ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第19話「永遠の塔が開く」

 

「うぎっ……ひいいいい!!? ポ、ポケモンが、ポケモンが俺達を、う、うわああああ!!」

 

 クランに起こった突然の悲劇、その末路を見てパニックになった選手の何人かが足元を踏み外して3人は落下、シンも何とかバランスを取ってはいるが……動揺が隠しきれておらず、趣味の悪いヒルグレイツですらこの光景には笑みが消えていた。

 

「おいおいおい……こりゃ面白いがなんとも想定外だな、あいつらフツーに襲ってくるのかよ」

 

 ヒルグレイツはウルガモスのBURST戦士で、1回戦で気まぐれに選手全員を助けた技である『太陽の糸』を使うことで楽して自分が担当するポケモンを助けたり相手を蹴落とすことを想定していたが、躾けられて懐いているはずのダブルパークのポケモンが人に襲う、しかも明確に命を奪ってきた。

 

 ハリルは勘付いた……ノウムは遂に一線を越えた。

 アゴジムシはつららバリを覚えない、強引に巣穴から出された個体が噛みついてくる話はあるが人を襲うほど危険なポケモンではない……そしてポケモンを意図的に危機に晒すような勝負を行い、動きを誘い出した?

 

 ハリルが気付くことをフロードが読んでいたかのように、答えを代弁する。

 

「クラン……彼は可哀想だが元より私の真実の中に彼は残っていない、すまないな……」

 

「フロード……お前!!」

 

「おっと待て、信じられない気持ちも分かるがこれは私ではないぞ、『それ』が目的なら私は最初からキリキザンの力で首を跳ねていたことは昨日も話したはずだが?」

 

 フロードはクランが持っていたアゴジムシにメタルクローの一撃を放った……その瞬間、アゴジムシは粉々に粒子状に崩れ去った。

 ……ここにいるポケモンは全てミラージュポケモンだ、倫理的に考えれは普通のポケモンをここで使うはずがないとも取れるかもしれないが、今回クランを襲った所から見て明らかにそんな理由ではない。

 

 クランは……あまりにも都合が悪い存在になりすぎた。

 BURSTハートを砕く『ハートブレイク』として生きていればリーフカンパニーとしても破壊と販売の繰り返しで都合が良かった。

 しかし彼は欲をかきすぎた上にグレートガベルが余計なことを考えていた……ミラージュポケモンをBURSTハートにしながら、拉致されたポケモン達を保護というビジネス運用も兼用する。

 そんなノウムにとって、クランは邪魔だ……いや急遽邪魔になった。

 

 その原因は……身勝手なものだが。

 

「このBHSという企画が奴の想像以上に跳ねなかったな、だから私に任せておけば大成功したものを……ミラージュシステムの方もポケモンをなんでもできるデータ化したところで、既存のポケモン達に取って代わるわけないだろう」

 

 ミラージュシステムの需要はないどころか、ミラージュシステムを全公開したら使い方や倫理観を巡り各地で運用できるどころの話ではなくなっている。

 BURSTハートの方も観客か思っていたよりも芳しくない評価に終わってしまった、どんな命令でも従わせてポケモン達のようにやりたい放題出来るものかと思えばこちらも融通が利かない、イベルタルの力を使っていながら……売るには難しくない? と思う者もグレートガベルにはいた。

 

「そして今回……ミラージュポケモンの優位性を示そうとして、過去のBURST戦士よりも強いという『見せしめ』を行った、確実に自分にとって面倒な存在となる物を倒しながらミラージュポケモンがどれだけの力を持つか示したかったか? 愚かだ、愚かだなぁ……

 

 

 そんなもの私は最初から強いから関係ないというのに」

 

 

 話している最中でもキリキザンの両腕で周りのものを切り刻んでいく、この程度の茶番など全く堪えないとばかりにミラージュポケモンを遮る壁を破壊する。

 すると開き直ったとばかりにミラージュポケモンがあの小さな姿からは想像だにしないような破壊光線や大文字といった普通では覚えない技を四方八方から浴びせてくる。

 リョウガはミルトと負傷したクランを庇うので精一杯であり、ハリルでさえも元々足元が揺れやすいこともあってかまともに動けず攻撃に当たったりしている。

 

 そんな中シンはというと海面に目線を向け、コジョンドの舞うような動きで攻撃をいなしている、まるで海に飛び込んでも問題ないか確認するようにしているが、それをリョウガが手を掴んで離さない。

 

「何処に行くんだ?」

 

