ピジョットについて行って向かった先は……大空のはるか上、後少しで宇宙も見えてきそうなくらいには高いところで鳥ポケモン達が渡り鳥のように群れとなっている。
その背中には自分達のように……その中には知り合いも含めて色んな人達が乗っており、非常に神秘的だ、
「あの時クランさんと別れたあと……僕はダブルパークに埋まっていた骨を回収してたんです」
ダブルパークにあったポケモン達のまだ新しい骨……これまでのノウム達の研究によって生命力を使い切った骨をなんとかかき集めた。
ラズはシンオウ神話と呼ばれるもので、ポケモンの骨を海に返せばまた生まれ変われるというものを聞いたので、せめて海のある場所に返したいとまだ海がある場所を探し続け……マグマの影響を受けていない海を見つけて流し、供養したあとに残っているポケモン達を拾ってHAMの本部に一度帰ろう……というところで気がついたことがある。
「そういえば僕、HAMの本部って知らないし、考えてみればすぐ分かることなんですけどそれを考えられるくらいにはなったんですかねって」
クランがベリーから聞いたHAMの真実を語ると、自分もポケモン達と同じようなものと分かり……ちょっと安堵のような顔をしている、その一方でもう少し早く気付きたかった……のようにも見える。
「それで、クランさん達にそろそろ会いに行こうと思って探していたら……まさか、まさかミサイルが落ちてくるなんて、ポケモンは頑丈ですので耐えられたんですが、あの中は……」
「……つまり俺たちもそれ、ミサイル直撃したことにならない?」
「ミサイルやそこらで死ぬわけないでしょ、ポケモンやそれと同じ性質の私たちが……」
遂にはミルトですら人としての常識が薄れているのだが、つまりあの時ベリーに裏切られてミサイルをぶち込まれて衝撃が走り、クラン達が謎の白い服を着た者達に連行されてベリーは溶けるように地面に沈んで消えたのが見えたので、すぐ近くを飛んでいたピジョットに乗って追いかけて現在に至るらしい。
そして……今ここに沢山の鳥ポケモン達がポケモンや人を連れている。
「なるほど、今の状況は大規模な引っ越しか……もうあそこにはいられないからな」
「そうよね……いつまた攻撃されるかわからないし、ベリーに裏切られるなんて……あの子、この世界の元になった生き物の子供らしいし」
「……生き物、ですか、なんといったらいいのか……本来ポケモンを保護し尊重する立場の僕がこういったことを口にしてはならないことは承知なのですが、僕が外から見たときには……例えるならその、ハンバーグが動いているようにしか見えなくて」
ラズが言うには、あの時……世界に穴は空いてなかった。
しかしあの場所が体内なら……既に開いているではないか、ベリー達に導かれてクランが移動したのは口のすぐ近くだ。
「……同僚の好もありますが、ベリーは裏切ったというよりは操られたんだと思います、聞く限りではあの子はその世界となる生き物と一体化してますし……ポケモンを支配しているのなら、まずその生き物を掌握しようとして
……」
「……あり得る話かもしれないな、大元の生物……ももいろさまと言っていた、ゼルネアスが逃げたのもそれが原因かもな」
『ももいろさま』の掌握……それは実質的な日本のポケモン世界の征服を表す。
完全に追い込まれた段階によって……このまま逃げ出すただけでも幸運と捉えるしかない。
それどころか手遅れなところもありそうだ、リョウガが1度目を覚ましたとき……あの学校でリョウガはミルトにそっくりな謎の人物に何を教えられそうになっていたのか? ラズはその件に覚えがある……『ミュウツー』と同じらしい。
「ミュウツー……えっと、ミュウと関係があるのか?」
「俺も名前しか聞いたことがないが、全てのポケモンの始まりとされるミュウの子孫を改造して生まれた人工的なポケモンとか……ただ、戦闘に関するものを加えすぎたせいで危険な存在になったと聞くな」
「おおよそそんなポケモンです、ミュウツーのような……便宜上ミルトツーと名付けますが、貴方達の体は人の体をしたジガルデのコピーデータ、バックアップみたいなものです、中でもミルトは珍しい頭脳格……クローンを作っていたっておかしくないです」
つまりあれは日本によって作られたある意味では純正なポケモンと人間の進化世代、あるいはハーフ。
今後日本では有賀未瑠兎という存在がポケモンの基本となるのか……?
