「クランさんお願いします」
「ああ、合図をしたら引っ張ってくれ」
今日も今日とてBURSTハートを集め、ポケモン達の環境保全と解放の旅を続けるラズ達は現在、土に埋まっているドラピオンの救助を行っていた。
こういった環境内の問題対処もHAMの役目だ、フシギソウの力によるつるのムチとベリーのリグレーの念力と合わせて頑張って石の山をどかし、ドラピオンを自由にさせる。
体に乗っかっていた石の山が外れてドラピオンは楽になったように駆け出していった。
「あんな大きなポケモンがどうして埋まるような……?」
「ポケモンは急激に進化して体格も大きく変わるじゃないですが、スコルピの巣が適応しきれなくなって引っ掛かっていたんですよ……野生のポケモンではたまにあるトラブルです」
「なるほどな……となるとドラピオンとしての巣を用意する必要もあると、勉強になるな」
クランはBURSTハートを集める旅をしながら、環境保全団体『HAM』の依頼に全面的に協力している、トレーナーではあるがポケモンの生態をあまり知らない彼にとってこの出来事は新鮮なことも多かった。
巣作りはラズの相棒であるミノムッチに任せておけば問題ない、体は小さいが様々な環境に適応して巣を作れる生活のプロフェッショナルだ、自分のミノに砂を貼り付けてドラピオンのサイズに合った材料を用意してラズが少しずつ形を作っていく。
この間にベリーとクランが情報集めを行うことにした。
「アルカデスについて……詳しく知りたい」
「俺も全貌を知るわけではない、だが……BURST戦士どころかポケモンの力すら超えているのは確かだ」
……ポケモントレーナーの頂点をチャンピオンとするなら、BURST戦士の頂点こそアルカデス。
タイプの垣根を超えどんな敵にも勝利し、絶対的な力で支配も解放も思いのまま……クランが分かっていることは、アルカデスという存在は襲名式であることくらいだ。
「じゃあ……クランはアルカデスになるんだ」
「ああ、それだけ並外れた力を持っているならフシギソウを解放させられるだろう、現状俺はこいつに助けられてばかりだから、その時はフシギソウにやりたいことを沢山やってやるつもりでいる……それにアルカデスはすぐ近くにいるのかもしれない」
マドロシティで自分達の他にもう1人BURST戦士が現れてならず者達を1人で撃破した少年がいたという話を聞いている、その少年は現実離れした怪力の持ち主で丸腰で悪党を蹴散らした上に……持っていたBURSTハートはとんでもないものだった、雷鳴を轟かせ黒い鱗に身を包んだ……。
「その男は『ゼクロム』のBURST戦士だったとか」
「ゼクロム……神話でも語り継がれる『理想』のシンボルである伝説のドラゴンポケモン……」
「それだけの力……アルカデスが関与していると考えるのが自然だろう」
「じゃあ……その人を追いかけるの?」
「出来ることならそうしたいがその人物は常人では上がることもままならない険しい山の方へ行ったという、俺たちではとても無理だ」
「……一応連絡はしてみる」
ベリーは端末を操作して他のメンバーに連絡を入れる、小さい組織とはいえ優秀な人が揃っているらしくこの辺りの事なら大体は分かる、情報を伝えたらすぐに各地に行き渡るとか……。
「その少年のこと調べてるメンバーいた、その人に任せておけばいい……」
「そうか、何から何まで世話になってるな……思えばフシギソウも含めて俺は助けられてばかりだ」
「助けられる事は……わるいことじゃないってラズが言ってた」
クランにとって想定外だったのは、まだ組んで間もないラズとベリーとの仕事や旅が心地よく感じることだ。
本音を言えばフシギソウがいなくなった分の穴埋めをしたかったところもある、だがそれが……こんなにも暖かい。
情報を集めていると、ひと仕事終えたラズとミノムッチがクランの所に戻ってくる。
「ドラピオンの家は出来たのか?」
「はい、なんとか……あっ、クランさん! BURSTハートの話をしたら似たようなものを持ってるって人を教えてくれました!」
