ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第12話「イベルタルとBURSTハート」

 クランが孤独にグレートガベルと戦う上で常に心に引っかかっていたことがあった。

 それは、BURSTハートを破壊した際の後始末である。

 たとえハートを破壊して閉じ込められていたポケモンを野に放ったとしても、グレートガベルという組織が存在する限り、彼らはまたポケモンを捕まえて新たなハートに変えてしまう。

 組織の根源を壊滅させない限り、現状は「封印」と「破壊」のいたちごっこにしかならない……だからこそ、解放したポケモンたちを安全で適切な場所に保護することが、現状で考えうる最善の防衛手段だった。

 

 もちろん、クランも無策だったわけではない。

 傷ついているポケモンたちは出来る限りポケモンセンターへ運び、あるいは外部通信を利用してポケモン研究所に送って管理してもらっていたこともある。だが、一個人の活動にはどうしたって限界があり僅かな量しか出来ていない。

 そんな折に偶然のような形でラズやベリーたちと出会い、彼らが所属する保護団体『HAM』の存在を知った、あの時バスラオの救助とグレートガベルとの戦いを得てラズたちもクランから事情を聞き、互いに「ポケモンを救いたい」という純粋な気持ちが一致した。

 そうして旅をしながら、保護団体の仕事を手伝いつつも解放したポケモンをHAMに保護してもらうという協力関係が築かれたのだ。

 

 そして今……ノウムの口から語られた事実によれば、HAMに保護されたポケモンは全てこのダブルパークに寄贈されていたという。

 確かにこの島のポケモンたちが異常なほど人懐っこいことは、大会中にジグザグマやゴーゴートなどから手を貸してもらったクラン自身がよく分かっている、だがそれは楽園でのびのびと暮らしているからではなかった。

 人間に従順となるよう、あらかじめ“躾けられて”いたからなのだ……完全なるBURSTを通す為だけに。

 

「グレートガベルと同じ手段で、BURSTハートを人工的に作っていたのか……」

 

 クランが奥歯を噛み締めながら睨みつけると、ノウムは余裕の笑みを崩さずに首を横に振った。

 

「少し違うのは、人工的にローコストでBURSTハートを開発したのはうちのリーフカンパニーの方だ。その技術をそこにいるようなグレートガベルが悪用している形になってるから……俺たちとしても困ってる側でもある」

 

 ノウムの言葉にクランは絶句した。

 BURSTハートへの封印技術をグレートガベルに奪われてしまうことは、リーフカンパニーとしても、自分たちが使うはずだったポケモンを横取りされることになり痛手となる理屈。

 そこで作られたのが、HAMという保護団体とダブルパークという名の海に浮かぶ巨大牧場だった。

 グレートガベルが拉致したポケモンをBURSTハートに加工したとしても、時にクランのような真実に触れ破壊を選ぶ正義感で動く人間が現れる……そうして解放・確保されたポケモンをHAMが保護し、安全なダブルパークへと寄贈する。

 人間を信頼しきった無防備なポケモンたちは、この島で誰の邪魔をされることもなく、再び効率よくBURSTハートへと変換されるのだ。

 仮にそのハートが再びグレートガベルに奪われたとしても、またクランかそれ以外の誰かが破壊してHAMの保護ルートに乗り、ダブルパークへと送り返されてくる為決して資源が無駄にならない、あまりにも残酷で完璧なマッチポンプのサイクルだった。

 

 だが、ノウムの野望はただ効率よくBURSTハートを量産することだけではないようだった。

 

「ただBURST戦士が増えてほしいというのもあるけど、肝心なのは『なぜ今、アルカデスもBURST戦士も歴史の影に埋もれつつあるのか?』ということも考えてるんだ。俺がリーフカンパニーを作ったのもシルフカンパニーへの当てつけだったしね」

 

「シルフカンパニーだと……?」

 

 クランもその名は知っている。

 近代に入ってより実用的にポケモンを使う手段が確立された……それが誰もが知る『モンスターボール』だ。シルフカンパニーが作り出したポケモンを手軽に捕獲し、携帯するための画期的な道具。

 作られてからまたたく間に各地へ注文が殺到したぐらいには、モンスターボールの存在はポケモンと人間の関係において革新的であった。

 

 更に言えば、道具の発展以外にも時代の流れを作ったものがある。それこそが現代で未だに道に進められているポケモンを研究する者たちの存在だ。

 代表的なのが、かつて1000種類存在するポケモンのうち151種類を解明したとされるオーキド・ユキナリ氏。彼をはじめとする研究者たちは、モンスターボールの流通後にポケモンを道具のように扱い迫害する流れが起きないよう、ポケモンたちの愛護や権利の改善といった活動を推進した。

