ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第21話「2068年日本←→イッシュ地方」

 ミラージュシステムは止まった、ノウムもメッセージによると完全に姿を消して諦めた……これが事実かどうか分かりにくいがそれを確かめるためにも……一度帰らなくてはとミルトは動く。

 

「ジガルデ……そのポケモンさえなんとか持ってきたら、皆助かるかもしれない! 待っててリョウガ! すぐ戻るから!!」

 

 どうにか自分が入ってきたマンホールへと戻ってくると、向こうも何かしらの異変に気付いたのかマンホール一帯を囲うように立ち入り禁止テープが貼られて穴の先を確認しようと数々の車両で道が埋め尽くされている。

 それでも自分は行かなくてはならない……少々、いやだいぶ目立つような真似をすることになる。

 

 まず足元をラビフットやミミロップのようなうさぎの力強い脚力にして力強く踏み込んで大ジャンプ、車両を大きく飛び越えて車両を乗り越え……そのままウォーグルの翼で一気に滑空してマンホールの中へ……。

 

「あっ! 今の女の子……情報にあった通りです、成功例……」

 

「どうする? 大総統に知らせるか?」

 

「いや……前みたいに化け物で帰ってきたらと思うとな……」

 

 車両に乗っていた軍人たちはミルトの後ろ姿を写真にはっきりと収めるとその時点で撤退していく……。

 ミルトは穴の先で待機していたバルジーナに伸び乗って再度下の方へ。

 

「なーんか、まるで私アルカデスみたいになって……まさかね、像には触れてないしBURSTハートの力も中途半端だし……じゃなかった、急がないと!!」

 

 ミルトは裂けた空に空いた穴を目指すと、先ほどよりも亀裂が広がっているので大急ぎで元に戻る、念の為に時計を確認する、あそこに行っている間に何時間でも経過していたらたまったものじゃない。

 時刻は……ダブルパークで騒動が起きてからまだ1時間しかたっていないのだが……明らかにそうは見えない。

 自分がしばらく来ていなかった間に……随分と荒れ果てている、海だった場所からはマグマが噴き出しており溶岩で周囲が埋め尽くされている。

 やはり嫌な予感はしていたが……空の上に全く別の世界があったのではない、自分達が普通の世界の下、つまり地下部分にアリの巣みたいに構築されていたのが自分達の世界。

 島の更に真下となるとティラノサウルスの化石が発見されたりするのも当然だし、そこまで穴だらけにすればマグマが出てきてもおかしくない。

 

「ってそれどころじゃない! リョウガは……案外大丈夫だったらどうしよう」

 

 これまでの超人芸を見て来たこともあってか遂に人としておかしい方向まで予想してしまうミルトだったが……改めて真面目にリョウガを探しているとラズがクランを連れてウォーグルに乗っており……ミルトはようやく誰かに情報を共有出来る。

 そして……ミルトは自分達が地底の遥か底を世界と認識して上に全く別の世界があったこと、ゼルネアスが上へと向かって消えていったこと……生と死のバランスを守る3番目の伝説のポケモン『ジガルデ』が鍵を握りそうなこと……あと、成果としてはミラージュシステムが切られたことで完全にミラージュポケモンが途絶えたことだ。

 

「……ジガルデを知ったんですかミルト、なら……今回の状況も含めて潮時ですね」

 

「……ラズ、貴方何か知ってる感じね? 全部話しなさい」

 

「全部と言ってもどこから言ったほうがいいのか……ですけど、クランさんがこうなることは想定外でしたし」

 

 ラズが空の上で何かを語ろうとした矢先、砕けた空からフロードの姿が世界全体に行き渡るように映し出される。

 

「待て、話なら私がしてやろうじゃないか……真実の片隅を見た者が現れたんだ、この穴のしたにいる全人類が答えをしりたがっている」

 

「フロード……!」

 

「そう、フロード……こちらではしばらくこの名前を使っていたが敢えてこう名乗ろう、私は彼女が見てきた世界では『フドウ・ブロッサム』と呼ばれていた……ああ、ブロッサムは正式な苗字ではない、向こうで大総統に選ばれた特別な改造人種だけが……と、専門用語ばかり並べられてもつまらないだろう、時間も押しているしそろそろ話そう……『永遠の塔計画』のことを」

 

 そしてフロードは語る……この世界、地下深くに作られた不思議の真実を……。

 空に映し出されたフロードの姿は、この地下世界に生きるすべての人々に向け、隠蔽されてきた衝撃の事実を淡々と語り始めた。

 

