荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です りろーでっど   作:ラッドローチ2

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リメイク前は、サラっと完成したものが出ていたアレが掘り下げて出てくるお話です。
書いていった結果、シェーラさんがすげぇ動いたのは内緒です。


03 ハンバーグは、鉄板だよね!

 開店から閉店まで、酔っ払いの声が絶えない驚愕の騾馬亭。

 

 例え酔いつぶれたとしても、併設されているマスターの娘が営業している宿屋に泊れる事から一山当てたハンターらにとっては有難い酒場でもあった。

 

 そんな店であるが……奇妙なことに、普段耐える事のない喧騒がその時はピタリと止んでいた。

 

 その理由は……。

 

 

「ぬめぬめ細胞よし、いもいも細胞よし、乾燥させたぶにょぶにょの種よし。と」

 

「また、変なモノ揃えたわねぇ」

 

 

 驚愕の騾馬亭の名物でもあるチンチクリンな小娘が、割烹着に身を包んで厨房に立っていたからである。

 

 その隣には、別に心配してるわけじゃないんだからね!と言い放った上で宿屋の主であるシェーラも居たりする。

 

 

「ふっふっふ、まぁ見ててよ!」

 

「ふーん……お手並み拝見ってところかしらね」

 

 

 やる気のなさそうな目で眺めつつ言い放ったシェーラの言葉に、アルトは不敵なドヤ顔を浮かべながら言葉を返すと。

 

 ほい、とシェーラが差し出したまな板の上に新鮮なぬめぬめ細胞を乗せるとミンチ状に切り刻んでいく。

 

 一心不乱にぬめぬめした細胞を切り刻んでいくアルトに、シェーラは……。

 

 

「……何か手伝おうか?」

 

「えーっと、じゃあいもいも細胞を同じようにミンチ状に刻んでくれるかな?」

 

「任せといて、お安い御用よ」

 

 

 手持無沙汰になった事もありアルトに手伝いを申し出、渡りに船だったアルトは素直にソレを受け入れる。

 

 妹分の言葉に、シェーラはえへんと胸を張って豊満な胸部装甲を揺らしながら頼みを引き受け、予備のまな板を取り出して手際よくいもいも細胞を刻んでいく。

 

 

「やっぱり、シェーラ可愛いっすよねぇ。胸でかいし」

 

「バッカお前、アルトちゃんも可愛いだろうが。胸小さいけど」

 

「そうだな、確かにアイツも可愛い。胸小さいけど」

 

「聞こえてるよ! そこの酔っ払いどもぉ!!」

 

 

 厨房が見える位置に座ってるハンター共は、そんな二人を興味津々に眺め。

 

 並ぶことによって際立つ二人の体の一部、有体に言って胸部装甲を見比べながらゲスい感想を交わし合い。

 

 酔っ払い達の言葉が聞こえていたまな板娘は、フカー!と叫ぶ勢いで全力で叫んで厨房から突っ込みを入れた。

 

 

「ほらほら怒らないの、それに大きくても邪魔なだけよ?」

 

「持つ者に、持たざる者の苦悩はわからないんだよぉ……」

 

 

 ミンチ状の肉がこびり付いてる関係で、隣でぬめぬめ細胞を切り刻んでいる妹分を撫でれないシェーラは。どこか暖かい苦笑いを浮かべてアルトを宥め。

 

 宥められた少女は、恨めしそうに隣に立つ幼馴染の女性の豊満な胸を見詰める。

 

 

「むぎぎ、手にぬめぬめ細胞がついてなかったらもぎり取ったというのに」

 

「何アホな事言ってるのよ。刻み終わったら次はどうするの?」

 

「あ、後はこっちでやれるから大丈夫だよー。ありがとね、シェーラ」

 

 

 その瞳に嫉妬という名の炎を燃やしつつ少女はうなり、アホな事を口走ってる妹分にやる気のない目で突っ込みを入れつつ、シェーラは次の仕事を尋ね。

 

 アルトから返ってきた言葉に、そう。とだけ返して汚れた手を洗い始める。

 

 

「次に取り出したるは、この乾燥しきったぶにょぶにょの実の種!」

 

「種ね。ソレ齧ると舌がバカになるから私嫌いだけども……で、ソレどうするの?」

 

「コイツはね、こうするんだよ」

 

 

 パッパパーと謎な擬音を口に出して種を掲げるアルトに、突っ込み疲れたのかシェーラは普通に言葉を返す。

 

 少し突っ込みを期待していたアルトはと言えば、空ぶった事に若干頬を紅くし……。

 

 ぬめぬめ細胞をまな板の上からボウルの中に移しつつ、まな板の上に種を数粒適当に置くと。

 

 ソレを、包丁の背で木端微塵に叩き割った。

 

 

