「答えを……見つけたんだ、クランさん」
声とともに現れたのは……なんと空からぶら下がるように……いや、『生えてくる』ように現れたのはベリーだった。
「ベリー!? 貴方、この世界の危機で去ったって……もしかして改善してきたから帰ってきたの?」
ミルトの疑問に答える間もなく……ベリーは剥がれるようにしてクランに掴まる。
「話は後、お腹が空いてるんでしょ……案内するから行くよ……」
ベリーは指をさすと光のような道が出来るので、その先についていくことに……そろそろ見過ごせないくらい空腹になってきたのでそれに従うことに……。
ベリーが導く先は東……ずっと東であり、世界の更に果て。
そういえば……ラズ達とはずっと西の方向に進んで旅をしていた、これまでこちらに行くことはなくずーっと一直線に進んでいた。
「……生き物というのは、ただしい……私達はその人を……『ももいろさま』って呼んでる……私は分身として……『ラブトロス』って名付けようとしたら……見た目が嫌って言われちゃった……」
「……ももいろさま? 一体何者なんだ、お前も含めて」
「……ももいろさまは、私のママ、私の本名は……言えないけど、ベリーも大事な名前をちょっといじったもの……だからね、私」
ベリーは答え合わせのように姿を変える……まるで変身出来るポケモン『メタモン』のように何にでも、彼女も娘ということは、この上の『ももいろさま』とやらと 同じように大きく人間とは違う存在らしい。
ももいろさまという存在の体の中が、ポケモン世界になっていることには理由がある。
「えっとね……ももいろさま、好きな人がいるの、私のお父さん……とは近いようで遠い特別な関係なんだけど……その人がね、ポケモンを作ったの、色んな人から組み合わさった……遺伝子で」
「それって……XY+Z細胞のこと!?」
「うん……多分そう……それより前に作ったもので……その人やももいろさまは色んな人間と1つになったらしいんだけど……その後に……今で言うポケモンを作りたいって……」
つまりはこういうことだ、木を隠すなら森の中、人を隠すなら森の中。
そして……実験体を隠すなら改造された自分達の肉体の中、ももいろさまとやらは地下に潜った上でポケモン達を体の中に送っていたのだ、絶対にここなら悟られることはないから……。
それを聞いてミルトは渋い顔をする。
「私たちもその取り込まれた何かの一部ってことね……でもその人、もうしょっちゅう体荒らしたりゼルネアスが貫いたり……なんなら私貫通して外に出ちゃったけど」
「大丈夫……ももいろさまは頑丈だしちょっと穴が空いても生きてる……ほら、ご飯来たよ」
「え!? ご飯ってまさか……あれを食べろと!?」
確かに食料らしき団子が流れてきており、ベリーは平然とそれを齧って虫のように食べる、リョウガは問題ないとわかるとそれを掴んで一気に丸ごと食べてしまう。
「おおミルト! これ結構うまいぞ!」
「うん、ポケモンも食べられるものだから……もってっていい……」
「いやいやいや……ちょっと!! これって要するにももいろさまとやらの食べカスでしょ!? 人が食べたものをさらに食べるのは……人としてちょっと抵抗感あるんだけど!」
「こればかりはミルトに同意したくなるが……ベリー、本当にこれしかないのか」
「うん、というかここの食事は……これを加工したもの」
「……私今からでも記憶消せないかしら」
諦めた様子で団子を食べて栄養を補給する……確かに食べてみると店で食べたあれこれのような物と同じ食感なのが余計に変な気分になる。
だがひとまず環境が戻るまではこれを食べるしかなさそうだ。
「……でもまさか、三人とも残ってたなんて……作った人は……このまま上の世界に出てポケモンを……けしかける予定だったけど」
「それはちょっと身勝手じゃない? どこで見ているのかしらないけど……」
「……ミルトは、もう会ってる、生命のシンボルだし……あの人と同じで『青い』から」
ベリーは言う、生命を守り、不老不死で……決して何かの味方ではなく、生きていてさえいればそれでもいいと他人行儀だが尊ぶ姿勢は見せる、人前では喜ばせるために見せかけの優しい仮面を見せることに慣れている。
それが……
「ゼルネアス……?」
「……最初に生まれたのは『ゼルネアス』と『イベルタル』だった、どっちもあの人を表すもので、その2つだけが、あの人を象徴するものだったの」
歴史をベリーが紐解いていく、まるでビデオを見せるように直接脳内にポケモンが生まれるまでの歴史を見せてくれる。
まだそれらが『ポケモン』と呼ばれなかった頃、突然変異で人の形をせずに外れた物がゼルネアスとイベルタル、つまりあの2匹は厳密にはポケモンではないが後からポケモンとして定義された。