「イベルタルが破壊した空間の先にある世界……あちらの世界の名称で言うなら、『2068年の日本』という国だ。そこにいるのは何の変哲もない人間であり、ごく平凡な暮らしを営んでいるに過ぎない」

 

 フロードの言葉は、ミルトやラズ、そして映像を見上げる多くの人々の耳に届く。

 

「しかし、人間自体は平凡でも、記憶に新しい歴史の中ではあまりにも揉め事が多すぎた。簡潔に言ってしまおう……あの世界の人間たちは皆、『変身願望』というものに囚われていたのだ」

 

 争いと変身願望に彩られた情勢。それに心底嫌気が差したというフロードは、一時的な平和の兆しが見え始めた頃に行動を起こし、この地底深くへと移動してきたのだと語る。

 

「私の身の上話はこの程度にしておこう。さて、この場所についての真実を語る前に、君たちに問いたい。──そもそも『ポケモン』とは何か?」

 

 ポケットモンスター。上の世界には存在しない不思議な生物。

 縮小化してポケットに入れられるほど身近な存在だからそう名付けられた、というのは単なる後付けに過ぎない。では、その起源とは?

 

「ここで一旦、上の世界の話に戻そう。あの世界には2種類の生き物がいた。『人間』と、『人間を元にしたモノ』だ。人間から改造された存在は、上の世界では既に根絶されたことになっている。だが……私は誰にも邪魔されないこの地下で、5年以上前から細胞を使った新しい実験をしていた……そういった動植物の果てなき進化の形こそが、君たちの世界で『ポケモン』と呼ばれるものなのだ」

 

 その言葉は、あまりにも残酷で、世界を根底から覆すものだった。

 

「なら、自分たちは人間ではないのか? そう疑問に思う者もいるかもしれないな……どうだろうか? 遺伝子や細胞は人間のものである以上人とは言える。血や骨、肉体組織は人と同じだ。元になった物が同じという意味では、人もポケモンも大して違いはない」

 

 ポケモンとして生み出された生物たちは、世代を重ねて進化や突然変異を繰り返し、際限なく強くなっていった。ただ存在するだけで雨を降らせるもの、空間を操るものなど、もはや人の手には収まりきらない規模の個体まで作られるようになり──遂には、イベルタルという『死』という概念そのものを撒き散らす存在まで現れてしまったのだ。

 

「言ってしまうとだ。イベルタルがこうして目覚めて空をぶち抜いたのはこれで4度目になる」

 

 フロードは過去の歴史を紐解くように語る。

 1度目、光柱によって開いた穴からフロードはこの地下へと入り込んだ。

 2度目、その事態に目をつけた一部の人間たちによって結成されたのが、研究・保護組織とビジネスの方向性を模索した『HAM』と『リーフカンパニー』だった。

 

「元々はHAMが先に生まれ、上の立場にあった。だが、ノウムという人間が突然現れたことで、リーフカンパニーはこの下の世界で大企業へと成長したのだ」

 

 HAMの本来の役割は、イベルタルの脅威に対抗しながら実験の産物であるポケモンたちが絶滅しないように保護することだった。

 しかし少し前に3度目の光柱が発生したことで事態は隠しきれなくなった。それどころか、このままイベルタルの暴走を繰り返せば、世界そのものが力に耐えきれず崩壊してしまう。

 

「そこでだ。HAMとリーフカンパニーは、一つの決断を下した。ここで人として生きている者たちを……再度形を組み替えて、強制的な進化を促すことにしたのだ」

 

 フロードの瞳に、狂気とも野心ともつかない冷たい光が宿る。

 

「新しく作り出した『XY+Z細胞』によってな……」

 

 XY+Z細胞……それは人類の既存の遺伝子に新たに新たなる染色体『Z型』を加え入れる事で強力ながら監視範疇に収まる物へと変質させる計画。

 少し前に作られた人類を改造する細胞を更に改造させたもの……それによって変異するポケモンにして人間をこう名付けられた……『ジガルデ』と。

 

 そう、ジガルデとは伝説のポケモンではなくすぐそこに手元にでもいる身近な存在、我々全てがジガルデだったのだ。 

 

「この細胞はもう既に一部の人間に移植されているポケモンと融合する力……というよりは結合して一体化する原理であり、BURSTことが出来るのはこれによるものだ」

 

