ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「さてっと、続きをやろうじゃないか」
そう言って、俺はゆっくりと腰を落とした。
片手には、ガヴの武器――ガヴガブレイド。もう片方の手を開くと、赤い光が弾ける。
『ウルフカリバー50!』
鳴り響く音声と同時に、赤い剣が掌へ収まった。
右にガヴガブレイド。左にウルフカリバー50。
知らない力を二つ同時に握っているはずなのに、不思議なくらい違和感がない。むしろ、噛み合っていた。獣みたいに踏み込む脚と、弾むように軽い身体。そのどっちにも、この姿はよく馴染む。
「他のライダーの姿になるっ……そんなの、聞いたことないわ」
鎧武の声に、俺は鼻で笑う。
「はっ、どうでもいいだろ。そんな事は何だって」
左脚を斜め後ろへ引く。
構えは今までと同じだ。低く、獲物へ飛びかかる直前の狼みたいに。けれど今はそこへ、ポッピングミの軽さが混じっている。ただ地を蹴るんじゃない。跳ぶことそのものが、もう身体に染みついていた。
「お前は……俺の獲物だ!」
叫ぶと同時に、脚へ力を叩き込む。
次の瞬間には、景色が置き去りになっていた。
「なっ!?」
一気に鎧武の懐へ飛び込む。ガヴガブレイドとウルフカリバー50、両手の一撃をまとめて振り下ろす。鎧武も反応は速い。無双セイバーと大橙丸を十字に重ね、真正面から受け止めてきた。
火花が弾ける。
四つの刃が噛み合う重さが腕へ返る。互いに二刀流なら、こうなるのは当然だ。
――だが、押し合ってやる義理はない。
「おらぁ!」
「っ……!」
鍔迫り合ったまま、俺は鎧武の胴を蹴り飛ばした。衝撃が入る。体勢がわずかに浮く。その一瞬で、俺自身も後ろへ跳ぶ。
軽い。
思っていた以上だ。
前の戦いで跳躍力がすごいのは分かっていた。けれどこれは、ただ高く跳べるって話じゃない。踏み切った力が死なない。着地しても、そこからまた次へ繋がる。勢いが切れねえ。
「はぁっ!」
跳ねた勢いのまま、今度はウルフカリバー50を払う。
赤い刃の軌跡が空を裂いた直後、眼前に黒い穴が開いた。森の匂いも、風も、光も吸い込むような歪んだ空間。クラックに似ている。けれど、もっと鋭く、もっと俺の動きに直結していた。
「なっ……」
「俺も似たような事が出来るんだよ!」
言い捨て、そのまま黒い穴へ飛び込む。
次に出たのは、鎧武の背後だった。
「後ろからっ――」
振り向くより先に斬る。ガヴガブレイドを薙ぎ、ウルフカリバー50で追い打つ。鎧武は咄嗟に身体を捻り、大橙丸で受ける。受けた、が、それで終わらせない。
俺は着地しない。
斬り抜けた勢いのまま、身体をひねって木の幹を蹴る。枝の間を抜け、さらにもう一つ、ウルフカリバー50で空間を裂く。
黒い穴がまた生まれる。
跳ぶ。潜る。抜ける。
次は横。
「くっ……!」
鎧武の薙ぎ払いが来る。俺はそれを紙一重で躱し、その軌道を頬で感じながら、跳躍の勢いを殺さず次の穴へ滑り込む。前じゃない。上でもない。斜めだ。木々の間、鎧武の死角、視線の届かないところだけを縫っていく。
速い、だけじゃない。
止まらない。
ポッピングミの跳躍力で加速し、ウルフカリバー50の空間移動でその加速を切らさない。走るんじゃない。跳ねるんでもない。森そのものを喰い荒らすみたいに、縦横無尽に戦場を食い潰していく感覚だった。
前。
横。
背後。
頭上。
黒い穴が開くたび、そこに俺がいる。
「どこから――!」
鎧武の声が、とうとう追いつかなくなる。
いい。
それでいい。
獲物が視線を振るたび、その先にはもう何もない。そして次の瞬間には、別の場所から俺の刃が飛ぶ。
森の中で、俺だけが加速し続けていた。
黒い穴を潜るたびに、鎧武の反応が半拍ずつ遅れていくのが分かった。
最初は受けていた。読んでいた。剣で返していた。だが、もう違う。視線が追いついていない。呼吸が浅い。橙の装甲越しでも、焦りがじわじわ滲んでくる。
俺は木の幹を蹴り、空中で身体をひねる。ガヴガブレイドの刃を閃かせ、さらにウルフカリバー50で空間を裂く。開いた黒い穴へ飛び込んで、次は鎧武の斜め上へ出る。
