ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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重なる面影

寺の午後は穏やかである。蝉の声がジージーと、御経の代わりのように木々の間を埋め尽くしておる。仕事の合間の束の間の休息、というにはあまりに呑気な時間帯だが、人間というものは鞭打たれねば真面目に働かぬ反面、少しばかりの手が空くとすぐに惰性という甘美な蜜に lips を寄せるものである。俺と芹亜は、縁側に腰掛け、住職の雪庭がどこかで拾ってきたのか、あるいは誰かの供え物を搾取したのか、かりんとうを貪っていた。

 

「それでですね、ジャンヌさんが火刑に処される直前、まだ十字架に縛られていなかったら、もしかしたら脱出できたかもしれないって、歴史家の中でも議論が分かれててですね……」

 

芹亜の口から、かりんとうの砂糖と共に止めどなく溢れ出すのは、フランスの聖女についての熱弁である。昨日、あの異界で魂を重ね合わせた影響か、それとも単に元来の歴史マニアの血が騒いだのか、彼女の語り口には牽引力がある。まるで、六百年の昔にタイムスリップでもしたかのような熱量だ。

 

「へえ」「そうかよ」「ほう」

 

俺は適当に相槌を打つ。かりんとうの黒糖が歯にへばりつく感触に注意を払うのがせいぜいで、聖女の脱出劇の可能性について思考を馳せる気力は毛頭ない。だが、芹亜は俺の生返事など意に介さず、瞳を輝かせて続ける。

 

「判決が下されるまでの、あの裁判の記録もすごいんですよ。 nineteen歳の農村の娘が、神学論争で教授たちを言いくるめたりしてて……」

 

十九歳か。俺たちが知るジャンヌは、もっと重い荷を背負った姿だったが、生前はそんな風に牙を剥いていたのか。人間、追い詰められれば猫だって虎の真似をするものである。

 

「吠さん、ちゃんと聞いてます?」

 

「聞いてるよ。にいじゅうきゅうさいの小娘が、ひげ面の爺さんたちを論破したんだろ?」

 

「十九歳です! でも、すごいですよね、彼女の言葉の力……」

 

芹亜は胸に手を当てる。その胸元には、今もジャンヌの魂が在るのだろうか。白旗の重みが、彼女の呼吸に合わせて脈打っているように見える。

 

「それにしても、吠さん」

 

芹亜が、急に声のトーンを落とした。かりんとうの袋を膝に置き、じっと俺の顔を覗き込む。その視線は、霊を見透かす探偵の目にも似ていた。

 

「なんだよ」

 

「さっきから、誰かのこと、思い出してませんか?」

 

図星を突かれた。俺は不覚にも、芹亜の「言葉の力」という言葉に、別の光景を重ねていたのだ。元の世界。

いつも前を向いていたあいつの背中。響。

 

「……別に」

 

俺はそっぽを向いた。寺の庭の石仏が、無表情で俺を見返している。

 

「誰も思い出しちゃいねえよ」

 

「嘘です」

 

芹亜は食い下がった。恐る恐る、だが確信を持って。

 

「今、すごく優しい顔してました。誰かに向けてる顔じゃなくて、遠くの、大切な誰かを思い出すような顔」

 

勘が鋭すぎるのも、考え物だ。霊感だけじゃなく、人間観察眼まで備わっておる。

 

「ただの目眩だ。かりんとうが甘すぎるんだよ」

 

「目眩じゃないです。誰ですか? 友達? それとも……」

 

「しつけえな。俺には家族も友達もいねえよ。はぐれ者の野良犬だって言ったろ」

 

「でも、その顔は……」

 

芹亜は引かない。ジャンヌの魂が、彼女の好奇心を後押ししているのか、それとも彼女自身が、俺の中に見え隠れする「借り」以外の感情を敏感に感じ取っているのか。

 

「ねえ、教えてくださいよ。どんな人だったんですか?」

 

「教える必要はねえ。忘れたいことだってあるんだよ」

 

実際には忘れたくなどない。響の前を走れなかった自分、守ると誓いながら結局元の世界へ一人残してきた自分。その情けなさも全部ひっくるめて、俺はあいつを思い出す。だが、それをこの小娘に晒け出すのは、なんだか剥製にされた獣みたいで癪だ。

 

「……吠さん」

 

芹亜は、なおも何か言いたげに俺を見ている。その瞳の奥に、淡い金色の光が揺らいだ気がした。

 

「ま、いいじゃねえか。かりんとうもなくなっちまったし、仕事に戻るぞ」

 

俺は空になった袋を立ち上げ、乱暴に立ち上がった。芹亜の視線を振り払うように、背を向ける。

 

「あ、待ってくださいよ! まだ半分残ってます!」

 

「てめえが喋ってる間に湿気ちまったんだよ!」

 

俺は寺の本堂へと足を向けた。背中越しに、芹亜が小さくため息をつく気配がした。だが、諦めたわけではないだろう。あいつは、相手の痛みを知ろうとする芯の強さを持っている。だからこそ、俺の中の「響」という傷にも、いずれ触れてくるに違いない。

 

俺は舌打ちを一つすると、石段を登った。日照りの中に、どこか遠い冷たい風を感じながら。

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