ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第13話「島丸ごと開拓レース!」

 翌日、海の上で何かあった合ったことも感じさせずゆらゆらしている豪華客船は、夜中に起きた騒動など何事もなかったかのように静まり返っていた。

 いや……リョウガたち以外にも参加者であるBURST戦士たちの中にも不自然な物音や気配に薄々勘付いている者はいた。

 しかし、誰一人として明確な証拠を掴めないまま、あるいは見て見ぬふりをするように……あるいは最初から関心が無かったようにBHS(バーストハート・サバイバル)は無情にも次のステージへと進行していく。

 最もその方がクラン達には都合が良いところもあるが。

 

 いよいよ幕を開ける第3回戦。

 運営から発表されたその内容は『島丸ごと開拓レース』という規格外のものだった。

 未だに100人以上が生き残っている選手たちをくじ引きでいくつかのグループに分けて島内に設定された共通のゴール地点まで競争するという至極単純なルール。

 

 しかし舞台となるダブルパークに残されている未開拓地域はポケモン向けに作ったものであり、当然ながら人が走るような整備など一切されていない。

 鬱蒼としたジャングル、険しい岩肌、底なしの沼地……それらを突破するには、BURSTしてポケモンの力を借りることが大前提となる。

 さらに残酷なのはその通過条件だ。

 

『各グループから勝ち残れるのは、先着3名のみ』

 

 ここにきて、まるで打ち切りが確定した漫画のような勢いで参加者の大半が一気に振り落とされる過酷なサバイバルレースであった。

 クランは再び返された自分のBURSTハートを静かに見つめた。

 傷や濁りはない……ノウムが作り出した『人工BURSTハート』にすり替えられた形跡はなく、間違いなくオリジナルのままだ。

 その気になれば中のポケモンの種族が同じだけの別の石に変えることも出来るので警戒は緩めない。

 

(ノウムはこのレースの最中に、あの不気味な『ミラージュポケモン』を確実に差し向けてくるはずだ……)

 

 あの無機質で圧倒的な力を持つ化け物たちの存在を知っているのは現状クランとハリルだけである。

 他にもどんな罠が仕込まれているか分からないが、立ち止まるわけにはいかない……今はとにかく、この理不尽なレースを勝ち抜くことだけを考える必要があった。

 

 

 グループ分けの結果、クランはリョウガとは別のルートへ振り分けられた。

 リョウガの実力ならほぼ勝ち上がれることを確信して自分が勝つための作戦を今のうちに考えながらスタート地点まで案内される。

 

 彼が向かったスタート地点は、足場が悪く視界も開けない沼地エリア、じめんタイプのポケモンなどが既に生息して、無警戒なウパーやカラナクシが見慣れない人々を興味深く眺めている。

 

 スタートラインに並ぶ数十人の参加者たちを見渡すと、彼らが所持しているBURSTハートの意匠やオーラからは、どれも凶悪で戦闘に特化したポケモンばかりが透けて見え、化け物揃いの様相を呈していた。 

 そんな殺伐とした空気の中、クランの視界に見慣れた、そして場違いな人影が映る。

 

「ミルト……お前、リョウガと別のグループだったのか」

 

「あ、クラン! あなたがいたのね!」

 

 この中で唯一の知り合いであるミルトが、のんきに手を振ってきた、元々観客だったのにまさか2回戦の入れ替わり事件でBURST戦士になってそのまま3回戦まで上り詰めてしまうなんて前代未聞の形でここにいることになるが……。

 

「そういえばお前……元々BURSTハートを持ってない状態で、事故みたいにこの大会に出場してたが、心細くないのか? そもそもハートはどうしたんだ」

 

 クランが尋ねると、ミルトはポケットからごそごそと一つのBURSTハートを取り出して見せた……それは2回戦で彼女が拾った(正確にはその時拾ったのはリョウガでもあるが)、黒とピンクの奇妙な模様をした石……ナマコブシのハートだ。

 

「これなんだけどね……ほら、ナマコブシってBURSTハートにして融合しても、パンチとかキックとか、そういう普通の攻撃が全く出来ないどころか、技も全く使えなかったじゃない…… だから終わった後、本来の持ち主が『こんなハズレいらない』って捨てたのを、私がそのまま貰った形」

 

「……お前はお前でそれでいいのか?」

 

 ミルトは得意げに笑う。

 

「身体の中が融合して『中身』が飛び出すようになるの、どうやら私しか出来ないみたいだし……ちょうどいいかなって!」

 

 その笑顔の裏にあるグロテスクな能力の仕組みに、クランはわずかに顔を引きつらせた。

 スタート地点の立ち位置は、第2回戦までのランキング順で決められていた。

 

