「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第5話「初任務」

初任務は、思っていたよりもあっさり決まった。

 

特別な準備もなければ、張り詰めた空気もない。いつも通りの訓練の延長のような雰囲気の中で、ただ一言だけが落ちる。

 

「ちょうどいいのあるよ」

 

軽い声だった。

 

「等級も低めだし、肩慣らしにはいいんじゃない?」

 

あまりにも軽い。まるで散歩にでも行くかのような口調に、「肩慣らしねぇ」と秤が笑う。

 

「こいつに必要か?」

 

視線が向く。測るような目だが、すでにある程度の評価は終わっているのが分かる。

 

「まあまあ」と五条は適当に流し、「実戦は実戦でしょ」とだけ言う。

 

「それはそうだけどよ」と秤は肩をすくめる。「普通の基準で考えていいのか微妙なんだよな」

 

「いいんじゃない?ズレてるのも含めて経験でしょ」

 

その言い方にわずかに引っかかるものはあったが、「場所は?」とそのまま話を進める。

 

「廃ビル。都内の外れ、封鎖済み。一般人は避難済みで、残ってるのは呪霊だけ」

 

「数は?」「複数」「等級」「低め」

 

それで十分だった。

 

「行くよ」

 

 

現場は静かだった。

 

人気はなく、立ち入り禁止のテープだけが風に揺れている。目の前のビルは崩れかけ、外壁はひび割れ、窓はほとんど割れていた。内部は暗く、光がほとんど入らない。

 

「……分かりやすいな」と秤が言い、「典型的なやつ」と続ける。

 

「だね、嫌な感じ」と綺羅羅も頷く。

 

遊真は何も言わず、入口に立つ。

 

一歩踏み入れる。

 

空気が変わる。

 

重い。淀んでいる。湿っているようで乾いていて、まとわりつくような感覚が肌に残る。

 

「いるな。複数」と秤が言い、「奥」と綺羅羅が続ける。二人とも構えるでもなく、ただそこにいるだけで状況を把握している。

 

「じゃあ、行く」

 

前に出る。

 

「ちょっと待てって」と秤が手を出す。「一応連携とか——」

 

「必要ない」

 

即答だった。

 

迷いはない。ただそう判断しただけ。

 

一歩踏み込む。

 

空気が揺れる。

 

気配に向かう。

 

迷わない。

 

そして現れる。

 

歪んだ形、崩れた顔の呪霊が複数。数は五。

 

「……弱い」

 

正直な感想だった。

 

考える必要はない。

 

踏み込む。

 

一体目を斬る。反応する前に消える。そのまま流れるように足を止めず、視線を動かして二体目へ入る。角度を変えて断ち切り、間を置かず三体目に対して魔法を放つ。弾ける衝撃でまとめて消し飛ばす。

 

残りは二体。

 

距離を詰め、踏み込み、潰し、繋げる。

 

それで終わりだった。

 

静かになる。

 

ほんの数秒。

 

それだけだった。

 

 

——Lv.22

 

 

数字が上がる。

 

身体がわずかに軽くなり、感覚が整い、呼吸が自然に馴染む。

 

振り返る。

 

秤と綺羅羅が立っている。

 

一歩も動いていない。

 

「終わり」とだけ言うと、「いや、ちょっと待て」と秤が手を上げる。

 

「早すぎるだろ」

 

「そう?」

 

「そうだよ。俺ら何もしてねぇぞ」

 

「必要なかった」

 

「そういう問題じゃねぇ」

 

綺羅羅がため息をつく。

 

「バカなの?」

 

「何が」

 

「バランス考えなよ。連携無視、説明不足、独断行動。普通にアウトでしょ」

 

「結果は出てる」

 

「そういう話じゃないの」

 

呆れた声に対しても、特に引っかかるものはない。

 

敵がいた。倒した。それだけだ。

 

何が問題なのかは分からない。

 

「はぁ……これだから強いやつは」と綺羅羅が呟き、秤は逆に笑っている。

 

「いや、でもさ」とこちらを見て、「いいなそれ」と言う。

 

「何が」

 

「効率。無駄がねぇ」

 

事実だった。最短で、最小で終わらせただけだ。

 

「まあでもドン引きだわ」「同意」

 

二人の反応は分かれるが、評価としては成立している。

 

 

外に出る。

 

空気が軽い。

 

さっきまでの重さが嘘のように消えている。

 

任務は終わった。

 

それだけのはずだった。

 

だが——

 

(……少ない)

 

違和感が残る。

 

「どうした?」と秤が聞く。

 

「数」

 

「数?」

 

「もうちょっといると思った」

 

感覚的な違和感だった。根拠はない。ただ、あの空気の密度に対して、数が合っていない。

 

「いや、全部いたろ。反応も消えたし」

 

「……」

 

少しだけ考える。

 

引っかかる。

 

だが、確信がない。

 

今の段階では何も言えない。

 

「まあいい」

 

一度、切る。

 

 

「とりあえず初任務クリアだな」

 

「そうだね」と綺羅羅も頷きながら、「問題はありすぎだけど」と付け加える。

 

「何が」

 

「全部。連携無視、独断行動、判断早すぎ」

 

「結果は出てる」

 

「だからそういう話じゃないって」

 

呆れながらも、完全には否定しない。

 

秤が笑う。

 

「まあ強いのは分かった。それでいいだろ」

 

「……まあね」

 

綺羅羅も最終的には引く。

 

事実だからだ。

 

 

問題はない。

 

そう判断する。

 

だが。

 

(まだ足りない)

 

その感覚は消えない。

 

むしろ強くなっている。

 

もっと上がある。

 

もっと強くなれる。

 

だから。

 

「次は?」

 

自然とそう口にしていた。

 

その瞬間、ビルの奥——見えない場所で、わずかに“何か”が動いた。




【九条遊真|外見設定】

■ 基本情報
身長:180cm

平均より高めの身長で、立っているだけで自然と視線を引く。



■ 通常時

黒髪の短髪で、少し無造作に流れている。整えすぎていない自然なスタイル。

目はやや鋭いが、どこか柔らかさも残しており、威圧感はそこまで強くない。

体格は引き締まっており、無駄な脂肪がない。筋肉はしっかりついているが、過度に大きくはなく、しなやかさと瞬発力を感じさせるバランス。

180cmの身長と相まって、シンプルに“強そう”という印象を与える。

一見すると「優秀な術師」。

だが、よく見ると違和感がある。

感情が一歩遅れているような、どこか空白を抱えているような雰囲気。

  第一印象:強い術師
  深く見ると:何かがおかしい



■ 戦闘時(通常戦闘)

目つきが変わる。

無駄な感情が消え、完全に“戦闘用の思考”に切り替わる。

180cmの体格から繰り出される動きは無駄がなく、しなやかで速い。

呪力の流れが安定し、動きに一切のブレがない。

周囲の空気がわずかに張り詰め、“格上”であることが自然と伝わる。

  印象:冷静で隙がない強者
  雰囲気:近づきにくい
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