ダブルパークの中心部──鬱蒼とした森や険しい山岳、あるいは沼地など、バラバラのスタート地点から始まった全グループが最終的に必ず通過する合流地点となる場所がある。
それが、この石造りの巨大な遺跡地帯であった。
何のためにこの場所にこれほど時代錯誤な遺跡が造られたのかは誰にも分からない。
だが、ここを通ればグループからはぐれて迷子になっても、本来のコースへと復帰できるという特別な仕掛けになっているようにルールも道も上手くできている。
これまでの予測不能な事故やミラージュポケモンの襲撃、そしてラグのメロメロによる狂騒を命からがら乗り越え……リョウガとクランはようやくこのコースの半分、中間地点へと辿り着いていた。
しかし、勝ち進むためには一息つく暇すら許されない。背後にはいまだにミラージュポケモンが徘徊しているかもしれず、この遺跡地帯とていつ襲撃されてもおかしくない状況だ、ラグとの戦いであまりにも時間をかけすぎた。
「……それにしても妙だな。このレースが走ってから全然ポケモンの姿を見ない」
ふと、遺跡に辿り着いたクランが周囲を警戒しながら呟いた。
急にBURST戦士たちが暴れ回ったり、一部の地域が地形ごと荒らされたりして物騒な空気になっているとはいえ……ここは元々保護されたポケモンたちが放し飼いにされている「人工的な楽園」のはずである。
だが、まるで最初から誰もいなかったかのように、遺跡の周囲は不気味なほど静まり返っていた。
(まさかリーフカンパニーの奴ら……このレースの裏で、もう既に人馴れしたポケモンたちを回収して、あの人工BURSTハートの加工に回しているんじゃ……?)
最悪の想像がクランの頭をよぎり、背筋が冷たくなる。
その時だった。
ズズズッ……! という音と共に足元の地面が局地的に、しかし激しく揺れた。
「うおっ!?」
リョウガが咄嗟に大きく後ろへ飛び退く。直後、ボコッと土が盛り上がり、ひょっこりと緑色の硬そうな顔がいくつも飛び出してきた……ヨーギラスの群れだ。
「ヨーギラス……ラズによるも地下深くで生まれて、親に会うために土を食べながら地上に出てくるというポケモンだな、サナギラスになるまで山1個分の土を食べるとか」
「山!? すごいな……もしかして地面の中にいたからこれまでの事も気付いてなかったな……」
クランの脳裏に、トレーナーとしての知識と、ある名案が同時に閃いた。
「リョウガ! ヨーギラスが食べ進んで掘った穴……これだ! 地下を通れば、ミラージュポケモンや他のBURST戦士に襲われずに進めるんじゃないか!?」
「なるほど! そっか、地下なら安全だな! 地面に住んでるポケモンも少ないし!」
そうと決まれば行動は早い。二人は見た目に反して地味に重たい(一匹70キロ以上ある)ヨーギラスたちにちょっと通してくれと声をかけながらなんとか持ち上げ、ぽっかりと空いた穴をさらに少し広げて潜り込んだ。
シンは
「私は自ら邪道は通らん、地上から修羅を突き進むのみ」
と言って別行動を選んだため、地下道を進むのはリョウガとクラン……そしてリョウガが担いでいるミルトだけだ。
土の中は暗く狭いが、地上の喧騒や危険からは完全に切り離されている。
途中で硬い岩盤に突き当たっても問題はなかった。クランがタマネから回収していた『ラムパルド』のBURSTハートを使用し、その強力な頭突きで強引に岩を砕きながら突き進んでいく。
「よっしゃ! このまま一気にゴールまで直行しよう!」
「ああ、ゴールがどこからかは見えないが頃合いになったら──」
クランが安堵の声を漏らそうとした、その瞬間だった。
嫌な音が、地下道全体に響き渡った。
足場となるはずの土が予想以上に緩かったのか。それとも、すぐ近くに巨大な空洞でもあったのか。
あるいは──100キロを優に超えるラムパルドの巨体による重みと岩を砕き続けた衝撃に、この脆弱な土のトンネルが耐えきれなかったのか。
「え?」
足元の土が、すり鉢状に大きく崩落した。
抵抗する間も、フシギソウに変更してツルのムチを伸ばす暇もない。重力に引かれて二人の体が完全に宙に浮く。
「うわあああああああっ!?」
「クランんんんんっ!?」
リョウガとクランは、ポッカリと口を開けた真っ暗な奈落の底へと、土砂と共に真っ逆さまに落ちていった……。
──