「興ざめした……というのは不適切か、私はこの戦いよりも優先すべきことができた、あの男の言うことが確かならここに残るよりは向こうの様子を見に行ったほうがいいと見た、その男を貸せ」

 

 シンはストイックに戦いを求めていたが陰謀や道化遊びに付き合う気は毛頭ないという素振りでリョウガからクランを受け取って抱える。

 実際、この勝負は意味のないものとなってしまった、最後まで筋を通すならまだしも完全に開き直ったような結果を見せて観客もパニックと不義理でいよいよだれひとりいなくなりそうな勢い、しかも待機所代わりの豪華客船まで勝手に発進されて……この勢いだとBURST戦士達をまとめてこの島で始末する勢いだ。

 

 しかしリョウガは出られなかった、フロードやハリルと決着をつけたいのもあるがフロードの目的はイベルタル、ノウムは眼中にない為に目を離したらどんなことがあるか分からないが……ここでふらつきながらもミルトもシンの手を掴む、

 

「私も行ってくる! クランのことは私が何とかする……ラズ達も危ないし早くダブルパークに行かないといけないでしょ!」

 

「ミルト……分かった! あいつらは俺に任せろ!!」

 

 ミルトはむしろシンを引っ張るようにして海から飛び降りたが口笛を吹いてバルジーナを呼び出す、BURST戦士はモンスターボールが故障してしまうためボールを入れなくても相棒を呼べるように島のなかで訓練させておいたようだ。

 

 シンとミルトの2人くらいなら問題なく飛行できるバルジーナ……空を飛んでいると様子を見に来たウォーグルと遭遇する、ここを飛び回っているものは大抵ミラージュポケモンを見張っているラズのものだろう。

 

「ちょうどいいところに来たわね、クランが危ないからラズの所に連れてって手当てを! 私は別の所に行くから!」

 

 クランの負傷を見てただごとではないことがすぐに把握するウォーグルはミルトからクランを受け取りマッハのスピードでラズのところへ向かっていく、後は任せたら命くらいは助かるだろう。

 こんなところで死んでしまったら本当にラズ達の思いが無駄になる。

 

「それでシンはこれからどうするの?」

 

「決まっている、我々の事を弄ぶようなあの男をこの手で……」

 

「なら徹底的に探す必要があるわ、フロードが言うにはアルカデスどころかBURST戦士の素質もない以上、種がバレたら逃げ回っている」

 

「なら既に尻尾は切ってあるということか?」

 

「大丈夫よ、尻尾を切った程度で獲物を諦めたりしないわ、あいつが作って私が見てきたHAMという組織は……そして、人間の強さは!」

 

 周囲からどんなミラージュポケモンの攻撃を受けてもバルジーナは軽快にかわして少し離れたダブルパークの浜辺にようやく辿り着く、ここに電話や通信機の類はなく船も既に逃げ出した後……普通ならもう既に閉じ込められたようなものかもしれない、鳥ポケモンを持ってない限りは……。

 

 しかしミルトはこの程度で屈しないという意思を見せる、手を挙げて合図を送るとポケモン……ではない、カルタ達敗退者が姿を現す、その中にはルリマルまでいる。 

 

「お前達……なるほど、こちらの船に乗りかかったほうがよほど心が躍りそうだ、して私達はこれから?」

 

「ラズ達……はまあ大丈夫として、ノウムを探さないといけないし……」

 

「ミルト殿、拙者に考えがござる、シン殿はこちらに」

 

「え? また私一人……まあいいけど、そっちはよろしく!」

 

 カルタたちがシンと同行することになり、ミルトは一人で走り出す。

 シンはカルタと共に何か強大な敵と戦うのかと近くに寄るがその瞬間違和感を感じる、カルタ達に人間とはまた違う……殺気ではないが常人のような普通の感覚すら見えない、なんと言えばいいのか、上手く言い表すなら……人らしくない。

 

「お前達は……だっ……ぐっ」

 

 しかしシンもカルタ達に捕まる、カルタ達は身体から緑色の変な生物……ミルトが体内で共生していたという妙なポケモンらしきものが溢れ出して一体化していく。

 シンの身体も次第に呑み込まれて……。

 

 

 ミルトの方も歩いていると緑色のポケモン? があちこちから仲間達を作ったのか次々と見送ってくれる。

 緊急事態なのもあってか各地から急行されたのだろう……ミルトはそう思って目的地となるゼルネアスが眠る場所へと向かう。

 

 ──

 

