第3回戦『島丸ごと開拓レース』は、序盤から大荒れの状態となっていた。
森林地帯のグループが順当に競争を進めている一方で、山岳地帯ではフロードの行った大規模な山崩れによって甚大な被害が発生し……クランたちがいた沼地周辺もまた、多くの人にとって想定外の脅威によって地獄絵図と化していた。
その脅威とは密かにノウムが差し向けた『ミラージュポケモン』である。
見た目は普通のポケモンと全く同じでありながら、その中身は全てデータによって人工的に作り変えられている。
本来なら絶対に覚えるはずのない強力な技を、自らの命すら顧みずに発動してくるのだ……地雷のように目の前で次々と起爆した、あのタマゲタケの群れのように。
「このまま正規のルートを進むのは危険すぎる……」
この先に待つミラージュポケモンが、どんな常軌を逸した手段を取ってくるか全く予想がつかない。クランは、危険な沼地エリアを抜け、山の方から大きく迂回して障害を一気に飛び越える作戦に出た。
山岳地帯へと足を踏み入れたクランだったが、そこもまた異様な空気に包まれていた。
見上げる巨大な岩山の表面には、あちこちに深く生々しい亀裂が走っている。山岳地帯からスタートしたグループで何かとてつもない戦闘があったのだろう。先ほどまで視界にいたシンやルリマルの姿はもうどこにもない。
「地道に登っていくしかないか……」
[]クランは崖に手をかけ、己の身体と融合しているフシギソウの力を更に引き出す。身体の表面から『つるのムチ』を伸ばして岩角に巻き付け、それを命綱代わりにしながら険しい斜面を登り始めた。
そうして少しずつでもしばらく壁面をよじ登っていた、その時だった。
──ドグォォン!! とでも響きそうな頭上から凄まじい風切り音がこだましたかと思うと、クランのすぐ横の崖に巨大な影が降ってきた。
「なっ……!?」
驚いて横を見るとそこには別グループに振り分けられたはずのリョウガがいた、彼はこんな山の上でもBURSTすらしていない生身の状態でありながら、凄まじい腕力だけで垂直の壁に指を食い込ませ、落下する勢いを強引に殺して張り付いていた……どうやら山岳地帯グループとはいえ、上から突然飛び降りてきたような形だ。
「クラン! お前、どうしてここにいるんだ?」
リョウガは土煙を払いながら、目を丸くして尋ねてきた。
「俺の通る沼地のルートで、例のミラージュポケモンに襲われたんだ……奴ら、人間相手に『だいばくはつ』を躊躇なく使ってくる。とてもじゃないが進めないから、上位の奴らと迂回しているところだ、コジョンドを使う坊さんのようなBURST戦士を見ていないか?」
「そっちは知らないが……だいばくはつならあれがそうなんだな!? 実は俺のところにも来たぞ!」
リョウガの表情が険しくなる。彼が語った状況はこうだ。
彼が山の頂上付近を駆け上がっていた際、空をピジョンの群れが通りかかった。
すると突然、空の上で花火のような大爆発が連続して起こり、爆発に巻き込まれたピジョンたちが次々と黒焦げになって墜落してきたというのだ。
ただ事ではない危機を感じて一度山を降りようとしたところで、ちょうど登ってきたクランと鉢合わせたらしい。
その話を聞き、クランの脳裏に最悪の推測が閃いた。
「……いや、違う。ミラージュポケモンはピジョンの方じゃない。爆発したのは……あれだ!」
クランが上空を指差す。
空を飛ぶピジョンたちの足には、彼らの餌となる虫ポケモン──キャタピーが握られていた。
もし、あのキャタピーたちがすべて人為的に配置された『作り物(ミラージュ)』だったとしたら?