「んー……ここは、今は敢えて聞かない方が驚きが大きいかしら?」

 

「わかってるじゃんシェーラ、まぁ見ててよ!」

 

 

 砕かれたぶにょぶにょの種を小鉢へ移し替えつつ……アルトはにんまりと笑みを浮かべてシェーラへ言葉を返す。

 

 そして、シェーラが切り刻んだいもいも細胞を刻んだぬめぬめ細胞が入ったボウルへ放り込み。

 

 ソレを混ぜ始める。

 

 

「うーん……正直、中々に衝撃的な光景ねー」

 

「そう?」

 

 

 ミンチをニッチャニッチャと音を立てながら混ぜている光景に、シェーラは少しげんなりした表情を浮かべて口に出し。

 

 前世の記憶を引っ張りながら作業をしているアルトはと言えば、シェーラがげんなりする理由が思い至らないため本気で首を傾げる。

 

 そうやってのんびり言葉を交わしてる間に、ぬめぬめ細胞といもいも細胞のミンチは綺麗に混ざり、独特な質感になっていく。

 

 そして。

 

 

「ここで、コイツを入れるのさー」

 

「うーん……ちょっと、本気で何作ろうとしてるのか解らないのが腹立つわ……」

 

 

 さらさら、と粗挽き状になったぶにょぶにょの種と塩を混合ミンチへ練り込んでいくアルトの姿に……。

 

 宿の客に料理を出す事も多々あるにも関わらず、アルトが何を作ろうとしているのか読めないシェーラは微妙に敗北感を感じる。

 

 

「これで準備は完了、後は焼くだけだよー」

 

「……ふーむ、肉で作るパン? いや、何なのかしら……」

 

 

 平たい楕円状に混合ミンチを成型し、アルトはまな板の上へ並べていき……。

 

 ボウルの中身が空になったところで、一度手を洗う。そして。

 

 

「ほんじゃ、焼くね」

 

 

 シェーラ、酔っ払い共、さりげなく横目でチラチラと見ていたマスター。

 

 それぞれが見守る中、フライパンの中へ投入された成型された混合ミンチ達は……。

 

 どこか食欲を誘う音と共に、香ばしい匂いを上げながら焼かれていく。

 

 

 誰かがゴクリ、と音を立てて生唾を飲み込む音が響く。

 

 その間もアルトはと言えば、のんきに鼻歌なんぞを歌いながらテキパキと手際よく混合ミンチを焼いていく。

 

 そして、十分に焦げ目がついたソレをアルトは少し中身を切って確認し……。

 

 

「よーし、出来たよ!」

 

「……最初はどんなゲテモノ作るのかと思ったけど、中々に美味しそうね」

 

「食べてみる?」

 

「……頂くわ」

 

 

 フライパンの上から焼きあがったソレを、アルトは一枚皿の上へ載せてガスコンロの火を止め。。

 

 乗せられたソレを見たシェーラが呟いた言葉に、得意げな表情のアルトが即座に反応する。

 

 そんな、自信たっぷりな少女のドヤ顔にシェーラは若干イラっとしつつも、焼きあがったソレから漂う香ばしい匂いに食欲をそそられ。

 

 素直にソレを受け取ると、フォークで切り分け。一口状の欠片を口へ放り込んだ。

 

 

「……どう?」

 

 

 神妙な顔で咀嚼している姉のように思っている女性の反応を窺うアルト。

 

 しかし、シェーラはそんな少女の様子に言葉を返すことなく二口目、三口目と次々と口へ放り込んでいく。

 

 そして、一枚丸々食べてしまったシェーラは……。

 

 

「……やるじゃないアルト、いったいどんな魔法使ったのよ?」

 

「ふふふー、教えてあげなー……イヒャイイヒャイ!?」

 

 

 素直に、賞賛の言葉をアルトへかける。

 

 その後の少女の言葉に、思わずイラっとしたシェーラがアルトのほっぺをぐにぐに引っ張ったのは致し方ないかもしれない。

 

 

「いたたた……砕いたぶにょぶにょの種の効果だよ、砕いたの舐めたらピリっときたからいけるかなー。って思って」

 

「ぶっつけ本番だったのね……けども。うん、これ凄いわ……ぬめぬめ細胞といもいも細胞の食感が良い感じに混ざってるし、生臭さも殆ど無いじゃない」

 

 

 引っ張られた頬をさすりつつ、アルトは素直にネタばらしをし……。

 

 アルトの言葉に、腕を組んでシェーラはなるほどね。と言葉を漏らす。

 

 

「けどさ、色々聞いた私も私だけど……作り方殆ど筒抜けになっちゃってるわよ?」

 

「んぃ? 別にいいよー、どこででも作れたらソレだけあちこちで美味しいモノ食べれるじゃん」

 