「……ここまで良いことが続くと、明日俺は一気に不幸が襲いかかるような気がしてならないな」
──
救助の仕事を終え、有益な情報を得た3人と2匹が向かったのは、町はずれの景色が一望できる崖の上に建つ丸太小屋だった。
近くを通りかかった近所の人たちの話によれば、そこにはずっと空を見ながら何かを叩いて物を作る風変わりな芸術家の男性が住んでいるという。
そして最近は変な石を手に入れてからというもの、ただでさえ奇抜だった彼の様子が、さらに狂気を帯びたようにおかしくなってしまったらしい。
確かに、現場である丸太小屋の前に到着すると、異様な空気が漂っていた。
ログハウス風の立派な外壁は、あちこちに不自然な深い凹みがあり、中からは「ドゴォン!」「バキィッ!」と、何か硬いものを力任せに叩いて打ち付けるような重い音が、一定のリズムで響き渡っている。
そのただならぬ轟音に恐れをなし、近くの木々で羽を休めていたポッポやムックルといった鳥ポケモンたちが、慌てた様子で空へと逃げ出していくのが見えた。
「……一体、中で何が起きているんですかね?」
「彫刻作り……だとしても情緒不安定」
ラズが不安げに呟き、ベリーが眉をひそめる。
クランの隣で様子を窺っていたミノムッチが、身軽に外壁を登り、開いた窓の隙間からそっとアトリエの内部を覗き込んだ。
──次の瞬間。
ミノムッチの小さな目が限界まで見開かれた。
視線の先には、メガネをかけた少しだらしない格好の男性がいた。彼は一心不乱に、作りかけの巨大な石膏彫刻に向かって、自身の頭を猛スピードで叩きつけていたのだ。
ドゴォン!! という凄まじい頭突きが彫刻にめり込む。その常軌を逸した光景に、ミノムッチは悲鳴を上げ、驚きのあまり足を滑らせて窓枠から真っ逆さまに落ちてしまった。
「おっと、危ない! ……とんでもないことが起きているみたいだ」
ラズが慌てて飛び出したミノムッチをキャッチする。
その騒ぎで、内側からの音がピタリと止んだ。
ギィ……と重々しい音を立てて丸太小屋の扉が開き、中から先ほどの男性が姿を現した。頭突きを繰り返していたというのに、彼の額には傷一つない。
「おや、来客とは珍しい。こんな辺境の工房に何か用かね?」
──
男性は意外にもすんなりと三人の中に招き入れてくれた。
「なるほどポケモンの保護団体か! 仕事に集中しすぎて少し迷惑かけてしまったかな……私はタマネ、見ての通り石と山に思いを馳せてこうして1人で作業をしているものさ」
案内されたアトリエの内部は、外壁以上に惨憺たる有様だった。壁という壁、柱という柱が、何か巨大な鉄球でもぶつけられたかのようにボコボコに凹んでいる。そして、部屋の至る所に展示されている石膏彫刻は、どれも激しい衝撃で歪んだような、中々奇妙で前衛的な形をしていた。
窓の外にはまるでキノコのように大きく反り立つ奇妙な形の山がよく見える。
クランは部屋を見渡し、タマネの胸元へと鋭い視線を向けた。
「お前……BURSTハートを持っているな?」
クランの問いかけに、タマネは隠すそぶりも見せず目を輝かせて胸元のペンダントを握りしめた。その中心には、見覚えのある不可思議な水晶がはめ込まれている。
「ああ、いかにも! これこそ今の私を定義つけた、まさに『ハート』に等しい存在だ!」
タマネは嬉々として語り始めた。
この石は近くのオークションで手に入れたものらしい。
これを見つけてからというもの無性に硬いものへ頭突きをしたいという衝動に駆られ、実際に頭突きをすると頭の中がすっきりと澄み渡り、独特で素晴らしいインスピレーションが湧き上がってくるのだという。
「見てくれたまえ、あそこにあるのが私の最高傑作『銀の目覚め』だ!」
と、彼はひときわ歪な形をした巨大な彫刻を誇らしげに指差した。
すぐ近くにある山を再現したようないかにも恐ろしい見た目をしている、まさかあれを頭突きで作ったのだろうか……?
