ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
鎧武との戦いが終わったあと、俺たちは町外れの路地裏に戻っていた。
表通りに比べれば人目は少ない。それでも、露店の灯りと油の匂いがあるだけで、森の中よりずっと人の世界に近い場所だった。さっきまで命のやり取りをしていたくせに、手の中には温かい食い物がある。その落差が、妙に現実味を薄くしていた。
俺は包みを開き、まだ熱の残るそれにかぶりつく。塩気が舌に広がると、ようやく腹の底が少し落ち着いた。
「……で」
一口飲み込んでから、向かいに立つ二人を見る。
「TERAってのは何だ。寺のことか?」
雪庭が小さく笑った。
「まあ、間違ってはいないかな」
気の抜けた声のくせに、目だけはいつも通りよく見ている。
「簡単に言えば、霊能力者をまとめて、彷霊界で戦う集団だよ」
「……彷霊界?」
聞いたこともない単語だった。いや、この世界に来てから聞いたことのない言葉ばかりだが、その中でもまた一段、現実離れしている。
楓が俺の反応を見ながら、静かに補足した。
「この世である人間界と、あの世である幽界。その二つが混ざり合う世界です」
「また、とんでもねえワードが増えたな……」
思わずため息が漏れる。
異世界だの、ライドウォッチだの、仮面ライダーだの。ようやく少し整理がついてきたと思ったら、今度は彷霊界だ。情報が多すぎて、頭の中でうまく噛み合わない。
俺は食い物をもう一口かじった。考えることが増えた時ほど、何か口に入れていた方がましだった。
「こういう時には、あいつが言ってたみたいに歌でも歌いたくなるぜ」
何気なくこぼしたその一言で、空気が変わった。
楓が目を見開く。雪庭の笑みも、そこでぴたりと止まった。
「……何だよ」
俺が眉をひそめると、雪庭が今度は笑わずに訊き返してきた。
「今、歌を歌いたいと言ったのか」
「そうだよ。悪いか」
「それは今後、私たちの前以外では口にしない方がいい」
言ったのは楓だった。声音は冷静なのに、その奥にいつもより強い硬さがあった。
「殺されます」
「……は?」
一瞬、本気で意味が分からなかった。
冗談を言う顔じゃない。だから余計に、何を言っているのか分からない。
「どういう意味だ」
雪庭が、今度は低い声で答える。
「MiucSは音楽を禁じている。歌えば、それだけで排除対象になる」
「はぁ!? そんなのあり得ないだろ!」
思わず声が大きくなる。路地裏の壁に反響した自分の叫びが、妙に白々しく聞こえた。
だが、楓も雪庭も否定しなかった。
ただ、当然のこととして頷いた。
「……吠、お前は一体何者だ」
雪庭が静かに言う。
「これは、この世界じゃ本当に常識なんだ」
その視線を受けて、俺は少しだけ口を噤んだ。
言っても、たぶん簡単には信じない。そう思っていた。けれど、ここまで来たら誤魔化しても意味がない気もした。
「……言っても、信じねえと思うぞ」
「さっき、世間的な常識を知らないお前の言葉だ」
雪庭が肩をすくめる。
「逆に、ある程度は信じるさ」
「……はぁ」
息を吐く。
面倒だ。けど、ここで飲み込んでも、あとで余計に面倒になる。
俺は包みを膝の上に置き、二人を見た。
「俺は、別の世界から来た」
楓の瞳が揺れる。雪庭は眉一つ動かさない。ただ、その先を促すように黙っていた。
「詳しいことは分からねえ。けど、テガソードが言うには、ここで何かが起きてる。それぐらいしか知らねえよ」
「テガソードとは?」
楓の問いは短い。
「神様みてえなもんだ」
自分で言っておいて、改めて無茶苦茶な説明だと思う。だが、それ以上うまく言える気もしなかった。
しばらくの沈黙のあと、雪庭が小さく息を漏らした。
「……なるほど。神様、ね」
その声音に嘲りはなかった。むしろ、妙に納得したような響きすらある。
「お前の存在は、それくらいじゃないと説明がつかない異質さだ。だからこそ聞きたい」
「信じるのか」
「むしろ、それくらいじゃないとあり得ない要素が揃いすぎている」
雪庭はそこで一度言葉を切った。柔らかい目のまま、けれど今までで一番まっすぐ俺を見てくる。
「吠」
「……何だ」
「お前は、人々から歌を奪うMiucSを破壊することに賛同するか」
問いというより、確かめだった。
その目の奥にあるものは、冗談でも思いつきでもない。ずっと抱えてきた願いだと分かる。だから俺も、適当には返せなかった。
「……それがお前の願いか」
雪庭は否定しなかった。
俺は包みの中の食い物を見下ろす。温かいはずなのに、今はもう少し冷めていた。
歌。
その言葉だけで、嫌でも思い出すものがある。
長い時間、会えなかった相手。やっと繋がった声。届いた想い。そういうものが、俺の中じゃ歌と一緒に残っている。
それを禁じる?
奪う?
ふざけるな、と思った。
「俺の世界じゃ、歌は特別だった」
顔を上げる。
「あいつとの、大事な繋がりだ。それを否定するようなもんを、ぶっ潰さねえ理由があるかよ」
一瞬の間のあと、雪庭が吹き出すように笑った。
「はっ……本当に面白い男だよ」
その笑いは、今までで一番素に近かった。
「歓迎する。TERAに」
楓は何も言わなかったが、少しだけ張っていた肩の力が抜けるのが見えた。
俺は包みを取り上げ、冷めかけた飯をまた口に運ぶ。
まだ信用したわけじゃない。けれど、少なくとも行く先は見えた。
路地裏の狭い空の向こうで、夜が少しずつ深くなっていた。