ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この星の、不思議な不思議な生き物、海に森に町に、その種類は、100、200、300、いやそれ以上かもしれない。
そして、そんなポケモンを守るために活動する慈善団体Humanity's Aid for Monsters、通称『HAM』。
ポケモン達の新たな家を作ったり、捨てられた命をすくい上げて充分な生活を与え……最終的に人と共存し共に幸福になる道を目指す。
そして物語は、HAMに所属する2人の子供たちが不思議な力を持つ存在を知って、大きく動き始める。
──
「はい、スバメくんのおうち作り終わりました!」
「ありがとうございます、いつもいつも悪いねえラズちゃん」
「お気になさらず! これが仕事だし好きでやってることなので」
この少年、ラズ。
人とポケモン達の為に住みよい環境を作ることを夢見る、ポケモンを愛する少年。
HAMの理念に憧れて若くしてフィールドワーカーとなり、今日も近所の人々のポケモンの環境整備を行っていた。
花と共に生きるポケモンの為に種を植え、冷える地域を好むポケモンに冷房を利かせる。
彼のやってることは細々としたことだが、少しずつポケモン達を支えていた。
「ミノムッチもお疲れ様」
ラズは、屋根の上で葉っぱをまとめて小さな巣を作っていたミノムッチを自分の肩に乗せる。
この子は初めてHAMで依頼を受けた時に保護した卵から孵ったポケモンであり、そのままラズに懐いて仕事を手伝っている、生きるために周りのものからミノを作れるのでこの仕事も得意分野であり、互いに協力しながら生きている。
「ラズ……また、別のところに」
「分かったよベリー」
そしてラズと共に組んでいる幼い少女はベリー、相棒のリグレーをぬいぐるみのように抱き抱えながら屋根の上にいるラズを見上げている。
物静かだがポケモンへの愛情は強く、エスパータイプと共に過ごしていたことで僅かだが超能力を持っており、はっきりとは分からないがポケモンの心を読み取ることが出来る。
梯子から降りたラズは、報酬となる代金を受け取りまた別の場所へ……。
この2人はいつもこうして人とポケモンが仲良く過ごせる場所を各地に増やそうとしている。
しかし……この日はいつもと違った。
──
この後も2件ほど依頼を終えて日が暮れてくる時期、ミノムッチもリグレーもかなり頑張って手伝ったのでモンスターボールの中でゆっくりと眠りにつく。
後は本拠地に戻ってレポートを書くだけなのでゆっくりと周りを見ながら散歩する。
「僕たち今日も頑張ったよね、ちょっとずつだけどポケモン達も活気を取り戻してきたし」
「まだ全然……」
「まあ確かに、僕の夢にはまだまだ程遠いけど……もっと人とポケモンが寄り添って家族のように仲良くできたらな……このミノムッチ達みたいに」
ラズは全ての人間がポケモンと共存できる……まではきかなくとも、ポケモンと仲良くしたい人間は沢山いることはHAMに押し寄せてくる。
自分達に需要がある限り尽くしていきたい、そう考えていた。
しかし今回は様子がおかしい、本日分のタスクは終わったはずだというのに急遽また仕事が入ってきた。
それだけなら別に構わないのだがその目的地というのが……マドロシティ。
この辺りを住んでる人なら知らない人はいない危険な街、暴力で支配された悪党が蔓延る危険地域……よほどのことがない限りHAMの人間ですら滅多に寄り付かない。
そんな場所に自分達を急行させるなんてただごとではないが、仕事内容自体はちゃんとしたものだった。
こういう仕事の資料はベリーが担当してしっかり読み込む。
「どうする?」
「……チーフ、後から来るらしい」
「チーフが……うーん、それなら安全は確保されているのかな……?」
自分達の身の安全を守りながら、慎重に進路を変えてマドロシティへ向かっていくことになるが……これが大きな冒険の始まりになることは思いもしなかった。
──
マドロシティの入口に差し掛かってみると街の様子は、噂以上に酷かった。
道路はひび割れ、崩れたビルの残骸があちこちに転がり、街灯は半分以上が壊れてチカチカと不気味に明滅している。
人々は肩をすくめ、目を伏せ足早に歩いている。
誰もが怯えながら生きているのが一目で分かった。