話を聞く限り、タマネはオークションで『化石で残っているような大昔のポケモンのパワーが込められた不思議な石』という触れ込みでそれを落札したらしく、実際に生きたポケモンがその小さな水晶の中に封印されているという残酷な真実は、全く知らなかったようだ。
「……事情は分かった」
クランは静かに、だが冷たい意志を込めて言葉を紡ぐ。
「俺の目的は、その石を破壊することだ。お前は思ってるほど悪人ではないのかもしれないが……ポケモンは、人間のインスピレーションのために使い潰すだけの存在であってはいけない、お前の相棒は美学のためではなく共に寄り添うパートナーとしてあるべきだ」
その言葉に、タマネの顔から芸術家としての飄々とした笑みが消えた。
彼はメガネの奥の瞳を鋭く細め、胸の水晶を強く握りしめる。
「芸術家として、貴方のその気高き美学を尊重する。……しかし、先ほども言ったように、この石からの恩恵はもはや私の心臓にも等しい。私の芸術には必要不可欠なのだ。故に……故に!」
「これ以上の話し合いは無意味ということか」
クランが構えをとると同時に、タマネがBURSTハートを高々と掲げた。
「BURST」
互いに掛け声を出すと水晶が眩い光を放ち、タマネの体を包み込む。
ズゴゴゴゴっと地響きのような音が鳴り、光が晴れた後には、元のタマネの面影を残しつつも、全く別の生物へと変貌した姿があった。
頭部は青く硬質なドーム状の甲殻に覆われ、体躯は岩のように筋骨隆々としている。化石ポケモン『ラムパルド』のBURST戦士だ。
フシギソウの力を借り、あくまで人間の姿を保っていたクランとは違う。
タマネの姿は、完全に人間という種の枠組みを逸脱した、圧倒的な暴力性を秘めた肉体へと変異していた。
荒い息を吐き、足で床を削りながら突進の構えを見せるラムパルドのBURST戦士を見据え、クランは静かに彼のBURSTハートに手を伸ばした。
「私、喧嘩は嫌いなのでちょっとだめだと分かればすぐ差し上げますよ」
「BURSTハートは全て回収する……」
戦闘はクランの方から動き、つるのムチでタマネを抑え込むが……全く動じておらず、頭を振り下ろすだけで周囲を揺らし、衝撃だけで鞭を離す……頭突き衝動を得ることもあり凄まじい破壊力だ、こういう時……専門家の助けを借りよう。
「ラズ、奴はいわタイプだな? 相性的には俺が有利だが簡単には済ませてくれなさそうだ」
「ええ、あれはラムパルド……大昔に存在したポケモンでとんでもなく攻撃に特化した体をしており、厚さ30センチの頭部は高層ビルを破壊したという報告もあります」
「なるほど……何が何でも受けたくないというところか」
「いえいえまさか……なるべく壊さないように手加減します、ちょっとこの身体では難しいですけどね!!」
この姿で出来ることは当然、その頭部を利用して攻めに来る。
しかし見るからに当たったら終わりそうな一撃をしていることは身に染みて分かったので突進してくる度に避けることしか出来ない。
「何が暴力沙汰は好まないだ、喧嘩屋みたいなポケモンを……なら遠距離から攻めるしかないか」
クランは屋根の上に登って肩の蕾から葉っぱを作り出すと、手の甲の上で回転して車輪刃となり敵に迫る、これが『はっぱカッター』の原理となる。
これなら確実にタマネにダメージを与えられる……しかしそう上手くはいかない。
「古代に生きるポケモンは尊い、いわタイプである彼らは水にも不利だ、大地も手強い……そんな中で彼らは知恵と己の体で生き抜いてきた……この強靭な頭部は防御にもなる」
なんとタマネは頭を軽く振るだけではっぱカッターを跳ね返す、当然草タイプ対策は万全ということだろう。
クランは考える……このままタマネがBURSTハートを持ったままでいいのか? グレートガベルが持つよりは良いが、彼は良くも悪くもこのラムパルドを芸術の為にしか使わない……だが、あの頭突きを受けて余計な足止めをくらいたくない、最大限傷を受けずにこの勝負を終わらせたい……そこで思い出したのはラズの仕事内容。
今回の勝負、何もタマネを倒さなくていいのだ。
「……進化することで、身体が大きく変化して元の巣に適応できなくなる、試してみるか」
「あきらめる様子がないのは若さを感じて……私、そういう人好きですよ」
「ああ、人助けはするものだな……後腐れのないいい方法を思いついた」
クランは飛び降りてタマネを待ち構え……頭突きを誘い出す、一目散に一つの弾丸のように一直線。
……真後ろには窓、人の形を残しているクランなら後ろからでも入ることが出来るが……タマネの場合ほぼラムパルドの姿。
