ポケモンには最大2つのタイプがあり、それらがかみ合わさって得意不得意は大きく入り乱れることになる。
その相性対策としてよくトレーナー達が策を巡らせるのが大きく異なるタイプの技を覚えさせる……バトルマニアが『サブウェポン』と呼ぶものだ。
たとえばワニノコのタイプはみずタイプだが、こおりタイプのこおりのキバを覚えることで天敵となるくさタイプの対策となる。
何かしら自身とは別のタイプの技を覚えるポケモンだって多い、しかしBURST戦士は……現在のリョウガであれば、みずタイプの技しか使えないということになる。
「でもそれだったらあのヌケニンだってむしタイプとゴーストタイプの技しか使えないんだろ? だったら」
リョウガの考えももっともなものだが……残念だがヌケニンには通用しない、クランがその答えを言う。
「確かに大半のポケモンには長所を奪われる形になるが……ヌケニンは覚える技の殆どがゴーストタイプだ、だからそういう意味でも……」
「だから言っただろう? 僕様はキング・オブ・ラック、絶対的な幸運に愛されている最強!」
「ああもう! それでいったらナマコブシなんて全然みずタイプの技使えないのよ!! 使えるものと言ったら……」
ここでミルトとクランはハッとなり目を合わせる、世の中に無敵というものはない、ポケモンのわざ、タイプ、特性……そして信じる心。
どれかピースが噛み合えば絶対的な無敵など破ることも出来る。
「……リョウガ、アイツに勝つ方法思いついたわ」
「本当かミルト!?」
「そんなものは存在しない! 僕様とヌケニンに勝つ方法など、何があっても絶〜〜〜〜〜〜対」
「なめてもらっちゃ困るわ抜け殻、BURST戦士達の力は化け物じみてることぐらいこの目で見てきたけどね……持っている技術で相手を倒すのがポケモントレーナーよ」
ミルトは確信していた、この方法なら確実に倒せる……それにはリョウガの助けが不可欠だった、この作戦を伝えるためにこっそりと耳打ちをする。
「リョウガ! 貴方のBURSTハートがナマコブシなら……が出来るはずよ」
「え? ……それはいいのか? 一応お前の身体だろ?」
「いいのよ……この際私のプライドなんて捨てるし、見てるのはあの二人だけなんだから」
この際勝つためならミルトも恥でも何でも捨てる、どうせナマコブシにBURSTした時点で外見以外は乙女の尊厳を捨てているようなものだから。
「……クラン、いけるな?」
「何、俺はずっとアイツを使ってきたし新技だって覚えてきたんだ……あのぐらいはな」
「あ、あのうそれで拙者は何をすれば?」
「え? ああカルタ君は……えーと、何もしなくて大丈夫かも」
「えっ」
真っ先にガジュマルの所へと突っ走るリョウガ、シャドーボールが跳んできてもとびだすなかみで受け止めてそのままで接近し……もう届きそうという範囲で、ナマコブシの技を使う。
とはいっても、実のところナマコブシはみずタイプでありながら、使えるみずタイプの技は指で数えられる程度、みずてっぽうすら使えないというBURST戦士として見れば最弱級の相方かもしれない、そんなナマコブシが使える技というのが……。
「うぼろろろろろ!!」
「もうちょっと変な声抑えられなかったの!?」
「しょうがないだろ! 体の中の水分吐き出したんだから!!」
ガジュマルの目の前でリョウガが身体の中に溜まっていた水を口から一気に吐き出してガジュマルにぶっかける。
内臓が飛び出すようになったり、水を吐いたりミルトの身体はだいぶめちゃくちゃなことになっている。
「うげえっ汚っ!!」
これにはガジュマルも当然の反応だが悶えるが……視界を戻すと、この隙をついてクランがニドキングから愛用のフシギソウのBURSTハートに持ち替えて変身済み、腕を地面に突っ込んでつるのムチからのタネばくだんのコンボに入っていた。
「バカめ! 僕様にはくさタイプが効かないどころかむしタイプには天敵なことも忘れたか! せっかくだから貴重なむしタイプの技でトドメを刺して……」
「タネばくだん着火!!」
「ぶびゃああああ!!」
汚い悲鳴をあげてタネばくだんの爆発に巻き込まれるガジュマル、ヌケニンの低い耐久力は一発の攻撃すら即死圏内となり……ガジュマルのダメージに合わせて周囲の空間に亀裂が入り、粉々に吹っ飛んだ瞬間……身体の感覚が変わり、気がつけば全員元の体に戻っていた。
