「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第4話「入学」

三年という時間は、あっという間だった。

 

振り返れば長いはずなのに、実感としては短い。季節が巡った記憶はあるし、暑さも寒さも確かにそこにあった。だが、それらはすべて“背景”に過ぎなかった。

 

九条遊真にとっての三年間は、ただ一つ。

 

強くなること。

 

それだけに費やされた時間だった。

 

朝も夜も関係ない。疲労も痛みも、意味を持たない。ただ繰り返す。踏み込み、殴り、外され、崩される。そのすべてを受け入れて、その場で修正する。その積み重ねの果てに、気づけばできることは大きく増えていた。

 

身体は軽くなり、動きは洗練され、判断は速くなる。剣も、魔法も、連携も、すべてが“当たり前”として扱える領域に入っていた。

 

それでも——

 

(まだ足りない)

 

その感覚だけは、最初から一度も変わらない。満足したことはないし、到達したと思ったこともない。常にもう一歩先が見えているから、止まる理由がない。

 

「……もういいかな」

 

そんなタイミングで、軽い声が落ちる。

 

五条家の敷地、見慣れた訓練場の中央。場所は変わらない。変わったのは自分だけだった。

 

「基礎は終わり。ここから先は、別の場所でやろう」

 

軽い調子のまま続けられる言葉に、「別の場所?」と返すと、「うん、高専」と短く答えが返る。

 

呪術高専。

 

その名前は知っている。術師を育てるための機関だが、必要性は感じていなかった。ここでも十分に強くなれているし、むしろ他と関わる必要すら感じていない。

 

「今更?」と自然に出た言葉に、五条は少しだけ笑う。

 

「そうでもないよ。むしろ今だから」

 

ゆっくり歩きながら続ける。

 

「君さ、同年代とまともに関わったことないでしょ」

 

「……そうかも」

 

意識したことはなかった。人と関わるよりも、戦うことの方が優先されていた。

 

「それ、普通にズレるからね。人間として」

 

軽く言われたその言葉は、妙に引っかかった。

 

「ズレる」という言葉の意味を考えるが、答えは出ない。

 

「別に困ってない」

 

「今はね。でも後で困るよ」

 

それ以上は説明しない。ただ振り返り、「とりあえず行こうか」とだけ言う。

 

 

呪術高専は、想像していたものとはまったく違っていた。

 

まず場所からして普通ではない。人の流れから切り離された山中にあり、辿り着くまでにいくつもの結界を抜ける必要があった。見えない壁を何度も通過するたびに空気が変わり、濃くなり、重くなる。

 

そして門をくぐった瞬間に理解する。

 

ここは“学校”ではない。

 

広がっているのは古い寺院のような建築群。木造の校舎、石畳の道、風に揺れる木々。静かすぎる空間には、一般的な学校の面影はどこにもない。

 

だが、それ以上に異質なのは空気だった。

 

濃い。

 

呪力が満ちている。

 

ただそこに立つだけで身体が反応する。呼吸のリズムが変わり、感覚が研ぎ澄まされる。まるでこの場所自体が一つの術式のように機能している。

 

自然と周囲を見る。建物の陰、通路の奥、屋根の上。見えていないだけで、常に“何か”がいる気配がある。隠れているわけではない。ただ、そこに存在している。

 

「いいでしょ、ここ。まぁまともじゃない環境だけどね」

 

「そうだな」

 

短く返す。

 

理解はできる。

 

ここなら、強くなれる。

 

 

校舎の一角、開けた場所に出るとすでに人影があった。

 

「お、来た」

 

声の方を見ると、金髪の男がラフに立っている。気の抜けた立ち姿だが、その奥にある圧は隠しきれていない。

 

(強い)

 

一目で分かる。

 

「こいつが例の?」と視線を向けられ、「そうそう」と軽く返される。

 

「九条遊真」

 

「へぇ」

 

興味深そうに笑いながら、「秤金次」と名乗る。

 

視線がぶつかる。探るような目、測るような目。それでも敵意はない。

 

(悪くない)

 

そう判断した瞬間、別の気配が近づいてくる。

 

「ちょっと、急に呼ばないでよ」

 

