ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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歌で重なる姿

俺は、一歩後ずさった。

 

いや、違う。俺は後ずさりなどしない。それなのに、体が勝手に動いていた。目の前で起こっていることが、俺の獣じみた本能をして、危険だと叫んでいる。

 

さっきまで麦畑と朝の光が差していた教会跡が、今はまるで違うものになっていた。石の壁に赤黒い影が這い、風もないのに鐘が鳴り続けている。そして、ジャンヌの背後に浮かび上がるのは、火刑台と、それを取り巻く無数の影――群衆だ。

 

「ジャンヌ、さん……」

 

芹亜がかすれた声を漏らした。

 

聖女の鎧の隙間から、黒い煙がじわりと滲み出ている。さっきまで祈りの気配を纏っていた彼女が、今は怨みそのもののような姿で立っていた。白かった旗は、先端からじわじわと黒く染まり、それでいて端だけが炎に焼かれ続けている。まるで、祈りが届かなかった瞬間を、永遠に繰り返しているかのように。

 

「届かなかった」

 

ジャンヌの声が、低く響いた。あの澄んだ声はもうない。喉の奥から絞り出すような、焼け焦げた声だった。

 

「私は、神に祈った。フランスを救えと。だが、神は私を火の中に置き去りにされた」

 

俺はテガソードに手を伸ばした。だが、その手を止めたのは、芹亜の震える指先だった。俺の袖を、ぎゅっと掴んでいる。

 

「芹亜、離せ。あれはもう――」

「話を、させてください」

 

芹亜の声は震えていた。足も震えている。怖くないはずがない。それでも、彼女は胸元に手を当て、深く息を吸って、まっすぐにジャンヌを見ていた。

 

「助けてほしいとは、言えなかったんですね」

 

その言葉に、ジャンヌの旗が大きく揺れた。

 

「裏切りになると思ったから。神に選ばれた自分が、弱音を吐くことは許されないって」

 

俺にはわからねえ。祈りも、信仰も、俺の人生には無縁だった。だが、芹亜の声を聞いていると、胸の奥が妙にざわつく。ああ、そうか。こいつは今、この俺が乱暴に返すだけの「借り」とは、比べ物にならない重さの何かを、受け止めようとしているんだ。

 

「黙れ」

 

ジャンヌが聖旗を掲げた。白金の光が、今度は黒い炎を纏って広がる。

 

「私に手を差し伸べるな。差し伸べられた手を掴めば、それこそが神への裏切りだ」

 

光と黒炎が、芹亜に向かって押し寄せる。俺は彼女の前に出ようとした。だが、芹亜は俺の袖を離さない。

 

「吠さん、お願い。まだ、私が話す番です」

 

その目は、怖がりながらも、絶対に退かないと言っていた。石床に伸びる鎖の影が、炎の揺らめきで生き物のように動いている。それでも、芹亜は一歩も引かない。

 

「私は、あなたの声を聞きたい。歴史の一行だけで終わらせたくない」

黒炎が、芹亜のすぐ目の前で、いったん止まった。

教会の中で、芹亜がジャンヌと向き合っている。黒い炎と、震える声の対話。俺はそれを、ただ見ているしかなかった。いや、見ているしかできない自分に、歯噛みしていた。

 

その時だった。

 

ざわり、と空気が変わった。冷たい風が、教会の割れた窓から吹き込む。それだけじゃない。窓の外を、黒い手が這っている。十本、二十本、いや、数え切れねえ。扉の隙間からは、灰でできたような細い指が、ぞろぞろと伸びてくる。

 

「なんだ、こいつら……」

 

外を見た俺は、思わず息を呑んだ。霧の中から、無数の影が浮かび上がっている。鎧を着た兵士、ローブをまとった僧侶、そして、ただの民衆。みんな、虚ろな目で教会を見つめ、呻き声を上げながら近づいてくる。ジャンヌの怨念に引かれたのか、それとも――。

 

俺は芹亜を振り返った。彼女はまだ、ジャンヌの黒い炎の前に立っている。足は震えているのに、背筋だけはまっすぐに伸びている。あの怖がりだった少女が、今、自分の声だけで聖女と向き合っている。

 

その姿が、ふと、遠い記憶を呼び起こした。

 

元の世界にいた、響。あいつも、こんな風に誰かの痛みに寄り添おうとしていた。俺はいつも、その隣で何もできずにいた。守るだの助けるだの、そんな大層なことは言えなかった。でも――。

 

「芹亜」

 

俺は短く声をかけた。

 

「歌を、続けろ。こいつらは俺がやる」

 

芹亜が、はっとした顔で俺を見る。その目に、一瞬だけ迷いが浮かんだ。俺はそれ以上何も言わず、背を向けて教会の入り口へ歩き出す。

 

「吠さん――」

 

「大丈夫だ。借りは返すって言ったろ」

 

俺は振り返らずに答えた。芹亜の細い呼吸が、教会の中に響いている。それでいい。お前はそこで、自分のやるべきことをやれ。

 

扉を押し開けると、そこはもう、霧と怨霊で埋め尽くされた異界だった。兵士の影が槍を構え、僧侶の影が呪詛を唱え、民衆の影がただ手を伸ばしてくる。全員が、ジャンヌを火刑にした者たちか、あるいは――それを止められなかった者たちか。

 

「エンゲージ」『クラップユアハンズ!』

 

俺はテガソードを掲げた。手のひらのような金色の剣が、俺の声に応えて光を放つ。センタイリングが装着され、変身の音声が響き渡る。

 

『ゴジュウウルフ!」

 

獣の力が全身を駆け巡る。低く構え、爪のような手で地面を掴む。これでいい。祈りも歌も、俺にはできねえ。だったら、この牙と爪で、せめてあいつの時間だけは守ってやる。

 

「はぐれ一匹、ゴジュウウルフ!」

 

名乗りを上げた瞬間、俺は一番近くにいた兵士の怨霊へ飛び込んでいた。テガソードの一閃が、黒い影を切り裂く。呻き声が上がり、次の怨霊が手を伸ばす。僧侶の呪詛が俺の肩をかすめたが、構わず踏み込む。

 

「一体も、通すかよ!」

 

俺は入口の前に立ち塞がり、テガソードを横に薙いだ。金属音が霧の中で反響する。教会の中からは、芹亜の声がかすかに聞こえていた。まだ歌ってはいない。でも、ジャンヌに語りかけている。その声が、途切れないように――。

 

俺はもう一度、怨霊の群れへ低く飛び込んだ。身体ごと押し返すように、教会の扉を背に、獣のように吼える。

 

芹亜、お前の歌が終わるまで、ここは絶対に通さねえ。

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