か所も削れ、焦げ跡が黒く残り、割れた木片や砕けた小石が端に寄せられていた。
銭山との戦いの跡だ。
俺は箒を持ったまま、足元の傷を見下ろしていた。王様岩烈パンチで銭山を吹き飛ばした時に割れた石の線が、まだ生々しく残っている。戦いは終わった。リベンジャーズは全員倒した。けれど、勝ったからといって、全部が朝日で綺麗に流れるわけじゃない。
「いやはや、朝の掃除としては少々派手すぎるね」
禽次郎が少し離れたところで箒を動かしながら言った。老人の姿に戻っているせいか、昨日のトッキュウ1号の勢いとは別人みたいに見える。それでも、目の奥にはいつもの軽さが残っていた。
「誰のせいでもねえけど、昨日の戦いの後始末だろ。やるしかねえ」
「吠君、そういう時は意外と真面目だね」
陸王が石片を拾いながら笑う。手は動いているが、無駄に疲れない場所ばかり選んでいるようにも見える。
「意外は余計だ」
「褒めたつもりだったんだけど」
「ならもっと分かりやすく褒めろ」
竜儀は黙々と大きな木片を運んでいた。軽口に混ざることなく、割れた枝や石を一か所へ集めている。
「いやさか。戦いの跡を清めるのもまた、務めです」
「境内であれだけ暴れたんだから、当然でしょ」
朱莉がそう言いながら、焦げ跡の周りを確認している。芹亜は青木さんと一緒に、本堂近くの砂埃を払っていた。戦えない者も、昨日の戦いを見ていた者も、みんながそれぞれの手で朝を戻そうとしている。
縁側の近くでは、雪庭が白い布を広げていた。
その上には、いくつものライドウォッチが並んでいる。オーズ、X、アマゾン、アマゾンオメガ、ガッチャード。それにスーパー1とクローズ。昨日、銭山が使ったものもある。あいつが預かったと言い張った力だ。
見ているだけで、胸の奥が少し重くなった。
「そういえば」
背後から、妙に堂々とした声がした。
振り返ると、一河角乃が立っていた。朝の光を背に受けても、戦いの疲れを感じさせない姿勢で、まるで最初からこの場の中心に立つために来たみたいな顔をしている。
「落ち着いて名乗っていなかったわね」
「今さらかよ」
俺が言うと、角乃は悪びれもせず肩をすくめた。
「乱入、変身、戦闘、勝利。あの流れで自己紹介まで優雅に済ませるのは、さすがの私でも少し忙しいわ」
「それは確かに。ずいぶん派手な登場だったからね」
陸王が楽しそうに相槌を打つ。
角乃は一歩前へ出て、俺たちを順に見渡した。芝居がかっているのに、不思議と浮いてはいない。あいつはそういう空気を自分で作ってしまうタイプなんだろう。
「一河角乃。ハイクラス名探偵にして、ゴジュウユニコーン。以後、事件と厄介事の整理は任せなさい」
「事件と厄介事しかねえんだけどな、今」
「なら私向きね」
即答だった。
角乃は俺を見た。見られているというより、観察されている感じがする。戦い方、喋り方、昨日の反応まで全部拾われているようで、少し居心地が悪い。
「あなたが遠野吠。噛みつくのが先で、考えるのは後。けれど、肝心なところでは退かない」
「初対面で人を犬みたいに言うな」
「狼でしょう?」
「そこじゃねえ」
朱莉が横で少しだけ笑った。俺は睨んだが、朱莉は知らん顔をした。
角乃は次に陸王を見る。
「百夜陸王。笑顔で距離を測るタイプ。油断しているようで、実際はかなり見ている」
「おや、褒められてるのかな」
「半分くらいは」
「残り半分が気になるね」
「聞かない方が優雅よ」
陸王は笑ったまま肩をすくめた。
角乃は竜儀へ視線を移す。
「暴神竜儀。信仰心が強く、言葉が少し重い。けれど、力の向け方は真っ直ぐ」
「いやさか。テガソード様の御導きあればこそ」
「ほら、重い」
「これは失礼」
竜儀は本当に少しだけ頭を下げた。そこまで素直に受け取られると、角乃の方が一瞬困った顔をする。
最後に、角乃は禽次郎を見る。
「猛原禽次郎。軽さで重さを隠す年長者。若者を見る目が甘いけれど、そこが強みでもあるわね」
「おやおや、初対面から見抜かれてしまったかな」
「初対面ではないわ。少なくとも、昨日かなり見たもの」
「これは手厳しい」
禽次郎は笑う。けれど、角乃の言葉を嫌がっているわけではなさそうだった。軽さで重さを隠す。その言い方は、たぶん当たっている。
自己紹介が済むと、俺たちは自然と縁側の白い布の前へ集まった。
雪庭が並べたライドウォッチを指で示す。
「これが昨日の戦いで回収されたライドウォッチだ」
「結構あるわね」
朱莉の声には、少し警戒が混じっていた。
「銭山君、随分集めていたみたいだ」
「集めたって言うより、奪ったんだろ」
俺が言うと、禽次郎が静かに頷く。
「本人は預かったと言っていたがね」
「勝手に預かるのは奪うって言うんだよ」
布の上に並んだライドウォッチは黙っている。けれど、ただの道具には見えなかった。昨日、銭山はスーパー1とクローズの力を使った。従わなかった者の力だと言っていた。器が足りなかったとも言った。
その言い方が、まだ腹の底に残っている。
角乃が一つを手に取った。クローズのライドウォッチだ。彼女は表面を確認し、光の残り方を見るように角度を変える。
「状態は悪くない。ただ、戦闘中にかなり強引に使われた痕跡があるわ」
