ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

8 / 31
二つの刃

「さてっと、続きをやろうじゃないか」

 

 そう言って、俺はゆっくりと腰を落とした。

 

 片手には、ガヴの武器――ガヴガブレイド。もう片方の手を開くと、赤い光が弾ける。

 

『ウルフカリバー50!』

 

 鳴り響く音声と同時に、赤い剣が掌へ収まった。

 

 右にガヴガブレイド。左にウルフカリバー50。

 

 知らない力を二つ同時に握っているはずなのに、不思議なくらい違和感がない。むしろ、噛み合っていた。獣みたいに踏み込む脚と、弾むように軽い身体。そのどっちにも、この姿はよく馴染む。

 

「他のライダーの姿になるっ……そんなの、聞いたことないわ」

 

 鎧武の声に、俺は鼻で笑う。

 

「はっ、どうでもいいだろ。そんな事は何だって」

 

 左脚を斜め後ろへ引く。

 

 構えは今までと同じだ。低く、獲物へ飛びかかる直前の狼みたいに。けれど今はそこへ、ポッピングミの軽さが混じっている。ただ地を蹴るんじゃない。跳ぶことそのものが、もう身体に染みついていた。

 

「お前は……俺の獲物だ!」

 

 叫ぶと同時に、脚へ力を叩き込む。

 

 次の瞬間には、景色が置き去りになっていた。

 

「なっ!?」

 

 一気に鎧武の懐へ飛び込む。ガヴガブレイドとウルフカリバー50、両手の一撃をまとめて振り下ろす。鎧武も反応は速い。無双セイバーと大橙丸を十字に重ね、真正面から受け止めてきた。

 

 火花が弾ける。

 

 四つの刃が噛み合う重さが腕へ返る。互いに二刀流なら、こうなるのは当然だ。

 

 ――だが、押し合ってやる義理はない。

 

「おらぁ!」

 

「っ……!」

 

 鍔迫り合ったまま、俺は鎧武の胴を蹴り飛ばした。衝撃が入る。体勢がわずかに浮く。その一瞬で、俺自身も後ろへ跳ぶ。

 

 軽い。

 

 思っていた以上だ。

 

 前の戦いで跳躍力がすごいのは分かっていた。けれどこれは、ただ高く跳べるって話じゃない。踏み切った力が死なない。着地しても、そこからまた次へ繋がる。勢いが切れねえ。

 

「はぁっ!」

 

 跳ねた勢いのまま、今度はウルフカリバー50を払う。

 

 赤い刃の軌跡が空を裂いた直後、眼前に黒い穴が開いた。森の匂いも、風も、光も吸い込むような歪んだ空間。クラックに似ている。けれど、もっと鋭く、もっと俺の動きに直結していた。

 

「なっ……」

 

「俺も似たような事が出来るんだよ!」

 

 言い捨て、そのまま黒い穴へ飛び込む。

 

 次に出たのは、鎧武の背後だった。

 

「後ろからっ――」

 

 振り向くより先に斬る。ガヴガブレイドを薙ぎ、ウルフカリバー50で追い打つ。鎧武は咄嗟に身体を捻り、大橙丸で受ける。受けた、が、それで終わらせない。

 

 俺は着地しない。

 

 斬り抜けた勢いのまま、身体をひねって木の幹を蹴る。枝の間を抜け、さらにもう一つ、ウルフカリバー50で空間を裂く。

 

 黒い穴がまた生まれる。

 

 跳ぶ。潜る。抜ける。

 

 次は横。

 

「くっ……!」

 

 鎧武の薙ぎ払いが来る。俺はそれを紙一重で躱し、その軌道を頬で感じながら、跳躍の勢いを殺さず次の穴へ滑り込む。前じゃない。上でもない。斜めだ。木々の間、鎧武の死角、視線の届かないところだけを縫っていく。

 

 速い、だけじゃない。

 

 止まらない。

 

 ポッピングミの跳躍力で加速し、ウルフカリバー50の空間移動でその加速を切らさない。走るんじゃない。跳ねるんでもない。森そのものを喰い荒らすみたいに、縦横無尽に戦場を食い潰していく感覚だった。

 

 前。

 

 横。

 

 背後。

 

 頭上。

 

 黒い穴が開くたび、そこに俺がいる。

 

「どこから――!」

 

 鎧武の声が、とうとう追いつかなくなる。

 

 いい。

 

 それでいい。

 

 獲物が視線を振るたび、その先にはもう何もない。そして次の瞬間には、別の場所から俺の刃が飛ぶ。

 

 森の中で、俺だけが加速し続けていた。

 

 黒い穴を潜るたびに、鎧武の反応が半拍ずつ遅れていくのが分かった。

 

 最初は受けていた。読んでいた。剣で返していた。だが、もう違う。視線が追いついていない。呼吸が浅い。橙の装甲越しでも、焦りがじわじわ滲んでくる。

 

 俺は木の幹を蹴り、空中で身体をひねる。ガヴガブレイドの刃を閃かせ、さらにウルフカリバー50で空間を裂く。開いた黒い穴へ飛び込んで、次は鎧武の斜め上へ出る。

 

