荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です りろーでっど   作:ラッドローチ2

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前回、あとがきで4話でハスキーが出るといったな……アレは、嘘だ。
コマンド―風味でこんばんは、すいません。文章書いてたら思った以上に膨らんだのでハスキー君出せませんでした。
5話には、間違いなく出せる……はず!


04 なんでこんなに忙しいんだろうね! え? 自己責任?

 

 

 

 新たな新メニューが登場し、酔っ払いだけではなく食事目当ての客も多く足を運ぶようになった驚愕の騾馬亭。

 

 そんな少しばかり慌ただしい店内にて、一人のトレーダーがマスターへ売り込みをしていた。

 

 

「……確かに、今使っているヤツよりもこの浄水器はかなり性能が良いな」

 

「でしょう? マスターの酒場とは色々と取引もありますし、特別に値引きしますよ」

 

 

 ちょくちょくと道具や調味料を卸しているトレーダーの青年、カールが売り込みし。

 

 そろそろ浄水器もガタがきている事も合わせて、マスターは顎に手をやりつつ真剣に購入を検討する。

 

 そして、そんな中アルトはと言えば……。

 

 

「アルトちゃーん! こっちにもぬめいもハンバーグ二つ!」

 

「こっちは三つだ!」

 

「は、はーい!」

 

 

 ヒラヒラとしたウェイトレス衣装に身を包み、こまねずみのように酒場の中をチョコマカと給仕していた。

 

 ぬめいもハンバーグを新メニューとして登録した結果、今まで以上に忙しくなった驚愕の騾馬亭。

 

 その状況を打破すべく、マスターが打った手がアルトのウェイトレス起用であった。

 

 

「うっへっへ、胸は平たいけども良い尻にふとも……モォ!?」

 

「あー、アイツここ来たばかりか。無茶しやがって」

 

「アルトちゃんのお盆チョップ、更にキレが増したな」

 

 

 そんな少女のスカートをすれ違いざまに捲り、尻を撫でまわす酔っ払いも居たりするが……。

 

 カウンター気味に放たれるアルトの反撃により、大体が為す術もなく撃沈されたりしている。

 

 

「こ、この小娘がぁ!……あ?」

 

「あー、ちょいと酒場の裏までこいや若造」

 

「逆さに吊るして泣くまで棒でつつこうぜ」

 

 

 たまに激昂してアルトへ襲い掛かろうとする輩もいるが……。

 

 その手の輩については、良い具合に酔っぱらっているスキンヘッドソルジャーが容赦なく酒場の裏まで引きずっていき、常連らの手で割と情け容赦のない粛清が下されるのが酒場のルールと化していた。

 

 

「あの、マスター……アレほっといて良いんですか?」

 

「ん? ああ、従業員へのボディタッチは自己責任だからな」

 

「アレ自己責任で片付けて良いんですかねぇ」

 

 

 酒場の裏まで引きずられていった荒くれ者のモノと思われる断末魔に、浄水器の売り込みをしていたカールはその笑みを引き攣らせ。

 

 既に慣れた、とばかりに言い放つマスターの言葉に本気で首を傾げる。そして。

 

 

「まぁいいか、で。どうでしょう、この浄水器」

 

「お前も中々にイイ性格をしているな……よし、買おう」

 

「毎度あり」

 

 

 青年トレーダーことカールは自分に不利益を齎さないと判断し、商談を優先した。

 

 そんなカールをマスターは半眼で睨みつつ、浄水器を買い取って代金を払い。

 

 無事商談が済んだカールは、にんまりと笑って代金を受け取り商品を引き渡す。

 

 

「ま、マスター。商談が済んだなら厨房お願いしますよぉ」

 

「む、すまん」

 

 

 そして、そのタイミングを見計らっていたのか厨房と店内を往復していたアルトがマスターへ泣き付き。

 

 思った以上に話し込んでいた事にマスターは詫びを入れつつ、厨房の作業へと戻っていく。

 

 ちなみに、商談の間マスターの娘であるシェーラがピンチヒッターと言う事で厨房でひたすらぬめいもハンバーグを焼く作業に従事させられていたりする。

 

 

「そう言えばアルト、お前確か大破壊前の本を欲しがっていたよな?」

 

「何ですマスター、唐突に。まぁ確かにその通りですけども」

 

 

 ひたすらぬめいもハンバーグを焼いているシェーラから、焼きあがったソレが乗った皿を受け取りつつアルトはマスターの言葉に肯き。

 

 マスターはその返事に、ふむと呟いて顎に手を置く。

 

 

「何でもコイツが浄水器を見つけた建物で、大破壊前の本が大量に並んでた部屋があったらしい。それほど危険でもないようだし、行ってみたらどうだ?」

 

「ソレはとても有難いんですけど……そんな情報タダでもらっちゃって良いんですか?」

 

 

 浄水器を買い取ってもらい、ホクホク顔の青年トレーダーを指さしつつ。マスターはアルトへ情報提供を行い。

 

 情報提供を受けたアルトは、好意を受け取りつつも不思議そうに首を傾げる。

 

 