ピジョンが墜落したのは、獲物として捕まえたキャタピーが空中で突如『だいばくはつ』を起こしたからに他ならない。
野生のポケモンは何よりも生存本能を優先する。
捕まえた餌が次々と爆発し、仲間が撃ち落とされるのを見れば……ピジョンの群れはどういう行動に出るか。
「……まさか、獲物を捨てる気か! 伏せ……ってこんな無防備なところでどうかわせっていうんだ!!」
「掴まれ! なんとか逃げるぞ!!」
クランの叫びとほぼ同時だった。
パニックに陥ったピジョンの群れが一斉に足の爪を緩め、掴んでいた『爆弾』を空から手放した。
パラパラと雨のように降り注ぐ無数のキャタピー。それはまるで、意思を持たない爆撃機から投下される絨毯爆撃だった、咄嗟にリョウガはクランの命綱ともいえるつるのムチを外して背負い、高斜面を駆け出して回るように踏み込んで逃げる。
斜面や岩肌に激突したキャタピーたちが連鎖的に大爆発を起こす。
度重なる爆撃と、すでに亀裂だらけだった山の地盤が限界を迎え、クランたちが登ろうとしていた先の斜面が轟音と共に崩落し始めた。
「くそっ! この 山岳も安全な場所じゃなかったか!」
「クラン、ここは山を降りるしかない……でも下にはフロードもいる!」
山を越えてのショートカットは完全に絶たれた。
このままでは土砂崩れと爆撃に巻き込まれる。クランとリョウガは崩れゆく岩肌を蹴り、決死の思いで山から離脱した。
「かなり大回りになるが、森林地帯の方を回って共通の合流地点を目指すしかない!」
各グループから勝ち残れるのは先着3名のみという過酷な条件の中、この大幅なルート変更は順位の致命的な低下を意味する。しかし、今は生き残ることが最優先だ。
二人は降り注ぐ爆煙と崩落を背に、新たな活路を見出すべく鬱蒼とした森の中へと飛び込んでいった……。
一方下の方ではフロードと近くにいた参加者達に容赦なく零れてきたキャタピーと瓦礫の山が降り注ぎ次々と選手達が巻き添えをくらう。
沼地で追い込まれたものも含めて既に負傷者は何十人にもなろうとしていたが、フロードは腕を一振して落石もミラージュポケモンも真っ二つにして空に大爆発を起こす、山は見る影もないほどに荒れ果てていつ根本から崩れ落ちてもおかしくないが、クランと同じく見てきたハリルは今落ちてきたキャタピーがミラージュポケモンであることに気付き、本当にノウムが出してきたことに驚く。
「……アルカデスというものはどこまで身勝手なんだ」
「お前の怒りも最もだ、空虚な理想を覆して世界に知らしめる真実を示せるものこそがアルカデスの器にふさわしいだろう……故に私がいる」
キリキザンの力を使ってもリョウガにゼクロムを出させなかったことはフロードにとって一生の不覚、となれば出し惜しみも無駄……フロードも遂にもう一つのBURSTハートを取り出して……白い翼に炎をまとい、レシラムの力を引き出した、更にフロードはレシラムと完全に融合しており腕と繋がった翼は大きく飛行には申し分なく、尻尾には大きなノズルのようになって炎を噴き出している。
「レシラムだと!? ゼクロムの対となる真実のポケモン……」
「これが私の真実の姿だ……さあハリル、我々の『勝利』と想定外の結末を見せてやろう」
「その言い草、俺を知る雰囲気にその力……そういうことか、グレートガベルのボスというのは……お前なんだな」
ようやくベールが剥がれる悪の組織の首領……黒き理想の竜と対照的な白き真実の竜を持ち……圧倒的な力とカリスマで世界を従える器……フロード。
彼はハリルを易易と背合い、まるで燃え上がる不死鳥のように一気に羽を広げて突き進む……空からミラージュポケモンとして構築されたエアームドがりゅうのはどうを一斉に飛ばすが……。
「あらゆる力も区別なく使う電子集合体……その程度で私を超えることなど出来ん!!」
フロードは口からレシラム最強の技……青色の炎を吐き出してエアームドを一瞬のうちに散り散りの記号まで消し飛ばして越えていく……リョウガのゼクロムでも届くか分からない完全融合したレシラムの実力……!
