ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
黒い潮霧の中で、角乃は一歩を踏み出した。
胸にはゴジュウユニコーンのアーマーが残っている。けれど、全身はすでに仮面ライダーガッチャードのものだった。メタリックブルーの装甲が、霧の奥で鈍く光る。赤い複眼には、境内に広がる黒い波紋と、封蝋の紋章が同時に映っていた。
足元には濡れた足跡。周囲には黒い潮霧。中央には祭壇の影。少女たちのゴーストは、波紋の上に立たされている。自由に動いているように見えて、決してその線から外れない。
角乃はテガソードを構え、もう片方の手でユニコーンドリル50を握った。
「姿を変えたところで無駄だ。祭壇は満ち潮と共に完成する」
クラウスの声が霧の向こうから響く。
「形を変えたのは、あなたの仕掛けを解くためよ」
「儀式は古き理に従う。探偵風情が解けるものではない」
「古い理ほど、綻びも積もるものよ」
角乃は走った。
黒い鎖が瑠衣へ伸びる。雪庭が前に出ようとした瞬間、角乃はその根元へ滑り込み、ユニコーンドリル50を叩きつけた。回転するドリルが黒い霧を削り、鎖の芯を露わにする。そこへテガソードを振るうと、霧が細い線になって宙へ浮いた。
ただ切るだけではない。
角乃は、その線の向きを読んでいた。濡れた足跡は瑠衣へ向かうのではなく、祭壇へ向かっている。瑠衣は、その途中に置かれた目印にされているだけだ。
「黒い潮霧、濡れた足跡、封蝋の波紋。素材は揃ったわ」
「素材って……戦いの最中に何見てんの!?」
遊真が叫ぶ。
「たぶん、敵より仕掛けの方を見てるね」
陸王が霧の従者を受け流しながら言った。
「角乃らしいっちゃ、らしいな」
吠は霧から現れた短剣をウルフデカリバー50で弾き、舌打ちする。
角乃は地面へドリルを走らせた。黒い波紋の一部が削り取られ、そこから光の細い筋が浮かび上がる。ガッチャードの力が、黒い潮霧と足跡の意味を読み替えていく。
「濡れた足跡は、花嫁を祭壇へ運ぶための導線。なら、向きを変えればいい」
テガソードの先に青い光が集まる。
「足跡と潮霧を結合。流れを反転」
黒く濡れた足跡が、ひとつずつ光を帯びた。向きが変わる。瑠衣へ引き寄せていた流れが、わずかに外へ逸れた。瑠衣の足元へ伸びていた鎖が緩み、縫蘇霊獣たちが一斉に身を起こす。
「すげえ! 足跡が逆向きになった!」
遊真の声に、クラウスは短く笑った。
「小細工を」
彼が儀礼用の短剣を掲げると、少女ゴーストたちの影が震えた。黒い霧が再び足跡へ流れ込み、光を塗り潰していく。
「花嫁たちの怨みが、儀式を満たす」
「違うわ。あなたが怨みの形に押し込んでいるだけ」
角乃は霧の中へ踏み込む。
白い衣の少女たちが一斉に顔を上げた。目は見えない。それなのに、見られていると分かる。黒い霧が彼女たちの髪や袖に絡みつき、怒りの輪郭を無理やり与えていた。次の瞬間、少女たちは悪霊のような姿となって、角乃へ襲いかかる。
遊真が指輪へ手を伸ばした。
だが、動きが止まる。
「違う……違うだろ!」
「子供に何が分かる」
クラウスの声が冷たく返る。
「分かるよ! あの子たち、何か言おうとしてた!」
遊真の叫びに、瑠衣がわずかに顔を上げた。
「……声」
その一言に、角乃は振り返らず耳を向ける。
「……怒ってる。でも、それだけじゃない」
瑠衣の声は震えていた。けれど、霧に呑まれなかった。
「ええ。決定的ね」
「何がだ」
クラウスが苛立ちを滲ませる。
「彼女たちは悪霊ではない。悪霊の役を着せられた被害者よ」
角乃はテガソードで少女の影を斬らなかった。代わりに、その足元の黒い波紋へユニコーンドリル50を突き立てる。霧の鎖が削れ、少女の影が一瞬だけ揺らぐ。黒い輪郭の奥に、怯えた白い光が見えた。