 そしてその一方バトルフィールドはフロードによって完全に切断されお椀型の足場がまさにお椀その物のように落ちて砕けるように粉々に割れて空に落ちる。

 ミラージュポケモン達が海に叩きつけられて消えていくところに足場を気にしなくて良くなったのでリョウガも遂にゼクロムにBURSTしたところで……フロードが腰を掴み、ゼクロムの体重を利用して海の底に沈めようとする。

 

「くっ……フロードお前!!」

 

「卑怯とは言うまいね、これはもはや試合ではなく私と君の戦いだ、せめて楽しもうじゃないか」

 

「闇影射球(ナイトシャドーショット)!」

 

 だが沈みそうなところをハリルの玉が追撃して浮かび上がり、リョウガは泳いできたラプラスに乗って足場を確保する。

 ハリルはリョウガを助けたわけではない……ただ、かなり彼にとって限界が来ていた。

 アルカデスとされるものに親を奪われ、故郷も無くしグレートガベルではみ出し物となり……ようやく復讐対象となりえるアルカデスは勝ち逃げな上に候補は救世主のようなことをしている。

 ハリルもまだ少年という年齢のため、真実についていけず人間不信になりかけていた。

 

「フロード……もう沢山だ!! 復讐のためにここまでやってきたが、それがこれ……BURSTハートは生きていない、それどころか無数の犠牲者を作り出すようなポケモンを利用して……誰も彼も敵のように思ってしまう」

 

「真実というものはそれだけデリケートなものだ、しかしハリル、お前は七戦騎の実力としては相当なものだったのだがな……」

 

「……俺はもう七戦騎どころかグレートガベルを辞めるつもりだ、伝説のポケモンを利用して数々の命を奪うなんて付き合いきれない……俺やキャロラのような犠牲者を無造作に増やすような真似を見過ごすわけにはっ」

 

 話している途中だがハリルが海に沈む、リョウガが手を伸ばしてみると思ったより重みが……ハリルの頭をBURSTしたキャロラが掴んでいた、180キロのエンブオーの重みが海の引力でより沈みやすくなる。

 足技に長けるハリルでも水の中で重りがあれば身動きが取れず……。

 

「き……キャロラ! 止めるな!! このままフロードを野放しにしたら、俺達みたいにさみしい思いをする奴が余計に増えるだけだ! 俺達だって同じことはしてきたかもしれないが……そう簡単にポケモンを利用するようなことがあってはならない!!」

 

「ハリル……あのねハリル、私は今さみしくないの、パパもママも会えなくなったけど、私にはエンブオーがいるし、グレートガベルで頑張ったら美味しいものいくらでも食べられるし……今が充分幸せで、今がしあわせだったら昔辛いことがあっても気にならなくなった」

 

 

「ねえハリル……貴方はずっと満足できなかったんですか? だったらもう、保存しておく理由もないのでいただいちゃおうかな」

 

 なんということか、ハリルは初めてキャロラに会った時には同じ悲しみを背負ったふたりぼっちの孤児としてかけがえのない相棒と思っていたのだがキャロラにとってはあっさりと立ち直り、ハリルの事は同僚として信頼を持ちながらも扱いとしては非常食、いつでも食べられるけどあって損はない、そのぐらいだった。

 ハリルが一方的に信じていただけ……それに気付かされたことで遂に彼の中で何かが切れて、海の中からでも暗黒のオーラが広がっていく。

 

「お……お前も、お前さえも俺を見放すのか!! キャロラ!!」

 

 怒りの憎悪が宿るハリルを見てフロードは待ちわびていたように海を見る。

 その瞬間、ダブルパークで大爆発が起こり大きくて赤黒い光柱が視界を埋め尽くす。

 

「この時を待っていた! 私が何を思ってあの少年を七戦騎にしたと思う? 強いからではない!!」

 

 

「イベルタルと同じ『あくタイプ』のBURSTハートを持つ者なら誰でもよかった、それだけだ!! そして今お前の怒りで遂に奴は目覚める!!」

 

 遂に……遂に破壊の繭がその殻を破り、巨大な赤黒い翼が広げられた。

 イベルタルの降臨──それは存在するだけで周囲の空間を戦慄させる、絶対的な『死』の具現化であった。

 目覚めの鼓動、ただ一度の脈動が空気を震わせただけで島は悲鳴を上げる。

 

 轟音と共にダブルパークの大地が真っ二つに分断され、周囲の海は荒れ狂い、地下施設は無残にも崩落していく。

 つい先程まで平和だったポケモン達の楽園は、瞬く間に瓦礫と絶望が支配する壊滅地帯へと変貌してしまった、ミルトはすぐ近くまで辿り着くはずだったが間に合わず、イベルタルの放つオーラに巻き込まれて宙に浮く。

