ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「さあ、第二幕といこうか」
陸王の声は、仮面ライダーXの仮面の下で、くぐもった響きを帯びている。まるで深海から浮かび上がってくる泡のように、静かで、それでいて確かな圧力を秘めた声だった。
サソードは、背中を打ちつけた樹の幹からゆっくりと身を起こした。その動きには、まだ余裕がある。紫の装甲が、木漏れ日を受けて妖しく輝いている。
「仮面ライダーX…なるほど、君は獅子だけではない。海の深さをも纏うか」
彼女はサソードヤイバーを、もう一度優雅に構え直した。切っ先が、陸王の喉元を正確に狙っている。その構えは、フェンシングのそれに近い。
「では、私も応じよう」
先に動いたのは、またしても陸王だった。
だが、今度は銃弾ではない。ライドルを真っ直ぐに突き出し、サソードの胸めがけて鋭く踏み込む。レイピアのようにしなやかな突き。空気を切り裂く音が、ひゅん、と鳴った。
サソードは、それを剣の腹で受け流す。金属が擦れ合い、火花が散った。そのまま彼女は、陸王の突きをかいくぐり、下段から斬り上げる。紫の毒が、剣の軌跡に沿って霧のように舞った。
陸王は、ライドルを縮めて毒の斬撃を回避すると、今度は伸ばして横薙ぎに反撃する。伸縮自在の武器は、間合いが読みづらい。サソードは一瞬、対応が遅れ、肩の装甲をかすめられた。
「やるな」
サソードの声に、しかし焦りはない。むしろ、舞台の相手役が期待以上だった時の、喜びにも似た響きだった。
「君こそ、その剣さばき、ただ者じゃないね」
陸王もまた、息を弾ませながらも笑みを浮かべているのが、仮面の下からでも伝わってくる。
二人の剣士が、再び交錯する。ライドルとサソードヤイバー。伸縮自在の深海の武器と、毒を纏う紫の剣。打ち合うたびに、金属音が森の中にこだまし、火花と紫煙が入り混じって舞い上がった。
互角。またしても互角だ。
俺は、拳を握りしめながら、その光景を見つめていた。口出しはしねえ。これは陸王の舞台だ。主役を張る覚悟があるなら、最後まで自分で幕を引くべきだ。
「吠さん…」
芹亜が、隣で心配そうに呟いた。彼女の瞳の奥で、金色の光が揺れている。ジャンヌもまた、この戦いを見守っているのだろうか。
「大丈夫だ」
俺は短く答えた。根拠はねえ。でも、あの百夜陸王という男は、ここで負けるようなタマじゃない。
ライドルが、空を切る。サソードヤイバーが、それに応える。
森の中の静寂を切り裂いて、二つの剣が、互いの魂をぶつけ合っていた。
陸王の動きが、変わった。
それまでの鋭い突きと受け流しを中心としたフェンシングスタイルから、まるで別の生き物のように、彼の全身がしなやかに回り始める。ライドルが、その手の中でくるりと回転し、形状を変えた。伸縮自在の棒状武器は、今や三又に分かれた棒――ライドルスティックへと姿を変えている。
「なんだ、あの武器…?」
俺は思わず呟いていた。ライドルが変形するなど、聞いたことがない。いや、そもそも仮面ライダーXの力そのものが、陸王の中で独自の進化を遂げているのか。
「ふふ…」
サソードが、剣を構えたまま小さく笑った。
「面白い。君はまだ、私を驚かせてくれる」
「驚くのはこれからさ」
陸王は、ライドルスティックを両手で持ち、まるでダンスのパートナーをエスコートするかのように、ゆっくりと構えた。そして――彼は踊り始めたのだ。
くるり、と一回転。ライドルスティックが、その動きに合わせて弧を描き、サソードの剣を弾く。さらに半歩踏み込み、スティックを横に振る。三又の先端が、サソードの肩の装甲を捉え、火花を散らした。
「これは…!」
サソードが、わずかに後退する。その動きには、初めて戸惑いのようなものが滲んでいた。無理もない。陸王の攻撃は、もはや剣術ではない。ステップとターン、そしてスティックの回転が一体となった、まるでショーのような戦い方だ。
「僕はね、アイドルだったんだ」
陸王は、軽やかにステップを踏みながら、ライドルスティックをくるくると回す。
「ステージの上で、何万人もの観客を魅了してきた。この動きは、その時のものさ」
彼は、サソードの斬撃を紙一重でかわし、そのまま彼女の背後に回り込む。まるでワルツの最後のターンのように、優雅に、しかし鋭く。
「そして、これがクライマックスだ!」
ライドルスティックが、陸王の手の中で高速回転を始める。三又の先端が、青いエネルギーを纏い、プロペラのように唸りを上げた。
その時、テガソードが高らかに宣言した。
『フィニッシュフィンガー! X!』
陸王は、ライドルスティックを高く放り投げた。三又の武器が、夕暮れの空でくるくると回転しながら弧を描く。そして彼は、それを空中で掴むと――。
「これが、僕のフィナーレだ!」
まるで鉄棒の大車輪のように、ライドルスティックを軸にして空中でぐるりと一回転。その勢いのまま、彼はスティックから手を離し、両手両足を大きく広げた。
Xポーズ。仮面ライダーXの象徴たる、その決めポーズが、森の中の空に浮かび上がる。
「な、なんという…!」
サソードが、思わず声を漏らした。彼女は剣を構えて迎え撃とうとしたが、陸王の動きは止まらない。Xポーズから前宙へ。空中でさらにもう一回転し、その遠心力と重力をすべて右脚の先端へと集中させる。
「Xキック――!」
陸王の右脚が、青いエネルギーを纏い、サソード目がけて急降下する。それはまるで、深海から空へと飛び立つ一本の矢のようだった。
サソードは、とっさに剣を掲げて防御した。だが、Xキックの威力は、その毒の刀身を粉砕し、彼女の装甲を深く抉った。紫の光が弾け、サソードの身体が後方へと吹き飛ぶ。
「ぐあっ…!」
彼女は、地面に叩きつけられ、そのまま変身が解除された。制服姿の天馬薫が、息を切らしながら仰向けに倒れている。ライドウォッチが、その手から転がり落ちた。
陸王もまた、地面に着地すると同時に変身を解いた。仮面ライダーXの装甲が光の粒子となって消え、元の百夜陸王の姿に戻る。彼は、額の汗を拭いながら、倒れた天馬に歩み寄った。
「君の舞台、最高だったよ」
陸王は、手を差し伸べながら言った。その声には、勝利の驕りはなく、ただ純粋な称賛だけが込められている。
天馬は、しばらく天を仰いでいたが、やがて小さく笑った。
「私の負けだ、百夜陸王」
彼女は、その手を取って立ち上がる。制服が土で汚れ、髪には木の葉が絡まっていたが、その立ち姿は相変わらず優雅だった。
「だが、これは幕間だ。本公演は、まだこれから。私の毒は、そう簡単には抜けないよ」
「楽しみにしている」
陸王は、いつもの人たらしスマイルで応えた。
俺は、二人のやりとりを黙って見ていた。芹亜が、ほっと胸を撫で下ろす気配が隣でする。楓もまた、緊張の糸が切れたように、深く息を吐いていた。
陸王は、そのまま転がったライドウォッチを拾い上げながら笑みを浮かべる。