命を尊ぶゼルネアスは『あの人』の意思を完全に受け継いで監視カメラのように周りを見渡せるが、復讐心や破壊衝動、醜い嫉妬といった過去に存在した負の心があのような形になり……両者を表に出さないようにももいろさまと融合した。
ももいろさま自体『あの人』の一部なので嫌がることはなかったという。
その後にベリーが生まれた……というよりは、複製して出来た。
ベリーはイベルタルとゼルネアスだけでさみしかったので『あの人』にわがままを言ったら、どんどん細胞を送った動物を入れてくれて……その動物は不思議であり恐ろしいことに、短い周期……1日で現在のポケモンになるほど進化と変貌が速い存在だった。
……それは、クラン達人間も細胞を再構築して全く別の人間に変わった末という。
しかし良いことばかりではない、戦争主義者思考とでも言うべきかイベルタルは簡単に収まりきらず体を破って大きな一撃を日本に放ち……その後頃にフドウ・ブロッサム(後のフロード)が訪れた。
彼は『あの人』とも知人であり、手を貸したことによってXY+Z細胞が生まれ、ゼルネアスとイベルタルを静止するための融合体ジガルデが誕生。
ジガルデは少しずつ細胞を分離させてコピーを作り、数百人分の人間や生物の遺伝子を結合させて歴史的には最初のポケモンとして知られる『ミュウ』を作り出した。
可愛いがミュウは性格に難があるので人前に現れることは滅多になく、勝手に人間の世界に降り立ってXY+Z細胞をオニのようにばらまいた後にフロードのもとに帰りそれ以降は行方が分からない。
しかしこれによってジガルデは強い影響を受けて人間の記憶とリンク、ももいろさまのように完全な融合に憧れるようになる。
そこからはフロードが語った通り、派生された遺伝子的に人間には近い存在に寄生することで、まるでAIプロンプトを打ち込むように1から記憶を作り出してまるで10歳分の思い出があったように刷り込ませる。
「……実際はね、貴方達が生まれてから今日になって、10年も経ってない」
「え……」
もしかしたら『クラン』も『リョウガ』も過去に存在して、人間としてはまた別の存在だったのかもしれないが、それで言えば『あの人』も『ももいろさま』も同じようなものなので彼らにとってはどうでもよかった、そうして実験と放流、飼育と管理を繰り返していくうちに体の中も変異して一つの世界のようになったという、ただし見えるだけで体積はちょっとずつ広げていた。
「……でも、想定外の事も起きた……それがリーフカンパニー……上にも下にもそんな会社は存在しなかったのに、突然現れた……」
リーフカンパニーという企業が現れ、それから間もなく狙い澄ましたかのようにノウムという人間が突然下の世界に現れた、上から来たわけでもな培養されたわけでもない、リーフカンパニーの社長という立場に収まるために会社が前もって生まれて、そのまま流れるように現在の立場を得た。
「そしたら……イベルタルの方も変わり始めて……破壊の力は前からポケモンに向くようになった……けど、突然ポケモンを石に力が芽生えて」
「……え? それってBURSTハートのことよね、じゃあそれって、イベルタルがBURSTハートを作り出したって、最初からそうだったわけじゃないの!?」
リーフカンパニーが出来てからすぐにイベルタルに不思議な力が芽生えた、それこそがBURSTハート。
レジギガスのようなポケモンを擬似的に作れる存在やゼルネアスの命の力などで転生は出来たが命を失うその力は突然開花し、このまま解き放たれたら人類も滅ぼせる……あの人はそれも場合によっては構わないと思っていたが、何故こんな力が現れたのか……リーフカンパニーはさらにコレも見据えていたようにBURSTハートの使い方を説明したり、最近になって販売した。
つまりBURSTハートやBURST戦士に関すること、それだけはノウムによる仕込みであり、イベルタルを『悪』として扱うための準備をしていた。
フロードはそれに便乗するように表向きの悪の組織として『グレートガベル』を作る、やっていることは少なくともフロードにとっては第二の人生の暇つぶしにすぎない。
その言葉を聞いて……改めてクランは少し揺れるが……タマゴとして新しい生を託したレジギガスの事を思い返して。ベリーに聞く。
「俺は……その、リーフカンパニーについてはどうでもいいが、HAMはあいつらと繋がってるんだよね……ラズは、最初から知ってたのか?」
「ううん……HAMの職員は上の人間だけど……ここを住処にしてるみたいなもの……向こうにも、立場がない人間は……いくらでもいる……」
上の世界が相当面倒事があったことはフロードが語っていた通りだがミルトが見てきたものに反してその際のツケや後始末は全く晴らせておらず、大きな出来事で孤児や無職も山程あり……あの人とフロードはそれらを大きな病院からまとめて都合よく用意して教育して組織ということにしたのがHumanity's Aid for Monsters……。
