交流戦は中断された。特級呪霊の襲撃という異常事態が起きた以上、そのまま終了してもおかしくない流れだった。
だが、その空気を壊したのは 五条悟 だった。
「野球やろっか」
軽すぎる一言に、全員が固まる。
「……は?」
釘崎野薔薇 が素で聞き返す。
「今の流れで?」
「だからだよ」
五条は楽しそうに笑う。
「こういう時こそ青春でしょ。落ち込んでばっかだとつまんないじゃん」
「絶対違うでしょ」
伏黒が呆れたように言うが、結局は押し切られた。
気づけばグラウンドに簡易のフィールドが作られ、東京校と京都校が並んでいる。
「なんでこうなるんだよ……」
虎杖悠仁 がぼやくと、禪院真希 が肩を回しながら言う。
「やるなら勝つだけだろ」
パンダ は楽しそうに笑い、狗巻棘 も短く「しゃけ」と同意する。
一方で京都側は温度差が激しい。禪院真依 は露骨に嫌そうな顔をしており、三輪霞 は苦笑い、東堂葵 だけが妙に納得したように腕を組んでいた。
試合が始まり、先攻は京都校。マウンドに立ったのは遊真だった。
軽くボールを握り、何気なく振りかぶる。
投げた瞬間、空気が裂けた。
「速っ!?」
三輪が思わず声を上げる。ボールは見えないままミットに収まり、乾いた音だけが遅れて響いた。
「ストライク!」
たった一球で、全員が理解する。これはおかしい。
二球目、三球目も同じだった。バットは空を切り、あっという間に三者凡退。
「いや無理無理無理!」
「野球じゃないって!」
京都側が完全に崩れる。
攻守交代。
虎杖がバッターボックスに立つ。
その背後で、遊真は静かに呪力を流す。
「……あれ?」
身体が軽い。反応が異常に良い。
投球に合わせて振る。
打球は消え、気づけば遥か彼方へ。
「ホームラン!?」
虎杖が自分で驚いている。
「え、今の俺!?」
「バフだ」
短い説明。
「強すぎでしょ!?」
その後も同じだった。真希、釘崎、伏黒、全員が軽々とホームランを量産する。
「ちょっと待ってよ!」
真依が叫ぶ。
「全員おかしいでしょ!」
三輪は完全に混乱し、東堂だけが静かに頷いている。
「いい」
「何がよ!」
試合は成立せず、そのまま終了した。
「はい、東京校の勝ち〜」
五条が軽くまとめる。
虎杖がその場に座り込む。
「なんか変な疲れ方した……」
「そりゃあれだけ引き上げられたらな」
パンダが笑う。
釘崎は呆れたまま言う。
「便利すぎでしょ、それ」
伏黒は静かに続ける。
「敵に回したくない能力です」
遊真は何も言わず、小さく息を吐いた。
五条はその様子を見ながら、どこか満足そうに笑っていた。
⸻
その頃。
人の気配のない、地下のアジト。
薄暗い空間に、ゆらりとした気配が集まっている。
花御 が戻ってきていた。
その前に、夏油傑。
そして、漏瑚 と 真人 がいる。
「どうだった」
夏油が静かに問う。
花御は短く答えた。
「危険だ」
その一言で、空気がわずかに変わる。
「どの程度だ」
漏瑚が低く聞く。
花御は間を置かない。
「測定不能」
真人が楽しそうに笑う。
「いいねぇ、それ」
「面白くなってきたじゃん」
漏瑚は眉をひそめる。
「我々と同等か」
「それ以上の可能性」
沈黙が落ちる。
夏油は静かに目を細めた。
「……そうか」
短く呟く。
「なら」
わずかに口元が歪む。
「計画を少し早める必要があるな」
その言葉は静かだったが、確実に重かった。
世界が、確実に動き始めていた。
【花御の報告を受けた呪詛師陣の評価】
■ 夏油傑
「計画を歪める可能性がある“例外”」
表面上は冷静だが、内心では明確に危険視している。
五条悟に次ぐ“不確定要素”として認識。
・戦力としての強さよりも“予測不能性”を問題視
・排除対象、もしくは利用対象として検討
・場合によっては優先的に処理すべき存在
評価:最重要警戒対象
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■ 漏瑚
「人間の枠を超えた異物」
純粋な戦闘力で評価し、明確に脅威と認識。
・自分たち特級呪霊と同等以上の可能性を認める
・正面衝突はリスクが高いと判断
・五条悟と並ぶ“倒すべき敵”候補
評価:特級以上の危険存在
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■ 真人
「壊しがいのある“面白い人間”」
危険性よりも“興味”が先行。
・強さの理由に興味(職業・成長システム的な違和感)
・精神の未完成さに注目
・壊せばどうなるかを試したい対象
評価:研究対象兼遊び相手
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■ 花御
「測定不能の存在」
実際に対峙した唯一の存在として、最も正確な評価。
・戦闘中に“勝てない”と判断
・本気を出された時点で撤退を選択
・自然の理から外れた存在として認識
評価:交戦非推奨レベル
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■ 総合評価
「五条悟に次ぐ、計画崩壊要因」
現状の認識としては――
・五条悟=絶対的な壁
・九条遊真=不確定な崩壊要因
“制御できない強さ”として危険視
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■ 今後の方針(敵側視点)
・早期接触 or 排除の検討
・精神面の未熟さを突く可能性
・単独行動時を狙う
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■ 結論
“放置できない存在”
強さそのものよりも
その“予測不能性”が最大の脅威とされている