「ここ……本当に人が住んでる街なの?」
ベリーが小さく呟く。リグレーも彼女の胸元でぬいぐるみのように縮こまり、震えていた。
ラズは肩のミノムッチをそっと撫でながら、頷いた。
「HAMに街全体を救う力なんてない。……でも、与えられた仕事はちゃんとこなす。それが僕たちの役割だ、行こうベリー」
今回届いた依頼というのは、マドロシティに繋がる濁った川に住むバスラオたちの避難だ、食用として乱獲され、水質汚染で環境が悪化したという。
救助した後も問題があり、バスラオたちは気性が荒く場所を選ぶため慎重に作業しなければならない──資料にはそう書かれていたという。
しかしラズは、どうしても腑に落ちなかった。
「その内容で間違いないの?」
「うん、3回繰り返してもその内容」
バスラオは繁殖力が異常に強い。少しでも水があれば、すぐに増える。縄張り意識も強烈で、他のポケモンを寄せ付けないほどの生命力を持つ。
それなのに救助が必要だなんて、初めてのケースだった。
「ベリー、君の超能力で何か感じる? バスラオたちの気持ち」
「……怖がってる。でも、怒りも……すごく強い。『逃げたくない、奴らが来る』って……」
二人は慎重に川岸へ近づき段取り良く作業を行う。
ミノムッチがミノに付いている葉っぱを広げて小さな橋を作り、リグレーも目から淡い光を出して周囲を照らす。
バスラオたちは最初、牙をむいて威嚇してきたが、ベリーが心を通わせるように手を差し伸べると、少しずつ落ち着いていった。
一つ、また一つと柔らかい箱の中にに収めていく。
コンテナに詰め込まれたバスラオの数はすでに五十匹を超えていた。臭いと泥と血の匂いが混じり、息苦しい。
一旦本拠地に戻ろうとしたその時── 大型トラックが、川沿いの道をゆっくりと通り過ぎた。
荷台のコンテナは鉄格子で覆われ、中に大量のバスラオが押し込まれている。身動きも取れないほどぎゅうぎゅうに。
ラズの視線が、一瞬だけ捉えた。
──白い。
赤筋でも青筋でもない、真っ白な縞模様と瞳のバスラオ。
本でしか見たことのない、三番目の『スジ』姿を消してから長い間、絶滅したとされていた白筋の個体。
「白い……白いバスラオ!?」
ラズの声が震えた。
ベリーも目を丸くする。
「ラズ……あれ、本当に見たの?」
「ああ、間違いないよ。翡翠って地方にあったらしい……でも、どうしてここに……」
白筋のバスラオは温厚な性格らしく赤と青の争いに巻き込まれやすいだけでなく、希少性から密猟の対象にもなっていた。もしマドロシティを支配する悪党たちが、これを狙っているのだとしたら── 二人は顔を見合わせた。
自分たちに戦う力はない。ミノムッチとリグレーも、バトルらしいバトルをした経験がほとんどない。
チーフの到着まではまだ三十分以上かかる。
どうしたらいい。 その瞬間── 川の中央、濁った水面が静かに盛り上がった。 水しぶきを上げて現れたのは、一人の青年だった。
黒いコートを羽織り、濡れた髪を無造作にかき上げる……年齢は二十歳前後か。
冷たい目が、まるで氷のように光っていた。怪しい雰囲気は否めないが、敵意は感じられない。
青年は川岸に上がると、まるで何事もなかったかのように二人の方へ歩み寄ってきた。
「話は冷水浴中に大体聞いた」
低い、落ち着いた声。
「珍しいポケモンを悪党から取り返せばいいんだな……」
ラズとベリーは息を呑んだ。 青年は腰に下げた水晶のようなものを軽く指で弾きながら、街の奥──マドロシティの中心部をじっと見据えた。
「白筋のバスラオか。……珍しいな。俺も探していたものと、繋がりがあるかもしれない」
彼は小さく笑った。
その笑みには、どこか冷たい決意のようなものが宿っていた。 ラズは思わず一歩踏み出した。
「あなたは誰ですか? どうしてこの話を……」
青年は答えないまま、ゆっくりと歩き始めた。
背中だけが、淡く光る水晶のようなものを一瞬だけ見せた気がした。 ベリーがラズの袖を強く引いた。
「……ラズ。チーフが来るまで、ついていっちゃダメ……?」
しかしラズは、青年の背中から目を離せなかった。
ミノムッチが肩の上で小さく葉っぱを震わせ、リグレーもベリーの腕の中で不安げに光を瞬かせる。 マドロシティの夜風が、冷たく三人の頰を撫でた。 これは、ただの救助作業では終わらない。
