ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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悪夢

 黒い潮霧は、寺の境内を呑み込んでいた。

 

 石畳の先にあるはずの門は見えない。木々の輪郭も、空の色も、すべて霧の向こうで溶けている。耳に届くのは、ここにはないはずの潮騒だった。寄せては返す波の音が、足元の石の下から響いてくる。

 

 角乃は封筒を手に、霧の流れを見ていた。

 

 濡れた足跡は、無作為に現れているのではない。境内の四方から中央へ向かい、そこに花の輪郭を作っている。黒い霧は、その周囲を波のように囲んでいた。封蝋に刻まれた紋章と同じ形。花を囲む波。花嫁と満ち潮。中央に浮かぶ、祭壇の影。

 

 悪趣味なほど、整っている。

 

「霧が濃くなってやがる。どこから来てんだ、これ」

 

 吠が王鎧武装に手をかけたまま、周囲を睨む。

 

「海は近くにないはずなんだけどね」

 

 陸王の声にも、いつもの軽さは少ない。

 

「いやさか……これは自然の潮ではありません」

 

 竜儀が本堂を背に立ち、低く言った。

 

「ええ。海が来ているんじゃない」

 

 角乃は封蝋を掲げた。黒い印の奥で、波の線が濡れたように光る。

 

「祭壇がこちらへ重ねられているのよ」

 

「祭壇って、あの手紙に書いてあったやつか?」

 

 遊真が瑠衣の前を気にしながら尋ねる。彼の視線は霧と瑠衣の間を忙しく行き来していた。飛び出したいのを、どうにか抑えている顔だった。

 

「そう。封蝋の紋章を見て。花を囲む波。その形が、この境内に広がっている霧の線と同じ」

 

 角乃は足元の霧を指で示す。

 

「これは印ではなく、設計図。寺を島の祭壇へ作り替えるための儀式装置よ」

 

 瑠衣の表情が、わずかに強張った。

 

 彼女の周りには縫蘇霊獣たちが集まっている。どの子も黒い霧を恐れるように身を縮め、瑠衣の袖や足元に寄り添っていた。瑠衣はその一体を抱き上げ、指先で背を撫でている。震えを抑えているのか、震えを受け止めているのか、角乃には判別できなかった。

 

 雪庭が半歩、瑠衣の前に出る。

 

 その動きは静かだった。けれど、もし何かが瑠衣へ伸びれば、その瞬間に遮る位置だった。

 

 霧の奥から、拍手の音がした。

 

 一度。二度。三度。

 

「見事だ、探偵。封蝋の意味まで辿り着くとは」

 

 黒い潮霧を割って、男が現れた。昨日の使者と同じ外套。だが、今日は背後に従者の影を連れている。服の意匠は古めかしく、胸元には封蝋と同じ花と波の紋章が縫い込まれていた。

 

 角乃は男の立ち方を見た。足の向き、視線、従者との距離。使い走りではない。自分が家の顔として立っていると信じている者の態度だった。

 

「褒め言葉としては受け取らないわ。趣味の悪い仕掛けだもの」

 

「仕掛けではない。これは正統な儀式だ。逃げた花嫁を、あるべき祭壇へ戻すための」

 

「まだそんな言い方すんのかよ!」

 

 遊真が叫ぶ。

 

 男は遊真を一瞥しただけで、すぐに瑠衣へ目を戻した。いや、瑠衣を見たのではない。そこにいる誰かを、自分の決めた役割として見ていた。

 

「てめぇら、瑠衣を何だと思ってやがる」

 

 吠の声が低くなる。

 

 男は薄く笑った。

 

「我らヴェルメール家が買い受けた花嫁だ」

 

 場が凍った。

 

 買い受けた。

 

 その言葉だけで、遊真の顔色が変わる。朱莉が息を呑み、陸王が笑みを消した。瑠衣は何も言わなかった。ただ、縫蘇霊獣を抱く腕に少し力が入る。

 

「本来の花嫁を救うため、代わりを立てた。それだけのことだ」

 

 男――クラウス・ヴェルメールは、当然のように言った。

 

「それだけ、ね」

 

 角乃の声は、思ったより冷たく出た。

 

