ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
白い霧に覆われた麦畑が、黒く染まっていく。一本、また一本と、穂先からじわじわと闇が滲み、やがて畑全体が墨を流したような色に変わった。そして、その闇の中から、奴らは現れた。
兵士の影。僧侶の影。そして、ただの民衆の影。みな一様に、虚ろな目で教会を見つめ、低く呻きながら近づいてくる。ジャンヌの怨念に引き寄せられたのか、あるいは、この聖女を見殺しにした咎を、今もなお抱え続けているのか。どちらにせよ、俺にとってはどうでもいいことだ。
「一体も、通すかよ」
俺はテガソードを握り直した。手のひらを模した金色の剣が、俺の気迫に応えて低く唸る。
まずは、一番近くにいた兵士の怨霊へ飛び込む。低く、獣のように。奴が槍を構えるよりも早く、その懐へ潛り込み、テガソードを下から斬り上げた。黒い靄が裂け、呻き声が霧に溶ける。倒れる前にその体を蹴り飛ばし、後ろから迫っていた僧侶の影へ叩きつける。二体まとめて石畳に沈んだが、そんなものは焼け石に水だ。霧の奥から、さらに次の影がにじみ出てくる。
「きりがねえな……」
俺は舌打ちした。だが、それでいい。きりがなければ、きりがないだけ斬り続ける。それが俺のやり方だ。
右から兵士、左から民衆の手。俺はテガソードを横に薙ぎ、まとめて吹き飛ばす。その勢いのまま、地面の灰を蹴り上げ、前へ出ようとした僧侶の目をくらませた。すかさず低く跳び、奴の足を斬る。倒れたところへ、踵で灰を叩きつけるように踏み込んだ。
傷は、あった。僧侶の呪詛が肩をかすめ、兵士の槍が脇腹を掠める。痛くねえと言えば嘘になる。だが、俺は一歩も引かなかった。教会の扉に、背中を向けるわけにはいかない。あそこには、芹亜がいる。
「……ぁ……」
教会の中から、かすかな声が聞こえた。まだ歌ではない。だが、ジャンヌに語りかけている。その声が途切れていないことだけを、俺は耳の端で確かめる。それで十分だった。
「次はてめえだ」
俺は、扉に伸びた民衆の腕を、テガソードで斬り落とす。黒い靄が散り、灰が舞う。斬り落とした腕は、一瞬で霧に還った。だが、その隙に別の影が、俺の足を掴む。
「ぐっ……!」
引き倒されそうになりながらも、俺は膝をつかなかった。掴まれた足を無理やり引き抜き、その影の顔面にテガソードの柄を叩き込む。離れた隙に、さらに後ろから兵士が槍を突き出してきた。避けきれず、肩当てが火花を散らす。衝撃で腕が痺れたが、そのまま槍を掴み、引き寄せて、奴の胴を斬り飛ばした。
押し寄せる群れに、じりじりと押される。一歩、また一歩と、踵が石段に当たった。これ以上は下がれない。ここが、俺の引いた線だ。
「これ以上は、一歩も通さねえ!」
俺は吠えた。獣のように。その声に呼応するように、テガソードが金色の光を放つ。教会の割れた窓からは、黒い炎と白い光が交互に漏れ、遠くの鐘がまた一つ鳴った。剣戟の音と、怨霊の呻きと、かすかな歌声。それらすべてが重なり合い、この異界の夜明けを、ぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。
俺はもう一度、怨霊の群れへ飛び込んだ。傷だらけの身体で、それでも低く、獣のように。芹亜の歌が終わるまで、この扉は絶対に開けさせねえ。それが、俺の返す借りだ。
教会の中から、芹亜の声が聞こえる。まだ歌い始めたばかりだ。か細くて、震えていて、それでもまっすぐな声。その声を、こいつらに邪魔はさせない。
「燃えてんのが、あいつだけだと思うなよ」
俺はライダーリングを掲げた。表面に刻まれたのは、ドラゴンの意匠。蒼い炎をまとう仮面ライダークローズの紋章だ。
テガソードの手の甲、そこにリングを装填する。瞬間、金色の剣が震え、蒼い炎を噴き上げた。
「エンゲージ」
俺の声に、テガソードが応える。
『ライダーリング! クローズ!』
炎が、龍の輪郭を描いて俺の周囲を旋回する。熱い。だが、それは肌を焼く熱さじゃない。胸の奥に溜まっていた何かが、形を得て燃え上がるような、そんな感覚だった。
蒼黒い装甲が、俺の身体を包んでいく。ゴジュウウルフのアーマーは消えず、その上から龍の力が重なり合う。胸の装甲に蒼い炎の紋様が走り、肩当てが龍の顎のような形に変わる。獣と龍、二つの力が一つになる。
「こいつは……」
思わず声が漏れた。力が、湧いてくる。怒りじゃない。芹亜の歌を守るためだけに、この拳を振るうための力だ。
灰色の霧が、蒼い炎に裂かれる。麦畑の上に、龍の影が長く伸びた。怨霊たちが、一斉に俺の方を向く。虚ろだった目に、蒼い炎の光が映り込む。まるで、今初めて俺という存在を認識したかのように。
教会の中から、芹亜の声が聞こえる。白い歌声。壁一枚を挟んで、俺の蒼い炎と、彼女の白い祈りが呼応している。それだけで、もう十分だった。
「悪いが、てめえらの相手は俺だ」
俺は低く構えた。獣のまま、龍の力を纏って。蒼い炎が、怨霊の群れを照らし出す。数はさっきより増えている。霧の奥から、まだ次が湧いてくる。それでも、今の俺には関係ない。
「一匹残らず、ぶっ飛ばしてやる」
俺は、蒼い炎を引きずりながら、怨霊の軍勢へ踏み込んだ。