 しかしジガルデの研究にも問題があった。

 寄生虫のように人間の体内に形を得たジガルデ達は主格となる『コア』と肉体組織の役割しかない『セル』の二通りだが、なかなかコアが生まれずに下の世界の動植物がどんどん育ってもう一つの文明と見分けがつかない程に時間をかけたことにより、この世界が生まれたことになる。

 時間さえあればポケモン達がなんでも作ってくれる……

 

「そこでだ、ジガルデ達は『コア』になった人類を効率よく誘い出すために人々にそれぞれ固有のカバーストーリーを設けた、つまりはAIのプロンプトや劇の台本のようなものを記憶に植え付けた……このジガルデもあるいは、本来の『ジガルデ』とは全く異なる存在ゆえだな」

 

 自分が大きく行動するための理由付け、活動力……存在しない思い出や夢、目標がジガルデの手によって作られて今の世界が出来上がり……遂にその時が訪れた。

 

 遂に世界はジガルデの本体となるコアを含んだ物を見つけた、ポケモンの力を結合しても肉体はそのままに一部の変質として転用できる新しい形の人の成功例。

 言うならば……パーフェクトジガルデとして既にBURSTされている人間が完成した、

 

「……まさか……それって私のこと?」

 

 ミルトの中でこれまでの不可解だったことが一気に答え合わせされたような気分だ。

 だが、『ミルト』としての記憶もジガルデが作ったもの……それだけじゃない、リョウガもハリルも、ラズもクランも……ここにいる全人類の何もかも存在しない記憶で、それを元に行動していた?

 

「いや……私も『フロード』という男の記憶を持っているから少し異なるな、なんと言えばいいか……難しい表現になるが、以前からこの世界にフロードが存在して、何かしらのドラマを繰り広げたというところか」

 

 リョウガやハリル達は少し前(体感5ヶ月前)に同じ名前の人間が存在し、過去にイベルタルが作り出したBURSTハートを使いグレートガベルと戦っていた……ということが実際にあったような感覚。

 フロードは最初は記憶と同じ通りにしてみた、レシラムを継承するものとして家系を継ぎ、グレートガベルを作り、ハリル達を記憶通りにスカウトして記憶通りの行動をさせる。

 その後にリーフカンパニーがイベルタルを見て何か因縁のようなものを感じたので予定を大きく変更したが……ノウムにとっても都合の悪いことだったらしくそのまま消えたので、最終段階の『永遠の塔』はそのまま進行することにした。

 

 永遠の塔とはこの時のために用意された、世界から大きく伸びる巨大な非常階段。

 ここで人が密かに作られていた理由など頃合いを見てまた上の世界に放つことだ。

 つまりそれはイベルタルとジガルデを同時に上の世界に放つということ……。

 

「物語はここでおしまいだ、フロードとして生きるのも中々楽しくはあったよ」

 

 そう言ってフロードの通信は切れる……。

 つまり……これまでのこと全てが何の意味もない?

 ミルトは考えた、これから自分の出自を知ってどう受け入れるべきか……他の人達も同じ気持ちなのか? 忘れそうになるがフロードの言う通り、今この世界はイベルタルによって壊滅寸前だ。

 自分がどんな力を持っているのか全く見当もつかない……それでも身体が勝手に動いていた。

 多分リョウガなら、知ってもそうするだろう。

 そして……彼もまたそうらしい、クランがつるのムチを伸ばしてバルジーナの所に手を伸ばす。

 

 ラズは……。

 

「貴方はどうするの? 自分の記憶が本物じゃないって普通は受け入れ難いから……無理についていく必要はないと思うけど」

 

「僕は……その、クランさんがこんなことになるとは思わなくて……でもちょっと、すみません、僕は中身がなんであれポケモンを守りたいんです、なんというかHAMの一員である以上僕も実はフロードみたいなものですけど……」

 

 ラズはHAMに来て長い、ジガルデの記憶も多少あるがそれでもポケモンの保護という仕事にやり甲斐と楽しさを持っていたのは本物だ。

 だからラズはこの永遠の塔をノアの方舟のようにしてポケモンを導くつもりだろう。

 

「僕はポケモンの方をなんとかします、ミルトも……」

 

「そうね、自分がなんなのかとか考えてる場合じゃないし……リョウガ待ってて!」

 

 バルジーナは地上に向かって急降下し……ウォーグルと残されたラズはミルトの後ろ姿を見送り、通信機を捨てる。

 HAMはもしもの時には自身の命を優先し真っ先に出るようにと連絡が入っていたがそれを放棄した、ベリーはもう既に行った。

 だが自分は……。

 

「さて、最後の大仕事だな……僕はこの世界で生きてるほうがやり甲斐があるんだ、もうちょっと足掻いてみるぞ」

 

 ──

 

「リョウガ! どこにいるの、リョウガ!」

 

 降りてみたが辺り一面が溶岩溜まりになってどんどん広がり気温も上昇中……ポケモンや人どころか生き物すら耐えられなさそうな惨状になっていった。

 ダブルパークだけではなく他の地域も次第にそうなっていくのだろうか?

