ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第22話「下世界開拓開始」

「リョウガ、クラン。とりあえず今の最優先事項は……フロードの『永遠の塔』計画を止めることよ!」

 

 真っ暗な空間の中で、ミルトは周囲に集まった仲間たちを見回して声を上げた。

 今止めるべきなのは、フロードが企む永遠の塔計画によってイベルタルとジガルデが上の世界へと放たれることだ。

 フロードとの決着は後回しにするにしても、あの圧倒的な力と厄介な性質を持つ2体の伝説のポケモンが上の世界に出てしまえば、一体何をしでかすか分かったものではない。

 

「だが、どうするんだ? これまでの戦いでも過去のBURST戦士はイベルタルにほぼ手も足も出なかったという話だ、俺たちでもやれるかどうか……」

 

 クランの言う通り、イベルタルの『死』を振り撒く力に対抗する手段は未だに見つかっていない。

 今現在、ミルトたち──ジガルデから弾き出された人々が居る場所は、イベルタルが開けた巨大な穴の先。世界と世界を繋ぐ謎の真っ暗な間の部分だ。

 今から冷静に考えてみると、ここは恐らく開拓が全然進んでいない、ただの分厚い地層だったのかもしれない。

 

 ふと下を見下ろすと、底知れぬ暗闇の奥から赤々としたマグマがじわじわと広がってくるのが見えた。地下世界が崩壊し、溶岩が押し寄せてきているのだ。

 ミルトは咄嗟に、自分の口からモスノウの力で冷凍ビームでも吐き出してマグマを固められないかと考え、力を込めようとした。

 

「……あれ? うそ、力が出ない!?」

 

 しかし、BURSTハートが全く反応しない。

 先ほどパーフェクトジガルデに全員で合体させられた際、BURSTの能力を全部取り返されてしまったのだ。どうやら、ポケモンと融合する力が完全に失われているらしい。

 

「俺もだ。BURSTできない……」

 

「俺もだ! ゼクロムが全然反応しない!」

 

 クランやリョウガたちも自分の体を確認するが、やはり全員BURSTが出来なくなっていた。

 リョウガはともかくクランが超人的な力を失った今、マグマの海や伝説のポケモンに立ち向かうのはあまりにも無謀に思えた。

 

「終わった……もうどうにもならないじゃない……」

 

 ミルトが弱音を吐きそうになったその時、ふとあることに気付いた。

 BURSTハートが反応しないということは、つまり──。

 

「……バルジーナ、戻って!」

 

 ミルトが腰からモンスターボールを取り出し、ボタンを押す。すると、赤い光と共にバルジーナがスッとボールの中へと吸い込まれていった。

「できた! モンスターボールが使えるようになってる!!」

 

 以前はBURSTハートの干渉によってモンスターボールが故障してしまっていたが、その力が消え去ったことで、本来のポケモントレーナーとしての道具が再び機能するようになっていたのだ。つまり、まだ希望はある。

 

「そうか! イベルタルやジガルデがどんなに桁違いのバケモノだろうと、あいつらも『ポケモン』だ! なら……モンスターボールで捕まえることが出来る!」

 

 クランが閃いたように声を上げる。今の崩壊しゆく環境に比べたら、ボールの中のほうがよほど安全だ。

 そこでミルトは、ニヤリと笑ってリュックをごそごそと漁り始めた。

 

「フフフ……実は私、ノウムの部屋を調べてた時に、こっそり見つけてくすねておいたのよね」

 

 ミルトの手の中にあったのは、上半分が紫色で、「M」の文字が刻まれた特殊なボールだった。

 

「それは……マスターボール!?」

 

「そう! どんなポケモンでも必ず捕まえられるっていう究極のボールよ。シルフカンパニーが悪用を恐れて増産を止めたはずなんだけど、リーフカンパニーはイベルタルを捕獲するためか密かに増産しててね……複数個確保してあるわ!」

 

 これでジガルデとイベルタルを捕まえれば、一時的とはいえこの世界規模の騒ぎは収まる。対抗するのではなく、捕獲による封印。これなら勝機はある。

 

「よっしゃ! それならいけるぜ! ミルト、でかした!」

 

「えへへ、でしょ? さあ、急ぐわよ! まずはその『永遠の塔』を目指して、一直線よ!」

 

 ミルトは再びバルジーナをボールから呼び出し……クランたちも出発しようというところであのウォーグルが降りてくる、まさかラズが自分に託してくれたのか?

 

「ラズ……すまない!」

 

 迫り来るマグマの熱風を背に受けながら、彼らは大空を突き進む。世界の命運を懸けた、最後の戦いの舞台へと向かって──!