軽い声に振り向くと、長い髪の人物が立っていた。掴みどころのない雰囲気だが、直感で分かる。

 

(こっちも強いな)

 

「この子?」「そう」とやり取りが交わされ、「星綺羅羅」と名乗られる。

 

「九条遊真」

 

短く返すと、綺羅羅は一度こちらを見て、評価するように視線を動かす。

 

「ふーん」

 

興味なさそうでいて、しっかり見ている。

 

「で、どんくらい強いの?」

 

秤の問いは直球だった。

 

「試してみる?」「いいね」

 

即答。

 

空気が一瞬で切り替わる。

 

「どうする?」「やる」

 

迷いはない。

 

 

場所を移す。

 

訓練用の広場。広く、何もない空間。逃げ場も隠れる場所もない。

 

「ルールは?」「なしでいいだろ」「問題ない」

 

その瞬間、秤が動く。

 

速い。迷いがない。

 

一直線に距離を詰めてくる。

 

(見える)

 

踏み込みに合わせて身体をずらす。拳が空を切る。そのまま最短距離でカウンターを差し込む。

 

だが——

 

「甘い」

 

受けられる。

 

重い。ただの打撃ではない。呪力がしっかり乗っている。衝撃が腕から身体へ抜け、押し返される。

 

距離が開く。

 

(強いな)

 

初めて、少しだけ楽しいと感じる。

 

再び踏み込む。今度は連携。打撃と同時に呪力を練り、「穿て」と至近距離で放つ。

 

だが「それは読める」と身体をひねられ、直撃を避けられる。そのまま踏み込み直され、さらに圧をかけられる。

 

速さと重さ。単純だが完成されている。

 

(いい)

 

対応する。受けるだけでなく崩す。タイミングをずらし、一瞬のズレを作る。

 

そこに入る。

 

「断ち切る」

 

斬撃を通す。

 

直前で受けられるが、完全には止めきれない。わずかに押し込む。

 

「……お」

 

秤の声。

 

距離が開く。

 

「いいじゃん、面白い」

 

笑う。

 

その瞬間、「はい、そこまで」と声が入る。

 

動きが止まる。

 

「十分でしょ」

 

秤が肩を回しながら「普通に強いな」と素直に言い、綺羅羅も近づいてきて「思ったよりやるね」と評価する。

 

「思ったより?」「もっと変なのかと思ってた」

 

否定はしない。

 

「まあでも、使える」

 

短い評価。

 

五条が満足そうに笑いながら「でしょ?」と振り、「どう?」と聞いてくる。

 

少しだけ考えてから、「悪くない」と返す。

 

秤が笑う。

 

「上からだな」「事実」「いいね、嫌いじゃない」

 

 

環境が変わる。

 

一人ではない。同じ場所に、同じように戦える相手がいる。

 

それは初めての感覚だった。

 

刺激。差。比較。すべてが新しい。

 

それでも——

 

(まだ足りない)

 

その感覚は変わらない。

 

ここも通過点。

 

もっと上がある。

 

だから止まらない。

 

そのまま、前に進むだけだった。




■ 魔法剣士

剣士と魔法使い、二つの職業を統合した上位職。

近接戦闘と遠距離攻撃を同時に扱うことができ、
状況に応じて最適な戦い方を選択できる“適応型”の戦闘職である。

剣による物理攻撃に呪力を重ねることで威力を増幅させるほか、
魔法による牽制や範囲攻撃と組み合わせることで、
単独でも高い戦闘継続能力を発揮する。

■ 特性

・近接戦闘と呪力攻撃の両立
・攻撃の選択肢が多く、対応力が高い
・戦況に応じた柔軟な戦闘が可能

■ 長所

・あらゆる距離に対応可能
・単独戦闘能力が高い
・攻撃のバリエーションが豊富

■ 短所

・器用貧乏になりやすい
・呪力消費が大きい
・扱いには高い技術が必要

■ 備考

魔法剣士は“万能に見えて最も難しい職業”である。

単純な強さではなく、
状況判断と技術の積み重ねがそのまま性能に直結する。

扱いきれれば極めて高い戦闘能力を発揮するが、
中途半端であればどちらの職業にも劣る結果となる。
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