 そうした歴史的背景があるからこそ、ポケモンを石の中に封じ込めて人間の肉体と強制的に融合させる『BURSTハート』の真実が公になれば、間違いなく非人道的だと非難の的になる。

 

「だがね、これが君の求めているものへの答えだが、俺なりにアルカデスとしての『大義』も存在している。故に聞くが、君の望みはなんだ?」

 

 ノウムの真っ直ぐな問いかけに対し、クランは迷うことなく言い放った。

 己の信条、そしてこれまで救えなかったポケモンたちへの想いを込めて。

 

「ポケモンという尊い生命を、一方的に冒涜するような真似を許さない。あくまで俺自身の気持ちではあるがな」

 

「そう。今の時代、ポケモンも1つの命として尊重されるものとなり、単なる道具として利用されるものではない……というのはよく聞く話だ」

 

 ノウムは満足そうに頷き、そしてデスクの上に置かれたリモコンを弄りながら、ひどく冷たい笑みを浮かべた。

 

「だからこそ、BURST戦士もやり方を新しくするべきだね。……少しでも俺の『収穫』を手伝ってくれた君に、面白いものを見せてあげるよ、ちょっとした昔話になるんだけどね……君の言うアルカデスという存在にも関係する話だ」

 

 一説によれば……ポケモンの歴史は人間よりも深く、長い。

 この世の時間も空間も、一つの環境も、あるいは理不尽な災害すらも……それぞれが特異なポケモンの力によって形作られ今の世界に至っている。

 

 故にポケモンとは、神話や自然と一体となった存在であり、今なお神秘として崇め奉る者も少なくない。

 だからこそ……ポケモンの力のみに固執し、その生命を無視して単なる道具として利用する事は、大いなる自然への冒涜とされる……。

 

 かつてリョウガの父であるガリュウやその仲間たちと組んで旅をしていた頃、ノウムは彼らからそんな話を聞かされていた。

 

 そして……ある日、まさにその冒涜に対する天罰が振り下ろされるかのように、厄災そのものと呼ぶべき存在が姿を現した。

 あらゆる概念を宿すポケモンたちの中には、生命に対して平等かつ理不尽に襲い掛かる『死』という概念すらも支配する存在がいる、それこそが赤い翼を持つ伝説のポケモン『イベルタル』。

 

 

 寿命が尽きる時、繭の形となって眠りにつくまでに、周囲のあらゆる命を無慈悲に奪い尽くすという破壊の化身。

 その寿命が間近に迫ったイベルタルが、突如としてBURST戦士たちを襲い始め、各地に甚大な犠牲をもたらしたのだ。イベルタルの寿命は本来1,000年という途方もないサイクルであるはずだが、異常に早い周期で覚醒し、彼らの目の前に現れた。

 

 グレートガベルとの長い死闘を繰り広げながら、その異常事態の答えを探求し続けたガリュウは、やがて恐るべき真相へと辿り着いた。

 

 イベルタルは、BURSTハートから同胞のような意志、あるいは同質のエネルギーを感じ取り、自ら獲物を欲するように近づいてきていたのだ。

 そして力を解放し、周囲の命ごと破滅をもたらす……。その惨劇の後に残されたのは、破壊の繭となるべく飛び去っていくイベルタルの姿と、まるで雨粒のように地に降り注ぐ無数のBURSTハートだった。

 

「オリジナルのBURSTハートの正体は、イベルタルの繭と同じ原理……イベルタルの犠牲となった際に生み出される、一種の保護膜だったようだ」

 

 淡々と語るノウムの言葉に、クランは息を呑んだ。

 オリジナルのBURSTハートの真実……それは人間の理解と力を圧倒的に超えた代物。

 

「つまり……BURSTハートとは本来、あのイベルタルが作り出したものだということか……!」

 

 イベルタルは寿命を補うためか、あるいは本能でBURSTハートに引き寄せられ、生き物から生命力を奪い尽くしては破壊の繭へと還っていく。

 このまま人間が知らずにポケモンをBURSTハートとして利用し続ければいずれイベルタルの生命周期に世界中が蹂躙され続けることになる。BURST戦士が存在する限り、連鎖は終わらない。

 

「ガリュウさんのゼクロムがハートになってしまったそうなら……おおかた、イベルタルに正面から挑んで負けたんだろうね。伝説同士の戦いだから、どれほどの被害が出たかは考えたくもないけど……」

 

 ノウムはどこか他人事のように肩をすくめた。

 この時代のBURST戦士たちが生き残るための最大の課題は、この『イベルタル』を攻略することにあった。

 