「人を買い、役割を押しつけ、名前を奪った。それをそれだけと言える家が没落したのは、当然の結論だわ」

 

 クラウスの眉が動く。

 

「貴様に何が分かる。我らは家を失った」

 

「違うわ」

 

 角乃は一歩、前に出た。

 

「あなたたちは、家を失ったのではない。最初に品格を捨てたのよ」

 

 霧がざわめいた。

 

 クラウスの背後で、白い影が浮かび上がる。少女たちだった。白い衣をまとい、髪を垂らし、顔は霧に隠れている。ひとりではない。いくつも、いくつも、境内の波紋の上に立っている。

 

 瑠衣の縫蘇霊獣たちが怯えて鳴いた。

 

「見ろ」

 

 クラウスが腕を広げる。

 

「花嫁たちも求めている。逃げた偽物を、祭壇へ戻せと」

 

 少女たちの影が揺れる。

 

 声にならない声が、潮騒に混じる。恨みのようで、泣き声のようで、助けを求める手のようにも見えた。遊真が唇を噛む。

 

「違う……昨日見た子は、そんな感じじゃなかった」

 

「ええ」

 

 角乃は少女たちの足元を見る。黒い霧の線が、封蝋の波紋と同じ形で彼女たちを縛っていた。少女たちはその線の上に立たされている。移動しているようで、同じ波の輪郭から出られない。

 

「彼女たちは怒っているだけではない。助けを求めている」

 

「死者の声を都合よく解釈するな」

 

「それはこちらの台詞よ」

 

 角乃は封蝋をクラウスへ向けた。

 

「この配置、封蝋の波紋と同じ。彼女たちは自分の意思でここにいるのではない。あなたが儀式に縫い付けている」

 

「花嫁は祭壇に戻る。それが理だ」

 

「死者まで道具にする。やはり、あなたたちの家は終わって当然ね」

 

 クラウスの笑みが消えた。

 

 霧の奥から、従者たちが歩み出る。人間の形をしているが、足元は黒い潮霧に溶けていた。手には古びた儀礼用の短剣や鎖を持っている。彼らが動くたび、黒い波の線が境内に走る。

 

「花嫁を返せ」

 

 クラウスが言う。

 

「名を与えられたところで、役割は消えぬ」

 

 黒い鎖が、瑠衣へ伸びた。

 

 雪庭が前に出ようとするより早く、瑠衣自身が縫蘇霊獣を放った。小さな獣たちが一斉に飛びかかり、鎖へ噛みつく。だが、霊的な鎖は獣たちの身体をすり抜けるように絡み、逆に縫蘇霊獣を縛り上げた。

 

「……っ」

 

 瑠衣が息を詰める。

 

「来るぞ!」

 

 吠が駆け出そうとした。

 

 その前に、角乃が一歩踏み込む。

 

「人を物のように返せと言う。その言葉だけで、あなたたちの程度は十分に分かったわ」

 

「角乃姉ちゃん!」

 

 遊真の声が飛ぶ。

 

 角乃は振り返らずにテガソードを構えた。

 

「円堂君、見ていなさい。探偵が事件に踏み込む時を」

 

 テガソードに光が走る。

 

「ハイクラス&ラグジュアリー、ゴジュウユニコーン!」

 

 黒と金の輝きが角乃を包んだ。

 

 ゴジュウユニコーンの装甲が現れ、胸部のアーマーが朝焼けのような光を反射する。角乃はユニコーンドリル50を構え、伸びてきた黒い鎖へ真正面から突き込んだ。

 

 ドリルが回転し、霧で編まれた鎖を削る。

 

 火花ではなく、黒い水しぶきのようなものが散った。縛られていた縫蘇霊獣たちが解放され、瑠衣の足元へ転がる。瑠衣は一体ずつ抱き寄せ、かすかに震える背を撫でた。

 

「攻撃の線が雑ね。儀式の形に頼りすぎているわ」

 

 ゴジュウユニコーンとなった角乃は、足跡の向き、霧の濃淡、少女ゴーストたちの配置を見ながら走った。従者が振るう短剣をドリルで弾き、横から迫る鎖を斜めに削る。力任せではない。彼女は霧の線そのものを読んでいる。

 

「小賢しい」

 

 クラウスが低く吐く。

 