ポケモンと人間が、これまで誰も知らなかった冒険の、始まりの予感がした。 青年は振り返らず、ただ一言だけを残した。
「……ついてくるなら、覚悟はできてるんだろうな?」 ラズとベリーは、互いに顔を見合わせ──
ゆっくりと、しかし確かに、青年の後を追い始めた。
──
「しかしこんな真っ白なバスラオをなんであの方は欲しがるんだか……バスラオならその辺の池にでもいくらでもいるだろ」
「バカお前、散々聞かされただろ、白いバスラオはほかの奴と違って進化することが出来る特別な奴って散々聞かされたろ? 強いポケモンをBURSTさせたい奴らの考えることだ」
街の奥で如何にも柄の悪い男たちがバスラオを水槽から引っ張り出して話している。
ラズは言っていることは分からないが、平和に過ごしていたバスラオを無理矢理引っ張り出して何かに利用しようとしている意図は掴めたので怒りを感じている。
しかし青年はずっと考えながら歩いている。
「妙だな、奴らは呑気にしているがやけに警備が手薄い、ここの奴らは銃を構えて好き放題していると聞いていたが……略奪しているようにも見えない」
「もしかしたらチーフが……? あの、貴方……」
「……名前か、俺はクランだ、ああいうポケモンを捕まえる奴らとは少し因縁があってな」
隠れながら3人はバスラオの救出作戦を考える、隙を作ればクランが一気に行動してバスラオを救出できるのでラズ達にはそれを連れて一気に逃げろという流れをクランが作る。
「でもそれだとクランさんは?」
「俺は簡単に潰れるほどやわじゃない、それに相棒だってついている……お前たちのポケモン、戦闘は得意じゃないと言っていたがなにか出来ることはあるか?」
「……私のリグレー、テレキネシスなら使える……」
「充分だ、俺が合図をしたら頼む」
「クランさんも無理しないように」
クランはゴロツキの様子を見ながら行動しようとするが、血相を変えたゴロツキが扉を空けて飛び出してくる。
「やべぇぞお前ら!! 侵入者が現れてヤザ指令ともやってる! 一人のガキなのにとんでもねえ強さだ!!」
「はあ!? そりゃ確かかよ……」
「むっ……逃がすか!!」
ゴロツキが逃げ出しそうになったのでクランは即座に合図を送り、ベリーがリグレーに指示を送ってテレキネシスを発動、バスラオを浮かせながらテンパっているゴロツキの一人に膝蹴り、銃を構える暇もなく即座に鎮圧させる。
「す、凄い……」
「ポケモンを持ってない相手ならこんなものだ、急ぐぞ」
白いバスラオを回収した3人はこのままマドロシティを出ようとするが……殺気を感じたラズはベリーを押して咄嗟に庇うと、ベリーに近い位置の窓が割れて機関銃のように氷の針が撃ち込まれて壁に突き刺さる。
紛れもなくポケモンの力だ。
「クランさん!」
「……動くな、あいつらはポケモンの力を利用した兵器を作ったりもしている……あれもその1つだろう」
「ポケモンを……そんなものがあるなんて」
「許せないか、これまでを見ていれば理解出来る……だから俺が戦う」
クランは割れた窓から飛び出し、打ち出した先の男に先行でさらに飛び蹴りをかます、大きな装置を持っているので怯まないが体勢を立て直しラズ達が逃げる時間を稼ぐ。
「あいつらの仲間がこんなところにも……珍しいバスラオを置いていけ、こいつは……」
「BURSTハートに変えるのか? 普通に暮らしていただけのあの名もない物を……俺はそれを阻止するためにここに来た」
「BURSTハートを知ってるのか!? まさかお前……その姿『ハートブレイク』か!?」
「そのまさかだ、お前はBURSTハートを持っていないようだがポケモンを奪うなら容赦はしない……」
クランは持っていた水晶を掲げ、まるで軽めの変身ポーズのように構えを取ると空気が一変する……目に見えてとんでもないものが起きるような、そんな前兆。
その刹那、水晶は光ってクランの体を包み……まるでポケモンの進化にも近い肉体の変化を引き起こす。
その姿は……とても見覚えがあった。
ラズは分かる、クランはなったのだ。
フシギソウに──
緑色になった肌、特徴的な蕾が肩に生えるように張り付いて瞳は赤くなる。
はっきりとそうとは言い切れないがポケモンに近い姿になった。
恐らくあれが……クランやあのゴロツキ達が言っているBURST……?
