高専の地下。
地上とは完全に切り離された空間。
湿度のない空気。だが重い。肺に入るだけで、呪力がまとわりつくように絡みつく。
先頭を歩くのは九十九由基。
その後ろに乙骨、虎杖、伏黒、真希。
最後尾に遊真。
そして、その中に一人。
脹相。
誰も口を開かない。
だが全員が分かっている。
——これは、ただの作戦会議じゃない。
⸻
「……ここ」
九十九が立ち止まる。
目の前の結界扉を見て、伏黒が眉をひそめる。
「これ……術式の層が異常だ。単純な結界じゃない」
「突破とか、そういうレベルの話じゃないぞ」
少し遅れて虎杖も言う。
「いやこれ無理だろ。どうやって入るんだよ、こんなの」
「壊す必要ないよ」
九十九が軽く言う。
「許可されてるから入れる。私たちは“拒まれてない側”だからね」
「……許可って誰にだよ」
虎杖が食い下がる。
「結界ってそんな都合よくできてんのか?」
九十九は少しだけ笑う。
「“ここそのもの”にだよ。結界にも意思がある。あんたら、もう巻き込まれてる側だから」
その言葉で、全員が理解する。
もう“外側”じゃない。
⸻
扉が開く。
空間が歪む。
視界がねじれる。
そして。
天元。
「……ようこそ」
声が脳に直接響く。
虎杖が思わず顔をしかめる。
「ちょっと待ってくれ……これ、普通に気持ち悪いんだけど」
「見てるだけで頭に入ってくる感じがする」
伏黒が低く言う。
「直視するな。あれは“形を持ってない”」
「認識の仕方を間違えると、持っていかれる」
真希が腕を組む。
「ほんとに人間か、あれ」
「限りなく違うね」
九十九が軽く答える。
⸻
「時間がない。結論から話す」
天元が言う。
「死滅回遊は、すでに開始されている」
沈黙。
虎杖がすぐに反応する。
「……は? いや待て、今なんて言った?」
「もう始まってるってどういうことだよ。俺ら、何も聞いてねぇぞ」
「説明する」
天元は淡々と続ける。
「死滅回遊とは巨大な結界術だ。日本列島全体を覆い、術師を強制的に参加させる」
虎杖が一歩前に出る。
「強制ってなんだよ、それ。参加するかどうかくらい選ばせろよ」
「できない。参加しないという選択肢は存在しない」
即答だった。
虎杖の表情が変わる。
「……ふざけんなよ。それ、ただの強制参加の殺し合いじゃねぇか」
「人を勝手に巻き込んで、何が目的なんだよ」
天元が言う。
「進化だ」
間が落ちる。
真希が鼻で笑う。
「進化? 人殺しでか?」
「随分と都合のいい理屈だな」
天元は続ける。
「淘汰と選別。殺し合いの中で呪力の質を引き上げる」
乙骨が静かに口を開く。
「……それをやっているのは誰ですか」
「ここまでの規模、個人でできる話じゃない」
天元は答える。
「発動者は一人。現在、“夏油傑”として活動している存在」
空気が変わる。
虎杖が反応する。
「……夏油って、おい。それって五条先生が倒したやつだろ」
「なんで今さら出てくるんだよ」
天元は否定する。
「それは“夏油傑”ではない」
「正体は羂索。千年以上前から存在する術師だ」
伏黒がすぐに理解する。
「……肉体を乗り換えてるのか」
「術式は脳の移植。人格ごと入れ替わるタイプだ」
「そうだ」
天元が肯定する。
「現在は夏油傑の肉体を使用している」
乙骨の声が落ちる。
「……じゃあ、夏油さんはどうなるんですか」
「体だけ使われてるってことですか。それとも——」
「既に死んでいる」
断言だった。
沈黙。
真希が吐き捨てる。
「最悪だな。死体使って計画進めてるとか、狂ってるどころじゃねぇ」
九十九が笑う。
「倫理観って概念が存在してないタイプだね」
「目的は?」
乙骨が続ける。
「そこまでして、何をしようとしてるんですか」
天元は答える。
「人類の呪力進化」
虎杖が吐き捨てる。
「それで人殺しとか、ふざけてるだろ。誰が納得すんだよそんなの」
「狂気だ」
天元は認める。
「だが合理でもある」
その言葉が、さらに空気を重くした。
⸻
その時。
脹相が一歩前に出る。
「……一つ、言っておく」
視線が集まる。
「俺は虎杖悠仁の兄だ」
虎杖が完全に止まる。
「……は? いや待て。意味わかんねぇぞ」
「兄ってなんだよ。そんな話、今初めて聞いたぞ」
脹相は視線を逸らさない。
「血だ。繋がっている。同じものから生まれた」
「だから意味わかんねぇって言ってんだよ!」
虎杖が一歩引く。
脹相は続ける。
「守る」
「お前を守る。それが俺の役目だ」
「弟だからな」
空気が固まる。
天元が補足する。
「事実だ。血の構造が一致している。同一の実験系譜」