及びHouse adaptability Mutant。
小さな部屋のような場所で立場のない人がジガルデやポケモン達と共に共存して適応するための実験……つまりラズ達にポケモン保護という仕事を与える一方でラズ達の立場も与えていた持ちつ持たれつを維持するものだったが、リーフカンパニーが現れてからHAMが彼らの傘下になり……まるでノウムが中心に回りそうになっていたが……そうはいかない。
ジガルデが先に強いポケモンのBURST戦士をヒーローに仕立てるべくカバーストーリーを立てていたからだ。
つまりはリョウガが選ばれたのだが、それもたまたまゼクロムという伝説のポケモンと呼ばれるくらいには強い物をてにいれたぐらいの理由しかないし、フロードは彼に合わせて因縁があるように多少ジガルデを調整している、XY+Z細胞を作った者に関与したフロードならではだ。
……情報はここで終わる、ここから先は言うまでもないという事か、もう既に知っているということだろう。
「……ノウムはどうしてイベルタルと敵対していたの? 私、向こうでジガルデの像を見たんだけど誰かと勘違いしていたようなメッセージを遺していたけど」
「さあ……? ノウムが……誰かに夢中になっていたし……それがずっとイベルタルと思い込んでいたのは……分からない、あの人の知り合いらしいけど……肉片に過ぎない私は……」
ベリーは本当に知らなさそうだったので話を切り上げると、改めて食事などの問題が解決して環境が立てなおす段階が見えてきて、ベリーは頭を下げる。
「ここにいてくれて……ありがとう……私やももいろさまは……ここで産まれ過ごした人はここでしか……生きられないと思っているから……」
「……いや、頭を下げられてもねえ? ベリーの言う通り上の世界じゃ私達が生きていけるかっていう形でここにいたわけだし……」
「むしろ俺達、これからどうすれば……」
これからというのは元に戻ってからの話、リョウガは石像になった父の回収はいくらでもできるし、ミルトやクランには保護の仕事を続けることが出来るとはいえ真実を知った結果、これから大まかにやろうとしていた大きな目標みたいなものはなくなっていた。
フシギソウを取り戻すという目的はBURSTハートにされてから完全に果たすことは出来なかったとしても……ここまであきらめなかったこともあり、レジギガスに新しい命は繋げた。
「いや、むしろここからじゃないか? ラズにまた会おう……そしてあいつが望んでるようなポケモンと人が……出来れば上の世界の二本という国の人々とも仲良くできる場所に作り直すんだ」
クランにとっては新しいスタート、フシギソウやポケモン達にとって恥ずかしくないような生き方を……そして二度とポケモンを利用してリーフカンパニーのような過ちを起こす者を生まない為にも。
心機一転して決意を固めた所で、ベリーは三人の頭を地面から生えてきたツルで掴む。
「どうするかは、考えなくてもいい……もう決まっているから、今は眠って……」
──
夕暮れの朱い光が、教室の机を長く照らしていた。
リョウガがゆっくりと目を開けると、そこは見覚えのあるような……いや、どこか違和感を覚える、全く知らない学校の教室の中だった。
すぐ隣の席にはクランがおり、彼はまだ机に突っ伏したまま静かな寝息を立てている。
……何か、ひどく長く、そして重要な夢を見ていた気がする。しかし、いくら頭を振っても、その内容は霧のように霞んで全く思い出せなかった。
壁の時計を見上げると、既に日が沈み始めてもおかしくない時刻を指している。クランと自分以外に他の生徒の姿はなく、静まり返っていた。
「……帰るべきなのかな?」
状況が飲み込めないまま、とりあえず教室から離れようと立ち上がったその時、ガラガラと乾いた音を立てて前方の引き戸が開いた。
入ってきたその人物の顔を見た瞬間、リョウガの口から無意識に言葉がこぼれ落ちていた。
「ミルト……?」
不思議だった。記憶のどこを探しても、今の自分の脳内にその名前と一致するデータはないはずなのに、まるで魂が覚えているかのように自然と口が動いていた。
ミルトと呼ばれたその女性は、当然のように目を丸くして、よく分からないという顔でリョウガを見つめ返した。
「今日この学校に入ってきたばかりだけど……どうして私の名前を知っているの?」
「え? ん……なんでだろう?」
リョウガ自身、どうしてその名が出たのか全く分からず首を捻る。
この学校の新任教師として赴任してきたという彼女──有賀未瑠兎(あるか みると)は、そのままコツコツと靴音を鳴らして教壇まで移動した。そして、ふと自分に声をかけたリョウガの胸元にある生徒証を覗き込む。
そこには『石生良牙(いしゅう りょうが)』と記されていた。
……石生、良牙。それが自分の名前?