 ──

 

「……まさかあれのことか?」

 

 しばらく飛んだ先で空を貫いて大きくそびえ立つ真っ白な丸い棒状の物が見えてくる、言葉通りならあれこそが永遠の塔……?

 穴は上に上り詰めるように大きく広がっており、ここからイベルタルやジガルデが入ってもおかしくない状況……では肝心な2匹のポケモンは?

 すぐに見つかった、空の上でパーフェクトジガルデとイベルタルが壮絶な空中戦を繰り広げており……ゼット型にビームを発射してイベルタルを貫いたかと思えば禍々しい色の翼を翻してY型の衝撃波を放ってくる、遠くから見てるだけで致命傷を受けそうなスケールの大きい戦い、これが伝説のポケモン同士の戦い……。

 

 

「……ミルト、イベルタル達を捕まえるのはいいんだがこの場合両方だな? どちらかを捕まえるにしても大惨事になる可能性がめっちゃなくないか?」

 

「いやまあ……伝説のポケモンと相対する時って普通そうなんだけど、マスターボールあるし大丈夫でしょ多分……」

 

 言っておくが2匹同時に現れてる中でボールを投げられるのはよほどのベテランのみで、基本的には1体になったときに狙うのが当たり前。

 なんとかバルジーナ達に掴まってマスターボールを投げられる距離まで近づこうとするが、イベルタルもパーフェクトジガルデも縦横無尽に暴れているので巻き込まれないようにとなると迂闊にボールを投げることも出来ない。

 しかしこの勢いでは本当に世界が壊れてしまう、慎重に見計らってボールを投げて捕まえなくてはならないのだが、ポケモンに詳しくないリョウガはまだ疑問があった。

 

「なあミルト、マスターボールで捕まえたあとにイベルタルとジガルデはどうするんだ?」

 

「え? う──ん……まあ捕まえた人のものになるから私のポケモンってことになるけど、言うことを聞いてくれるかどうかよね……ボールから出したくないな……」

 

 ポケモンは捕まえて終わりというわけでもない、当然の話ではあるが……思った以上にめんどくさい話になってしまった。

 だが今そんなこと考えてる余裕はないことは明らかだ。

 

「捕まえたあとなんて捕まえてから考えればいいのよ!! バルジーナもう人踏ん張り!!」

 

 バルジーナに乗ってなんとか攻撃が当たらなさそうなイベルタルの真上へと折り立つ、バルジーナの背中の上に乗って急降下でボールを投げ落とせる体勢に。

 

「いけるかミルト!」

 

「やれるだけはやったわ!! いけっマスターボール!!」

 

 ミルトは勢いよくボールを投げ飛ばして……なんとかイベルタルの頭上に当たり吸い込まれる……のだがここで問題がある。

 

「ところでミルト、上から落とすように投げてどうやってボールを回収するんだ?」

 

「あっ」

 

 ミルトは今更言われて気が付き、バルジーナから滑って落下していく。

 マスターボールは掴むことに成功したのだが間に合わず空から地面……というよりはマグマに向かって真っ逆さまに落下。

 マグマの海にどぶんと丸ごと沈んだあと、まるで突然熱湯風呂に落とされたぐらいの程度で這い上がって岩に掴まる。

 

「うおおお熱っつい!!」

 

「み、ミルトすげぇ……マグマから落ちたのに俺みたいなリアクションしてるぞ」

 

「ジガルデの器に選ばれただけはあるな……」

 

「感心してないで早く来なさい!!」

 

 ──

 

「ああ……服ちょっと焦げちゃったわ」

 

「逆になんでそれだけやって『ちょっと』で済んでいるんだ……?」

 

 マスターボールの中で大人しくなったイベルタルを見て、一同はひとまず安堵の息を吐いた。

 だが、根本的な問題は何一つ解決していない。

 

「……とりあえず、一番ヤバいやつは封じ込めたけど、もうしようかしら……マグマのせいじゃないわねこの汗の量は」

 

 ミルトがボールを見つめながら呟く。視線を下に向けると、イベルタルの活動やこれまでの戦闘によってこの世界で地盤となっていた分厚い地層が大きく緩み、あちこちからマグマや熱泥が溢れ出し続けている。

 歴史の中で幾度も繰り返されてきたイベルタルの破壊と再生の余波がここに来て地下世界の構造そのものを限界まで追い詰めているのだ。

 

 ジガルデの件は一旦後回しにするとしても、このままでは遠からず地下世界は完全に崩壊し、溶岩の海に飲み込まれてしまう。

 かといってマグマが冷え固まるのを待ってまた地盤から作り直すにしても、一体どれほどの時間がかかるのか想像もつかない。

 