──
一方、森林地帯に降りたクラン達は木の陰に隠れながら爆発に巻き込まれて負傷したピジョンの手当てをしていた。
ラズならきっと傷ついたポケモンを見捨ててまで勝ってほしいとは思わないだろう……それにこのピジョンはレース参加者と違い純然たるミラージュポケモンの被害者、キャタピーを食べようとしたのは食物連鎖として当然のことだ。
「ミラージュポケモンと普通の違いって何かあるか?」
「見た目だけだと全然区別がつかないな……そのポケモンが覚えるはずのない技を使う、ぐらいしか判別方法がない」
「でも俺、ポケモンがどんな技覚えるのかとか全然知らないんだよなぁ……クロスサンダーもラズに教えてもらったし」
「まあポケモンがどんな技を覚えるかはベテランでもはっきりとは出てこないからな……だが異常な程に強いポケモンが野生から出たら警戒に越したことはない」
森から合流地点までは結構かかる、ミルトの姿は見えないが下手したら追い越されているかもしれない……森林地帯のメンバーにも巻き込まれないようにしながら先を進むと……。
「り……リョウガ殿……?」
「カルタ!?」
なんと木にもたれて歩けなくなっているカルタの姿が、傷だらけだが沼地も山岳もわりと負傷者が多いだけに森林地帯も大差ないとは想定していたが……。
「悪い、治療は出来ないが教えて欲しい……BURST戦士か? それとも奇妙な技を使うポケモンか?」
「奇妙なポケモン……? クラン殿達も何やら奇っ怪なものを相手しているのでござるな……しかし違います、拙者達のグループに恐ろしいBURST戦士がいます、あのガジュマルのような……」
2回戦でブーピッグのBURST戦士の力であらゆる戦士の精神を入れ替えて混乱を招き、自身はヌケニンのBURSTハートで無敵になっていたガジュマルと同じ系統、つまり正統派ではないトリッキーなやり方で勝ち進むBURST戦士がこの先、森林地帯のグループにいる。
「ミラージュポケモンだけでも手一杯なのに面倒なのが来たな……」
「よし、こうなったら一直線に進むか!」
「この森でか? 馬鹿力は結構だがゼクロムがどんな風に道を開くと?」
「試したいものがあるんだ」
リョウガはここにきて初めてゼクロムにBURSTし……あれからまだ発電器官となる尻尾はついてないが人の許容範囲を超える電力を腕のなかに放出している……それを一点に集中させるとみるみるエネルギーが巨大化して……手から『波』の形にして撃ち出す準備が整っていく。
「電撃完波(ライトニングパーヴ)!!」
両腕に溜まった電撃は巨大なビームとなり一直線に森を焼き払い一本道が完成する……あまりにも極端すぎる力技にして、ゼクロムの力ならこれくらい造作もないといえる必殺技。
「お……お前、一応この近くにポケモンがいないことは確認したのか?」
「大丈夫だって、BURST戦士は状況に合わせてポケモンに好かれたり嫌われたりするから俺がBURSTした時点で皆離れてるよ」
「何その変なアロマみたいな特殊効果、モンスターボールが故障したりするのもこのせいか……? ポケモンが傷ついてないならいいが……」
焼き払われて一直線に出来た道を進んで走るが……カルタが言っていたBURST戦士達に警戒する。
ここまで焼き払ってしまえば隠れ場所も横だけになるので待ち構えることも出来る……ミラージュポケモンが来たらまた横に逸れればいい。
しかしあれだけの必殺技、エネルギー消費も相当なものなのかレースではまだ半分も進めていないことになるのだがかなり疲労している。
山を生身で突き進んでも疲れの一切もなかったのにあの技一つだけで、あのリョウガが疲れている。
伝説のポケモンを使うということは本来それだけリスクがあることだ。
「こんなことに使ってよかったのか、もしカルタが言ってたような敵が現れたら……」
「大丈夫だ! フロードやハリルと戦うまで俺は誰にも負けるわけにはいかない! 俺の代のアルカデスと約束したからな」
(……リョウガが小さい頃なら、おそらくアルカデスはまだその父かそれ以外の人だろう)
今度は逆にクランがリョウガを背負って、障害物がなくなってよく見える合流地点まで走っていくが、進んでいる最中に攻撃が飛んでくることを見越してタネマシンガンを周囲に撃ち込む、サボテンでも生えて壁にでもなればと思ったが全然育たない。
「タネマシンガンの方も相当エネルギーを使うのか……これでガス欠するなら俺はリョウガみたいにデカいビームを出すことも出来ないか」
互いに疲労している状態で合流地点まで後少し……というところで、クランの足元に向かってビームが跳んできて足元をすくわれる……真横の木の陰から人の反応がするのでリョウガが力を振り絞ってでんげきはを飛ばすとシルエットが高く飛び跳ねて……遮るようにリョウガより一回り下の少女が道を塞ぐ。
「こっちのグループにあんたらみたいなのいたっけ……? まあいっか、邪魔になるやつはまとめて始末しておかないと」
見た目は軟そうだが状況からしてカルタを倒したのは彼女のようだ……いや、それどころか森林地帯グループのメンバーは極端に発想を広げたら彼女がこの地帯の敵を粗方倒した? さすがに全てとはいかずともこの手慣れた形……妨害ではなく確実に倒す形で相手をしている?