「構いませんよ、大破壊前の兵器の資料や絵本でもない限り売り物としては微妙ですし」

 

 

 アルトの不思議そうな視線を受けたカールは、ぶっとびハイで喉を潤しながら正直な感想を述べる。

 

 本という品物はこの世界においては、明確な需要が無い限りは……嵩張る燃料でしかないのである。

 

 

 

 

 

 

 そんなワケで、少し日を跨いだ天候の良いある日の事。

 

 アルトは、カールから情報提供された廃墟群へ足を踏み入れていた。

 

 

「……多分この辺り、大破壊前はオフィスビルとか並んでたんだろうなぁ」

 

 

 平和な現代日本で日々を過ごしていた前世の記憶が色濃く残っているアルトは、その廃墟を複雑そうな目で見詰める。

 

 

「えぇっと、トレーダーの人の話だとこの辺りのはずなんだけどなぁ……」

 

 

 既にめぼしいモノは漁り尽くされていそうな、辛うじて原型を留めているビルを探索していくアルト。

 

 時折襲撃してくる殺人アメーバやパラボラットを古ぼけた32口径ピストルで仕留めながら、少女はゆっくりと歩みを進めていく。

 

 

 

 何故、少女が大破壊前の書籍を求めているか。その理由はとても単純な話である。

 

 文明の欠片に縋り付いて生きていくこの世界で、確かに平和な文明があったという事実を情報の集合体である書籍から、少女は読み取りたいのだ。

 

 

「ここ、かな?」

 

 

 崩れかけている階段をひいこら言いつつ少女は上り、掠れた文字で『資料室』と書かれたプレートがかけられた部屋を見つけ。

 

 アルトは息を整えると、右手にピストルを構えながらゆっくりとその扉を開き。中の安全を確かめた上でその平たい体を中へ滑り込ませる。

 

 中には害を及ぼすような敵は見えず、その事に少女は安堵の息を吐き……部屋の中を見回してその目を輝かせる。

 

 

 奇跡的にも外壁が崩れていなかった資料室。

 

 その部屋に収められていた書籍は、ざっと見る限りにおいてこれ以上ないくらいに良好な状態が保たれていた。

 

 

 アルトは、ニヤける口元を抑える努力すら放棄し適当な本を手に取り。その中身を開く。

 

 最初に手に取った本は、今いる建物がどんな会社で。どのような遍歴を辿ってきたかを示す資料本であった。

 

 その次に開いた本は、犬種ごとにどのような特徴があるかを取りまとめた犬の図鑑であった。

 

 そして、その次に手に取った本は美味しそうなお菓子の作り方が掲載されている料理本であった。

 

 

 それらの本を、片っ端からアルトは読み漁り……めぼしい本を次々と持ってきたナップザックへ大切そうに詰め込んでいく。

 

 本を読み、平和だった時代の残滓を噛み締めるという作業。

 

 ソレは、割と人情味があるとはいえ容赦のないこの世界に放り出された少女にとって、未来への不安を押し殺す為の精神安定剤でもあった。

 

 

「あれ? なんだろ、これ」

 

 

 そんな中、適当に手に取り開いた本から零れ落ちたカードに気付き、アルトはソレを拾い上げて確認すると。

 

 ソレは、冴えない中年男性の写真入りのIDカード式の社員証であった。

 

 

「なんで本に挟んであるんだろ? 栞にでもしていたのかなぁ」

 

 

 この人、その後どうしたんだろ。などとすでにこの世に居ないであろううっかり会社員の事を思いつつ少女はソレを手の中で弄び……。

 

 

「……んぃー?」

 

 

 階段を必死こいて上っている時に、ふと瓦礫の隙間から見えた電源が生きていたコンピュータの事をアルトは思い出す。

 

 

「ここで、このカードで隠し扉が開いたー。とかなったら、笑っちゃうよねー」

 

 

 そんな事あるわけないかー、などと思いつつも少女は立ち上がり。本が詰まったことで重くなったナップザックに少しよろめきつつ、コンピュータを目指す。

 

 

 

 そして、なんとかコンピュータに到達したアルトは……未だ電源が生きているコンピュータに首を傾げつつ、試しにIDカードを挿入。

 

 もしやとは思ったが、正常に動いてしまったソレの画面に出ている。OPENのボタンをマウスで恐る恐るクリックすると……。

 

 金属が擦れる耳障りな音を立てながら、アルトの目の前に地下へと降りる為のものと思われる階段が現れた。

 

 

「……あっはっはっはっは」

 

 

 思わず乾いた笑いを上げてしまうアルト、誰も聞いてない中虚ろな笑いを上げ続ける少女という構図は。

 

 ちょっとしたホラー染みた光景であった。

 




アルトさん(改)は、リメイク前に比べて割と豆腐メンタルです。
原作知識がなく、元男だったりもしないので未来への不安が潜在的にかなり大きいのです。
その不安を少しでも誤魔化すために、アルトさん(改)は本が好きだったりします。


まぁ、ハスキー君が来たらそのあたりのネガティブ多分木端微塵にされるんですけどね!

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