文字を見た瞬間、自分自身の存在そのものに対する強烈な違和感と疑問が、リョウガの胸の奥底から湧き上がってきた。
「俺が言うのもなんだけど……なんでこんな時間にここに?」
気味の悪さを誤魔化すように尋ねるリョウガに対し、有賀未瑠兎はにっこりと微笑んだ。
「ああ、私はね……新しい授業の準備だよ。新しい科目が追加されたからね」
「科目? 一体どんなの?」
「ああ、それはね……旧人類学」
未瑠兎の笑顔から、ふっと感情が抜け落ちた。
「これからちゃんと覚えていかないと。だって、時間かけてようやく絶滅させられそうだから……」
その言葉の異様さにリョウガが背筋を凍らせた、まさにその直後だった。
「待った!! ちょっと失礼するわ!!」
バンッ!! と激しい音を立てて、教室の後ろ側の引き戸が勢い良く吹き飛んだ。
乱入してきた影は、瞬きする間もなくリョウガと、眠っていたクランの襟首をまとめて力強く掴み上げると、そのまま教室の窓ガラスを豪快に蹴り破り、強引に外へとダイブした。
粉々に砕け散るガラスの雨の中、教壇に立つ有賀未瑠兎は慌てることもなく、ただ冷ややかな目でその逃走劇を眺めていた。やがて彼女は、虚空に向かって淡々と報告を始める。
「ああ……すみません。まだあの成功例、生きてました。逃げられましたね、大総統」
ゴオオオオッという風切り音と共に、リョウガ達は校舎の高層階から真っ逆さまに落下していた。
しかし、二人を抱えるその人物の身体は異常だった。先程マグマに落ちてもびくともしなかった頑丈なジガルデ化の身体は、鋼のように硬い無機質な床に叩きつけられても一切のダメージを負うことなく、着地と同時に凄まじい脚力で走り出したのだ。
風圧で目を開けたリョウガが見たのは、ありふれた学校の風景などではなかった。
先程までいた校舎はただの薄っぺらいハリボテ。周囲には巨大な機械群や見知らぬ施設が延々と広がり、どこまでも無機質な道が続いている。
そして、自分とクランを両脇に抱えて爆走しているのは──紛れもなく、本物の『ミルト』だった。
彼女は恐ろしいスピードで走りながらも、空いた手でリョウガの頬をパチン、パチンと容赦なく往復ビンタし、正気を確かめるように叫んだ。
「思い出した!? 貴方はリョウガ! 変なもの抜き取られてない!? 血液とかとられた!?」
「うっ……痛い痛い! 全部思い出したって! 一体何があったんだ!」
頬の痛みと共に、ベリーの言葉、世界の真実、そして眠りに落ちる直前の記憶が怒涛のようにリョウガの脳裏に蘇る。現状の異常すぎる景色に戸惑いながらも叫び返すリョウガに対し、ミルトは焦燥感を隠せない顔で答えた。
「ああもう……話すと長くなるんだけど……落ちてきたのよ、今度は上から下へ! 空に穴が開くような、とんでもないものが!!」