「上の世界へ逃げるしかないのか……?」

 

 クランが険しい顔で頭上──イベルタルがこじ開けた『上の世界』へと続く大穴を見上げた。

 だがそれも簡単な話ではない……上の世界は、ポケモンという存在がいない、純粋な人間だけの世界だ。

 そこに突然、大量の未知の生物であるポケモン達を連れて行けば、パニックや大きな軋轢を生むことは火を見るより明らかだった。

 それに、文明のレベルが多少進んでいるとはいえ、クランたち地下世界の住人は向こうの世界に戸籍や身分を証明できるものが何一つない、言ってみれば全員が正体不明の不法入国者になってしまうのだ。

 どちらを選んでも、自分達には大いなる試練しか待ち受けていない。

 

「なぁ」

 

 重苦しい沈黙を破ったのは、リョウガだった。彼は周囲の崩れゆく岩壁やマグマを見渡し、ふと口を開いた。

 

「俺達、ここを捨てずに暮らしても生きていけるんじゃないのか?」

 

「えっ?」

 

「いや、だってさ」

 

 リョウガは、先ほどマグマに落ちて服が少し焦げただけで済んでいるミルトを指差した。

 

「ミルトがあれでピンピンしてるってことは、俺達の体って相当頑丈になってるだろ? BURSTの力は無くなったけど、逆にその力が俺達自身の体として定着したっていうか……俺みたいなのがたくさんいるわけだし」

 

 その言葉に、クランも少し考えるように自分の手を見つめる。

 

「そうか……そのフロードが言うXY+Z細胞も加わって、俺達は一度パーフェクトジガルデと一体化した。俺達は人間の形を保ちながらも、その肉体は常人を遥かに超えるレベルで『完成』されているのかもしれない……奴が正しいことを言っていればの話だが」

 

 マグマに落ちても平然としているミルトの姿は何よりの証明だった、完全にこの状況に適応することを前提としている。

 

「ここから先、世界がどれだけ荒れ果てようと、今の俺たちの体と……残されたポケモンたちが協力すれば、また一から開拓し直すことができるかもしれない。イベルタルのような抗えない脅威も、ポケモンを道具にするBURSTハートの悲劇もない……本当の意味で平和な世界を、俺達の手で作り出せるんじゃないか?」

 

 クランの言葉に、絶望に支配されかけていた空気に微かな希望の光が差した。

 未知だらけの上の世界で肩身の狭い思いをして生きるより自分たちの故郷であるこの地下世界を、強靭になった肉体と仲間たちと共に再建する。

 それはとても理想的な未来に思えた。

 

「下でやり直すか、上で生きるか……」

 

 ミルトは腕を組み、真剣な表情で考え込んだ。

 そして、ふとある嫌な記憶が脳裏をよぎった。

 

「……ちょっと待って。上の世界で思い出したんだけど……ゼルネアスって、どこ行ったんだろう?」

 

「ゼルネアス? そういえばイベルタルと一緒に復活したそうだな……?」

 

 クランが眉をひそめる。

 生命を与える伝説のポケモン、ゼルネアス。

 イベルタルが繭から復活して間もなく、枯れ木の姿から元の姿に戻り、あの大穴を通って上の世界へと向かっていき……ゼルネアスを追いかけるように穴に入って世界を見つけたというけいいだ。

 

「私が一回上の世界に出た時、ゼルネアスの姿なんてどこにもなかったのよ。それらしきものを見たって騒ぎもなかったし……」

 

 ミルトの顔色が悪くなっていく。

 

「問題はね、私がこっちの世界に戻ってくる時に使ったマンホールなんだけど……帰り道は黄色い立ち入り禁止テープがグルグル巻きに貼られてて、大きな車両が何台も集まって通行止めにしてたのよ、その時は私もほぼ強引に脱出したわけなんだけど」

 

 その光景は、ただの事故や工事の規模ではなかった。明らかに『何か』を警戒し、封鎖しようとする組織的な動きだった。

 ゼルネアスの行方、そして不自然なほど厳重な封鎖。

 

 クランが、険しい顔つきで核心を突いた。

 

「……それってつまり、向こうには遅かれ早かれ気付かれているんだな? 下にもう一つの世界があることを……」

 

 想像してみてほしい、自分達が平穏に過ごしている世界に自分と同じ見た目をした人間のような何かが過ごしている上にコントロールが難しい強大な生物が過ごしているという事実を……それはもう、とてもエグい。

 しかもイベルタルはもうこれで4回も空を破壊している、フロードがあそこから来たこともあってここまで繰り返していれば何かしらの調査や情報も入っているだろう。

 

