最初に“それ”に気づいたのは、小学六年の夏だった。
放課後。人気のない帰り道。
いつもと変わらない景色のはずなのに、その日だけは違った。
——何かがいる。
視界の端に、妙な違和感が引っかかった。
振り向く。
そこには、人の形をしていない“何か”がいた。
歪んでいる。濁っている。見ているだけで不快になる存在。
だが、不思議と恐怖はなかった。
それよりも先に、別のものが目に入った。
——Lv.1
空中に浮かぶ、小さな数字。
「……なんだこれ」
思わず呟く。
瞬きをしても消えない。目を擦っても変わらない。
そして気づく。
その“何か”にも、同じように数字が浮かんでいた。
——Lv.1
同じだ。
理解はしていない。だが、直感だけはあった。
これは、強さだ。
だったら——
「倒したら、どうなる?」
口に出してから、自分で少し驚いた。
普通なら逃げる場面だ。なのに、自分の頭はそれを前提にしていない。
むしろ。
面白そうだ、とすら思っている。
理由は分からない。ただ、そう思ってしまった。
足を踏み出す。
距離を詰める。
拳を握る。
そして、そのまま殴った。
手応えは薄い。
けれど確かに、“当たった”という感覚はあった。
次の瞬間。
それは、消えた。
まるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなく。
同時に。
視界に浮かぶ数字が、変わる。
——Lv.2
「……上がった」
思わず声が漏れる。
理解する。
これはゲームだ。
敵を倒せば、レベルが上がる。
レベルが上がれば、強くなる。
それだけの、シンプルなルール。
だけど。
「……めちゃくちゃ楽しいな」
自然と笑みがこぼれた。
その日から、日常が変わった。
放課後、寄り道をするようになった。
夜、こっそり家を抜け出すようになった。
目的は一つ。
“あれ”を探すこと。
見つけて、倒すこと。
最初は手探りだった。
どこにいるのかも、どうすれば効率よく見つかるのかも分からない。
それでも繰り返す。
倒す。
倒す。
倒す。
気づけば、身体が軽くなっていた。
動きが速くなっていた。
感覚が研ぎ澄まされていた。
そして。
——Lv.7
数字は、確実に増えていた。
「まだいけるな」
確信があった。
この成長には、上限があるはずだ。
そして、自分はそこまで辿り着ける。
理由はない。ただ、分かる。
だから続ける。
その日の帰り道も、同じだった。
いつものように、“それ”を見つける。
いつものように、距離を詰める。
そして——
「へぇ」
背後から、声がした。
反射的に振り向く。
そこに立っていたのは、一人の男だった。
白い髪。黒い服。目元は隠れているのに、なぜか視線が合っている気がする。
軽い雰囲気。だが——
(……強い)
一瞬で分かった。
今まで見てきた何よりも、圧倒的に。
「それ、術式でしょ?」
男が言う。
軽い口調だった。
「……多分」
正直に答える。
まだよく分かっていない。
でも、否定はできない。
「自覚ないのに使ってるの、だいぶヤバいね」
楽しそうに笑う男。
そして、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
距離が縮まる。
逃げようとは思わなかった。
逃げられる気もしなかったし、何より——
興味の方が勝っていた。
「名前は?」
「九条、遊真」
「そっか」
男は小さく頷く。
そして、少しだけ間を置いてから言った。
「僕が面倒見てあげるよ」
「……は?」
思わず間の抜けた声が出る。
「もっと強くなりたいでしょ?」
迷いはなかった。
「なりたい」
即答だった。
男は満足そうに笑う。
「いいね」
そして、続ける。
「じゃあ、壊れないようにしようか」
その言葉の意味は、まだ分からない。
ただ一つだけ、はっきりしていた。
この人についていけば、もっと強くなれる。
それだけで十分だった。
この日を境に、九条遊真の“ゲーム”は変わる。
ただ強くなるだけじゃない。
どこまで行けるのか。
どこまで行っても、戻ってこれるのか。
その答えを探すような——
そんな戦いが、ここから始まる。
■ 主人公
九条 遊真(くじょう ゆうま)
一般家庭出身の少年。
小学生の頃に術式へと覚醒し、「強くなること」に対して強い興味と執着を持つ。
合理的で冷静な性格だが、根本には人間らしさを持っている。
■ 術式「RPG」
呪霊や術師を倒すことで経験値を獲得し、“レベル”として成長する術式。
レベルアップにより呪力量や身体能力が上昇する。
一方で、訓練では技術のみが向上する。
強さの大部分がレベルに依存する、非常に特殊な能力。
■ 職業(ジョブ)システム
一定レベルに到達することで「職業」を選択・変更できる。
職業ごとに戦闘スタイルや能力が変化し、
レベル20で転職が可能。
能力値は引き継がれるが、新たな職業はレベル1から再スタートとなる。
また、職業は精神にも影響を与える性質を持つ。
■ レベルと成長
最大レベルは99。
レベルが上がるほど能力は飛躍的に向上するが、
一定以上になると精神への負荷も
■ 物語について
本作は、強さを追い求める一人の術師が、
その力と向き合い続ける過程を描く物語です。
原作の流れをベースにしつつ、
独自設定や解釈を含む展開があります。