 それなりの成績を残しているクランは集団の真ん中付近だったが、ギリギリで通過してきたミルトに至ってはほぼ最後尾の配置だ。

 しかし、ミルトは最後尾という不利な状況にも焦る様子を見せず、スタート開始前からその場でくるくると奇妙なステップを踏み、何やら天を仰ぐように舞い続けている。

 

『では第3回戦! 島丸ごと開拓レース……開始です!!』

 

 島中に響き渡るアナウンスと共に、レースのカウントダウンがゼロになった。

 

 その瞬間──異変が起きた。

 ゴロゴロと空が唸りを上げたかと思うと、沼地エリア一帯の天候が急激に荒れ狂い、バケツをひっくり返したような大雨が降り始めたのだ。

 ただの雨ではない。このダブルパークはポケモンを住まわせるために土地を作り立ての状態であり、排水や地盤の整備など一切されていない。

 

「うおおおっ!?」

 

「なんだこの雨! 足場が沈むぞ!!」

 

 大量の雨水が行き場を失い、沼地や周囲の川はいとも簡単に決壊。発生した凄まじい鉄砲水と泥流が、スタートダッシュを切ろうとしていた選手たちを後方からまとめて飲み込み、容赦なく押し流していく。

 

「仕方ない……! BURSTフシギソウ!!」

 

 クランは即座にBURSTし、腕から『つるのムチ』を射出。泥流に飲まれる寸前で強靭な木の枝にムチを巻き付け、ターザンのように宙を舞って難を逃れた。

 眼下では屈強なポケモンと融合した戦士たちが、力を発揮する間もなく泥水にもがいている。

 木々の間を飛び移りながら、クランはハッと息を呑んだ。

 

「ああ……そういえば、ナマコブシは水の攻撃技がない代わりに、あの技が使えたな……」

 

 自分と同じタイプの技しか使えないというBURST戦士の制約。

 ナマコブシが覚える数少ない変化技、それは──―『あまごい』。

 クランが背後を振り返ると、大混乱に陥る最後尾から、凄まじい勢いで木々を飛び越えてくる影があった。

 

「あははははっ! 大成功!」

 

 ミルトだ。彼女は口からナマコブシの特性である『とびだすなかみ』をロープのように射出し、あちこちの太い枝や岩に引っ掛けては、振り子の要領で猛スピードで宙を飛んでくる。

 

「リーフカンパニーだって、手段を選ばずにこの大会(サバイバル)を進める気だったんだから……こっちだって正攻法ばかりで進むほど、善良に生きてないのよ!」

 

 ミルトは泥水に流されるライバルたちを見下ろし、力強く叫んだ。

 

「私はここから勝って、絶対にリョウガと同じ所に行く!!」

 

 その瞳には、保護団体HAMの元諜報員としての意地と、仲間たちと共に真実を暴くという強烈な執念が燃え上がっていた。

 

 クランはすぐ近くの木を飛び越えているので少々危なっかしいが濁流をスレスレで回避していく。

 だが背後から、木に引っ掛けて宙を舞う……どころか、枝を蹴って飛び跳ねるようにより俊敏に移動している、雨の勢いにも押されずぐんぐん進んでいく。

 

「あれは……体毛!? 両腕の毛があんな風に伸びるのか!?」

 

「小細工のみでは真なる強者は崩せん、山を越え、激流に逆らい……私は嵐でも止められんぞ!」

 

 BHSランキング7位、コジョンドのBURST戦士『シン』……大雨で足を取られやすいはずなのに裸足で全く堪える様子もなく不安定な足場をくぐり抜けて一気にトップへ。

 ……ところで、コジョンドの体毛ってあんな風に伸びるものじゃなかった気がするがそんなことミルトがあんな変わり方してる時点で今更すぎる話だった。

 

 木を足場にしているだけでは抜かされる……クランは自分の使える技を思い出す、はっぱカッター、タネばくだん、つるのむち……ねむりごな。

 

(ねむりごなはBURST戦士には通用しない! 勝手に技を変えるのはフシギソウに悪いが……というか技ってどう変えるんだ?)