「……そうだったわ、アンタそういう娘だったわよね」

 

 

 根掘り葉掘り聞いた自分の事を棚に上げつつ、シェーラは物凄い勢いで儲け話の種を投げ捨てた妹分に問いかけ。

 

 返ってきた言葉に、妹分のアホの子っぷりを再認識しつつ頭を抱える。

 

 

「……それに、コレで終わりだと思った?」

 

「何よ、その瓶詰め」

 

 

 ニヤァ、と笑みを浮かべつつアルトがさりげなく持参していた袋から取り出したソレ。謎の液体が詰まった瓶詰めにシェーラは首を傾げ。

 

 アルトはシェーラの問いかけに答えず、未だ焼きあがったソレが何枚も載ったままのフライパンに瓶詰めの中身をぶちまけ、フライパンに蓋をするとガスコンロを再点火した。

 

 酔っ払いの内の誰かが生唾を飲み込み、誰かが腹の虫を盛大に鳴らす中……フライパンはクツクツと音を立ててソレを煮込み。

 

 そろそろ、と判断したアルトが蓋を開ければ……。

 

 

「……バズさん、俺超腹減ってきたっす」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

 

 空きっ腹に直撃するかのような、香ばしくも濃厚な香りが厨房から漂い。

 

 見守っていたハンター達は、互いに思い思いの言葉を交わす。

 

 

「よし、これで完成かなー。シェーラ、食べてみる?」

 

「そうねぇ、ソレもいいけど……」

 

 

 さり気なく味見し、仕上がった味に大満足しつつアルトは試食役に再度シェーラを抜擢しようとし……。

 

 話を振られたシェーラは、口元に人差し指を当てて酒場の方へ視線を向ける。

 

 まず真っ先に視線が向いたのは父親であるマスターであったが、厨房に背を向けてグラスを磨いてたので除外された。

 

 実はつい先ほどまで見詰めていたのだが、物欲しそうな視線を娘に気取られるのがイヤだったから背を向けてたりするマスターであった。

 

 

「あ、ファング丁度良いわ。コレ味見してみる?」

 

「うぇ、俺っすか?」

 

 

 次に視線が向いた酔っ払いの中に、子供のころからの付き合いである駆け出しハンターをシェーラは見つけ。

 

 ちょうど良い、と言わんばかりにシェーラは手招きし……アルトから差し出された、ソースのかかったソレが乗った皿をファングへ渡した。

 

 

「アンタ割と良いモノ食ってんだから批評できるでしょ? 食べてみて」

 

「あ、確かにファングさんなら適任だよね。反応わかり易いし」

 

「アルトちゃんまで……俺、そんなに単純じゃねぇっすよ」

 

 

 酒造所の末息子でありながらハンターを選んだ、ボンボン息子な幼馴染にシェーラは笑いながらフォークを渡し。

 

 シェーラ繋がりで、何回か顔を合わせた事があるアルトもまた試食役として適任だねー。などと呑気に笑う。

 

 まるで単純だと言われた気がする、まだ少年とも言える風貌のファングはと言えば憮然とした表情を浮かべ、フォークでソレを切って口へ運び……。

 

 

「うますぎるっす!!」

 

「期待以上のリアクションだね!」

 

「はっ!? ち、違うっすよコレは!」

 

「そう言いながらアンタ、どんどん平らげてるじゃない」

 

 

 二、三咀嚼して目を見開いて少年は叫んだ。

 

 そんな少年のリアクションに、まるでグルメ漫画の解説キャラみたいだなー。などと前世の記憶を思い出しながらアルトは呑気に笑い。

 

 まな板娘の言葉を、ファングはあわてて否定するも……その体は素直で、シェーラは半眼で少年の体たらくに溜息を吐いた。

 

 

 

 

 こうして、驚愕の騾馬亭に時を超えて永く語り継がれる名物メニューが誕生した。

 

 ソレは簡単なレシピでありつつも、十分すぎるほどの味を持っている事からアサノ=ガワの街に瞬く間に広がり……。

 

 アレンジのし易さから、それぞれの酒場や食事処で独自のメニューが生まれ……のちに街の名物にまで上り詰める事となる。

 

 そのメニューの名は……。

 

 

 

 

 

「そういえばアルト、これって名前決まってるの?」

 

「え? うん、『ぬめいもハンバーグ』って言うんだよー」

 

「ぬめいもはともかく、ハンバーグって何よ……」

 




そんなわけで、アルトの十八番の「ぬめいもハンバーグ」回でした。
ハンバーグという言葉の謎は、後日大破壊前の知識を持った人物によって解明されたりしなかったり。

そして、地味にハンバーグに1工程追加してたりします。
ぶにょぶにょの種については、ねつ造なので信じないように!

次回は、すっとこバイオドッグを出す予定です。お楽しみに!

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