「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第14話「並走」

了解、装飾なし・そのまま貼れる形で出す 

 

 

合同訓練の後、空気はわずかに変わっていた。

 

一年たちはそれぞれ散り、訓練場には静けさが戻る。それでも、さっきまでの圧と衝撃だけは、その場に残り続けている。

 

遊真はその場に残る。

 

拳を握る。開く。同じ動作を繰り返しながら、身体の状態を確かめる。

 

動く。問題はない。

 

だが、届かなかった。

 

その事実だけが、はっきりと残る。

 

背後から足音が近づく。

 

振り向くと、乙骨が少し距離を取ったまま立ち止まっていた。言葉を探すように口を開き、すぐに頭を下げる。

 

「さっきは、本当にすみませんでした」

 

深く下げたまま続ける。

 

「怪我、大丈夫ですか」

 

「問題ない」

 

乙骨は少しだけ息を吐き、肩の力を抜く。だが、すぐに視線を落とす。

 

「僕、まだ全然制御できなくて……気づいたら、ああなってて」

 

握った拳がわずかに震えている。

 

「止められないんです」

 

少しの沈黙が落ちる。

 

遊真は考えてから言う。

 

「強いな」

 

乙骨が顔を上げる。

 

「え?」

 

「さっきの」

 

率直な評価だった。

 

乙骨は言葉を詰まらせる。

 

「……怖く、なかったんですか」

 

遊真は一度だけ考える。

 

「怖くはない」

 

少しだけ間を置く。

 

「届かないと思っただけだ」

 

乙骨は何も言えなくなる。その言葉の重さを、そのまま受け取るしかない。

 

それから、二人は同じ場所に残ることが増えた。

 

最初は距離があった。だが時間が経つにつれて、その距離は少しずつ縮まっていく。

 

乙骨は基礎の動きを繰り返していた。崩さないように、暴発させないように、一つ一つを確認しながら形を整えていく。

 

遊真はそれを横で見ながら、自分の動きを重ねる。

 

踏み込み。重心。力の流れ。無駄を削りながら、同じ動作を繰り返す。

 

「そこ、力入りすぎてる」

 

乙骨が動きを止める。

 

「え?」

 

「抜いた方がいい」

 

言われた通りに動きを変える。肩の力を抜き、重心だけを前に流す。

 

その瞬間、動きが滑らかに変わる。

 

「あ、本当だ……」

 

小さく驚く。

 

「ありがとうございます」

 

「別に」

 

少し間を置いて、乙骨が再び口を開く。

 

「九条さんは、なんでそんなに落ち着いてるんですか」

 

「落ち着いてる?」

 

「はい。あんなの見た後なのに」

 

遊真は少しだけ考える。

 

「慣れてる」

 

それだけ言う。

 

少しだけ続ける。

 

「それに、上がいるって分かったから」

 

乙骨が目を見開く。

 

「上?」

 

「目標ができた」

 

それ以上は続かない。

 

だが、それで十分だった。

 

訓練は続く。

 

動きは整っていく。無駄が減り、精度が上がり、確実に強くなっている実感がある。

 

それでも、足りない。

 

その感覚だけは、消えない。

 

夜、一人で任務へ向かう。

 

身体は軽い。スキルは使えない。それでも、動きだけで十分に対応できる。

 

踏み込み、崩し、打つ。その流れだけで戦闘は終わる。

 

レベルは上がる。だが、上がりは遅い。

 

それでも、感覚は悪くない。むしろ安定している。

 

だからこそ気づく。

 

もっと効率のいい方法がある。

 

別の日、呪詛師と遭遇する。

 

二人。同時に動く。

 

一人目の動きを崩し、その流れを止めずに二人目へ繋げる。

 

連続で処理する。戦闘は短時間で終わる。

 

その瞬間、身体がわずかに軽くなる。

 

一気に引き上がる感覚ではない。だが、確実に“近づく”感覚。

 

理解する。

 

人間を倒した時の方が、効率がいい。

 

足が止まる。

 

思い出す。

 

制御。削ったはずのもの。バトルマスターになった意味。

 

「……違うな」

 

小さく呟く。

 

これは違う。

 

戻っている。前と同じだ。

 

力を優先している。

 

分かっている。

 

このまま続ければ、また崩れる。

 

それでも。

 

乙骨の姿が浮かぶ。

 

あの圧。あの力。届かなかった距離。

 

思考が止まる。

 

残るのは、結論だけ。

 

負けたくない。

 

遊真は歩き出す。

 

任務を増やす。回数を重ねる。効率を選ぶ。

 

分かっていても、止めない。止まれない。

 

整えたはずの土台の上に、再び同じ積み方を重ねていく。

 

それが危険だと理解しながら。

 

それでも。

 

強くなることを選ぶ。

 

それ以外の選択肢は、もう残っていなかった。




【現時点での九条遊真への評価】

■ 五条悟
「面白い存在であり、危うい原石」
才能・成長速度ともに規格外と認識している一方で、力の扱い方を誤れば簡単に壊れる危険性も理解している。基本的には干渉しすぎず見守るが、致命的なラインは越えさせないようコントロールしている。

■ 秤金次
「認めているが、放っておけない危険なやつ」
戦闘センスとメンタルの強さは高く評価しているが、効率を優先して突き進む姿勢に強い危機感を持っている。仲間として信頼はしているが、必要なら止めるつもりでいる。

■ 星綺羅羅
「バランスが崩れかけている要注意人物」
冷静に状況を分析しており、“強さ”と“危うさ”の両方を同時に見ている。能力は高く評価しているが、精神的な偏りを危険視している。

■ 禪院真希
「異質な強さを持つ対等な戦闘者」
レベルや理屈ではなく、純粋な戦闘能力で評価している。違和感は感じつつも、戦える相手として興味を持っている状態。

■ パンダ
「バグみたいな強さを持つやつ」
素直に強さを認めつつも、その成長の仕方や仕組みに違和感を感じている。どこか面白がりつつも警戒している。

■ 狗巻棘
「危険だが信頼できる戦力」
言葉は少ないが、本能的に“危うさ”を感じ取っている。同時に、戦力としての信頼度は高い。

■ 乙骨憂太
「自分とは違う形で強い人」
遊真の“制御された強さ”に対して、自分との違いを強く意識している。恐れよりも、尊敬に近い感情を持ち始めている段階。

■ 九条遊真(自己認識)
「まだ足りない」
周囲からの評価とは裏腹に、自分自身では一切満足していない。むしろ“届かなかった存在(乙骨)”を明確に認識したことで、さらに上を目指す意識が強まっている。同時に、効率を求めてしまう自分の危うさにも気づいているが、止まる選択はしていない。
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