 

「うわっ……嘘でしょ!? イベルタルが目覚めたの!? くっ……早くアルカデスの石像とイベルタル……イベルタルはどこ!?」

 

 

 遠く離れた崩壊する海上のバトルフィールド。そこからでもはっきりと感じ取れるほどの凶悪なイベルタルの反応に、海の上に立つフロードは歓喜の表情で空を染める赤い光柱を眺めていた。

 

「待ち侘びたぞイベルタル! 私はこの瞬間をずっと待っていた! お前自身をBURSTハートに変え、世界の真実を見定める!」

 

「ふざけるな!」

 

 怒号と共に、黒き雷を纏ったリョウガが空を裂いて突進する。

 

「イベルタルの力を利用したら人間もポケモンも皆生きられなくなる! 父さんはそれをさせないためにここまで頑張ってきたんだ! 何が何でもお前を止める!! フロード!!」

 

 ゼクロムの力を解放したリョウガの渾身の一撃。しかし──。

 

「ここまでだ」

 

「なっ……!」

 

 フロードが軽く右手の刃を振るっただけで、ゼクロムの圧倒的な質量とパワーを誇るはずのリョウガは、木の葉のようにあっさりと空中で弾き飛ばされた。 

 イベルタルの特性『ダークオーラ』……それは存在する限り、周囲のあくタイプの力を底上げして増幅させる恐るべき力。

 イベルタル自身や野生のポケモンだけでなく、BURST戦士であるフロードも例外ではない。

 フロードがキリキザンという『あく・はがね』のBURSTハートを今日まで手に馴染ませていたのは、全てこの瞬間にイベルタルの加護を最大限に受けるためだったのだ。

 

「無駄だ……イベルタルの加護を受けた以上、たとえゼクロムであろうとも私を止められない! お前達親子が理想を胸に私にここまで歯向かったことは称賛するが、それもここまでだ!」

 

「そんなに真実というものが大事なのか! その為にポケモン達が沢山石になって、ハリル達のように滅んだ村があって……今もイベルタルがまた沢山の命を奪おうとしている!!」

 

 BHSに参加してから、クランもリョウガもBURSTハートを巡る様々な衝撃的な真実を知らされたが、その背後には必ずフロードやグレートガベルの暗躍があった。

 リーフカンパニーがBURSTハートを金儲けのビジネスとして消費しようとしていたのに対し、フロードの行動原理は明確に異なっていた。彼が狂気的なまでに求めているのは、数多の犠牲の上に成り立つ『真実』そのもの。

 

「ああ、大事だからこそ……わざわざレシラムのBURSTハートをあの男に見せつけてまで乗り込み、実を結ぶ事になったのだからな」

 

 フロードの目が、狂気を帯びた歓喜に歪む。

 

「全て話そう。イベルタルによってこの場所全てが死に絶える前に……この世界が生まれた真実と、『永遠の塔』について」

 

 この世界の真実。この歴史の起源。

 ──ポケットモンスター、縮めてポケモン。

 この星に住む、不思議な不思議な生き物。海に、森に、町に……その種類は1000、いや、まだそれ以上存在するかもしれない。

 ポケモンと人間の歴史は長く、またポケモンという存在は輪廻の創造さえも行った古来の神格であるとする神話も世界各地に点在している。

 では……ポケモンという生き物は、実際いつ、どうやって生まれたのか?

 人間より先に存在していたのか? どのように進化の過程を辿ってきたのか? 環境そのものを作り変えるほどの強大な力を持つ伝説のポケモン達は、一体何者なのか……?

 

 その答えが今、イベルタルの力によって強引にこじ開けられようとしていた。

 

「イガレッカ!!!」

 

 イベルタルの降臨によって発生した禍々しい赤い光柱が、真っ直ぐに天へ向かって伸び続けて空を貫く。

 それは比喩や異常気象などではない。今まさに目の前で、物理的に『空が貫かれた』のだ。

 見上げれば、赤い光が衝突した天空の頂点から、まるでガラスが割れるかのような巨大な「亀裂」がピキピキと音を立てて空全体に広がっていくではないか。

 空が、空間そのものが割れている。

 その常軌を逸した光景を両手を広げて見上げながら、フロードは高らかに宣言した。

 

「見よ! これこそが……私がずっとお前達全てに見せたかった『世界の真実』だ!」

 

 空が砕けて破片が落ちる……その先には穴があり……光がさらに穴の先まで……。

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