「リーフカンパニーやHAMが情報を送っていたってことはないのか?」

 

「リーフカンパニーはともかく私はHAMでそれらしきものを見た覚えはないわ、私たちの組織ってあくまでポケモンを保護する組織だし……」

 

「……ひとまず分かることは、フロードは永遠の塔計画で逃がそうとしているが上の世界は期待できそうにないということか」

 

 自然とリョウガが提唱した『自分たちの世界を作り直す』という案が決まりつつある、しかしこれは自分達の世界を守るため以外に……フロードへの警戒もある。

 これまでのフロードは世界を滅ぼしたいようには見えない、一貫して『真実』というものを見せたかった、自分達に上の世界を見せたかった……イベルタルをBURSTハートにしようとした目的だけが気掛かりだが、こうしてマスターボールに入れていれば手に入れるためにまた戻ってくるのか?

 

 もしかすれば戻ってくるかもしれないが、その場合フロードはまだBURST出来る力が残っている……ポケモンバトルでどこまで対抗できるかだが、今はこの環境をなんとかするべきだ。

 

「……ポケモンが安心して過ごせる場所を守り、保護していくのがHAM、だろう?」

 

 ラズに出会って過ごした、ポケモンを守り共存する仕事……わずかな間でもそれにやり甲斐を感じるようになっていたクラン、リョウガとしても父はポケモンを守ろうとしていた、それを尊重していく……。

 

「……で、まずはこのマグマをどうするかだよな」

 

「そうだな……いくら頑丈でもこのまま荒れ放題になって生き埋めになったらただじゃすまないし……というか、割れた空ってどうやって直すんだ?」

 

 まだまだ問題は山積みだが、自分たちはまだ捨てたものではないという気分で新しく生まれ変わる寸前の世界を眺める……。

 

 ──

 

 環境改善を進める第一歩……ミルト達は一旦空に目印をつけた上で遥か遠くまで飛んでみることにした、ダブルパークは既に人が通った後が多いのでポケモン達はラズがなんとかしてくれたのだろう。

 専門家であるラズにその辺りを任せるとして、まだまだ遠くにいるポケモン達の住処をなんとかしなくては……いや、ポケモンどころか生き物が住める環境にしなくては。

 

 そこで一旦マグマをなんとかできそうなポケモンを探すことにして……ミルトがアテがあるという。

 大きな巨人のような見た目で大陸を作り出したという伝説のポケモン『レジギガス』だ。

 

 レジギガスはマグマや氷といった自然現象にも動じず『レジロック』や『レジアイス』などの他のポケモン達を作り出したともされている。

 壊すポケモンがいれば……同じ数だけ作るポケモンもいるということだ。

 マッハで飛べるウォーグルやダークオーラの恩恵を得られるバルジーナが速いといえど、自分達が生まれた『イッシュ』と呼ばれる地域から『シンオウ』らしき方角まで辿り着くのは結構かかった。

 

「こういう時もっと飛行ポケモンがいれば楽なんだけどな……なあミルト、マスターボールって」

 

「まだ全然あるわ、多分ボックス1個分くらいは」

 

「それだけあっても手元に置けるのは6つ……おい待て、そうなった場合ポケモンはどうなるんだ?」

 

 モンスターボールはルールとして手元に常備出来るのは6体のみで7体目以降を捕まえることは可能ではあるものの自動的にボールがパソコン越しにアクセスされるボックスと呼ばれるサイトに保管されることになる。

 よほどポケモンを集める人でもなければボックスを使っことはないがHAMは業務上数々のポケモンを保管している……それらもいずれなんとかしなくてはならないが、考えてみるとこんな状況で電気がまともに通っているはずもないためボックスは使えない。

 

 ミルトは既にバルジーナを持っており、ここからイベルタルを入れたのも含めると残り4体。

 レジギガスと残りの魔人たちがで6体なので全員捕まえるとなるとそれだけでトレーナー1人分の枠が埋まってしまう……ロマンがあるがあまり全部は捕まえるべきではないが。

 

「……レジギガスだけ捕まえて後はどうにかするか?」

 

「そうするしかなさそうね……」

 

 取捨選択をこの場で行い、まだ崩れずに残り続けている神殿のような場所……この辺りは寒い地域のはずだがほぼ雪は解けて、すぐ目の前に崩れそうな天井を支えるようにレジギガスが膝をついて眠っていた。

 

「すまないが……力を貸してもらうぞ、レジギガス」

 

 クランはなるべくマスターボールを節約するべく、昔トレーナー時代に使っていた古いモンスターボールを投げて……レジギガスは抵抗することもなくボールに入ったのだった。

 

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