ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
戦いが終わり、森の中に再び静寂が戻ってきた。夕暮れの光が、木々の間から細く差し込み、地面に落ちた木の葉を金色に染めている。まるで、舞台の幕が下りた後の、ほっと一息つくような時間だった。
俺は、倒れていた天馬が陸王の手を借りて立ち上がるのを、壁にもたれたまま見ていた。芹亜と楓も、まだ緊張を解けずにいる。無理もない。ついさっきまで命を懸けた戦いをしていた相手が、今は同じ制服を着た女子高生として、そこに立っているのだから。
「なあ、天馬」
陸王が、ライドウォッチを手にしたまま、静かに口を開いた。その声は、さっきまでの舞台人のような張り詰めたものではない。もっと素の、一人の人間としての響きだった。
「君の願いは、何だい?」
天馬は、制服についた土をはたきながら、少しだけ驚いた顔をした。それから、ふっと微笑む。
「私の願いか…」
彼女は、木々の隙間から見える夕焼け空を見上げた。その横顔は、さっきまで戦っていた戦士のものではなく、ただ夢を追いかける一人の少女のものだった。
「私はね、人々が心から感動し、笑顔になれる演劇を作りたいんだ。幼い頃、観劇で初めて笑顔になれた。あの時の感動を、今度は私が誰かに届けたい」
「舞台俳優になりたい、か」
「そうだ。そして、そのための舞台を作る。ライドウォッチも、そのために使うつもりだった」
陸王は、黙ってその言葉を聞いていた。そして、手にしたライドウォッチを一度だけ見つめ、それから天馬の目をまっすぐに見返した。
「その願い、僕が受け止めるよ」
「…いいのか」
「ああ。君の夢は、誰かを笑顔にするためのものだ。それを奪うのは、僕の美学に反する」
天馬は、少しだけ目を見開いた。それから、まるで舞台の上でスポットライトを浴びた時のように、ぱあっと顔を輝かせる。
「ありがとう、百夜陸王。君はやはり、最高の観客であり、最高の共演者だ」
彼女はそう言うと、くるりと楓の方を向いた。その動きは、さっきまでの疲れが嘘のように軽やかだ。
「さあ、西園寺楓!」
「は、はいっ!?」
いきなり名前を呼ばれた楓が、びくっと肩を震わせる。名家の令嬢で、普段は冷静沈着な彼女が、これほど動揺しているのは珍しい。
「改めて、勧誘だ!」
天馬は、まるでシェイクスピアの劇の一節でも朗読するかのように、大仰に両手を広げた。
「君のその気品、その立ち姿、そして何より、ジャンヌ・ダルクという役に対して真摯に向き合おうとするその心! 主役は君以外にありえない! 私と共に、伝説の舞台を作ろうではないか!」
「あ、あの…」
楓は、明らかに戸惑っていた。青い髪を揺らしながら、俺と芹亜を交互に見る。助けを求めているのだろうが、俺は肩をすくめるだけだ。芹亜は、くすくすと笑っている。
「私はまだ、ジャンヌのことをちゃんと理解していなくて…」
「ならば、これから知ればいい!」
天馬は、楓の両手をがしっと掴んだ。その目は、本気だ。さっきまで命を懸けて戦っていた相手とは思えぬほどの、純粋な情熱がそこにはあった。
「演じることは、知ることだ。君がジャンヌを演じ、そしてジャンヌが君を通して蘇る。それは、君にしかできない役だ。…違うか、そこのお二人!」
天馬が、急に俺と芹亜に話を振ってきた。芹亜は、胸に手を当てて、静かに頷く。
「楓ちゃんなら、きっとできます。ジャンヌさんも、喜ぶと思います」
「…俺に聞くな」
俺はそっぽを向いたが、天馬は気にせずに続ける。
「決まりだな! 西園寺楓、君は今日から演劇部の主役だ! 稽古は明日から。遅刻は許されない。何せ、我々の舞台は待ったなしだからな!」
「ま、待ってください。まだ返事を…」
「返事は聞いた! 君の目が、もう役者としての覚悟を語っていた!」
楓は、もう何も言えずに、ただ小さくため息をついた。だが、その口元には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいる。根は真面目で、責任感が強い彼女のことだ。引き受けると決めたら、きっと全力でジャンヌに向き合うのだろう。
陸王は、そんな二人のやりとりを微笑ましく見守りながら、ライドウォッチをそっと自分のポケットにしまった。