リョウガみたいな戦闘狂には……はっきりと断言できないがそうは見えない。
「何のためにこんなことをしたのか……だけ前もって聞いていいか」
「そうね……分かりやすくいえばお金の為よ、あの社長さんがさぁ〜、BURST戦士を倒したら100万もくれる契約してくれたの知らないの? 2回戦は目立ちすぎないようにして3回戦で溜まってるところをまとめて仕留めて大儲けってところ」
「金のためか……負けたらお前のBURSTハートを取られることになるのにか?」
「別に? チョロネコ失うのは参加した以上、必要経費として割り切るしかないしどうせ優勝できると思って参加してないから、この勢いだと安値のBURSTハートをリーフカンパニーから買い取ってもお釣りがくるし」
「……クラン、下ろしてくれ、俺はあいつを許せない」
「お前とは違う理由だろうが、俺も譲れないものが出来てしまったな」
怒りに震えるリョウガはクランから離れて立ち上がり、クランとしてもこの少女に対して深い怒りを感じている。
「なんで最初から勝てないつもりで戦いに来たんだ!! 何かを無駄にして、勝負に勝つより大事なことなんてこの世には無い!!」
「人生を過ごすポケモンが金と天秤にかけていいはずがない……BURST戦士というものはどうしてポケモンをただのアクセサリーにするやつが現れるんだ!!」
「本当に男って焚き付けるとすぐ乗ってくるから単純……負ける前に頭に刻み込んでおきなさい、誰よりも狡猾なBURST戦士でお金の申し子『ラグ』の名前を!」
こうして……あまり時間をかけたくないのだが、ここでラグを倒さなくては先に進むことなどとても出来ない。
2対1とはいえ数々のBURST戦士を狩っているのであれば何か細工があるはず……それに戦いに嗅ぎつけてミラージュポケモンが来ることだってありえるが……なんと出てきた第三勢力はあまりにも想定外すぎるものであった。
「瞑想演舞・其の二 天道撃破!!」
ラグの頭上から波動が跳んでくるが……それを容易く受け止める、BURST戦士が変に頑丈なのは今に始まったことではないのだが……なんと自分達をずっと追い越してトップを独走しているものとばかり思っていたシンがいた……まるで一足先にラグと戦っていたかのように。
「シン!?」
「むっ……遂に追いつかれたか、あの少女、何もしていないにも関わらずどんなに傷つけても倒れない、まるで即座に癒えているかのように……」
「え? じゃあラグは既にBURSTしているってことか?」
「……そうか、ナマケロか!」
ナマケロ……ノーマルタイプで名前の通り極めて怠け者な性質のマイペースすぎるポケモン。
1日20時間ものの間ずっと寝ていると言われおり新陳代謝も少ないと生存能力に長ける性質もあり……BURST戦士としての能力は少しリラックスするだけで傷が癒える免疫力! 史上最強の回復特化BURST戦士!
さきほどラグは負けたらチョロネコを取られると言っていたので前々から持っていたものではないのだろう。
並外れた攻撃をすれば倒れるかもしれないがリョウガはあの電撃完波一発でガス欠、それを見計らってラグも目の前に現れたのだろう……はっきりと形となるものが見えていないだけでナマケロの姿にBURSTして。
しかしその場合疑問点があるのでクランは迂闊に近づけない……ナマケロは戦いには全く適していない、ラグも生存特化のためにあのポケモンのBURSTハートを使っていることも確かだろう。
なら、どうやってカルタを、数々のBURST戦士を撃退してシンを相手にここまで苦闘させている?
「俺はお前が強いと見込んでいるが、それでも確実にラグを追い込むまであと一歩が届かない……何かあるな?」
「……不甲斐ない形になるな、奴はとんだ女狐だ、戦いの際には決して自分の手を汚さない、魅了の秘術を駆使する」
「魅了……ああなるほど、メロメロか」
『メロメロ』
毒や麻痺などポケモンに与える状態異常の中でも極めて特殊なもので、様々なポケモンが使うことができる。
その効果は異性となるポケモンを確実に無力化させることであり、ラグはメロメロを駆使した技を使えることになる……。
「あら……私のメロメロは普通のポケモンが使うようなものじゃないのよ」