そしてゴール地点、圧倒的なレシラムの力……ゼルネアスの眠る枯れ木が発する癒しのオーラによって疲労やダメージを帳消しにしたフロードがまたしてもブッチギリの1位でゴール、山岳地帯グループどころか全選手のなかでも余裕の1位であり、続くハリルも2位になる。
このままだと山岳地帯グループはあと一人しか通過できないがフロードが山を強引に崩そうとした為それに巻き込まれた選手多数により、もはや歩いてでも到着出来る。
フロードだけで数々の犠牲者を作り出しているのだが……そこに森林地帯を大胆に迷子になり、まさかのルール無用の近道(森からゴールまでどこも巡らず一直線)でゴールしたキャロラが3位に。
「あらハリル来てたの?」
「ああ、フロードによってな……その、話すべきか?」
「少しだけだ、あの話は是非ともリョウガに聞かせたいからな……」
ハリルはキャロラにも話す……フロードがグレートガベルのボスであること……そして、この島の内部でグレートガベルの部下たちが発掘作業をしており、その中心にはあのイベルタルがいると思わしき破壊の繭も……。
そこまで話してキャロラは驚きはしたが、フロードの圧倒的な実力とレシラムのBURSTハートもあり多少納得できるところはあった。
部下達がいたというところでフロードは何かを思い出したかのように通信機を取り出して連絡をする、宛先はあの地下のようだ。
「総員、必要な荷物のみ持ち出してダブルパークから避難せよ、イベルタルの目覚めが近い……巻き込まれたら即死するぞ」
その発言を聞いてハリル達の肝も冷える、ポケモンの生命を奪って見境なく暴れ……ポケモンをBURSTハートに変えてしまうという禁忌の力を宿す怪物、それの目覚めが近い?
BURSTハートに惹かれる習性がある以上、目覚めたら自分たちまで危ない……。
「でも私達にも話さずに一体何を発掘してたんです」
「七戦騎には頃合いを見て説明するつもりだったが……ノウムがダブルパークを作るまでに使った大いなるものだ」
──
「……リョウガ? 大丈夫か?」
「ああ……なんか全然痛くない」
「お前の場合だとそれが普通の反応か分からなくなるが……不思議なことに俺も全然だな」
……何分間落ちただろうか、かなり深い穴、高さで言えば一軒家の屋根から地面まで飛び降りたぐらいの衝撃が走ったはずなのにリョウガもクランも傷は浅い、それどころかあれだけ無茶苦茶な体の使い方をして伸びていたミルトが普通に目覚めている……体中にあった害がまるで取り除かれたように健康有力体だ。
「ここにいると凄く身体がさわやかになる……多分それで私たちの身体も癒えたのね」
「ここは……なにやら特別な場所か?」
……ダブルパークの大きな中心部、つい最近までグレートガベルの下っ端が大勢で作業していたことは露知らずレースの最中だが周囲の散策に入る。
各地に足跡が残されており、何かを掘り出した跡が所々にあることからも人がいた……それもつい最近まで居たことが見て取れる。
「何かを掘ってたようね……こんな所にお宝でもあるの?」
ミルトが直前までBURSTしていたゴルーグの腕をグローブのようにして掘り起こし、当たり前のように融合した体を使いこなしている。
謎で言えばミルトの体質も中々に不思議だ、何故BURSTしても融合ではなくあのように身体が直接変わるような形なのか……ミルトは次々と引っかかるものを取り出しては掘り出していくが……出てくるものは殆どが骨、骨……何かしらの骨だらけであった。
「なにこれ骨ばっかり……やだ、不気味」
「これなんの骨だ? 大昔の化石になってるポケモン?」
「さあな……俺でも骨からなんのポケモンか推測することは無理だ、ラズだったらもしかすれば……」
クランが悩ませていると後ろから元音がしたので振り返る……そこにはなんと、すなちのミノに身を包んだミノムッチと……ラズ、更にはリグレーを抱えてふよふよと降りてくるベリーの姿があった。
「お前達どうしてここに……?」
「イベルタルの話を聞いてからポケモン達の身が危ないと思って各地を回って避難させていた所に……偶然クランさんを見かけましたもので追いかけたらこの通りで……」
「そうか……だがちょうどいいところに来てくれた、ちょっと見てもらいたいものがあるから先に調べておいてくれないか」
「ええ? ちょっと見ていかないの?」
「そうしたいのは山々だが俺たちはまだレースの途中だ、こんな地下深くならミラージュポケモンだのに襲われる心配もないだろう」
「はい、僕たちなら大丈夫なので先を急いでください」