「あっ……元に戻ったぞ! でもなんで攻撃が通ったんだ?」
「みずびたしよ、ナマコブシが覚える技で……この技が当たった相手をみずタイプに変えるのよ」
「そう、みずタイプになればヌケニンはくさタイプが弱点になり……ふしぎなまもりの無敵は破られる」
「なぜだ!! そもそもあの技を無効化できるはずじゃ」
「ふしぎなまもりで無効化できるのは攻撃技だけよ……まあ後は、ナマコブシがみずびたしを覚えられること、私がちゃんとフシギソウのBURSTハートを持っていたこと……貴方以上にラックが上回ったといったところね」
「そ……そんな……」
こうしてガジュマルを撃破し、元の体を取り戻した一同……他のところでも混乱から一転してもとに戻るが、そうなるとまたBURSTハートが身体が戻った弊害で所持しているものが変わるだろう。
まあ、最初にあくタイプを持っていたものとこの4人は関係ない事だが。
まずカルタがクランにフシギソウのBURSTハートを渡し、リョウガがカルタにアギルダーのBURSTハートを渡す。
やはり自分が使い慣れているものを使うのがしっかりくる。
クランにとってもどうにか相棒を離さずに済んだ。
「今更聞くけどなんでカルタはクランと組んでいたんだ?」
「ちょっとした同盟故に……もし拙者か優勝すればクラン殿にアギルダー以外のBURSTハートを全てお譲りすると」
「ああ、こいつはどうしても十億円が欲しといってな……俺は特別金が目当てでもないから俺が勝てば賞金はあげるつもりだ」
話を少し前まで遡る、ダブルパークのポケモンと戯れていたクランはリョウガの身体をしていたカルタと出会い、元の体を取り戻す協力をしていた際に……同盟を取り付けて、カルタが自分が出場した身の上話をした。
カルタの故郷であるクーガ村は現在、流行病によって多くの人が寝込んで危機に瀕する状態……遂には母まで倒れてしまい、全員分の治療薬を用意するためこの大会に参加したという。
それと同時に……村の落ちこぼれだった自分が何か役に立てたと勇気づけるものが欲しかったと。
クランは村の為にもなりたかったが、何よりカルタの頑張りを尊重したい気持ちもあった、時にBURST戦士は私欲に走るものもいる、グレートガベルやリーフカンパニーのような奴らもいる。
何より……。
「お前のBURSTハートはお前にとって大事なものか?」
「ええ、アギルダーのBURSTハートは村長のシンボルであり……父の形見、今は拙者が譲り受けたものでござるが」
「俺はそれを破壊しアギルダーを解放することになる……それでいいのか?」
「……時たま、拙者のような落伍者が持つよりはアギルダーをのびのびと離して手を貸してもらうほうがきっと役に立つと思うのですよ」
……ということもあり、カルタは賞金、クランはBURSTハートをそれぞれ回収することを条件に手を組んだ。
もちろん互いに優勝できなければ意味がないが、その為に命とも言える存在を託してきたわけだが、ここで何かに気づき通信機を押すが反応がない。
「……ラズ達に繋がらない?」
「え? 嘘……やだ、壊れてるわこれ」
ミルトはラズの身体だった時にBURSTハートに夢中になっているうちに通信機が故障してしまったらしい。
ではミルトのものを貸すべきか……とも思ったが、リョウガが入ってきたときに手ぶらで船から出たので何も持ってない。
「……ねえここから船まで何キロ?」
「どっちにしても大会が終わるまで船には帰れないぞ」
「いや勘弁してよ……私真剣に風邪ひきそうなんだけど」
「俺としてもラズ達が心配だな……俺が大会に出場して、その間にリーフカンパニーについて調べてもらおうと思ったが」
「リーフカンパニーで何かあるのか?」
「リョウガは本当に戦いたかっただけだな……聞いてないのか、リーフカンパニーがBURSTハートを売り出したからこんなに選手が集まっているんだ」
「拙者の方もBURSTハートは村に伝わる秘伝の力として代々受け継がれたもので、まさか実際にポケモンが封印されていたと聞いた時には動揺したでござるが……」
過去のオリジナルの持ち主でもその力を正確に把握しているものは少ないようであり……ならばどうしてリーフカンパニーは突然BURSTハートの存在を知って大量に仕入れることになったのか? きっかけはなんだったのか……。