「ちっ――!」
鎧武が舌打ち混じりに身を翻す。遅い。ガヴガブレイドの一閃を大橙丸で受け、無双セイバーで追い払うように払ってくる。けれど、その一撃にさっきまでの余裕はもうなかった。
俺は着地しない。枝を蹴る。跳ぶ。さらに穴を潜る。
前。横。背後。
途切れない。止まらない。跳躍の勢いを殺す前に、次の空間へ潜り込む。ポッピングミの軽さと、ウルフカリバー50の歪んだ移動。その両方が噛み合った今、森の中で減速する理由がどこにもなかった。
「おらっ!」
「ぐっ……!」
横からの一撃を受け止めた鎧武の足が、土を削る。踏ん張っている。だが、その踏ん張り自体が後手だった。ここまで追い詰められたのは、向こうも分かっているはずだ。
その時、空気が変わった。
鎧武が一歩、大きく引く。
ただ距離を取る動きじゃない。斬り合いの構えじゃない。決着をつけるための、もっと重い静けさだった。
「……ここで終わらせる」
低く、鎧武が言う。
その声に混じる熱は、怒りじゃない。焦りを押し殺したまま、無理やり冷たく固めたような響きだった。負けられない。いや、このまま押し切られるのを認められない。そんな意地が見えた。
鎧武が腰へ手をやる。
『フィニッシュタイム! 鎧武! スカッシュ!』
響いた音声が、森の空気を震わせた。
来る。
そう思った時には、もう身体の方が笑っていた。
「上等だ」
相手が勝負を決めに来るなら、こっちもそれごと噛み砕くだけだ。逃げる理由なんてない。真正面からぶつかって、上から叩き潰す。
俺は黒い穴を閉じた。
もう小細工はいらない。必要なのは、一番速く、一番強く、獲物へ食らいつく一撃だけだ。
「来いよ、鎧武!」
地を蹴る。
脚の奥で力が弾ける。跳躍の感覚が一気に膨らむ。ガヴガブレイドを握り直し、その勢いのまま必殺を起こす。
『ガヴ! フィニッシュ!』
音声が鳴った瞬間、全身の熱が一点へ集まった。
鎧武が飛ぶ。
俺も飛ぶ。
空中で、互いの蹴りが真正面から噛み合った。
衝撃。
光。
湿った森の空気が、爆ぜるように震えた。足元の土が弾け、木々の枝葉が激しく揺れる。橙と赤、二つの力がぶつかり合い、一瞬だけ空中で完全に拮抗する。
重い。
だが、押し返せない重さじゃない。
鎧武の中にあるのは、復讐を果たした後も降りられない責務だ。真面目で、曲がっていなくて、だからこそ危うい。その意地ごと蹴り抜いてくる。
こっちにあるのは、帰るための意地だ。
響がいる。未来がいる。まだ喧嘩したい奴も、一緒に飯を食いたい奴もいる。こんなところで止まってたまるか。
「……負けるかよぉっ!」
吠える。
脚へ、さらに力を叩き込む。
拮抗が崩れた。
「っ――!」
鎧武の蹴りを押し返す。いや、食い破る。赤い衝撃が橙を呑み込み、そのまま鎧武の身体を真正面から吹き飛ばした。
轟音と共に、鎧武が地面へ叩きつけられる。
遅れて俺も着地した。靴底が土を削り、深く沈む。胸の奥で息が荒れる。だが、まだ立てる。視線は逸らさない。
前方で、鎧武の装甲にひびが走った。
光が漏れる。崩れる。果実めいた甲冑がほどけるように消えていき、その下から、久渡奏の姿が現れた。
彼女はその場に膝をつき、すぐには顔を上げなかった。立ち上がる気配もない。勝負は決した。
森が、ようやく静かになる。
後ろの方で、楓と雪庭が息を呑む気配がした。けれど今はそっちを見る気になれない。視線は、奏の前に浮かび上がったものへ吸われていた。
鎧武のライドウォッチ。
時計型のそれが、ふわりと宙へ浮かぶ。まただ。
前と同じように、そいつはまっすぐ俺の方へ寄ってくる。俺の目の前で止まると、ゆっくりと輪郭を変え始めた。厚みが縮む。針のような意匠が丸まり、光を飲み込みながら、形がひとつに収束していく。
やがてそこに残ったのは、センタイリングと同じ大きさの指輪だった。
「……鎧武」
今度は、もう見失わない。
俺は手を伸ばし、その新しいライダーリングを掴んだ。冷たい感触が、掌の奥へ落ちる。さっきまで戦っていた力が、そのまま指の上に収まったような重さだった。
また一つ、手に入れた。
森の匂いの中で、俺は小さく息を吐く。