ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「敵か、味方か、はっきりしろ!」
俺の怒鳴り声が、鐘の残響と混ざり合う。テガソードに手を伸ばしたい衝動を、理性でねじ伏せる。ここで抜けば、おそらく戦いになる。だが、相手の目を見ろ。あの旗を持つ少女の瞳は、敵意よりももっと深い、悲しみのようなもので満ちているじゃねえか。
「吠さん、待って」
背中越しに、芹亜の声がした。
「この人、戦いたいんじゃない。ただ、守ろうとしてるんです。何かを、誰かを」
その言葉に、ジャンヌの旗が、ほんの少しだけ揺れを止めた気がした。
テガソードの柄を握りしめた、その時だった。
「待ってください、吠さん!」
芹亜の手が、俺の腕に触れた。か細い指先なのに、不思議と力があった。振りほどこうと思えば振りほどけた。だが、その声の切実さが、俺の衝動を押しとどめる。
「この光は……殺すための光じゃない」
芹亜は、白金の輝きをまっすぐに見つめながら言った。その顔に、怯えはもうない。代わりにあるのは、何かを確かめようとする、名探偵じみた観察の目だった。
「私たちの心を、測ってるんです」
俺は舌打ちした。測る? この、押し潰されそうな光の波がか? ふざけるな。だが、言われてみれば、光は俺を吹き飛ばすには至っていない。まるで、どこまで踏み止まれるか、試しているような――。
「その刃は」
ジャンヌの声が、鐘の音よりも鮮明に響いた。
「誰を守るためにある」
聖旗が揺れるたび、白金の光が俺の影を石畳に長く伸ばす。その影は、狼のように背を丸め、今にも飛びかからんとしている。違う、俺はそんなつもりじゃ――そう思うのに、俺の影は俺よりも正直だった。
「そして」
今度は、芹亜に向けて旗が傾けられた。
「その声は、誰の祈りを運ぶ」
芹亜は答えなかった。代わりに、胸の前で両手を組み、ゆっくりと息を整えている。まだ歌わない。でも、歌うための準備を、その小さな体のどこかで始めている。そういう風に見えた。
ジャンヌの背後で、火刑台の幻影が揺らめく。だが、その向こうに見えるのは、燃え盛るルーアンの街ではない。麦畑と、古びた教会の影。故郷の景色だ。この聖女は、最期の炎の中でも、故郷を見ていたのかもしれない。
「守る、だと……」
俺はテガソードから手を離した。代わりに、もう一度あの光を、素手で受け止める。足を肩幅に開き、膝を落とし、獣のように低く構える。
「そんな大層なもん、俺にはねえよ。ただ、借りを返すだけだ」
踏み込もうとした。力任せに、あの旗の下まで。だが、聖旗の光が壁のように俺の足を止める。一歩も進めねえ。これが、祈りを力に変えた者の重みか。
「待ってください!」
芹亜が、一歩前に出た。彼女を包む光が、ほんのわずかに弱まる。敵意ではなく、対話を選んだ者への、応えのように。
「私は、まだ答えを持っていません。でも、あなたの声を、あなたの祈りを、聞かせてほしい」
その言葉に、ジャンヌは初めて、ゆっくりとまばたきをした。
「お前、戦いたいわけじゃねえな」
俺の言葉に、ジャンヌは答えない。ただ、白い旗を持つ手が、ほんの少しだけ震えたように見えた。
「ええ、そうなんです」
芹亜が、俺の横に並び立つ。その目は、もう迷っていなかった。
「ジャンヌさんは、私たちが何のために声を上げるのか、それを確かめようとしてる」
声を上げる理由、か。俺は鼻を鳴らした。そんなもん、考えたこともねえ。ただ、目の前で誰かが傷つこうとしてるなら、体が動く。それだけだ。願いも信じるものも持たずに生きてきた俺には、そうするしか能がない。
「俺はな、守るとか祈るとか、そういうガラじゃねえんだ」
俺は、ジャンヌの目をまっすぐに見据えて言った。
「でも、借りは返す。こいつには世話になってる。だったら、てめえが誰を守ろうとしてるのか知らねえが、俺はこいつを守るためにここに立ってる。それじゃ不十分か」
一瞬の沈黙。それから、ジャンヌはゆっくりと旗を下ろした。
白金の光が、潮が引くように消えていく。俺の肩から、重石が外れた。知らず知らずのうちに詰めていた息を、大きく吐き出す。
「汝の声は、獣のようだ」
ジャンヌが言った。だが、その声には蔑みはない。
「だが、獣は偽らぬ。己の牙を、誰がために剥くのかを知っている」
聖女の背後で、火刑台の幻影がかき消える。代わりに、霧の切れ間から淡い光が差し込んだ。朝の光だ。この彷霊界にも、夜明けはあるらしい。教会跡の石壁に、柔らかな金色が滲む。
鐘の音だけが、まだ遠くで残っていた。
「そして、そなたは」
ジャンヌは芹亜に向き直った。その厳しい表情は変わらない。だが、白旗の輝きは、さっきまでの拒絶の光ではなく、どこか招き入れるような柔らかさを帯びている。
「声を持ちながら、まだ歌わぬ。何を待つ」
芹亜は、一瞬息を呑んだ。それから、自分の喉にそっと手を当てて、小さく首を振る。
「あなたの声を、まだちゃんと聞けていないからです」
「……そうか」
ジャンヌは、それだけ言うと、旗を地面に突き立てた。石畳に、小さく澄んだ音が響く。
「ならば、汝らの声を聞こう」
霧が、さらに薄れていく。麦畑が風に揺れる音が、かすかに聞こえた気がした。
「その声が、炎に焼かれずに届くかどうか、この私が確かめよう」
俺は、まだ抜かないままのテガソードの重みを、腰に感じながら前に出た。芹亜が、そっと俺の袖をつまむ。
「吠さん、ありがとう」
「礼はいい。まだ何も終わってねえ」
ジャンヌが掲げた旗の向こうで、教会の鐘が、もう一度だけ鳴った。