「生きている人間を身代わりにして、死者まで怨念の道具にする。あなたたちの家は、同じ罪を繰り返しているだけ」
「黙れ!」
クラウスが短剣を振る。
黒い潮霧が爆ぜた。悪霊化した少女たちが、角乃だけでなく瑠衣へ向かって流れ込む。雪庭が印を結び、吠と陸王が前へ出る。竜儀が本堂を背に踏ん張り、禽次郎が縫蘇霊獣の前へ回った。
角乃は霧の中心で、一度だけ足を止めた。
壊すだけでは足りない。組み替えるだけでも足りない。黒い霧を光へ変えても、彼女たちを縛る痛みそのものは残る。必要なのは、押しつけられた悪霊という役を剥がす力だ。
「分かっているわ。壊すだけでも、組み替えるだけでも足りない」
胸部に残ったゴジュウユニコーンのアーマーが光った。
ガッチャードの青い装甲の上で、黒と金の胸部アーマーだけが強く輝く。その光は霧の中へ細く伸び、少女たちの影へ触れる。黒い潮がわずかに退いた。
「必要なのは、浄化の光」
光の中から、二枚のカードが現れた。
一枚には、一角獣。
もう一枚には、太陽。
「……ユニコン。そして、ザ・サン」
クラウスが目を見開く。
「その光は……!」
「あなたたちが潮で閉じ込めたなら、私は太陽で開く」
角乃は二枚のカードを構えた。
『UNICON!』
『THE SUN!』
『ガッチャーンコ!サンユニコーン』
音声が響いた瞬間、黒い潮霧の中に金色の光が広がった。
ガッチャードの装甲に、太陽を思わせる橙と金の輝きが重なる。背後には一角獣の清浄なシルエットが光として浮かび、胸部のゴジュウユニコーンアーマーはさらに強く輝いた。ユニコーンドリル50にも太陽の光が宿り、回転する刃が黒い霧を焼くのではなく、澄んだ光へほどいていく。
サンユニコーン。
角乃は、悪霊化した少女の影へ向かって踏み込んだ。
「浄化だと……花嫁たちの怨みを消す気か!」
「消すのではないわ。あなたがかぶせた黒い役を剥がすのよ」
ユニコーンドリル50が、少女の足元の波紋を削る。太陽の光がその隙間へ差し込み、黒い鎖がほどけた。少女の影は攻撃の形を失い、淡い白へ戻る。消えない。ただ、苦しげに歪んでいた輪郭が少しだけ静まった。
「怨みはあって当然。けれど、それをあなたの復讐の道具にする権利はない」
一体、また一体。
角乃は舞うように戦場を移動した。テガソードで霧の流れを受け、ユニコーンドリル50で波紋の要を削る。ガッチャードの錬成で黒い足跡の向きを変え、サンユニコーンの光で鎖を浄化する。
攻撃ではなく、解放だった。
遊真が息を呑む。
「消えてない……楽になってる」
瑠衣は縫蘇霊獣を抱きしめたまま、小さく頷いた。
「……うん」
瑠衣の目は、まだ怯えている。だが、逃げていない。少女たちの影を見ている。自分に憑依し、暴走した記憶と繋がる存在を、今度は正面から見ようとしていた。
クラウスが歯を食いしばる。
「儀式は終わらぬ! 花嫁は祭壇へ戻る!」
境内中央に、封蝋の紋章と同じ巨大な魔法陣が浮かび上がった。黒い花と波。花の中心に祭壇の影が開き、そこから瑠衣へ向けて最後の力が伸びる。雪庭が結界を張り、吠が鎖を斬り、陸王と竜儀が霧の従者を押さえ、禽次郎が縫蘇霊獣たちを庇う。
それでも、中心の核は残った。
角乃はサンユニコーンの光をユニコーンドリル50へ集める。
「終わらせるわ。あなたたちの責任転嫁も、死者の利用も、ここで」
「我らは家を奪われた!」
「奪われたのではない。あなたたちが、他人の人生を奪った報いよ」
クラウスの視線が瑠衣へ向く。
「お前が逃げたからだ。お前が花嫁として果てなかったから、我らは――」
「……市川、瑠衣」
小さな声が、霧の中で響いた。
全員の視線が瑠衣へ向く。
