「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第8話「選別」

任務は、止まらなかった。

 

終わる、という感覚が薄れていく。

 

一つ片付ければ次があり、戻ればすでに次が用意されている。間がなく、区切りもない。

 

呼吸のように、自然に“次”へ移行していく。まるでどこかで、意図的に流れを作られているかのように。

 

九条遊真の前には、常に“敵”が配置されていた。

 

「これ、ちょっと面白いかもね」

 

五条悟が軽い調子で資料を投げる。

 

軽い。だが、その軽さの奥にある意図は、もう隠されていない。試している。どこまで行くのかを。

 

受け取る。目を通す。

 

山中の廃集落、呪霊の発生報告。だが備考欄に、小さく書かれた一文がある。

 

呪詛師の関与の可能性あり。

 

「複数か?」

 

顔を上げると、五条は肩をすくめる。

 

「たぶんね。でもまあ、君なら問題ないでしょ」

 

軽い言い方だが、それは“前提”だ。失敗の可能性を切り捨てた上での判断。

 

「行く」

 

それだけ答える。余計な言葉は必要ない。

 

歩き出す背後で、わずかに笑う気配があったが、それを気にすることはなかった。

 

 

山の中は、静かだった。

 

風の音だけが流れ、木々が揺れ、葉が擦れる。だが、その静けさは自然のものではない。

 

人がいないからではなく、“何かが潜んでいるから”静かだ。音を殺し、息を潜めている。

 

その感覚が、空気に滲んでいる。

 

廃集落に足を踏み入れる。崩れた家屋、割れた窓、荒れた地面。生活の痕跡だけが取り残されている。

 

そして、いる。

 

三つの気配が散っているが、均等ではない。わずかにズレた配置。

 

(連携前提か)

 

一つ一つは突出していない。だが配置がいい。死角、逃げ場、進行方向——すべてを制限する形で囲い込んでいる。

 

「出てこい」

 

あえて声を出す。

 

沈黙は一瞬だった。

 

「バレてるな」右。

 

「ガキ一人かよ」左。

 

「いや、こいつ……妙だぞ」正面。

 

三方向から同時に姿を現す。全員が人間。だが、まとっている呪力は濁り、歪み、ねじれている。

 

呪詛師。

 

「囲むか?」

 

一人が言い、別の一人が制する。

 

「いや、様子見だ。妙な気配してる」

 

視線が集まる。観察され、測られている。

 

だが、それも一瞬だった。

 

「まぁいい、やるぞ」

 

合図と同時に動く。

 

右の男が手を振ると、足元の地面が崩れ、固い土が泥のように変質して飲み込もうとする。拘束系。

 

(遅い)

 

沈む前に踏み切り、足場を蹴って上へ抜ける。

 

その瞬間、左から呪力の斬撃が走る。一直線で速いが、軌道は単純だ。

 

身体をわずかに傾けるだけで回避し、頬をかすめる程度でやり過ごす。

 

着地と同時に踏み込み、最初に動いた右へ間合いを詰める。

 

「っ!」

 

反応は悪くない。だが足りない。

 

「遅い」

 

「断ち切る」

 

呪力を刃に乗せる。重心、速度、流れ——すべてが噛み合った一撃が直撃する。

 

一人目、終了。

 

その直後。

 

「潰れろ」

 

背後から圧が来る。見えないが、空間そのものが押し潰される広域圧殺。

 

普通なら動けない。

 

(まだ軽い)

 

横へ滑り、圧の中心から外れる。同時に指先へ呪力を収束させる。

 

「穿て」

 

放つ。一直線の魔力弾。

 

だが——

 

「甘い」

 

障壁に弾かれる。

 

(硬いな)

 

ならば近づく。

 

距離を詰める。迎撃の斬撃が来るが、わずかに軌道をずらして空を切らせ、そのまますれ違う。

 

懐。

 

「遅い」

 

拳を叩き込む。腹部に直撃し、呼吸が止まる。

 

崩れたところへ。

 

「砕け」

 

零距離で内部を破壊する。

 

二人目、終了。

 

残る一人は距離を取るが、焦りを隠せていない。

 

「クソ……!」

 

それでも判断は速い。術式を展開し、空間を歪ませ、圧を広げる。さっきより強い。

 

(広げたな)

 

なら、楽だ。

 

踏み込む。中心へ。圧で骨が軋むが、止まらない。

 

「——貫く」

 

呪力を一点に圧縮し、放つ。

 

圧の中に穴が開く。

 

そこへ身体をねじ込み、距離をゼロにする。

 

「なっ——」

 

反応は間に合わない。

 

「終わり」

 

一閃。

 

三人目、終了。

 

静寂が落ちる。完全な沈黙。

 

 

——Lv.52

 

 

視界に浮かぶ数字が一気に跳ね上がる。これまでとは明らかに違う上昇幅と重み。

 

わずかに息を吐く。だが疲労はない。

 

それよりも。

 

(効率がいい)

 

その感覚だけが残る。呪霊よりも、明確に上がりやすい。

 

視線を落とす。動かない三人。

 

ついさっきまで生きていた存在。だが何も感じない。恐怖も、躊躇も、罪悪感もない。

 

ただ結果として、強くなった。それだけだ。

 

スマホを取り出し、操作して発信する。

 

「九条。任務地点に呪詛師三名。排除済み。位置送る。回収と処理、頼む」

 

淡々と伝え、通話を切る。

 

静寂の中、山の空気が戻る。風が流れ、葉が揺れる。

 

だが、その中で一つだけ確かなものがある。

 

(まだ足りない)

 

レベルは上がった。だが足りない。まだ上がある。

 

もっと。

 

だから止まらない。止まる理由がない。

 

その場を離れる。迷いなく、次へ。

 

ただ、それだけを考えていた。

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