ラムパルドの全長は1.6mとあまり人と変わらないがBURSTしている分その大きさは怪獣のように若干伸びている……この状態で空いている窓の穴に突っ込んでしまうと……頑丈な頭部と首が窓枠にすっぽりとはまって抜けなくなってしまう。
「あらら……これは勝負アリですね」
「諦めが早いな」
「このまま暴れてアトリエがめちゃくちゃになるよりは……ですよ」
──
ということもあり、タマネからラムパルドのBURSTハートを手に入れた一向。
クランが叩いてみても割れることもなかったので自分が持っていたフシギソウのものと同じで特殊なものだろう。
「タマネさん……もしですが、ラムパルドを解放出来たらすぐにあなたの所に……」
「いいや、私は彼の力を借りてアイデアをもらっていただけ……私に選ぶ権利などないさ、だから彼にしっかり向き合って……それでも受け入れてくれた時に私は彼の正式なパートナーとなることができる、私に出来ることは君たちの幸福と平穏を祈ることだけだね」
「……ここまでゴネずにすんなりいけたのも、運、普通はこうはならない」
「ベリーの言う通りだ、これから先BURSTハートの回収は一筋縄ではいかないだろう……警戒していかなくては」
こうしてタマネの持っているBURSTハートを手に入れた一行。
この出会いはまた解放に繋がることを信じてまた別の場所へ旅を続けていくことだろう。
はたしてラズ達はポケモンを救えるのか?
クランはグレートガベルを倒し、アルカデスになることができるのか? すぐ近くにアルカデスに憧れる者がいることは気付かず、彼らは今日もBURSTハートを集める。
……というところで、タマネが思い出したかのように
「ところで君たちはこれからどうするんだい?」
「……露店」
「貴方が買ったお店の人からBURSTハートについて調べてみるつもりです、近くですよね?」
「ああ〜……確かにこの近くだね、3日後にまたオークションが始まるから見に行くといい……ただ、警告はする」
タマネは偶然手に入れたが……その時自分と同じようにBURSTハートを狙っている者がいたことを思い出した。
その人物はベリーのように……あるいはそれよりもっと幼く感じる雰囲気の少女だったが、ただならぬ圧を感じた……燃え上がる炎のように触れたら火傷してしまいそうな危ない炎。
もしBURSTハートを狙っていたのならクラン達も危ない。
「……ん、ああそうだ、その子もBURSTハートに似たもの持っていたね、その時はあの歳で石を見る目があるのかと思ったが……」
「……考えすぎだと思わせてくれ、まさかベリーくらい小さな子がグレートガベルとして働いているなんてことがあれば世も末のように思ってしまう」
「君はそっけないようで優しさを感じるね、いいね……ラムパルドの次は君の彫刻を作ってみたくなった」
こうしてタマネと別れ、目指すはオークションが行われている鋼の街へ……タマネはこの後、ラズから貰った実際のラムパルドのイラストを貰い、古代の生き生きとした生活を元にした『超古代の戦士』を作り出すことになるが、また別の話。
──
旅の途中でも依頼は欠かさず行うラズ達一行……ポケモントレーナーも増えて新たな家族のように慕う人々も多い一方、ポケモンと人間両方にとって住みやすい環境作りはまだ難しい。
課題があまりにも多すぎてHAMでも手を出すことが多すぎるからだ。
大都会では栄光の裏、スラムのような場所で野良で放たれたグラエナがゴミを食べて過ごしていたり、きれいな湖が汚染されてベトベターが住み着く場所になったり……良くないニュースをよく聞く。
「アルカデスはポケモンが生きられる環境を作り直すために一旦ポケモンを入れてたりして……あくまで推測です、忘れてもいいです」
「いや、もしかしたらを考えられるのも今のうちだけだ……実際何故BURSTハートが作られたのか、どうやって作るかも分からないからな……」
「じゃあ……なんでだと思う?」
「俺がどう思うか? そうだな……アルカデスは正義でも悪でもない、ただ……誰かがその役割にならなければいけないだけなんだと思う」
その役割が自分になって、それが正しいと確信できるようになるためにクランはアルカデスを目指して旅をする。
オリジナルのBURSTハートは2つ、世界が大きく変化するほどの力を得られる……かもしれない領域まで、残り4種類。
──
「……見つけました、ハートブレイクです、このままオリジナルのBURSTハートを回収しながら討伐します……はい、光の羅針盤の方はハリルがやってくれるはずなので……」