今は先を進むしかない……ラズ達にこの場を任せて先を進む、腰を下ろしたラズは掘り起こした骨を調べることにする。
「なんかもっといっぱいありそうだな……リグレー、ベリー、ちょっと手を貸して」
「わかった、リグレー……テレキネシス」
リグレーのテレキネシスで骨を浮かせて、次々と形を整えていくと……ラズでも言葉に詰まる。
「!? ま、まさかこれって……」
──
先を進もうとするクラン達だったが進めど巨大なトンネルばかりで地上が見えてこない、しかしすっきりするような身体が楽になる感覚は次第に強くなっていくのでこの奥に何か秘密がある……そう思っていた矢先、人影が見えたどころかリョウガが強く反応する。
「あれは……父さんだ!!」
「何? こんなところで例の……ガリュウだと? まさかそんなことがありえるのか?」
しかしクランもよく見てみると人らしき物が見えたので近寄ってみると……それはリョウガの父、ガリュウの姿をした石像だった、人ならまだしも石像……にしても、こんな場所に一つだけ置いてあるのなんて不自然だ……ここでミルトが調べていたことを思い出す。
アルカデスは完璧に力を適応しきれなかった場合、生命力を消費して石化してしまう……つまりガリュウもまたアルカデスになったがその力を我が物にできなかった証、しかし彼はただの無駄骨ではないことが彼の近くえ枯れ木を表す。
「凹むことはないわリョウガ、この人の近くにある枯れ木……これはゼルネアスよ、イベルタルとは逆に命を与えるポケモン」
「ガリュウが探していたという件のポケモンか、これもイベルタルと一緒に眠っているようだが……」
ガリュウの石像とゼルネアスが眠る枯れ木……ここからエネルギーが渡っていたのがリョウガ達が落ちても無事な理由とすぐに分かる、そしてなぜこの2つがこんなばしょにあるのか……それもすぐに分かる。
赤黒い繭が目に届く範囲すぐ近くにあるとなれば……その状態も自ずと分かる、破壊の繭。
「話によればイベルタルがここに眠っていて……目覚めたら一体どうなるか……」
「BURSTハートをこいつが作ってて父さんが止めようとしていたなら、俺が父さんの意思を継いでイベルタルを倒す!」
「……ちょっと待って、この繭……動いてるわ!!」
触れずとも大きく鼓動しているのがわかる、もう1週間も経たずにイベルタルは目覚める。
生命力を奪うかどうかはともかくもしここで荒れ狂う伝説のポケモンが目覚めるようなことがあればとんでもないことが起きる……最悪ダブルパークが滅ぶだけでは済まないだろう。
ゼルネアスの方は元々活性化しているためかいつ目覚めるかも分からない……。
アルカデスを継承できれば……と思っても、現在のアルカデスはノウムであり、ノウムはイベルタルを止める気がない。
しかしリョウガには関係ない。
「ノウムやグレートガベルはイベルタルを利用してBURSTハートを作ろうとしているんだろ? だったら尚更倒せばもうポケモンは封印されることないんだろ!」
「それはそうだけど……うっ、一旦進みましょう、なんか私ここにいてたら気持ち悪くなってきた、効きすぎてるのかしら……」
リョウガやクランはこれまでの戦闘の疲れが消えて本調子に戻り、電撃で消費した分がまとめて戻ったかのようだ。
しかしミルトはというと癒えるどころか吐き気を催しすようになり顔も青い……ミルトはさっきから何か様子がおかしい。
「ちょっと1回吐いてみるか?」
「ちょっとでも貴方にメロメロで魅了されてたことのある自分を殴りたくなるわ……まあフォローしてくれてるのは分かるんだけど大丈夫よこれぐらっ」
言ってる途中にもミルトが口から緑色の生物が吹き出してくるので見過ごせないと大急ぎで担いで奥まで進む。
緑色の生物は口から出てきたものがミルトの口に戻っていったり不思議なことになっている。
「お前大丈夫か!? 変なポケモンみたいななのが身体から出てきたぞ!」
「ああそれは大丈夫よ……HAMに入るときに安全のために共生するポケモンを中に入れることがあるって……」
「本当にそれは大丈夫なのか……?」
奥へ進むと足跡が複数ある非常口のような扉があり、そこには非常階段……後付けで人工的に作られた痕跡がある。
ノウムやグレートガベルがイベルタルの様子を確認するためにこの場所に定期的に訪れていたのだろう。
「……ここで見たもの、もし知られたらまずいんじゃないのか?」