しかしここまで話してリョウガは丘から飛び降りて次の相手を探しに行く。
「ちょっと話聞いてた!? どこに行くつもりなの!」
「ハリルやヒルグレイツを倒しに行くんだよ! あいつらはポケモンをBURSTハートに出来るんだからここでほっといたらどんどんポケモンをハートにされるぞ!」
「リョウガ……その通りだな、敗退しても何をするか分からない、警戒するに越したことはないな」
クランもリョウガの後を追いかけるように飛び降りてポイント稼ぎを兼ねたグレートガベル討伐を目指して降りていくが……ミルトが残される。
「……あの二人、どうやって降りるか全く想定してないし、バルジーナも普通に船の中なんだけど?」
「それはほら……ナマコブシの身体結構役に立つ故に……」
「ちょっとずつこの舌使って下だれと!? 私はベロリンガじゃないっていうかベロリンガでもそんな芸当しないわよ!!」
そう文句は言いながらもなんとかナマコブシの力を利用して頑張って降りる、カルタは言えば自分が降ろすのに……と思った。
「ところで気に入ったんでござるかナマコブシのBURSTハート」
「それはもう、ナマコブシって粘液が美容にいいからお肌はツヤツヤになったし」
──
ガジュマルの撃破により、空間を歪めていた不可思議な結界──『次元変化(スワップワールド)』がパリンと音を立てて砕け散った。
それまで他人の身体に入れ替わっていたBURST戦士たちの多くが己の本来の肉体を取り戻す。
混乱の時間は終わり、いよいよ本格的な「お宝探しサバイバル」の幕が開こうとしていた。
ダブルパークを一望できる特別観覧室……薄暗い部屋の中で無数のモニターの光に照らされながらノウムは静かに微笑んでいた。
彼は手元のコンソールを密かに操作し、サバイバルの制限時間をそっと延長する。
そして、目まぐるしく変動する選手たちのランキングへ視線を移した。
「……凄まじい追い上げですね」
傍らに控えるスタッフが感嘆の声を漏らす。
モニターの一つに映し出されていたのは、カルタからニドキングのBURSTハートを交換し本来の身体でBURSTしたリョウガの姿だった。
「どけどけー!! 勝つのは俺だー!!」
ニドキング特有の猛毒を使うまでもない、リョウガ自身の身体能力とポケモンの底知れぬパワーが完全に噛み合い両方の『馬鹿力』をもって障害や敵を次々と粉砕し、ぐんぐんとポイントを稼いでいる。
だが、どれだけリョウガが猛追しようともランキング1位に君臨するフロードのポイントはそれを嘲笑うかのように伸び続けていた。
彼が現在使用しているBURSTハートは『コロトック』
決して戦闘向きとは言い難いポケモンであるにも関わらず、その戦績は常軌を逸している。
カメラが切り替わり、フロードの姿が大写しになった。
彼は現在、ハガネールとイワパレスという、強固な装甲と圧倒的な質量を誇る二人のBURST戦士に挟撃されていた。
前後からの鋼鉄と岩の猛攻。しかしフロードは涼しい顔で、ナイフのように鋭く変化した両腕を交差させ、その重量級の打撃を完璧にガードし続けていた。
「……そこだ」
攻撃の連打に生じた、ほんの一瞬の隙。
フロードの目が鋭く細められ、交差していた両腕がさらに巨大な刃へと変貌する。
「上音奏波(クレッシェンドクロス)……!」
振り抜かれた刃から放たれた衝撃波は周囲の大木ごと二人を両断する勢いで襲い掛かった。
ハガネールとイワパレスの巨体が同時に吹き飛ばされ、轟音と共に地に伏す。またしても高得点がフロードの元へと転がり込んだ。
「おお、やっぱりフロードは必殺技みたいなの使えるんだ」
……それは、ただのシザークロスではない。
相手の攻撃を耐え抜き、ダメージを蓄積させて爆発的な力として跳ね返すカウンター技『がまん』。それを『シザークロス』と融合させた、フロード独自の凄まじい必殺技だった。
しかも恐ろしいことに、性質上すべての攻撃を一度その身で受ける前段階があるにも関わらず、彼の息は全く乱れておらず、深手を負っているようには見えなかった。
BURST戦士にとって、ポケモンの技を応用した自分だけの必殺技を使えるようになってようやく一流ともいえるが……まさか拾いたてのBURSTハートでここまで出来るものが居たとは……。
「社長が見込んだ通りの逸材ですね、あの2人は」
