「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第16話「転落と選択」

京都に入った瞬間、空気の質が変わった。

 

ただ濃いだけではない。重く絡みつくような呪力が街全体に広がり、呪霊と呪詛師の気配が混ざり合っている。地面に立っているはずなのに、どこか足場が不安定に感じる。均衡が崩れた場所特有の違和感だった。

 

任務は殲滅。

 

東京側は散開するが、遊真は最初から一人で進む。止める理由がない。それだけで十分だった。

 

最初の呪霊を捉える。踏み込みと同時に間合いへ入り、核へ打撃を通す。一撃で終わる。動きを止めず、そのまま次の気配へ繋ぐ。

 

今度は呪詛師。

 

反応より先に距離を詰め、構えを崩し、そのまま処理する。余計な動きはない。判断も思考もほとんど介在しない。身体が最短の流れを選び続けている。

 

倒すたびに身体が軽くなる。感覚が研ぎ澄まされていく。やはり効率がいい。その認識が、他の考えを押し流していく。

 

止まる理由がない。

 

次を探す。見つける。倒す。

 

繰り返す。

 

レベルが上がる。

 

確実に。

 

そして、敵の質が変わる。

 

視界の端に入った“それ”で、空気が歪む。密度が明らかに違う。一歩踏み出しただけで、地面がわずかに軋む。

 

特級呪霊。

 

人型に近いが輪郭が揺らぎ、身体の一部が霧のように崩れている。その内側で、別の何かが蠢いている。

 

「……強いな」

 

評価だけを残し、踏み込む。

 

距離を詰めた瞬間、呪霊の身体が膨張する。空間が引き伸ばされ、足元が崩れる。

 

「——墜ちろ」

 

地面が裂ける。拘束と落下を同時に発生させる術式。

 

だが、発動の“間”が見える。

 

踏み切る。崩れる前に地面を蹴り、歪みごと飛び越える。そのまま間合いへ侵入し、打撃を叩き込む。

 

感触が抜ける。

 

霧のように分散し、拳が通る。

 

直後、背後に気配が移る。

 

振り向く前に、刃へと変質した腕が振り下ろされる。完全には避けきれず、肩を浅く裂かれる。

 

だが、止まらない。

 

体勢を崩さず踏み直し、再び距離を詰める。

 

霧状に拡散する中でも、核だけは動いていない。その一点を捉える。

 

「そこか」

 

踏み込みと同時に、呪力を打撃へ乗せる。外側ではなく、内部へ通す形。

 

「砕け」

 

直撃。手応えが変わる。

 

核に届く。

 

呪霊が歪む。怒りのような圧が広がり、空間が固まる。

 

「——縛れ」

 

見えない壁が形成され、動きを封じる。同時に、無数の刃が空間から生まれる。

 

防がない。

 

足へ呪力を集中し、拘束そのものを“割る”。強引に踏み出す。刃が身体をかすめ、血が飛ぶが、動きは止まらない。

 

一気に距離を詰める。

 

「終わり」

 

核へ再度打撃を叩き込む。呪力を流し込み、内側から破壊する。

 

呪霊が崩れ、消える。

 

静寂が戻る。

 

身体が軽くなる。レベルが上がる。

 

だが、止まらない。

 

そのまま次へ向かう。

 

二体目はさらに異質だった。

 

姿が見えない。だが、確実に“いる”。気配が空間全体に広がり、輪郭を持たない圧として存在している。

 

次の瞬間、視界がねじれる。

 

上下左右の感覚が崩れ、位置の認識が狂う。

 

「……領域系か」

 

完全ではないが、それに近い術式。

 

背後からの攻撃を外すが、次は前。わずかに判断が遅れ、衝撃を受ける。

 

身体が弾かれる。

 

「面倒だな」

 

立ち上がる。

 

視界は歪んだまま。

 

だが、問題はない。

 

見えないだけで、位置は消えていない。呪力の流れは残っている。

 

呼吸を整え、余計な情報を切る。

 

残すのは位置だけ。

 

「そこだ」

 

踏み込む。

 

視界に頼らず、呪力の位置へ一直線に進む。

 

攻撃が来る。

 

無視する。

 

受けながら距離を詰める。

 

核に触れる。

 

「捕まえた」

 

術式が揺らぐ。

 

「砕け」

 

至近距離で叩き込む。

 

空間ごと歪み、術式が崩壊する。

 

視界が戻る。

 

呪霊も消えていた。

 

レベルが到達する。

 

70。

 

身体が軽い。思考が澄む。無駄が削ぎ落とされる。

 

強くなる。それでいい。

 

そう思った瞬間。

 

「……おい」

 

声が落ちる。

 

無視する。次を探す。

 

その直後、横から衝撃が入る。

 

強制的に止められる。

 

視線を上げると、東堂と秤が立っていた。二人とも本気で止めに来ている。

 

「いい加減にしろ」

 

東堂の声が落ちる。

 

「何だ」

 

自然に返す。

 

秤が一歩前に出る。

 

「やりすぎだ」

 

周囲には京都校の生徒たち。距離を取りながら様子を見ている。

 

「……効率がいい」

 

そのまま言葉に出る。

 

東堂が言い切る。

 

「それは強さではない」

 

「強くなる」

 

即答する。

 

「違う。それは暴力だ」

 

その言葉で、わずかに思考が止まる。

 

だが、結論は変わらない。

 

「分かってる」

 

「なら止まれ」

 

沈黙。

 

選べる。

 

だが、選ばない。

 

次の瞬間、二人が同時に踏み込む。圧が重なる。

 

受ける。

 

衝撃よりも強く伝わるものがある。

 

意志。

 

動きを止められているのではない。選択を止められている。

 

呼吸が乱れる。

 

視線を落とす。

 

震えている手。

 

そこでようやく理解する。

 

「……悪い」

 

小さく言う。

 

二人は何も言わない。

 

「一回、離れる」

 

それだけ残して、その場を離れる。

 

一人になる。

 

静かな場所で息を吐く。

 

壊れる。

 

その言葉が残る。

 

分かっていた。それでも進んだ。

 

「……ダメだな」

 

はっきり認める。

 

このままでは繰り返す。

 

強さだけを追っている。それは歪んでいる。

 

目を閉じる。

 

考える。

 

強さは必要だ。だが、このやり方ではない。

 

その時、視界に表示が浮かぶ。

 

転職が可能です

 

迷いはない。

 

「旅芸人」

 

選択する。

 

感覚が変わる。削るのではなく、広がる。

 

戦うだけではない在り方。

 

レベルは1に戻る。

 

だが、意味は違う。

 

目を開く。

 

「……これでいい」

 

そう呟き、歩き出した。

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