「反対側のスロットに装填して、能力や武装だけを引き出したようだな」
雪庭が言う。
「便利だけれど、乱用すれば使用者にも負荷が返る。銭山はそれを承知で使っていたはずよ」
「承知で、か」
俺はスーパー1のライドウォッチを見た。
ファイブハンド。あれに何度も押さえ込まれた感覚が、腕に残っている。便利な力だった。強い力だった。だけど銭山が使ったあの瞬間、あれは誰かの願いじゃなく、銭山の国を守るための部品みたいに見えた。
「なあ」
言うつもりはなかったのに、声が出た。
全員の視線が俺に向く。
「これ、俺たちが使ったら……あいつと同じになんねえのか」
場が少し静かになった。
「銭山と?」
朱莉が聞き返す。
「あいつは、従わなかった奴の力も使うって言ってた。預かったとか言って、勝手に。俺たちもこれを使うなら、結局似たようなことしてんじゃねえのかって」
自分で言って、余計に重くなった。
力は必要だ。MiucSと戦うためにも、これから先の敵と向き合うためにも。けれど、必要だから何でも使っていいなら、銭山と何が違うのか分からなくなる。
角乃は、手の中のライドウォッチを布へ戻した。
「大事なのは、力の扱い方よ」
「扱い方?」
「力を相手の意思ごと奪って、自分の支配に組み込むなら銭山と同じ。でも、誰かを守るために必要な時だけ借りて、終わったらきちんと向き合うなら違う」
「向き合う……」
「ええ。使った力が、どこから来たのか忘れないこと。便利だから使う、強いから使う、それだけなら危ないわ」
禽次郎が湯呑みを片手に、ゆっくりと言葉を足す。
「使う者が、力を持っていた相手の願いを忘れんことだね。昨日の銭山っちは、そこを自分の願いで塗りつぶしてしまった」
「いやさか。力は信仰と同じく、己を律するものでもあります」
竜儀の声はまっすぐだった。
陸王は布の上のライドウォッチを眺め、軽く笑う。
「まあ、少なくとも僕らは王様の倉庫を作る気はないよね」
「……だな」
答えが全部出たわけじゃない。
それでも、胸の重さが少しだけ形を変えた。使うなら、忘れない。奪うんじゃなく、借りる。借りたものを、自分のものみたいに振り回さない。そんな簡単なことで済むかは分からないが、少なくとも銭山みたいに言い訳で塗り固めるつもりはなかった。
雪庭が、布の端に置かれたライドウォッチへ視線を落とした。
「昨日も言ったが、あの戦いはこちら以外にも見られていた可能性がある」
その一言で、空気がまた変わる。
芹亜が少し不安そうに聞いた。
「見られていた、というのは……MiucSにですか?」
「断定はできない。ただ、このライドウォッチに外部から触れたような痕跡がある」
雪庭はオーズのライドウォッチを指した。光は弱いが、確かに表面の奥で何かが揺れているように見える。
角乃が身を乗り出し、目を細めた。
「触れた、というより、覗いたと言った方が近いわね」
「覗いた?」
「戦いそのもの、あるいはライドウォッチの反応を遠くから観測した。そういう痕跡」
「それはまた、感じが悪いね」
陸王の声から、軽さが少し消える。
「次に狙われるってこと?」
朱莉が言う。
「その可能性はある」
雪庭の答えは短かった。
俺は布の上のライドウォッチを見る。昨日の戦いで倒した奴らの力。銭山が集めた力。そして、今は俺たちの前にある火種。戦いが終わったと思ったら、もう次の誰かがそれを見ていた。そういうことだ。
角乃は立ち上がり、寺の門の方へ目を向けた。
「面白い事件、とは言いたくないわね。被害も大きいし、放っておけばもっと面倒になる」
「ならどうすんだよ」
「決まっているでしょう」
角乃は振り返る。
「解くのよ。誰が見ていたのか。何を狙っているのか。そして、このライドウォッチが次に何を呼ぶのか」
「頼もしいね、名探偵」
「当然よ。ハイクラスだから」
陸王が笑うと、角乃はそれを当然のように受け取った。
「なら、僕らもその事件に付き合うとしようか」
禽次郎が言う。
「いやさか。次なる戦いにも、備えねばなりません」
竜儀も頷いた。
俺は並んだライドウォッチをもう一度見た。
オーズ、X、アマゾン、アマゾンオメガ、ガッチャード。スーパー1、クローズ。どれもただの戦利品じゃない。誰かの願いがあって、痛みがあって、銭山の手を通って、ここへ来た。
「力は増えた。けど、面倒も増えたってわけか」
「今さらでしょ」
朱莉の返しは早かった。
「だな」
俺が息を吐いた、その時だった。
布の上のライドウォッチの一つが、小さく震えた。
朝日の光とは違う色が、かすかに瞬く。全員の視線がそこへ集まる。風もないのに、白い布の端がわずかに揺れた。
雪庭が低く言う。
「……来るな」
「誰が」
俺が聞くと、角乃がライドウォッチの光を見つめたまま答えた。
「それをこれから調べるのよ」
寺の外では、鳥の声がまた聞こえ始めていた。朝は続いている。掃除も終わっていない。焦げ跡もまだ残っている。
けれど、並んだライドウォッチの光は消えなかった。
俺は境内の向こうを見る。
「なら、来る前にこっちも準備だ」
静かな朝の中で、次の戦いの気配だけが、確かにこちらへ近づいていた。