 こんな有様では……いや、もしかすれば一点に集められるのかもしれない。

 

 自分が本当にフロードの言うとおり中心核なら、ジガルデを全部まとめてここに……リョウガ達も含めて。

 

「クラン……いや、確かあなた正確には今クランじゃないのよね、ちょっと覚悟してもらうことになるけど」

 

「はい、せんせーが無事に戻ってくるのなら」

 

「言ったわね? 私も覚悟決めるわよ……BURST!! パーフェクトジガルデ──ーッ!!」

 

 ミルトは覚悟を決めて一世一代のBURSTを叫ぶ。

 

 その瞬間だった……世界各地に鼓動するように緑色の波動が広がり……大きなものがここに集まりそうな感覚と強い心臓の鼓動。

 突如としてクランの口からにゅるり……とあの緑色の生物が出てくる、HAMに入る際に支給された薬から生まれたのが……ジガルデだったとは。

 しかもそれがHAMにいないはずのクランの中に。

 

「ま……まさか、私がこの島に来た時に殆どの人に?」

 

 自分が感染源のようになって周囲をジガルデ化させていた……フロードが言っていたようにあるべき姿に進化するために?

 それが事実であることを裏付けるかのようにマグマから続々と手を伸ばして這い上がる影が……それは覚えがある、カルタ、ラグ、シン、ルリマル……BHSに参加していたBURST戦士達がマグマに浸かっていたにも関わらずピンピンとした姿で這い上がってきた。

 

 その体からはジガルデ……いや、それにしてはヘビのように大きく成長した姿になって口の中から覗いていた。

 それはまるで栄養を体から補給していたように……それらはミルトが自分達を呼んでいると判断したのか、次々と飛び上がって目の前に集まる。

 

「ちょ、ちょっと!? もしかしてこのまま全員まとめて合体する気なの!? ちょっと待っ……」

 

 わらわらと人間が群がっていくらバルジーナでも重みに耐えきれずぬるりと落下、その間にもまたまだ一体化していき緑色の肉塊に身体が丸ごと押しつぶされそうになるが苦しさや痛みはない……。

 そして……黒い閃光のように一直線にミルトに近づく者が、肉塊を貫いてミルトに手を伸ばす、それは今……自分が一番会いたかった存在。

 

 

「ミルト!!」

 

「リョウガ……リョウガ!」

 

 その瞬間、身体は完成した……秩序という力の源で全細胞を結集させ、全てを終わり……『Z』へと導く究極の存在……成ったのね。

 

 

 ジガルデに……!

 

 完全にパーフェクトジガルデとして進化した後……大きく飛び越えて穴の先にいき、真っ暗な空間で背中からにゅるりと余った人間部分を次々と安全に戻し……最後にミルトだけポンと吐き出して去っていった。

 

「いや雑!! 私だけ出し方が雑じゃないのジガルデ!! 一応ご主人様なんだけど!」

 

「んん、俺は一体……確か俺は準決勝戦でポケモンに……」

 

 ジガルデから吐き出されてすぐ……目を覚ましたのはクラン、しかしそれはフシギソウが人格を憑依していたときのものと違う、BHS準決勝戦で致命傷を負った時からそのまま変わってないように見える。

 アレは結局なんだったのか……ミルトは考えられる考察をそのままクランに説明する。

 

「貴方、もしかしたら身体をフシギソウが借りてたかもしれないの、BURST中だったのが関係してるんじゃない?」

 

「何!? ……なるほど、俺が死にかけたことでポケモンがBURSTハートから俺の体に、ということなのか?」

 

「……考えてる余裕がないのよ! 今ちょっとかくかくしかじかというかちょっとアレね今から紙に書いて要約するから」

 

「お……おお……お前なんか苦労したんだな」

 

 大急ぎで紙にまとめて説明したミルトと世界が滅びそうになっているというスケールの大きさもイベルタルの存在だけですぐ納得したクラン。

 ラズに関してはポケモンの救助を優先しに行ったとだけ話すだけで納得してくれた……それだけ信頼が厚いということなのか。

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