「まさか……ポケモンの力を借りてる? モンスターボールみたいに使うんじゃなくて?」
「来い、相性的には不利だがそれでも負けるつもりはない」
「クッ……なめるなあああ!!」
氷の弾丸が何度もクランの目前に迫るが……クランの背中から植物のようなものが伸びる、草タイプのポケモンではおなじみの技『つるのムチ』だ、しなやかに伸びて弾丸の軌道をすべて反らし、3本目が首筋に迫る。
これで終わりかと思われたが……後ろの方で大きな爆発と、まるで雷が落ちるような音が周囲に響く。
これは向こうの仲間とは思えない……さらに連絡が入る。
「や……ヤザ指令がやられた!? BURST戦士に!? 嘘だろ、こいつ以外にまだBURST戦士がいるのかよ!!?」
(BURST戦士……そういえば襲撃したやつが他にいたか、俺以外に……)
不利と判断すると機械を置いて男は逃げ出していく、大元を失ったことでこの街にいるゴロツキ達はしばらく撤退していくことだろう……少なくとも騒ぎを最低限起こさず、平和は守られた……。
「クランさん……?」
──
こうして白いバスラオはHAMを通して近隣のポケモン研究所に保護され、他のバスラオ達も新しい住処に送られることになる。
終わる頃には既に夜中だが、クランのことが気になっていたのでラズは問い詰める。
「お前達は確かポケモンを保護する組織だったな、なら聞いておいてもいい話かもしれない……奴らは『グレートガベル』という組織で俺はそれを追っている」
グレートガベルはこの世界を裏で牛耳る、いわゆる悪の組織というものでありその為に強いポケモンをあちこちから奪ったりする。
そして捕まえたポケモンをあのように兵器にしたり……あの水晶のような道具『BURSTハート』に変える。
モンスターボールがポケモンを出し入れするのに対してBURSTハートはポケモンと融合して同等の力を得られる。
「あのフシギソウもまさか、グレートガベルに……?」
「あれを見てよくフシギソウとわかったな……俺にとって友にも等しい存在だった、BURSTハートに入れられたポケモンは閉じ込められて武器のように使われる、俺は奴らからなんとかこいつを取り戻したんだ」
言うならば監禁された上で奴隷のように酷使される……そんな不条理を許せずBURSTハートにされてしまったポケモン達を解放するために旅をしていたという。
ハートの中には破壊することで解放できるタイプも存在するらしく、各地を巡って何個か壊してきたことから『ハートブレイク』と呼ばれてたとか。
「しかしグレートガベルが無くならない限りこれもいたちごっこというやつだ……もっと大元を潰せるようにならなければならない」
「……そんな恐ろしいことが僕たちの知らないところで……ベリー、僕たちで何か支援出来ないかな」
「支援……気持ちは分かるけど、私達は足手まとい、戦力にはならない」
「……ポケモントレーナーならそうかもしれないが、お前達は保護を仕事としているんだろう? ハートから解放されたポケモンを然るべき場所に送る際に役に立つ」
クランの旅の課題になったのは救助したポケモンをグレートガベルに再度取られないようにするためのケア、その点で言えば今回もバスラオを安全に送り届けたし、クランの理屈によるとあまり大きい組織でないほうが向こうに動きを悟られなくて都合がいいとのこと。
「俺からHAMに契約し、お前達が俺の解放したポケモンを保護する……俺の方もお前達の依頼は全面的に支援しよう」
ということで互いに協力関係になる理由もあるということで、ラズとベリー、そしてクランはより遠くまでポケモン達を助ける為に旅に出ることになった。
BURSTハートに閉じ込められたポケモン達を救えるのか?
ラズ達の大きな旅は、ここから始まる。
この日野宿をした三人は……全く同じタイミングでマドロシティに訪れていた黒い竜のBURST戦士が通り過ぎた事をお互いに気付かない。
──
翌朝、HAMで支給される端末からまた依頼が次々と届く。
「随分期待されているんだな」
「メンバーが少ないからその分仕事が多く割り振られるだけですよ……さて、クランさんはこれからどうします?」
「俺が欲しい情報は主に3つ、俺のようにBURSTハートを持つ者、グレートガベル……そして、アルカデスという存在についてだ」
「アルカデス?」
「ああ、アルカデスは貴重な手がかり……BURSTハートを使い変身できる者、BURST戦士の頂点ともいわれる伝説の存在だ」