 

 1、2の……ポカン! とは言うが実際ポケモンが覚えている技を忘れて新しいものに変える感覚というのはどんな感覚なのか……というところで技のイメージを練り込んでいくと……なんか出来た気がする、自信ないが。

 

「タネマシンガンを覚えた気がする」

 

「気がするだけってなんかズルくない!? 私なんてあまごいとみずびたししか使えないのよ!?」

 

 

「あらその程度……雨で私に優位に立ったつもり?」

 

 シンの後ろから雨に濡れながらも優雅に荒れる泥水の上に乗り闊歩する和服の美しい女性……BHSランキング12位の『ルリマル』

 シンと彼女の2人は北部にある地域で名乗りを上げて優勝候補と名高い……何より互いに因縁があるようであり、ルリマルはBURSTしていないにも関わらず水切りのようなステップでシンに接近する。

 

「シン様、今宵私が勝った暁には今度こそ嫁がせてもらいますわ」

 

「生憎だが……私は私の後ろしか見れぬものと馴れ合うことはありませぬ故に」

 

「相変わらず頑固な方……しかしそんな貴方が愛しいからこそ、私も最初から本気を出すわ、このBHSの為に特別に手に入れた最強のBURSTハートで!!」

 

 ルリマルは水面から大きく跳ねてBURST……彼女の着ている衣服がまるで白い天女のように広がっていき、前髪が大きな角のようにぴょこんと立つ……全体的に白い雰囲気だが、更にそこから衣装の表面に雫柄が塗られていき右目に雨雲の刻印が現れる。

 

「今宵の私は『雨模様』……天光玉・雨色!!」

 

 ルリマルはBURSTしてすぐに真上にエネルギー弾を投げると、雲の上で放出して雨と一緒に振り注がれていき参加者全てを頭上から撃ち抜こうとする。

 ただでさえ氾濫して動けない所に急所に攻撃を浴びる者が多く、次々とこてんぱんにされるというかミルトやクランにも若干当たっている……くさタイプとみずタイプなのでそこまで痛くないが。

 

「……まさかあのBURSTハート、ポワルンか!? これはまた厄介なものを用意してきたな……」

 

 てんきポケモンのポワルン、白い雲の形をしたこのポケモンにある唯一無二の個性は天気に対応して姿を変える。

 先ほどミルトがあまごいをして雨が降り注いでいるのでポワルンは雨雲の力となり、ルリマルは雨の力を自在に使いこなせるようになったわけだが……。

 

「これだけではなくて、美しい今の私は『晴模様』……にほんばれ!!」

 

 ルリマルがシンを追いかけながらポワルンの技を使うと即座に雨雲が止まり太陽が差す……しかし気温がぐんぐん上がって真夏日のように陽射しが強く暑くなる、泥水は熱であっという間に乾いてカチカチになり、泥に巻き込まれていた人達はあっという間に固められる。

 にほんばれによって太陽の光を受けてルリマルの服ながらが変わり、雫模様から日輪模様へと変化、左目に太陽の刻印が塗られていく。

 

 ポワルンは天気が変わるとタイプも変わる、通常はノーマルだが雨ではみずタイプ、晴れではほのおタイプになる。

 BURST戦士は同じタイプの技しか使えないが、ルリマルはこれによって複数のタイプを使える……らしいがミルトは気付く。

 

「それってゆきげしきとあまごいとにほんばれで埋めるのなら……結局ウェザーボールしか使えなくて自由度無いのは変わらなくない?」

 

「変な内蔵出す事しか能がないBURST戦士は黙りなさい!!」

 

「あっムカついたもう1回あまごいしてやろうかな」

 

「やめろみっともない……だが俺も試してみたい技がある、いくぞ……!! タネマシンガン!!」

 

 クランが新しく覚えたのはタネマシンガン、タネばくだんのように爆発はしないが機関銃のように何百という種子がつぼみから放たれていく。

 現在ほのおタイプのルリマルはそれを全て背中で受けて、シンは飛び上がった際の姿勢を変えるだけで軌道を全て読み……ミルトは若干当たっている、多分三回当たった。

 

「痛い痛い痛い!! 私弱点なんだからちょっと加減してよ!!」

 

「加減? いいやこれからだ……俺が飛ばしているのはタネだ、育て……俺のタネマシンガン!!」

 

 固まった土を貫通して植えられた種はタネばくだんとつるのムチを合わせた合体技と同じ要領でぐんぐん育っていき……ただでさえいろんなトラップ攻撃が積み重なっているにも関わらずシン達を塞ぐように植物が……それもただの植物じゃない。

 

「サボテン!? なんでタネマシンガンからそんな物が出来るの!?」

 

「ポケモンになってみてわかった……口から火を吐くのだって、空間を切断するのだって……肝心なのは『やってみたら出来る』の精神だ! 逆に考えればもうサボテン以外は無理そうだがな!!」

 

「なるほど、くさタイプの力を使いこなしたか……ならばこちらも、瞑想演舞・其の一 風裂転舞!!」

 