伏黒が小さく言う。
「……九相図か」
「そうだ」
脹相が答える。
「俺たちは失敗作だ。だが、お前は違う」
虎杖を見る。
「成功している」
理解は追いつかない。
だが。
嘘じゃないことだけは分かる。
⸻
「九条遊真」
天元が呼ぶ。
全員の視線が集まる。
「君は例外だ。死滅回遊における“歪み”」
「君の中の“魔王”。その先にあるものは“破壊神”」
虎杖が反応する。
「ちょっと待て、それヤバすぎだろ。人の話じゃねぇぞそれ」
「だが同時に、“勇者”にもなり得る」
乙骨が問う。
「……どういう意味ですか。両立するものなんですか、それ」
天元は答える。
「制御だ。力を支配し、他者のために使う存在」
「君はその分岐点にいる」
遊真は小さく息を吐く。
「……くだらねぇな」
「どっちでもいい」
九十九が笑う。
「いいね。でも“選ばない”って選択肢はないよ」
⸻
「戦力を分ける」
天元が言う。
九十九が手を上げる。
「私は残る。この人守らないと全部終わるしね」
脹相も続く。
「俺も残る。守る対象は変わらない」
真希が言う。
「人手足りねぇな。どう見ても戦力不足だろ」
九十九が肩をすくめる。
「だから補充するんでしょ?」
遊真がスマホを取り出す。
「呼ぶか」
コール。
繋がる。
「……あ?」
秤。
「九条だ」
「……お前か。なんだよ急に」
「手貸せ。デカい戦いになる」
沈黙。
「……いいねぇ、それ」
「面白そうじゃん。乗るわ」
「場所送れ。今から行く」
「送る」
通話が切れる。
⸻
空気が変わる。
戦力が揃う。
死滅回遊が、動き出す。
⸻
遊真は静かに立っていた。
(分岐点、ね)
そんなものはどうでもいい。
破壊神でも。
勇者でも。
どちらでもいい。
ただ一つ。
「……進むだけだ」
それだけが、決まっていた。
【九条遊真 設定まとめ】
■基本プロフィール
名前:九条 遊真(くじょう ゆうま)
身長:180cm
所属:東京都立呪術高等専門学校
階級:特級相当(自己成長型・測定不能)
■外見
黒髪・無造作。
目はやや鋭く、感情が薄い印象を与える。
常に落ち着いているが、戦闘時は一切の無駄が消える。
“人間っぽさが薄い”と評されることが多い。
■性格
・合理主義
・感情よりも「最適解」を優先
・執着は“強さ”のみ
・他者への興味は薄いが、完全に無関心ではない
・成長過程で「人間性」を取り戻しつつある
■テーマ
「強さとは何か」
→ 破壊か、守護か
→ 最終的に“勇者”として定義される存在
⸻
■術式
【RPG(仮称)】
自身の成長を“ゲーム的システム”として扱う術式。
▼特徴
・敵を倒すことで経験値を獲得
・レベルアップにより身体能力・呪力量・知覚が向上
・職業(クラス)によって戦闘スタイルが変化
▼本質
「成長そのものを術式化した能力」
→ 上限不明
→ 努力ではなく“結果”で加速する危険な能力
⸻
■職業システム
① 剣士
近接戦闘特化
基礎能力の土台
② 魔法使い
呪力操作・遠距離攻撃特化
③ 魔法剣士
近接+呪力の複合戦闘
高火力・高効率
④ バトルマスター
純粋戦闘特化
極限まで無駄を削ぎ落とした殺傷特化型
⑤ 旅芸人
バフ・支援・戦場制御
→ 「他者を強くする」ことで結果的に最効率
※転職によりレベルはリセットされるが、
身体能力・呪力・経験は引き継がれる
⸻
■固有状態
【魔王】
・呪力が異質化(重く、深く、侵食的)
・戦闘効率が極限まで最適化
・人間性が薄れる
・“殺すことで成長する”状態が加速
→ 渋谷事変で完全顕在化
⸻
■進化先(天元による定義)
【破壊神】
・全てを破壊する存在
・制御不能
・世界のバランスを崩壊させる可能性
【勇者】
・力を制御し、人を守る存在
・他者を導く
・“強さの正しい使い方”の象徴
⸻
■立ち位置
「分岐点の存在」
破壊神にも勇者にもなり得る唯一の存在。
世界の流れそのものに影響を与える“例外”。
⸻
■戦闘スタイル
・最短最速で敵を処理
・無駄を極限まで削ぎ落とす
・近接・遠距離・呪力操作を状況に応じて最適化
・現在は“無意識に最適解を選択する領域”に到達
⸻
■特徴
・成長速度が異常(人間を倒すと加速)
・レベル概念により「努力を超えた成長」を実現
・戦闘中に進化・適応する
・一度見た動きを最適化して再現
⸻
■弱点
・精神的な未成熟
・力への依存
・人間性の揺らぎ
・魔王状態の暴走リスク
⸻
■現在の到達点(渋谷後)
・反転術式習得
・職業の“統合的運用”が可能
・魔王を抑えつつ使用可能(不完全)
・特級上位〜最上位領域