「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第31話「分岐点」

高専の地下。

 

地上とは完全に切り離された空間。

 

湿度のない空気。だが重い。肺に入るだけで、呪力がまとわりつくように絡みつく。

 

先頭を歩くのは九十九由基。

 

その後ろに乙骨、虎杖、伏黒、真希。

 

最後尾に遊真。

 

そして、その中に一人。

 

脹相。

 

誰も口を開かない。

 

だが全員が分かっている。

 

——これは、ただの作戦会議じゃない。

 

 

「……ここ」

 

九十九が立ち止まる。

 

目の前の結界扉を見て、伏黒が眉をひそめる。

 

「これ……術式の層が異常だ。単純な結界じゃない」

 

「突破とか、そういうレベルの話じゃないぞ」

 

少し遅れて虎杖も言う。

 

「いやこれ無理だろ。どうやって入るんだよ、こんなの」

 

「壊す必要ないよ」

 

九十九が軽く言う。

 

「許可されてるから入れる。私たちは“拒まれてない側”だからね」

 

「……許可って誰にだよ」

 

虎杖が食い下がる。

 

「結界ってそんな都合よくできてんのか?」

 

九十九は少しだけ笑う。

 

「“ここそのもの”にだよ。結界にも意思がある。あんたら、もう巻き込まれてる側だから」

 

その言葉で、全員が理解する。

 

もう“外側”じゃない。

 

 

扉が開く。

 

空間が歪む。

 

視界がねじれる。

 

そして。

 

天元。

 

「……ようこそ」

 

声が脳に直接響く。

 

虎杖が思わず顔をしかめる。

 

「ちょっと待ってくれ……これ、普通に気持ち悪いんだけど」

 

「見てるだけで頭に入ってくる感じがする」

 

伏黒が低く言う。

 

「直視するな。あれは“形を持ってない”」

 

「認識の仕方を間違えると、持っていかれる」

 

真希が腕を組む。

 

「ほんとに人間か、あれ」

 

「限りなく違うね」

 

九十九が軽く答える。

 

 

「時間がない。結論から話す」

 

天元が言う。

 

「死滅回遊は、すでに開始されている」

 

沈黙。

 

虎杖がすぐに反応する。

 

「……は? いや待て、今なんて言った?」

 

「もう始まってるってどういうことだよ。俺ら、何も聞いてねぇぞ」

 

「説明する」

 

天元は淡々と続ける。

 

「死滅回遊とは巨大な結界術だ。日本列島全体を覆い、術師を強制的に参加させる」

 

虎杖が一歩前に出る。

 

「強制ってなんだよ、それ。参加するかどうかくらい選ばせろよ」

 

「できない。参加しないという選択肢は存在しない」

 

即答だった。

 

虎杖の表情が変わる。

 

「……ふざけんなよ。それ、ただの強制参加の殺し合いじゃねぇか」

 

「人を勝手に巻き込んで、何が目的なんだよ」

 

天元が言う。

 

「進化だ」

 

間が落ちる。

 

真希が鼻で笑う。

 

「進化? 人殺しでか?」

 

「随分と都合のいい理屈だな」

 

天元は続ける。

 

「淘汰と選別。殺し合いの中で呪力の質を引き上げる」

 

乙骨が静かに口を開く。

 

「……それをやっているのは誰ですか」

 

「ここまでの規模、個人でできる話じゃない」

 

天元は答える。

 

「発動者は一人。現在、“夏油傑”として活動している存在」

 

空気が変わる。

 

虎杖が反応する。

 

「……夏油って、おい。それって五条先生が倒したやつだろ」

 

「なんで今さら出てくるんだよ」

 

天元は否定する。

 

「それは“夏油傑”ではない」

 

「正体は羂索。千年以上前から存在する術師だ」

 

伏黒がすぐに理解する。

 

「……肉体を乗り換えてるのか」

 

「術式は脳の移植。人格ごと入れ替わるタイプだ」

 

「そうだ」

 

天元が肯定する。

 

「現在は夏油傑の肉体を使用している」

 

乙骨の声が落ちる。

 

「……じゃあ、夏油さんはどうなるんですか」

 

「体だけ使われてるってことですか。それとも——」

 

「既に死んでいる」

 

断言だった。

 

沈黙。

 

真希が吐き捨てる。

 

「最悪だな。死体使って計画進めてるとか、狂ってるどころじゃねぇ」

 

九十九が笑う。

 

「倫理観って概念が存在してないタイプだね」

 

「目的は?」

 

乙骨が続ける。

 

「そこまでして、何をしようとしてるんですか」

 

天元は答える。

 

「人類の呪力進化」

 

虎杖が吐き捨てる。

 

「それで人殺しとか、ふざけてるだろ。誰が納得すんだよそんなの」

 

「狂気だ」

 

天元は認める。

 

「だが合理でもある」

 

その言葉が、さらに空気を重くした。

 

 

その時。

 

脹相が一歩前に出る。

 

「……一つ、言っておく」

 

視線が集まる。

 

「俺は虎杖悠仁の兄だ」

 

虎杖が完全に止まる。

 

「……は? いや待て。意味わかんねぇぞ」

 

「兄ってなんだよ。そんな話、今初めて聞いたぞ」

 

脹相は視線を逸らさない。

 

「血だ。繋がっている。同じものから生まれた」

 

「だから意味わかんねぇって言ってんだよ!」

 

虎杖が一歩引く。

 

脹相は続ける。

 

「守る」

 

「お前を守る。それが俺の役目だ」

 