瑠衣は縫蘇霊獣を抱いたまま、青ざめた顔で、それでもクラウスを見ていた。雪庭の背に隠れてはいない。震える指で縫蘇霊獣の背を撫でながら、もう一度、言う。
「……私は、市川瑠衣」
クラウスの顔が歪む。
「その名を名乗るな、偽物!」
「違うわ」
角乃が静かに言った。
サンユニコーンの光が一段強くなる。胸部のゴジュウユニコーンアーマーが、瑠衣の声へ応えるように輝いた。
「今ここで名乗った以上、それが彼女の名前よ」
角乃は跳躍の姿勢を取る。
「ハイクラスに、終幕よ」
音声が響く。
『サンユニコーンフィーバー』
角乃が舞うように飛び上がった。
足元に、太陽を中心にした光の軌道が広がる。惑星の輪のようなエフェクトが幾重にも回転し、黒い潮霧を照らした。ユニコーンドリル50は太陽の光を帯び、魔法陣の中心を正確に指し示す。
「サンユニコーンフィーバー!」
両足から連続の蹴りが放たれる。
一撃目が黒い花弁を砕く。二撃目が波紋の鎖を断つ。三撃目、四撃目と蹴りが重なるたび、太陽系の惑星軌道のような光が炸裂し、少女ゴーストたちを縛っていた黒い霧がほどけていく。
最後に、ユニコーンドリル50が儀式核を貫いた。
太陽の光を帯びた連続蹴りと、ドリルの一撃がクラウスへ届く。黒い魔法陣が割れ、封蝋の紋章が砕ける音が境内に響いた。クラウスの身体は黒い霧ごと吹き飛ばされ、祭壇の影が崩れていく。
潮騒が遠のいた。
霧が晴れる。
石畳が戻り、寺の門が見え、木々の葉擦れが耳に届いた。黒い足跡は消えていた。代わりに、淡い白い光が境内にいくつも浮かんでいる。少女たちのゴーストだった。
彼女たちはもう悪霊の形をしていない。
完全に消えたわけではない。けれど、潮霧に縛られてはいなかった。ひとりが瑠衣の方を見たように、角乃には見えた。顔は見えない。それでも、その影からは先ほどまでの黒い痛みが薄れていた。
瑠衣は何も言わなかった。
ただ、縫蘇霊獣を抱いたまま、ゆっくり頭を下げた。
白い光は、風に溶けるように薄れていく。
クラウスは境内の端に倒れていた。服の紋章は裂け、手の中の儀式短剣は砕けている。彼が完全に消えたわけではないが、少なくとも儀式を続ける力はもうなかった。
「終わった……のか?」
遊真が息を吐く。
「少なくとも、この霧はね」
陸王が答える。
「また厄介なのが来たら、ぶっ飛ばすだけだ」
吠が肩を回すと、角乃は変身を解きながら小さく息をついた。
「今回は、ぶっ飛ばすだけでは足りなかったけれどね」
サンユニコーンの光がほどけ、角乃の姿が戻る。彼女は封蝋の破片を拾い上げた。黒い紋章は割れ、もう脈打っていない。
瑠衣が近づき、角乃へ小さく頭を下げた。
「……ありがとう」
声は小さかった。けれど、はっきり聞こえた。
「私は事件を解いただけよ」
角乃は少しだけ表情を和らげる。
「それ、助けたってことじゃん」
遊真がすぐに口を挟んだ。
「言い方の問題よ」
「探偵ってめんどくさいな」
「マジシャンほどではないわ」
遊真は口を尖らせたが、すぐに笑った。さっきまでの霧の重さが、ほんの少しだけ薄まる。
雪庭が瑠衣の肩に手を置いた。
「瑠衣」
「……はい」
「帰ろう」
瑠衣は頷いた。
寺へ向かって歩き出す彼女の足元には、もう濡れた足跡はない。縫蘇霊獣たちは瑠衣の周りを小さく跳ねるように進み、そのうちの一体が、遊真の足元まで来て顔を上げた。
「お、もう怖くないのか?」
縫蘇霊獣は答えない。ただ、小さく鼻を鳴らしてから、瑠衣の後を追った。
角乃は割れた封蝋を見下ろす。
事件は解いた。けれど、瑠衣の過去をすべて暴いたわけではない。それでいい。語るべき時を決めるのは、瑠衣自身だ。
名を奪おうとした事件は終わった。
だが、市川瑠衣という名前で生きていく時間は、これからも続いていく。