 しかしシンもコジョンドの力をフルに使用し、両腕の体毛を伸ばして破壊していき突っ込み……ルリマルももう既に太陽のように燃え上がるウェザーボールを構えている。

 

「天光玉・晴色……シン様と私こそがBURST戦士として真の領域に立つもの……邪魔はさせませんわ」

 

「くっ……やはり一筋縄ではいかんか」

 

 クランはなんとか2人にくらいついていく形で追いかける、先着3名なのでこのままでも進出はできるがこの時点で出し抜かれていては優勝など話にならない。

 それで言えば中身だけで移動するのもやっとでヘトヘトのミルトはもはや向こうの眼中にないが、さらにその後ろに川の氾濫、急な日照り、サボテンとBURSTによって作られたトラップの数々で次々と戦線離脱した者たちが後ろに積まれているが。

 

「あ〜あもう……こんな早いうちにリタイアとかだらしないわね、私も少し骨折れるかと思ったけど……そういえばBURSTハートって一個しか持っちゃいけないなんてルールはなかったわね、フフ……」

 

 ──

 

 一方別グループ、山岳地帯ではリョウガがBURSTも使わずに生身で断崖絶壁を這い上がるという異常すぎる結果を残しておりこの勢いだとブッチギリでゴールインしてしまう。

 その姿は他の参加者達の心を折るには充分すぎるものだった。

 

「なんだよあいつ……BURSTもしてないのにあんな事できるのかよ……」

 

「その上でゼクロムなんて持ってんだぞ、あんな奴に勝てるわけねえだろ……」

 

「やる気のない奴は下がれ、私こそ奴の標的にふさわしい」

 

「ふ……フロード!!」

 

 更に向かい風のようにランキングでぶっちぎりのトップのフロードが絶望する参加者を押し退けて山に近づく。

 今回の結果次第ではフロードも逆転されてしまうがそれでも余裕の笑みは崩れず、ここにきて初めて自身の所有しているキリキザンの姿にBURSTした。

 

「山を自力で駆け上がり飛び越えようとするのは対した度胸だ、しかし頂上に到達して駆け上がるまでにどれだけかかる?」

 

 フロードはキリキザンと一体化して刃物と化した状態で目の前で自分の体格以上に巨大化させる圧倒的左腕を作り出し……それを力強く岩山の表面に振りかぶると獣の爪とぎでも出来ないほどの深い傷跡が残る。

 ここから手を入れて這い上がることも出来そうだが……フロードの刃を叩きつける音は止まらない、その場で止まって攻撃を続ける……信じられない作戦だが理解する、本気でやるつもりだ。

 

 フロードはこの山を崩してリョウガを落とすつもりだ……。

 

「鬱陶しいなら先に行ってもいいのだぞ? ハリル、土砂崩れに巻き込まれて下敷きになるのかもしれないがな」

 

「……なぜ俺の名前を知っている?」

 

 ──

 そして山の近くの沼地エリアでは追いかけながら交流ルートに入ってきそう……というところで、遂にそれは現れた。

 山に近いところで草原もないのに……タマゲタケがぴょこぴょこと群れのように飛び出してくる。

 

「あのポケモン……この辺りにいなかったはずだが」

 

 しかしクランがタマゲタケを通り過ぎたその瞬間……身体が強く閃光を放ち、真後ろで大きく爆発する!

 突然の爆発の勢いでシンも体勢を崩すが片手で逆さまに体勢を立て直して立ち上がるも、別のタマゲタケが爆発していく!

 

 全員爆発を避けることに精一杯で順位が崩れていく。

 

 タマゲタケはだいばくはつなんて覚えないし、いくらなんでも人間に向けて一切容赦なく命を投げ捨てるような真似はしない、こんなことが出来るのは……心がない存在だ。

 

「現れたな……ミラージュポケモン!!」

 

 タマゲタケ達はクランを狙うように大爆発するので、シンもルリマルも何かがおかしいことくらいは察せられる。

 説明している暇はないのでクランはリーフカンパニーが人工的に作り出したポケモンであり、データの集合体なのでどんな技を使うことも出来るとだけ説明する。

 

「将来BURSTハートはアレから作られることになるらしい」

 

「なんと侘び寂びのない……しかしあれではとても進めないな」

 

「実際ミラージュポケモンはここから先何をしてくるかもわからない、なんでもありだからな」

 

 

「だが私には考えがある……ここからルート通り進めないなら微妙に迂回する形になれと山岳地帯ルートの方へ周り……一気に沼地を山から一気に飛び越える」

 

 なんと……こちらの陣営も山を利用して大胆にショートカットを狙う。

 その山が今にも崩されそうになっていることは当然知らずに。

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