「小賢しいのではなく、観察しているのよ」

 

 角乃はドリルを地面へ突き立てた。

 

 黒い波紋の一部が裂ける。少女の影が一つ、ふっと軽くなったように揺れた。だが次の瞬間、別の霧が流れ込み、裂け目を塞ぐ。波紋は形を変え、また新たな線として境内に走った。

 

 角乃はさらに二か所を削る。

 

 同じだった。

 

 切ったはずの線は、霧と足跡とゴーストの影を使って別の形へ組み替わる。壊しているのに、壊れない。戻っているのではない。欠けた場所を満ち潮が埋めるように、構造そのものが再配置されている。

 

「切っても戻る……いいえ、戻っているのではなく、組み替わっている」

 

「祭壇は完成する」

 

 クラウスの声が、霧の奥から響く。

 

「どれほど削ろうと、満ち潮は欠けた場所を満たす」

 

「面倒な仕掛けだね」

 

 陸王が従者の一体を蹴り払う。

 

「いやさか。破壊だけでは清められぬか」

 

 竜儀が黒い霧を押し返しながら言う。

 

「そうね」

 

 角乃はユニコーンドリル50を引き抜いた。

 

「これは壊す事件ではない。構造を読み替える事件だわ」

 

 封蝋の紋章と、境内の霧の線。花と波。花嫁と祭壇。満ち潮と欠けた場所の補完。物理的に削るだけでは駄目だ。線を切るのではなく、線の意味を変えなければならない。

 

 相手が儀式として組んだなら、こちらは別の論理で組み替える。

 

 角乃は、腰のツメガバックルから一つのライダーリングを取り出した。

 

 ガッチャード。

 

 暁宝星との戦いで得た力。物質と現象を見て、新たな結合へ変える力。

 

「角乃姉ちゃん、どうすんだよ!」

 

 遊真が叫ぶ。

 

「決まっているでしょう。相手が儀式を組むなら、こちらは組み替える」

 

「組み替える?」

 

 吠が従者を斬り伏せながら振り向く。

 

「錬成よ。物質と現象を読み、別の形へ変える力」

 

 角乃はライダーリングを掲げた。

 

「暁宝星。あなたの力、借りるわ」

 

 黒い霧が一段濃くなる。

 

 霊的な鎖が再び瑠衣へ伸びた。雪庭が印を切り、瑠衣の前に結界のような光を作る。だが鎖はその外側を回り込み、波紋に沿って別の角度から迫ってきた。

 

 角乃はその前へ立つ。

 

「エンゲージ」

 

 リングが輝いた。

 

『ライダーリング!ガッチャード!』

 

 音声が黒い潮騒を裂いた。

 

 ゴジュウユニコーンの装甲に光が走る。黒と金の装甲がほどけていく。肩も腕も脚も、ユニコーンの意匠は光の粒となって消えた。ただ、胸部のアーマーだけが残る。

 

 その下から、メタリックブルーの装甲が組み上がった。

 

 赤い複眼が霧の中で灯る。腰にはガッチャードライバー。全身は仮面ライダーガッチャードの姿だ。だが胸には、ゴジュウユニコーンの胸部アーマーだけが残り、角乃がゴジュウジャーであることを示している。

 

 腕や脚に余計な装甲はない。肩にもユニコーンの追加装備は残らない。変わったのは、角乃の姿と、手元のテガソードだけだった。テガソードは錬成の光を受け、青い輝きを帯びながら形を変え始めている。

 

 クラウスが一歩下がった。

 

「何だ、その姿は……」

 

 角乃は赤い複眼で、霧の奥の紋章を見据えた。

 

「あなたの儀式を解くための、次の解法よ」

 

「ガッチャード……!」

 

 遊真が息を呑む。

 

「角乃、やれ!」

 

 吠の声が飛ぶ。

 

 胸部のゴジュウユニコーンアーマーが光り、ガッチャードの赤い複眼が黒い潮霧を映す。霧の線、足跡の向き、少女たちを縛る波紋、封蝋の紋章。そのすべてが、角乃の中で一つの構造として繋がっていく。

 

 彼女は一歩、前へ踏み出した。

 

「さあ、錬成開始よ」

 

 黒い潮霧が、応えるように大きくうねった。

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