ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
俺は、テガソードの柄に手をかけた。だが、それを遮るように、陸王が一歩前に出る。
「待ってくれ、吠くん」
その声は、いつもの柔らかな調子とは違っていた。ステージの上で観客を魅了する時の、あの張り詰めた静けさを帯びている。
「この勝負、僕に譲ってくれないか」
「なに…?」
俺が睨むと、陸王は振り返らずに、天馬をまっすぐ見据えたまま続けた。
「ステージの上に立つ者同士、一度、戦ってみたいんだ」
天馬薫が、ゆっくりと目を細める。その口元には、明らかな興味が浮かんでいた。
「ほう。君もまた、舞台に立つ者か」
「元、だけどね」
陸王は、ポケットからセンタイリングを取り出した。レオンの紋章が刻まれた指輪が、夕暮れの光を反射して金色に輝く。
「君の言う通り、舞台は選ばなきゃならない。観客も、演出も、そして対戦相手も」
「ふふ…」
天馬は、まるで恋の告白でも受けたかのように、うっとりと目を細めた。
「なんと嬉しいことを言う。君、名は?」
「百夜陸王」
「百夜陸王…いい名だ。まるで夜空に輝く星のよう」
彼女はライドウォッチを指先で弄びながら、ふと境内の外へ視線を向けた。
「だが、ここではいけない。舞台装置は素晴らしいが、観客が多すぎる」
確かに、本堂の陰から雪庭がひょっこり顔を出しているし、いつの間にか竜儀や禽次郎まで集まってきている。これでは、戦いどころではない。
「寺の近くに、誰も来ない森がある」
天馬は、優雅に指を差した。
「そこなら、誰にも邪魔されず、思う存分、幕を上げられる。どうだ、百夜陸王。私と、一対一の舞台を」
陸王は、振り返って俺を見た。その目は、もう決めている。俺は舌打ちして、テガソードから手を離した。
「好きにしろ。ただし、負けんなよ」
「負けるわけないさ」
陸王は、いつもの人たらしスマイルで笑った。
「だって、主役は僕だからね」
森の中は、驚くほど静かだった。都心のすぐ近くにあるとは思えぬほど、木々が鬱蒼と茂り、風の音さえも遮られている。夕暮れの光が、枝葉の隙間から細い糸のように差し込み、地面にまだらな影を描いていた。
ここなら、誰にも邪魔されない。そう天馬が言った通り、俗世から切り離されたような、不思議な静寂が漂っている。
「いい場所だろう」
天馬が、振り返って微笑んだ。制服姿の彼女は、この森の中でもまったく場違いに見えない。むしろ、木々の間の光と影が、彼女の周囲だけスポットライトのように集まっている。
「さあ、準備はいいかな、百夜陸王」
「いつでも」
陸王が、一歩前に出る。俺と芹亜、そして楓は、少し離れた場所で見守ることにした。楓はまだ状況を完全には飲み込めていないようだったが、それでも黙って成り行きを見つめている。
「エンゲージ」
陸王が、テガソードを掲げ、センタイリングを装填する。
『クラップユアハンズ! ゴジュウレオン!』
蒼い光が陸王を包み、獅子の力が全身に行き渡る。
王者のカリスマ、ゴジュウレオン。その姿は、まさにステージの主役にふさわしい華やかさだった。
「ほう…」
天馬が、感心したように息を漏らす。
「素晴らしい。それはまるで、黄金の獅子。君の舞台が、今始まろうとしている」
彼女は、右手にライドウォッチを掲げた。サソリの紋章が刻まれた時計型アイテムが、かちりと音を立てて起動する。
「では、私も幕を上げよう」
天馬は、優雅にライドウォッチを自分の胸の前にかざした。そこには、変身ベルトはない。代わりに、彼女の身体そのものが、変身の媒体となるかのように、淡い光を放ち始める。
『変身!』
彼女の声に、ライドウォッチが応える。
『ライダータイム! サソード!』
瞬間、彼女の身体が装甲に包まれた。まず現れたのは、重厚な外骨格のような形状。仮面ライダーサソードのマスクドフォーム。全身を覆う繭のような装甲は、彼女の華奢な身体をすっぽりと包み込み、まるで中世の騎士のような重々しさを漂わせている。
だが、天馬の変身はまだ終わらない。彼女は、ゆっくりと両腕を広げた。
「さあ、脱皮の時間だ。繭を破り、真の姿を見せよう」『キャスト・オフ』
その瞬間、装甲が外側から弾け飛ぶ。キャストオフ。重厚な外骨格が、無数の破片となって吹き飛び、その下から現れたのは、まったく異なる姿だった。
流線型の紫の装甲。頭部にはサソリを思わせる一本角と鋭い複眼。全身は美しく、優雅なシルエットを持ち、剣士のような立ち姿が、木漏れ日の中で輝いている。
『チェンジ・スコーピオン!』
これが、ライダーフォーム。天馬薫の真の戦闘形態だ。
彼女は、腰からサソードヤイバーを抜き放つ。毒を仕込んだという、あの剣。刀身が、夕暮れの光を受けて妖しく煌めいた。
「仮面ライダーサソード。これが私の役どころ」
天馬は、剣を構えながら、ゆっくりと陸王に向き直った。
「さあ、獅子よ。君の舞台を、私に見せてくれないか」
陸王は、レオンバスター50を構えた。その口元には、スリルを楽しむような笑みが浮かんでいる。
「喜んで。僕のステージ、目に焼き付けていってくれ」
森の中に、張り詰めた空気が走る。木の葉が、風もないのにざわりと揺れた。これから始まるのは、戦いだ。だが、それは単なる殺し合いではない。二人の舞台人が、互いの魂をぶつけ合う、一幕の演劇のようなものなのかもしれない。
俺は、そんなことを思いながら、二人の初手を見逃すまいと目を凝らした。