 ガリュウはアルカデスになる前に、ポケモンが『死』を宿すのであれば、逆に『命』を尊び、それを司るポケモンも必ずいるはずだと信じ、遠い海へと渡っていった。

 

 だが、ノウムは彼らに同行しなかった。気がつけば彼自身が新たな『アルカデス』という座に就いており、ガリュウとは全く異なる、彼なりの冷酷な結論を導き出していたのだ。

 

「あの化け物が目覚めたりBURST戦士を引き寄せる原因が命のやり取りにあるなら……命を持ってないポケモンを使えばいいんじゃないかってね」

 

 1000種類を超えるポケモンの中には人間の好奇心や強い意志によって人工的に作られたものも存在するが、その数は極めて少ない……例えるなら『ポリゴン』とか。

 しかし、数多のポケモン研究者の中には、倫理の壁を越えて非常に『興味深いもの』を作り出す者たちがいた。

 

「本当は第3回戦で性能を確かめる予定だったんだけど……せっかく俺の所まで来てくれたんだから、きちんともてなさないとね」

 

 ノウムが足の裏で椅子の裏側にあるスイッチを押すと、ガタンと音を立てて床が沈み、彼の姿が地下へと消えていく。

 

「逃がすか!」

 

 逃げるチャンスをうかがっていたハリルが咄嗟に追いかけようと飛び出すが、背後から迫る巨大な影にその行く手を阻まれた。

 そこに立ち塞がっていたのは、屈強なカイリキーと……HAMから派遣され、これまで幾度となくラズたちやクランの窮地を救って……直前に裏切り、ラズたちを襲ったチーフ、あのチーフだった。

 

 だが、次の瞬間、クランの目を疑うような光景が広がる。

 チーフの身体から何かが外れるように……いや、まるで一つの粘土の塊が分離するようにドサイドンの屈強な背中から蠢く何かが抜け落ちる、そしてその塊は空中で形を変え、あろうことかゴルバットの姿へと変貌を遂げたのだ。

 

「そんな……チーフ、お前はまさか……生き物ですらなかったのか!?」

 

 クランの悲痛な叫びが響く。

 血も肉もない、心すら持たない命なきポケモン。それは完全に1から全てを複製され、無機質な情報の塊だけで構成されたおぞましき存在。

 ノウムが作り出した、新世代のBURST戦士の圧倒的な力となるものだった。

 

 どこかのスピーカー越しに、ノウムの楽しげな声が部屋に響き渡った。

 

「名称するなら……そうだな、『ミラージュポケモン』かな」

 

「人工BURSTハートの次は人工的なポケモンだと……ふざけているのか! この程度……」

 

 ハリルはあくのはどうを球体にして足で何度も弾ませる……覚えがある、キャロラも使っていた技のエネルギーを球体にして発射する技だ。

 

「闇影射球(ナイトシャドーショット)!!」

 

 ハリルが力強く球体エネルギーを蹴り飛ばすが……カイリキーは燃え上がりながら突っ込んで跳ね返しそのままハリルを掴む……それどころか、ゴルバットが全身に稲妻をまとってハリルに向かって振り注ぐ……異常だ、異常すぎる。

 

 カイリキーはかえんぐるまを覚えないし、ゴルバットは10万ボルトを絶対に使えない。

 チーフはがんせきほうしか使わないと思っていた、ドライアイスや水風船で技に試行錯誤していたのは……ただのカモフラージュ、実際は……チーフが強い冷気を放つ、こごえるかぜくらいならドサイドンも覚えるがそんな規模ではない……これはふぶきだ!!

 

 ハリルどころかクランまで道連れにしていく勢い、ボールで使役できずポケットに入らなければそれはただのモンスター。

 しかし、クランにはまだ決め手がある。

 ラズ達が手に入れたウォーグルは紛れもなく……本物だ。

 

「ウォーグル! いわくだきだ!!」

 

 決死で背後を守っていたウォーグルに指示を出すと真っ先に飛び出して鉤爪で力強くチーフを殴り抜けて飛ばすが、隠し通すことを捨てたチーフやミラージュポケモン達は容赦なくでんきタイプの技を一斉に注ぐ……が、さらにそこから人影が飛び出して全ての電気技を受ける……BURSTハートも持たず、生身でリョウガが自分達を庇うように技を受け止める。

 

 更にそこから伸びてきた中身がハリル達を掴み、窓の外からミルトが合図を送りボールからバルジーナを出してなんとかウォーグルと共に外へ運び出していく。

 

「大丈夫かお前ら!!」

 