「何を今更、そっちはイベルタルのことまで調べてるんでしょ? ……ミラージュポケモンに襲われてる時点で危ないんだし、地下にいる方がよっぽど……って言いたかったけどイベルタルが目覚めそうとなると別よね、私からラズに連絡しておくとして……」
近道と安全移動を行うはずだったのだがとてつもない遠回りの連続になってしまった、ここから階段を一気に乗り越える一気に起き上げないとまずいことになる……。
せめてリョウガが空を飛べるようになれればいいのだが、何故かゼクロムにBURSTしても翼が未発達である。
リョウガなら踏ん張ってジャンプすれば一気に地上まで脱出出来そうという偏見があるし、ミルトは正気じゃない時に奪い取ったBURSTハートで一気にゴオオオッと跳んで行けそうなものだがクランにそういった小細工は……。
「やっぱりリョウガをにつるのムチを繋げて大ジャンプしてもらうしかないのか……」
「実を言えば私もそれで登山してもらったことあるしそれが安全だと思うわ」
「ミルト達俺のことをなんだと思ってる?」
さすがにリョウガですらツッコミが入ってしまうが、とりあえず作戦通りフシギソウのつるのムチでミルトとリョウガを結び、ゼクロムにBURSTしたリョウガが地面に力強く踏み込んで踏ん張り、電撃を溜めながら天井となる地面を打ち砕く。
「電撃超越(ライトニングステップ)!!」
咄嗟に新技まで作り出して地面を掘り進み……というか壊して一気に地上まで進むリョウガ、せっかく癒えたのにまたボロボロになりそうなクラン達……とにかくこれで一気に進めそうだ。
──
一方リーフカンパニーの方ではノウムがダブルパーク各地にミラージュポケモンを張り巡らせている、ゴールする頃には新しいポケモンの技術運用として大々的にアピールする予定だ。
準決勝出場者も決まって続々とBURSTハートが保管されていく、100人近くいた中から脱落者は山程。
出場するのはたったの12人、4つのグループから3人ずつ……ここまで確定しているのは山岳地帯のフロードとハリル、森林地帯のキャロラ、沼地地帯のシン……しかしレースの途中で戦闘不能になったものも多くもう既に絞られる状況だ。
「イベルタルが目覚めるのは明日くらいとして決勝戦はどうしようかな……十億円は一応出しておくけどさぁ」
「いえ……それなんですが問題があります」
「え? まだ何かあるの? ゼルネアスの方も目覚められたら困るけどそっちは……」
「いえ、生放送しているBHSの視聴者がどんどん減っています……ネット配信の方も同接者が勢い良く右肩下がり、遠路はるばる来てくれた観客も飛行ポケモンを使い『そらをとぶ』を向かい勝手に別の街へ帰りました……」
「えっ視聴者の方はともかくなんでそらをとぶの方止めなかったの!? 撃ち落とせよブロスターとか使って!」
なんとこのBHS中の最中にBURST戦士に期待していた観客たちはこれまでの内容を見てガッカリしたのかどんどん人が減っているという。
無理もない話だ、なんかポケモンの力を真似してヒーローになれるとイメージしていたら同じタイプの技しか使えないし自分の肉体が凄い……何より、BURST戦士になるとハートの力によってモンスターボールが故障する欠陥は人工的なものになっても直らない為、需要が思ったよりなかった。
理想としてはトレーナーとBURST戦士の両立を期待していたものがそれだけいたという話だ。
「くっ、シルフカンパニーの犬どもめ……そんなに英雄になりたくないのか?」
「それよりかは、ポケモントレーナーが人気すぎるのがあるんですけど……まあ個人的な意見ですがBURSTハートを現代的なものにしたのがモンスターボールと考えると、自由にポケモンの力を使えるという点で劣る点が目立つのかもしれません……」
「くっ、BURSTハートは元々ミラージュポケモンを売り出すための布石とはいえ人気は欲しいところだ……何が悪いんだ!? ポケモンと合体できる上に壊せばいつでも解放できて、飽きたらまたダブルパークに持っていけば石に出来るんだぞ!?」
ノウムにとって想定外のBURSTハートの不人気……こうしてBHSに密かにテコ入れが差し込まれることになる……ノウム自ら動くことで。
そしてゴール地点のほうでは……
「おりゃーっ!! ゴール地点のちょうど真下だっ!!」
「結果的に助かった……のか?」
まさかの地面の下からリョウガ達が出てきたことでリョウガ、ミルト、クランがゴールしたのだった。