ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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聖女の救い

戦いが終わった。あれだけの怨霊の軍勢を蹴散らしたというのに、俺の心は妙に静かだった。蒼い龍炎が消え、クローズの装甲が光の粒子となってほどけていく。テガソードを鞘に収め、俺は教会の入口へ歩を進めた。傷ついた手だけが、さっきまでの戦いが夢ではなかったことを物語っている。

 

割れた窓から、朝日が差し込んでいた。この異界にも夜明けはあるらしい。黒炎の消えた石床の上に、白い羽根のような光が静かに降り積もっている。鐘の音はもう鳴り止み、かすかな余韻だけが空気に溶けていた。

 

教会の奥で、芹亜が膝をついている。その頬には灰の筋が残り、肩はまだ小さく震えていた。だが、その目はまっすぐに、目の前の聖女を見つめている。

 

ジャンヌは、もう黒い炎を纏ってはいなかった。鎧の隙間から漏れていた黒煙は消え、その手にある白い旗だけが、細い焦げ跡を残して揺れている。まるで、さっきまでの怨念が嘘だったかのように、彼女はただの祈る少女の姿に戻っていた。

 

「なぜだ」

 

ジャンヌの声が、静かに響いた。さっきまでの焼け焦げた声ではない。だが、澄んではいても、その奥には深い戸惑いが沈んでいる。

 

「なぜ、汝は私を拒まなかった。私は怨み、呪い、神にさえ見放された身だ。そんな私に、なぜ手を差し伸べる」

 

俺は入口の石壁に寄りかかり、黙って二人を見守った。ここで俺が口を挟むべきじゃない。これは、芹亜が自分の言葉で答えるべき問いだ。

 

芹亜は、ゆっくりと顔を上げた。震える手を伸ばし、ジャンヌの手を、その両手でそっと包み込む。

 

「ひとりで、抱えなくていいんです」

 

その声は、まだかすれていた。さっきまで歌っていた余韻が、喉の奥に残っているのだろう。でも、その言葉には迷いがなかった。

 

「あなたは、神に祈った。フランスを救いたいと。でも、誰にも祈ってもらえなかった。あなた自身のために祈ることを、許せなかった。……違いますか」

 

ジャンヌは答えなかった。ただ、その旗を持つ手が、芹亜の手の中で小さく震える。

 

「私は、あなたの声を聞きたかった。歴史の一行だけじゃない、あなたの本当の声を。怖くて、苦しくて、それでも誰にも言えなかった、あなたの祈りを」

 

芹亜は、そこで初めて微笑んだ。灰に汚れた顔で、涙の跡を残したまま、それでも確かに笑ったのだ。

 

「私は、あなたを救いに来たんじゃないんです。ただ、一緒に背負いたかった。あなたの業を、私にも分けてほしい」

 

ジャンヌの目が、わずかに見開かれた。救われたのではない。怨みごと、丸ごと見つめられた。その事実に、この聖女は戸惑っている。そんな風に、俺には見えた。

 

「汝は……不思議な者だな」

 

ジャンヌが、ようやくそれだけを呟いた。白旗の焦げ跡が、朝日に照らされて金色に輝く。まるで、焼かれたはずの祈りが、別の形で蘇ったかのように。

 

俺は壁から背を離さなかった。ただ、芹亜の肩の震えが、少しだけ収まったのを見て、胸の奥で何かがほどけるのを感じた。

 

借りは、まだ返し終わってねえな。そう思いながら、俺は黙って朝日の中の二人を見つめ続けた。

この場面には、まだ言葉が足りない。そう直感しながら。

ジャンヌが、ゆっくりと芹亜から手を離した。その目はまだ、何か言いたげに揺れている。俺は壁にもたれたまま、その表情を見逃さなかった。さっきまでの怨念の塊だった姿からは想像もつかないほど、今の彼女はただの少女に見える。だが、その声には、まだ消えぬ警戒が滲んでいた。

 

「汝に、もう一つだけ伝えねばならぬことがある」

 

芹亜が、わずかに首をかしげる。

 

「私の魂は、まだ完全に解放されたわけではない。この怨念を、己の力に変えようと狙う者がいる。かつて私を火刑に追いやった者たちとは別の、もっと深い闇だ」

 

俺は眉をひそめた。怨霊の軍勢を倒しただけでは終わらないというのか。

 

「だから、お願いがある」

 

ジャンヌは、その白い旗を胸の前で握りしめた。焦げ跡の残る旗が、かすかに震えている。

 

「しばらくの間、汝の中に私を置いてほしい。この魂が安らぐ場所を見つけるまで、汝の声と共に在りたい」

 

芹亜は、一瞬息を呑んだ。そりゃそうだ。他人の魂を、それも聖女と呼ばれた者の怨念ごと、自分の内側に入れるというのか。そんなことが、どれほどの重みを彼女に背負わせるか、俺にだってわかる。

 

「芹亜」

 

俺は思わず口を開きかけた。やめろ、とは言えない。でも、お前が背負い込むことはねえんだぞ、と。そう言おうとして、しかし俺は言葉を飲み込んだ。

 

芹亜の指先が、震えている。怖くないはずがない。他者の痛みを抱えることが、どれだけ恐ろしいか、こいつは誰よりも知っている。幼い頃から霊が見えて、友達にさえ拒絶されてきた。それでも、今、彼女は手を引こうとしなかった。

 

「……はい」

 

芹亜は、震える手を自分の胸に当てた。

 

「あなたの痛みも、祈りも、私が預かります。だから、一緒に来てください」

 

ジャンヌの目が、大きく見開かれた。そして、その厳しかった表情が、初めてほころんだのだ。まるで、六百年の時を経て、ようやく誰かに見つけてもらえたかのように。

 

「汝の声は、不思議だ。私の火を消さず、ただ包み込む」

 

ジャンヌは一歩、芹亜に近づいた。そして、そっと自分の額を、芹亜の額に寄せる。

 

「ありがとう。あなたの声と共に」

 

その瞬間、ジャンヌの身体が白金の光に変わった。鎧も、白い旗も、すべてが粒子となってほどけていく。ただ、焦げた旗だけが一瞬だけ形を残し、それからふわりと溶けて消えた。

 

光は、芹亜の胸元へ吸い込まれていく。風が吹き、祭壇の埃をさらった。教会の鐘が、一度だけ静かに鳴る。石床に映っていた二人の影が重なり、やがて芹亜一人の輪郭だけが朝日に浮かび上がった。

 

芹亜は、ゆっくりと立ち上がった。胸を押さえ、深く息を吐く。その瞳を、俺は見逃さなかった。黒かった彼女の目に、淡い金色の光が宿っている。

 

「吠さん」

 

芹亜が俺の名を呼んだ。その声は、確かに芹亜のものだった。だが、その奥に、もう一つの響きが重なっている。まるで、二人分の祈りが一つの声になったような、そんな不思議な響きだった。

 

「お前、それ……」

 

「大丈夫です。ジャンヌさん、ちゃんとここにいます」

俺はそれ以上、何も言えなかった。止めようとした自分を恥じながらも、それでも、彼女が自分で選んだ道なら、俺が口を挟むことじゃない。そう思い直して、壁から背を離した。まだ傷の残る手で、無造作に芹亜の頭をぽんと叩く。

「無理すんなよ」

芹亜は、金色の光を宿した瞳で、静かに笑った。

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