「壊せる者は、壊さない」   作:東洋コッペ

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第9話「危機感」

違和感は、任務の内容に現れ始めていた。

 

「これ、最近おかしくない?」

 

綺羅羅が資料を見ながら言う。

 

その紙には、これまでより明らかに危険度の高い任務が並んでいた。呪霊だけではない。呪詛師の関与、複数同時発生、被害拡大の可能性まで含まれている。

 

本来なら、複数人で対応する案件だ。

 

「そうか?」

 

遊真は軽く目を通し、それだけ言う。

 

「そうだよ。しかもお前に集中してる」

 

秤が横から口を挟む。

 

「露骨すぎるだろ」

 

「……」

 

少しだけ考える。確かに質は上がっている。

 

だが。

 

(ちょうどいい)

 

その感覚が先に来る。

 

「問題ない」

 

そう答えると、秤が苦笑する。

 

「出たよ、それ」

 

綺羅羅はため息をつく。

 

「問題はそこじゃないって言ってるの」

 

 

「呼び出しだってさ」

 

五条悟が軽く言う。

 

「上から」

 

その一言で、空気が変わる。

 

「上層部か」

 

秤の声が少し低くなる。

 

「そ。珍しいよね」

 

五条は笑っているが、その目は笑っていない。

 

「場所は?」

 

「ここじゃないよ。あいつら現場には来ないから」

 

少しだけ間を置く。

 

「行くのはいいけどさ、変なこと言われたら無視していいから」

 

軽い口調。だが、その奥にある意図は明確だった。

 

「従う必要ない。必要なのは、君が強くなることだけ」

 

「……」

 

短く頷く。理解はしている。

 

 

案内された場所は、高専とは別の場所だった。

 

山奥。人の気配がほとんどない区域。そのさらに奥にある古い建物。

 

中に入る前から分かる。

 

(弱いな)

 

中にいる気配は、これまでの戦闘相手より明らかに弱い。

 

だが。

 

(嫌な感じだ)

 

別の意味で、重い。

 

 

扉を開ける。

 

広い和室。数人の男が座っている。

 

全員、年齢は高い。

 

そして。

 

(強くない)

 

だが、視線が集まった瞬間に空気が変わる。

 

力ではない。“立場”で押してくる圧。

 

「九条遊真」

 

中央の男が口を開く。

 

「……はい」

 

「報告は見ている。任務数、処理速度、成功率」

 

一拍の間。

 

「すべてが異常だ」

 

否定はしない。事実だからだ。

 

「そこでだ」

 

別の男が続ける。

 

「お前に専属任務を与える。呪詛師を含む高危険度案件だ」

 

視線が揃う。確認の形を取っているが、すでに決定事項。

 

「本来であれば複数人で対応する案件だが、お前なら単独で処理可能と判断した」

 

合理的な言い方。

 

だが。

 

(使う気だな)

 

すぐに分かる。排除でも管理でもない、純粋な戦力としての利用。

 

「どうする?」

 

形式的な問い。

 

答えは決まっている。

 

「やる」

 

その瞬間。

 

「——待った」

 

声が割り込む。

 

扉が開き、五条が入ってくる。場の空気が一瞬で変わる。

 

「勝手に話進めないでくれる?」

 

軽い口調。だが完全に遮っている。

 

「五条悟」

 

中央の男が眉をひそめる。

 

「これは上の決定だ」

 

「知ってるよ。だから来たんじゃん」

 

笑いながら遊真の横に立つ。自然な動きだが、完全に“間に入っている”。

 

「任務自体はいいよ。こいつなら問題ないし」

 

一瞬だけ視線を向ける。

 

「でもさ、条件つけるね」

 

空気が変わる。

 

「……何だ」

 

「指揮系統。現場の判断は全部こっち、あんたらは口出しなし。それと無茶な詰め込み禁止、任務量もこっちで調整する」

 

完全に遮断している。

 

「それと」

 

少しだけ目が細くなる。

 

「余計なことしたら、全部潰すから」

 

軽い言い方。だが一切冗談ではない。

 

空気が固まる。

 

「……そこまでの権限は——」

 

「あるよ。ていうか、やる」

 

即答だった。

 

数秒の沈黙の後。

 

「……分かった。条件付きで承認する」

 

「はい、交渉成立」

 

五条が軽く手を叩く。空気が緩む。

 

 

外に出る。さっきまでの重さが嘘のように消える。

 

「めんどくさいでしょ、ああいうの。強くないのに偉い人たち」

 

「……そうだな」

 

「まあ気にしなくていいよ。全部こっちで弾くから」

 

一瞬だけ間を置く。

 

「君は、好きに強くなりな」

 

その言葉は、妙にまっすぐだった。

 

 

「どうだった?」

 

秤が聞く。

 

「任務増える」

 

「だろうな」

 

苦笑する。

 

「でも五条さんが止めたでしょ」

 

綺羅羅が言う。

 

「うん」

 

短く答える。

 

「だと思った」

 

少しだけ安心したように言う。

 

 

夜。

 

一人で任務へ向かう。これまでより気配が濃い。重く、深い。

 

(いいな)

 

自然とそう思う。

 

危険度が上がる分、得られるものも増える。それが分かっている。

 

足を止める。気配は複数。

 

しかも。

 

(今までで一番強い)

 

わずかに口元が上がる。

 

 

この選択は、間違っていない。

 

 

そう確信していた。

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