「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第11話「制御」

空気は、まだ張り詰めていた。

 

任務の帰り道。誰も何も言わないまま歩いている。さっきまでの戦闘の余韻と、言葉にしきれない違和感が静かに残っていた。

 

秤は前を歩き、振り返らない。綺羅羅も何も言わない。ただ状況を見ているだけだ。

 

その沈黙を破ったのは五条だった。

 

「……思ったより早いね」

 

軽い声だったが、視線はまっすぐ遊真を見ていた。

 

「何が」

 

「崩れかけてるの」

 

否定はできなかった。自覚はある。さっきの戦闘で、明らかに何かがズレた。力の出し方、身体の動き、そして他人との距離感。

 

「このまま続けたら?」

 

五条が続ける。

 

「多分、壊れるよ」

 

冗談ではない言い方だった。

 

少しだけ考える。

 

だが。

 

「強くなる」

 

その言葉が先に出る。

 

秤が小さく舌打ちする。

 

「だからそれが問題だって言ってんだろ」

 

五条はそれを止めない。ただ遊真を見ている。

 

「じゃあさ」

 

一歩、近づく。

 

「一回、外そうか」

 

「外す?」

 

「うん。剣も魔法も全部」

 

一瞬、理解が追いつかない。

 

「意味あるのか」

 

そう聞くと、五条は少しだけ笑った。

 

「あるよ。今の君は“乗せて強くしてる”状態だから」

 

短く続ける。

 

「それ、一回全部外してみな」

 

静かに言う。

 

「素でどこまで戦えるか、確認しよう」

 

場所を変える。五条家の敷地内、最初に訓練していた空間だった。

 

「呪力は使っていい。ただしスキルは禁止」

 

その一言で、やることは明確になる。

 

踏み込む。身体は動くが、違和感がある。いつもなら自然に出る技が出ない。“断ち切る”も、“穿て”も発動しない。

 

理解する。今までの戦いはスキルに依存していた。

 

「遅い」

 

衝撃とともに地面に叩きつけられる。

 

「それ、ただの身体能力任せ。戦いになってない」

 

立ち上がる。もう一度踏み込む。今度は動きだけで崩すことを意識する。

 

距離、間合い、タイミング。一つずつ合わせていく。

 

だが甘い。また崩される。

 

何度も繰り返す中で、余計な動きに気づく。無駄な力、乱れた呪力の流れ。それらを削ぎ落としていく。

 

もう一度踏み込む。今度は違う。最短で入る。拳を打ち込む。

 

「お」

 

五条が初めて反応する。

 

完全には当たらない。それでも確かな手応えがあった。

 

「いいね。それが“素”」

 

その瞬間、視界の端に表示が浮かぶ。

 

職業が変化します

レベルがリセットされます

 

冷静に受け止める。レベルが落ちる。ただ、それだけだ。

 

「呪力と身体はそのまま。落ちるのはスキルだけ」

 

五条が補足する。

 

納得する。だからこそ意味がある。

 

「やる」

 

迷いなく答える。

 

「バトルマスター」

 

感覚が切り替わる。強化ではなく、整う感覚。無駄が消え、流れが揃う。

 

Lv.1

 

確かに落ちている。だが弱くなった感覚はない。

 

踏み込む。速い。軽い。迷いがない。

 

拳が届く。

 

五条が受けながら笑う。

 

「いいじゃん」

 

距離を取る。呼吸は安定している。

 

「どう?」

 

「……使いやすい」

 

それが一番しっくりくる答えだった。

 

「それが扱えてる状態」

 

五条が頷く。

 

少し離れた場所で、秤と綺羅羅が見ていた。

 

「レベル1であれかよ」

 

秤が呟く。

 

「やばいね」

 

綺羅羅も苦笑する。

 

遊真は自分の手を見る。

 

スキルは使えない。だが身体も呪力もそのまま残っている。

 

つまりこれは、積み上げる前の本当の基礎だ。

 

レベルはまた上がる。だが今回は違う。

 

ただ上げるのではなく、使える形で積み上げる。

 

そう決めた。

 

前に進むために。




【バトルマスター】

あらゆる戦闘技術を極限まで研ぎ澄ませた近接戦闘特化の職業。

剣術や魔法といった“外付けの力”に依存せず、肉体と呪力のみで戦うことを前提とする。そのため、純粋な戦闘能力の完成度は極めて高い。

特徴は「制御」にある。

呪力を増幅させるのではなく、流れを整え、無駄を削ぎ落とし、最適な形で出力する。過剰な力に頼らないため、動きに一切のブレがなく、最短・最速で敵を制圧する。

また、スキルに依存しない戦闘スタイルにより、状況対応力が非常に高い。あらゆる間合い、あらゆる状況において、自身の身体一つで最適解を導き出すことができる。

一方で、瞬間的な爆発力や広範囲殲滅力には欠けるため、単純な火力だけで見れば上位職に劣る場合もある。

しかし、基礎能力と制御力の高さから、あらゆる職業の土台となる“完成された戦闘職”とされる。

この職業を極めた者は、力に振り回されることなく、すべてを“扱う側”へと至る。
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