「ちっ――!」

 

 鎧武が舌打ち混じりに身を翻す。遅い。ガヴガブレイドの一閃を大橙丸で受け、無双セイバーで追い払うように払ってくる。けれど、その一撃にさっきまでの余裕はもうなかった。

 

 俺は着地しない。枝を蹴る。跳ぶ。さらに穴を潜る。

 

 前。横。背後。

 

 途切れない。止まらない。跳躍の勢いを殺す前に、次の空間へ潜り込む。ポッピングミの軽さと、ウルフカリバー50の歪んだ移動。その両方が噛み合った今、森の中で減速する理由がどこにもなかった。

 

「おらっ!」

 

「ぐっ……!」

 

 横からの一撃を受け止めた鎧武の足が、土を削る。踏ん張っている。だが、その踏ん張り自体が後手だった。ここまで追い詰められたのは、向こうも分かっているはずだ。

 

 その時、空気が変わった。

 

 鎧武が一歩、大きく引く。

 

 ただ距離を取る動きじゃない。斬り合いの構えじゃない。決着をつけるための、もっと重い静けさだった。

 

「……ここで終わらせる」

 

 低く、鎧武が言う。

 

 その声に混じる熱は、怒りじゃない。焦りを押し殺したまま、無理やり冷たく固めたような響きだった。負けられない。いや、このまま押し切られるのを認められない。そんな意地が見えた。

 

 鎧武が腰へ手をやる。

 

『フィニッシュタイム! 鎧武! スカッシュ!』

 

 響いた音声が、森の空気を震わせた。

 

 来る。

 

 そう思った時には、もう身体の方が笑っていた。

 

「上等だ」

 

 相手が勝負を決めに来るなら、こっちもそれごと噛み砕くだけだ。逃げる理由なんてない。真正面からぶつかって、上から叩き潰す。

 

 俺は黒い穴を閉じた。

 

 もう小細工はいらない。必要なのは、一番速く、一番強く、獲物へ食らいつく一撃だけだ。

 

「来いよ、鎧武!」

 

 地を蹴る。

 

 脚の奥で力が弾ける。跳躍の感覚が一気に膨らむ。ガヴガブレイドを握り直し、その勢いのまま必殺を起こす。

 

『ガヴ! フィニッシュ!』

 

 音声が鳴った瞬間、全身の熱が一点へ集まった。

 

 鎧武が飛ぶ。

 

 俺も飛ぶ。

 

 空中で、互いの蹴りが真正面から噛み合った。

 

 衝撃。

 

 光。

 

 湿った森の空気が、爆ぜるように震えた。足元の土が弾け、木々の枝葉が激しく揺れる。橙と赤、二つの力がぶつかり合い、一瞬だけ空中で完全に拮抗する。

 

 重い。

 

 だが、押し返せない重さじゃない。

 

 鎧武の中にあるのは、復讐を果たした後も降りられない責務だ。真面目で、曲がっていなくて、だからこそ危うい。その意地ごと蹴り抜いてくる。

 

 こっちにあるのは、帰るための意地だ。

 

 響がいる。未来がいる。まだ喧嘩したい奴も、一緒に飯を食いたい奴もいる。こんなところで止まってたまるか。

 

「……負けるかよぉっ!」

 

 吠える。

 

 脚へ、さらに力を叩き込む。

 

 拮抗が崩れた。

 

「っ――!」

 

 鎧武の蹴りを押し返す。いや、食い破る。赤い衝撃が橙を呑み込み、そのまま鎧武の身体を真正面から吹き飛ばした。

 

 轟音と共に、鎧武が地面へ叩きつけられる。

 

 遅れて俺も着地した。靴底が土を削り、深く沈む。胸の奥で息が荒れる。だが、まだ立てる。視線は逸らさない。

 

 前方で、鎧武の装甲にひびが走った。

 

 光が漏れる。崩れる。果実めいた甲冑がほどけるように消えていき、その下から、久渡奏の姿が現れた。

 

 彼女はその場に膝をつき、すぐには顔を上げなかった。立ち上がる気配もない。勝負は決した。

 

 森が、ようやく静かになる。

 

 後ろの方で、楓と雪庭が息を呑む気配がした。けれど今はそっちを見る気になれない。視線は、奏の前に浮かび上がったものへ吸われていた。

 

 鎧武のライドウォッチ。

 

 時計型のそれが、ふわりと宙へ浮かぶ。まただ。

 

 前と同じように、そいつはまっすぐ俺の方へ寄ってくる。俺の目の前で止まると、ゆっくりと輪郭を変え始めた。厚みが縮む。針のような意匠が丸まり、光を飲み込みながら、形がひとつに収束していく。

 

 やがてそこに残ったのは、センタイリングと同じ大きさの指輪だった。

 

「……鎧武」

 

 今度は、もう見失わない。

 

 俺は手を伸ばし、その新しいライダーリングを掴んだ。冷たい感触が、掌の奥へ落ちる。さっきまで戦っていた力が、そのまま指の上に収まったような重さだった。

 

 また一つ、手に入れた。

 

 森の匂いの中で、俺は小さく息を吐く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。