「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第3話「積み上げ」

時間は、あっという間に過ぎた。

 

最初は一日が長かった。覚えることが多く、身体は思うように動かず、何度も転び、何度も崩された。それでも繰り返しているうちに、その感覚は少しずつ薄れていき、気づけばそれが当たり前になっていた。

 

そして気づいた時には、一年が経っていた。

 

九条遊真にとってそれは、“ただ積み上げ続けた時間”だった。季節は巡っているはずなのに、感覚としては止まっている。ただ同じことを繰り返しているようでいて、その中で確実に変わっているものがある。

 

五条家の敷地内、広い空き地。最初に立った場所と同じ場所。

 

けれど、立っている自分はまったく違う。

 

「はい、遅い」

 

声が飛ぶと同時に反応し、踏み込み、そのまま打つ。やはり当たらない。だが、そこで止まらない。

 

次の瞬間には身体が勝手に動いている。思考より先に重心が流れ、自然に回り込み、一歩目で外し、二歩目で角度を作る。その流れのまま、もう一度踏み込み、角度を変えて打つ。

 

それでも当たらない。

 

「いいね、今のちゃんと繋がってた」

 

軽い声だが、確実に見られている。

 

息を整える。呼吸は乱れていない。心拍も安定している。ただ次の一手を考えているだけだ。

 

「まだ足りない」

 

「そりゃそう。でもさ」

 

少しだけ間が空く。

 

「最初に比べたら、別人だよ」

 

その言葉に違和感はない。最初は“見てから動く”ことしかできなかった。相手の動きを確認してから反応する。それでは遅いと分かっていても、どうにもならなかった。

 

今は違う。動きながら見る。予測して動き、ズレたらその場で修正する。考えるより先に身体が反応する。その状態が、すでに当たり前になっている。

 

視界の端に浮かぶ数字。

 

——Lv.14

 

「レベルも順調だね」

 

「うん」

 

短く返す。

 

数字は確実に上がっている。それに伴って身体も変わる。速く、軽く、強く。踏み込みの速度も、切り返しの精度も、打撃の重さも、一年前とはまったく別物だった。

 

それでも、まだ足りないという感覚だけは変わらない。

 

「じゃあ次、切り替えよっか」

 

その言葉と同時に、視界の端に表示が浮かぶ。

 

——職業を変更できます

 

一瞬だけ意識が止まるが、すぐに切り替える。

 

「来たでしょ」「来た」

 

短くやり取りを交わしながら、選択肢を見る。

 

魔法使い。

 

剣士とは違う方向。外ではなく、内側を扱う戦い方。

 

だが必要だと分かる。近距離だけでは限界がある。

 

「やる」

 

迷いなく選択する。

 

瞬間、感覚が変わる。身体ではなく“内側”。これまで曖昧だった流れが、はっきりと見える。

 

呪力がどこから生まれ、どう流れ、どう強くなるのか。そのすべてが輪郭を持つ。

 

「……これか」

 

呟くと、「いい感じ?」と軽く返ってくる。

 

「分かる」

 

指を伸ばし、意識を集中させる。呪力を集め、形を持たせ、そのまま放つ。

 

弾ける。

 

一直線に走り、遠くの木に当たって表面を削る。

 

「おー、初めてでそれはすごいね」

 

視界の端に数字が更新される。

 

——Lv.15

 

「威力は十分。でも、それだけだと死ぬよ」

 

その言葉の意味はすぐに理解できる。距離があるから当たる。準備できるから放てる。だが、詰められたら終わる。

 

「組み合わせる」「そう、それができるのが君の強み」

 

剣と魔法。その両方を持つ。それは単純な足し算ではない。組み合わせた瞬間、別の戦い方になる。

 

「やってみる」

 

構え、踏み込む。同時に呪力を練る。近距離で打撃を入れ、その瞬間に解放する。

 

距離ゼロで放たれた衝撃が爆ぜ、逃げ場のない圧が広がる。地面がわずかに抉れる。

 

「それいいね。今の普通に殺せるよ」

 

「使える」

 

確かな手応えがあった。

 

その日から戦い方が変わる。

 

斬る、撃つ、繋げる。近距離と遠距離を同時に扱い、タイミングをずらし、フェイントを混ぜ、意識を分散させる。

 

当然、失敗もする。崩れる。間に合わない。それでもその場で修正し、何度も繰り返す。

 

気づけば——Lv.18。

 

「順調すぎるね、普通じゃない」

 

「そう」

 

それもただの事実として受け取る。

 

その頃には、あの少年もまだそこにいた。少し離れた木陰、静かにこちらを見ている。

 

伏黒恵。

 

最初よりも距離が近い。ほんの一歩だが、確実に変わっている。

 

「見てるだけでいいの?」

 

声をかけると、わずかに驚いた顔をしてから「……まだ無理」と小さく答える。

 

正直な言葉だった。

 

「そう。そのうちやる」

 

それだけ伝える。

 

伏黒は何も言わない。ただ、その目だけがほんのわずかに変わる。

 

(伸びるな)

 

確信する。だが今はまだ下にいる。距離はある。

 

「さて、そろそろまとめようか」

 

手を叩く音とともに空気が切り替わる。

 

「まとめ?」

 

「君、もう基礎終わってるから」

 

一瞬だけ思考が止まる。基礎が終わるということは、次の段階に進むということだ。

 

「次に行けるってこと?」

 

「そういうこと。ここからは“どう強くなるか”を自分で決めるフェーズ」

 

少しだけ静けさが落ちる。

 

これまでは教えられてきた。型を覚え、繰り返し、身体に染み込ませてきた。

 

ここからは違う。

 

選ぶのは、自分だ。

 

「……まだ足りない」

 

自然と出た言葉に、五条が笑う。

 

「いいね。その感覚、大事にして。それがある限り、君は止まらないから」

 

止まるつもりはない。最初から、その選択肢はない。

 

まだ上がある。ここは途中だと分かっている。

 

もっと強くなれる。

 

「次、行こう」

 

自然とそう口にしていた。

 

風が吹き、木々が揺れる。景色は変わらない。だが、確実に何かが変わっている。

 

九条遊真の“ゲーム”は、次の段階へ進もうとしていた。




■ 魔法使い

呪力操作に特化した戦闘職。

遠距離からの攻撃や範囲制圧を得意とし、
純粋な火力と制圧力に優れる。

呪力の流れを可視・制御する補正がかかるため、
術式の精度や出力が大きく向上するのが特徴。

■ 特性

・遠距離攻撃能力の強化
・呪力操作の精度向上
・範囲攻撃および制圧能力の付与

■ 長所

・高火力の攻撃が可能
・複数対象への対応力が高い
・安全圏から戦闘を行える

■ 短所

・近接戦闘に弱い
・呪力消費が激しい
・立ち回りを誤ると脆い

■ 備考

魔法使いは“火力に特化した職業”である。

扱いが単純に見える反面、
呪力配分・発動タイミング・位置取りなど、
戦闘判断の精度がそのまま生存率に直結する。

適切に運用すれば圧倒的な制圧力を誇るが、
一度崩されると立て直しが難しい。
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