初任務は、思っていたよりもあっさり決まった。
特別な準備もなければ、張り詰めた空気もない。いつも通りの訓練の延長のような雰囲気の中で、ただ一言だけが落ちる。
「ちょうどいいのあるよ」
軽い声だった。
「等級も低めだし、肩慣らしにはいいんじゃない?」
あまりにも軽い。まるで散歩にでも行くかのような口調に、「肩慣らしねぇ」と秤が笑う。
「こいつに必要か?」
視線が向く。測るような目だが、すでにある程度の評価は終わっているのが分かる。
「まあまあ」と五条は適当に流し、「実戦は実戦でしょ」とだけ言う。
「それはそうだけどよ」と秤は肩をすくめる。「普通の基準で考えていいのか微妙なんだよな」
「いいんじゃない?ズレてるのも含めて経験でしょ」
その言い方にわずかに引っかかるものはあったが、「場所は?」とそのまま話を進める。
「廃ビル。都内の外れ、封鎖済み。一般人は避難済みで、残ってるのは呪霊だけ」
「数は?」「複数」「等級」「低め」
それで十分だった。
「行くよ」
⸻
現場は静かだった。
人気はなく、立ち入り禁止のテープだけが風に揺れている。目の前のビルは崩れかけ、外壁はひび割れ、窓はほとんど割れていた。内部は暗く、光がほとんど入らない。
「……分かりやすいな」と秤が言い、「典型的なやつ」と続ける。
「だね、嫌な感じ」と綺羅羅も頷く。
遊真は何も言わず、入口に立つ。
一歩踏み入れる。
空気が変わる。
重い。淀んでいる。湿っているようで乾いていて、まとわりつくような感覚が肌に残る。
「いるな。複数」と秤が言い、「奥」と綺羅羅が続ける。二人とも構えるでもなく、ただそこにいるだけで状況を把握している。
「じゃあ、行く」
前に出る。
「ちょっと待てって」と秤が手を出す。「一応連携とか——」
「必要ない」
即答だった。
迷いはない。ただそう判断しただけ。
一歩踏み込む。
空気が揺れる。
気配に向かう。
迷わない。
そして現れる。
歪んだ形、崩れた顔の呪霊が複数。数は五。
「……弱い」
正直な感想だった。
考える必要はない。
踏み込む。
一体目を斬る。反応する前に消える。そのまま流れるように足を止めず、視線を動かして二体目へ入る。角度を変えて断ち切り、間を置かず三体目に対して魔法を放つ。弾ける衝撃でまとめて消し飛ばす。
残りは二体。
距離を詰め、踏み込み、潰し、繋げる。
それで終わりだった。
静かになる。
ほんの数秒。
それだけだった。
⸻
——Lv.22
⸻
数字が上がる。
身体がわずかに軽くなり、感覚が整い、呼吸が自然に馴染む。
振り返る。
秤と綺羅羅が立っている。
一歩も動いていない。
「終わり」とだけ言うと、「いや、ちょっと待て」と秤が手を上げる。
「早すぎるだろ」
「そう?」
「そうだよ。俺ら何もしてねぇぞ」
「必要なかった」
「そういう問題じゃねぇ」
綺羅羅がため息をつく。
「バカなの?」
「何が」
「バランス考えなよ。連携無視、説明不足、独断行動。普通にアウトでしょ」
「結果は出てる」
「そういう話じゃないの」
呆れた声に対しても、特に引っかかるものはない。
敵がいた。倒した。それだけだ。
何が問題なのかは分からない。
「はぁ……これだから強いやつは」と綺羅羅が呟き、秤は逆に笑っている。
「いや、でもさ」とこちらを見て、「いいなそれ」と言う。
「何が」
「効率。無駄がねぇ」
事実だった。最短で、最小で終わらせただけだ。
「まあでもドン引きだわ」「同意」
二人の反応は分かれるが、評価としては成立している。
⸻
外に出る。
空気が軽い。
さっきまでの重さが嘘のように消えている。
任務は終わった。
それだけのはずだった。
だが——
(……少ない)
違和感が残る。
「どうした?」と秤が聞く。
「数」
「数?」
「もうちょっといると思った」
感覚的な違和感だった。根拠はない。ただ、あの空気の密度に対して、数が合っていない。
「いや、全部いたろ。反応も消えたし」
「……」
少しだけ考える。
引っかかる。
だが、確信がない。
今の段階では何も言えない。
「まあいい」
一度、切る。
⸻
「とりあえず初任務クリアだな」
「そうだね」と綺羅羅も頷きながら、「問題はありすぎだけど」と付け加える。
「何が」
「全部。連携無視、独断行動、判断早すぎ」
「結果は出てる」
「だからそういう話じゃないって」
呆れながらも、完全には否定しない。
秤が笑う。
「まあ強いのは分かった。それでいいだろ」
「……まあね」
綺羅羅も最終的には引く。
事実だからだ。
⸻
問題はない。
そう判断する。
だが。
(まだ足りない)
その感覚は消えない。
むしろ強くなっている。
もっと上がある。
もっと強くなれる。
だから。
「次は?」
自然とそう口にしていた。
その瞬間、ビルの奥——見えない場所で、わずかに“何か”が動いた。
【九条遊真|外見設定】
■ 基本情報
身長:180cm
平均より高めの身長で、立っているだけで自然と視線を引く。
⸻
■ 通常時
黒髪の短髪で、少し無造作に流れている。整えすぎていない自然なスタイル。
目はやや鋭いが、どこか柔らかさも残しており、威圧感はそこまで強くない。
体格は引き締まっており、無駄な脂肪がない。筋肉はしっかりついているが、過度に大きくはなく、しなやかさと瞬発力を感じさせるバランス。
180cmの身長と相まって、シンプルに“強そう”という印象を与える。
一見すると「優秀な術師」。
だが、よく見ると違和感がある。
感情が一歩遅れているような、どこか空白を抱えているような雰囲気。
第一印象:強い術師
深く見ると:何かがおかしい
⸻
■ 戦闘時(通常戦闘)
目つきが変わる。
無駄な感情が消え、完全に“戦闘用の思考”に切り替わる。
180cmの体格から繰り出される動きは無駄がなく、しなやかで速い。
呪力の流れが安定し、動きに一切のブレがない。
周囲の空気がわずかに張り詰め、“格上”であることが自然と伝わる。
印象:冷静で隙がない強者
雰囲気:近づきにくい