「弟だからな」

 

空気が固まる。

 

天元が補足する。

 

「事実だ。血の構造が一致している。同一の実験系譜」

 

伏黒が小さく言う。

 

「……九相図か」

 

「そうだ」

 

脹相が答える。

 

「俺たちは失敗作だ。だが、お前は違う」

 

虎杖を見る。

 

「成功している」

 

理解は追いつかない。

 

だが。

 

嘘じゃないことだけは分かる。

 

 

「九条遊真」

 

天元が呼ぶ。

 

全員の視線が集まる。

 

「君は例外だ。死滅回遊における“歪み”」

 

「君の中の“魔王”。その先にあるものは“破壊神”」

 

虎杖が反応する。

 

「ちょっと待て、それヤバすぎだろ。人の話じゃねぇぞそれ」

 

「だが同時に、“勇者”にもなり得る」

 

乙骨が問う。

 

「……どういう意味ですか。両立するものなんですか、それ」

 

天元は答える。

 

「制御だ。力を支配し、他者のために使う存在」

 

「君はその分岐点にいる」

 

遊真は小さく息を吐く。

 

「……くだらねぇな」

 

「どっちでもいい」

 

九十九が笑う。

 

「いいね。でも“選ばない”って選択肢はないよ」

 

 

「戦力を分ける」

 

天元が言う。

 

九十九が手を上げる。

 

「私は残る。この人守らないと全部終わるしね」

 

脹相も続く。

 

「俺も残る。守る対象は変わらない」

 

真希が言う。

 

「人手足りねぇな。どう見ても戦力不足だろ」

 

九十九が肩をすくめる。

 

「だから補充するんでしょ?」

 

遊真がスマホを取り出す。

 

「呼ぶか」

 

コール。

 

繋がる。

 

「……あ?」

 

秤。

 

「九条だ」

 

「……お前か。なんだよ急に」

 

「手貸せ。デカい戦いになる」

 

沈黙。

 

「……いいねぇ、それ」

 

「面白そうじゃん。乗るわ」

 

「場所送れ。今から行く」

 

「送る」

 

通話が切れる。

 

 

空気が変わる。

 

戦力が揃う。

 

死滅回遊が、動き出す。

 

 

遊真は静かに立っていた。

 

(分岐点、ね)

 

そんなものはどうでもいい。

 

破壊神でも。

 

勇者でも。

 

どちらでもいい。

 

ただ一つ。

 

「……進むだけだ」

 

それだけが、決まっていた。




【九条遊真 設定まとめ】

■基本プロフィール
名前:九条 遊真(くじょう ゆうま)
身長:180cm
所属:東京都立呪術高等専門学校
階級:特級相当(自己成長型・測定不能)

■外見
黒髪・無造作。
目はやや鋭く、感情が薄い印象を与える。
常に落ち着いているが、戦闘時は一切の無駄が消える。
“人間っぽさが薄い”と評されることが多い。

■性格
・合理主義
・感情よりも「最適解」を優先
・執着は“強さ”のみ
・他者への興味は薄いが、完全に無関心ではない
・成長過程で「人間性」を取り戻しつつある

■テーマ
「強さとは何か」
→ 破壊か、守護か
→ 最終的に“勇者”として定義される存在



■術式
【RPG(仮称)】

自身の成長を“ゲーム的システム”として扱う術式。

▼特徴
・敵を倒すことで経験値を獲得
・レベルアップにより身体能力・呪力量・知覚が向上
・職業(クラス)によって戦闘スタイルが変化

▼本質
「成長そのものを術式化した能力」
→ 上限不明
→ 努力ではなく“結果”で加速する危険な能力



■職業システム

① 剣士
近接戦闘特化
基礎能力の土台

② 魔法使い
呪力操作・遠距離攻撃特化

③ 魔法剣士
近接+呪力の複合戦闘
高火力・高効率

④ バトルマスター
純粋戦闘特化
極限まで無駄を削ぎ落とした殺傷特化型

⑤ 旅芸人
バフ・支援・戦場制御
→ 「他者を強くする」ことで結果的に最効率

※転職によりレベルはリセットされるが、
 身体能力・呪力・経験は引き継がれる



■固有状態

【魔王】
・呪力が異質化(重く、深く、侵食的)
・戦闘効率が極限まで最適化
・人間性が薄れる
・“殺すことで成長する”状態が加速

→ 渋谷事変で完全顕在化



■進化先(天元による定義)

【破壊神】
・全てを破壊する存在
・制御不能
・世界のバランスを崩壊させる可能性

【勇者】
・力を制御し、人を守る存在
・他者を導く
・“強さの正しい使い方”の象徴



■立ち位置

「分岐点の存在」

破壊神にも勇者にもなり得る唯一の存在。
世界の流れそのものに影響を与える“例外”。



■戦闘スタイル

・最短最速で敵を処理
・無駄を極限まで削ぎ落とす
・近接・遠距離・呪力操作を状況に応じて最適化
・現在は“無意識に最適解を選択する領域”に到達



■特徴

・成長速度が異常(人間を倒すと加速)
・レベル概念により「努力を超えた成長」を実現
・戦闘中に進化・適応する
・一度見た動きを最適化して再現



■弱点

・精神的な未成熟
・力への依存
・人間性の揺らぎ
・魔王状態の暴走リスク



■現在の到達点(渋谷後)

・反転術式習得
・職業の“統合的運用”が可能
・魔王を抑えつつ使用可能(不完全)
・特級上位〜最上位領域
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