「まあね。何せ、あのレシラムとゼクロムのハートの継承者……キレードとガリュウの子だから」
ノウムは満足げにモニターを見つめる。
BHS(バーストハート・サバイバル)を開催し、彼らを参加させた理由の一つ。
それは、このレシラムとゼクロムという伝説のポケモンをハートにして継承した二人の数奇な運命を接触させることにあった。
だが想定以上の収穫もある。それ以外のBURST戦士たちの中にも、立場はどうあれ光る才能を持つ者が数多く紛れ込んでいたのだ。
所持しているハートやポケモンの適性を見極め、スタッフたちが早くも現段階での第3回戦進出候補をリストアップしていく。
しかし、その優秀なリストの中に、ひときわ異彩を放つ「異物」が紛れ込んでいた。
「……社長。この人物は元々、BURST戦士としてエントリーしていませんよね。排除しますか?」
「ミルト殿あまり暴れないでくだされ!!」
「うるさいわねこっちは『みずびたし』と『あまごい』しか出来ないのよ!!」
スタッフが指差した先には、ナマコブシのBURSTハートを使い、なんとも形容しがたい奇妙な姿で適応しているミルトの姿があった。彼女はやけくそ気味にポイントを稼いでいる。
「いいよ、別に。勝ち進んでいるなら、それもそれで面白いし……」
ノウムはくすりと笑い、意味深な視線をミルトの映像に向けた。
「まさかとは思うが、あいつね……」
その時だった。
和やかな空気を切り裂くように、別回線から緊急の暗号通信が入る。
ノウムの手元の端末に直接届けられたその極秘資料を開いた瞬間、彼の表情から笑みが消え去った。
──ダブルパークの中心部、その最深部に封印されている『破壊の繭』が、再び鼓動を始めたという報せ。
「……3回戦までには間に合いそう?」
「上手く持たせたとしても、3日が限界かと」
スタッフの額に冷たい汗が伝う。
「分かった。……『イベルタル』のことは、何があっても周囲に知られないようにして、絶対にこのBHSは成功させる」
ノウムの声は、これまでの飄々としたものから一転、冷酷なまでの決意を帯びていた。
参加しているBURST戦士たちはおろか、世間の誰も知らない、BHS開催の『もう1つの目的』。それを果たすためならば、手段を選ぶつもりはなかった。
さらに別部署からの通信が入る。HAMの隊員が新たなポケモンを保護したという報告だった。回収されたポケモンたちは、一通りこのダブルパークへと送られてくる手はずになっている。
「でも、ここまで用意してもまだ焼け石に水かなぁ……。目覚めるのを先送りにしているだけだし」
ノウムがポツリと漏らした弱音に対し、スタッフは重々しく首を横に振った。
「もし、あのイベルタルが目覚めるようなことがあれば……1000年以上の時を経て、人もポケモンも無差別な『死』という災害に怯えることになります。それを止めることこそが、我々の使命です」
部屋の空気が張り詰める。
モニターの中で無邪気に戦い、競い合う若き戦士たちの光景と、地下深くで脈打つ圧倒的な死の気配。その二つを天秤にかけながら、スタッフは深く一礼し、静かに告げた。
「……ノウム社長こそ、今の『アルカデス』なのですから」
──
「タネばくだん!」
クランも茂みに隠れて罠のように遠くからタネばくだんを起爆させてトラップのような形で相手に攻撃を仕掛ける。
ここまで攻撃を繰り返せばレベルも上がって新しい技でも覚えそうなものだが、ミルトの言う通りBURST戦士が自身のタイプと同じ技しか覚えられない場合非常に厄介だ。
それはつまり大体のポケモンが使えて基本的な攻撃が揃っているノーマルタイプの技が使えない、複合タイプで謎にノーマルが付いている物は多いが、BURST戦士においては利点になる。
クランとしては早めにフシギソウのBURSTハートをミルトから回収したかったので拘っていないが、もしかしたらこの大会中にも既にハートの当たり外れが決まってきたころかもしれない。
そして何よりリーフカンパニーの配布からBURSTハートを手に入れた人々は薄々こう思う人々もいるだろう。
BURSTハートは……思ったよりも使い辛い?
そんな雰囲気を醸し出しながら……第2回戦が終わったことを告げるアナウンスが流れた。
実を言えばノウムがこっそり制限時間を延長しているので、まだ少しだけ終わりではないのだが……全てのBURST戦士達が船へと戻っていく。