「こんな状況じゃなかったらこっちがそう言いたいくらいだリョウガ……」

 

 ミラージュポケモン達が次々と増えようとするが追いかけようとしない、あまりにも騒ぎにならないように誘導したのだろう。

 しばらく離されてからハリルは自分から飛び降りて海に落ちる。

 リョウガが手を伸ばすがミルトに止められる。

 

「ハリル!」

 

「よしなさい、元々あいつはグレートガベルよ、そこまで助ける義理はないわ」

 

「助かったがどうやって騒ぎを聞きつけた?」

 

「クランに会おうと思ったらウォーグルが空飛んでたからラズに会おうってなったらまた戻ってきて……で、ミルトを探していたら揉めてたから」

 

「……その猪突猛進さに助けられたな、それより一緒にラズ達に来てくれ……」

 

 またラズに会って全てを話さなくてはならない、受け入れられないだろう、自分でも動揺が隠せない。

 それでも……知っておかなくてはならない。

 また花畑に戻った後、ラズ、ベリー、リョウガとミルトにも全てを話す。

 全員にとって無関係な話ではないから……。

 

 

 ──

 

「……あー、待って、待って待って待って、ちょっと整理が追いつかない、一気に公開される真実が多すぎてちょっと処理しきれない、リョウガわかる?」

 

「リーフカンパニーの社長がアルカデスは俺も聞いたけど……つまり父さんがそのイベルタルってポケモンと戦ってゼクロムはやられて、父さんは別のところへ……」

 

「まあリョウガが覚える範囲はそれでいいだろう、だが俺やHAMにとっては……」

 

 無理もない、ただでさえ信じたくもない衝撃的の話を聞かされてラズもベリーも何も言えない、ミルトがどうにかリアクションしてるぐらいだ。

 自分達が保護したポケモンはBURSTハートに加工されるために存在して……いや、それどころかミラージュポケモンという物に利用されていた、チーフも最初からその為に作られて監視していた。

 

 BURST戦士が生まれた原因が伝説のポケモンの力……というのはともかく、それをわかっていながら現在のアルカデスはポケモンを利用してBURSTハートと解放の繰り返しを利用したどころか、BURST戦士さえも駒にしようとしている、恐らくはイベルタルのために。

 

「信じていたのに……ダブルパークで仲良く暮らしてるこの子たちを見て……自分達はちゃんとポケモンの為になる事をやれていたんだなって……いえ、ここでへこたれちゃだめなんです」

 

 

 ラズは……耐えた、本当は心が折れても無理もないのにミノムッチを撫でて平常を無理に装っている。

 こんなことを聞かされてもまだ、ポケモンを信じているからこそ。

 

「ラズ……お前」

 

「形を変えてみるだけです……ここで絶望してふさぎ込んだら、それこそ騙されただけで終わってしまうんです、僕はもっと、BURSTハートという道具にされない形でポケモン達を守る方法を……諦めません」

 

「そうだな! 父さんだって諦めてないんだ、俺も諦めない! まずグレートガベルとイベルタルを俺が倒す!! そして、社長より父さんや俺がアルカデスにふさわしいって証明する!!」

 

「そうだな……俺もアルカデスの力がポケモンを救うことは期待できそうにないし、今は奴らがBURSTハートを作ることを止めることに専念するか」

 

 クランとリョウガ達は改めてBHSを勝ち進むにしても、これからHAMの三人はどうしていけばいいのか……裏切ろうにもリーフカンパニーの権力は地味に強い、簡単に揉み消されてしまうしミラージュポケモンに喧嘩を売るには心持たない。

 ……自分たちはまだ弱い。

 

 

「……クランさん、第3回戦頑張ってくださいね」

 

「ああ……お前こそ、何かあったら大会の途中でも助けに行く」

 

「大丈夫よ、私がついてるし……私はHAM辞めるつもりだけど2人はまだ諦めないのね」

 

「え? ミルト辞めるのか?」

 

「こっちとしては正義の諜報員のつもりで活動してたし、保護担当じゃないからね……それにほら、私はBURSTハートを変なふうに使えるし!」

 

 自信ありげに言うミルトだが、ここでミルトがBURSTハートの融合による肉体の変換が切れないこと、アルカデスについて調べていたことが分かる。

 ミルトが集めた情報と照らし合わせると完全に力を物にできないと石になるというのはイベルタルが関係しているだろう。

 

「なあミルト、父さんが探してるような命を司るポケモンに心当たりは?」

 

「もちろんあるわ……まさにそんなポケモンがね、でも今は勝ってからよ!」

 

「よっし! 待っていろアルカデス!!」

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