考えだしたらキリがないが……ここでリョウガがまた話を戻す。
「それでラズ、今俺たちはどこに向かっているんだ?」
「ああ、やっぱり気になりますか……僕も最初はびっくりしましたけど……ほら、あれです」
鳥たちが一斉に集まって行く先に……桃色の煙、いや雲が渦を巻いて一つの大きな物体に集束していく。
進んでいく度にその姿が段々鮮明になっていく……それは、あまりにも大きすぎるがそれは……ゆめうつつポケモン、ムシャーナだった……。
鳥ポケモンたちの群れが一斉に速度を上げ、桃色の煙の渦へと吸い込まれていく。
ラズの乗るピジョットもその流れに身を任せ、ゆっくりと高度を保ったまま近づいていく。
「うわ……」
クランが思わず声を漏らした、目の前に広がる光景は言葉を失うほど異様だったからだ。
本来なら1.1メートル程度のムシャーナが、遥か眼下の大地が霞むほど巨大に膨れ上がっており、下手な見積もりでも全長100メートルは優に超えていた。
それは体全体が淡い桃色の輝きを放ち、まるで夜空に浮かぶ第二の月……あるいは小さな惑星のようで、頭の赤い煙突からは絶え間なく濃密な夢の煙が噴き出し、それが周囲に広がって緩やかな雲の海を形成している。
ピジョットがその煙の上に足を下ろした瞬間、クランは目を疑った。
「……踏める?」
煙は固体のように安定していた。足を沈ませることもなく、まるで高密度の綿菓子か、柔らかい雲のマットレスのようだ。
しかもこの高度——大気も薄く、風も冷たいはずの場所で、空気の淀みも息苦しさもない。
ムシャーナの力が周囲の環境まで夢のように書き換えているのか?
鳥ポケモンたちは次々とその煙の上に降り立ち、疲れた翼を休め、互いに寄り添うようにして目を閉じていく。
まるでここが安息の地であるかのように。
「不思議な……場所ですね」
ラズが呟きながらクランたちを振り返った。
クランはムシャーナの頭頂部近くまで歩み寄った、煙の層が薄くなっている場所に、何かが落ちているのに気づく。
それは風で飛ばされることもなく、ぴたりと留まっている一枚のメモだった。
彼がそれを拾い上げると、整った文字でこう書かれていた。
『ポケモンドリームワールド計画 −Musharna Dream Materialization System−』
「……これは」
メモには、ムシャーナの煙による夢の実体化技術の概要が記されていた……幻影を具現化し、偶像を創り出す技術。さらには一部の数式と理論構成に、見覚えのある記述があった。
『ミラージュシステム』、データを基に任意のポケモンを生み出す、あのノウムが発表した狂気の技術の原型の一部が、ここにあった。
「結局、形にはならなかったみたいだけど……これを応用してミラージュシステムが作られたんだとしたら……」
クランがメモを握りしめていると、ラズが静かに言った。
「何故この設計図がここにあるのか……そして、何故こんなにも巨大なムシャーナが、こんな高い場所にいるのか。僕にもまだ分かりません。ただ、これは……ただの逃げ場じゃない気がします」
ムシャーナの周囲に、煙が渦を巻いて形作る空間があり、
そこには様々な家が浮かんでいる。木造の平屋、古びたマンション、ポケモンセンターに似た建物、森の中の洞窟を模した住処……。
どれもが夢のようにぼんやりと輪郭を保ちながら、確かにそこに存在していた。そしてポケモンたちは、眠ったまま次々とその夢の家の中へと入っていく。
まるで帰るべき場所を見つけたように。クランが手を伸ばしてみたが、指先は煙をすり抜け、夢の家に触れることができなかった、まるで次元が違うかのように。「ポケモンだけが入れる空間……か」
「ええ。クランさんと離れている間に僕が連れてきた子たちは皆ここに入っていきました。それっきりではなく、ちゃんと頃合いを見て戻ってくるんです。まるで……眠りから覚めるように」
ラズがそう説明している最中だった。
「……クランさん?」
返事がない。振り返ると、クランはその場に膝をつき、目が虚ろになっていた。すぐ後ろではミルトも、壁に寄りかかるようにして意識を失いかけている。リョウガに至っては、すでに煙の上に倒れ込んで、穏やかな形で倒れてある。
「…………あれ?」
ラズは自分の胸に手を当てた。日本で孤児から普通の人間として育った自分と地下で生まれた彼らとは違う。
彼らはジガルデの細胞を基にした「人型」ではあるけれど、根源的に彼らとは異なる存在だと薄々感じていた。
なのに今、この場所——理性が最も遠のき、夢に極めて近いこの高空の安息地では、まるで自分の体が「正しい眠り」を求めているかのように、重くなっていく。
「……なるほど」
ラズは小さく笑った。
「ここは、僕らにとっても……本来の居場所だったんですね」
彼はゆっくりとその場に腰を下ろした。ムシャーナの放つ桃色の煙が、優しく体を包み込む。クランたちの体は、すでに完全に眠りについていた。
人間の姿をした彼らは、ここでようやく「ポケモンとしての休息」を許されるのかもしれない。ラズは最後に、空の遥か向こう——まだ見えていない「ももいろさま」の影を思い浮かべながら、目を閉じた。
「少し……休みましょうか」
巨大なムシャーナの夢は、静かに、深く、彼らを飲み込んでいった。その夢の中で、ポケモンたちは語り合い、傷を癒し、次の世界への力を蓄えていた。そしてラズは、夢と現実の狭間で、ぼんやりと一つの問いを思い続けていた。
——この巨大なムシャーナは、誰が、なんのためにここに呼び覚ましたのか。その答えは、まだ桃色の煙の中に、静かに隠されていた。
そしてムシャーナだけがゆっくりと目を覚まし……自身の創造主であるゼルネアスの姿を見送る、ゼルネアスはムシャーナを見るとぐちゃり、ぐちゃりと肉々しく膨らんで原型を留めず変化し、頭の部分から人間の上半身らしきものが現れる。
「こんなところまで逃げたか、数千数万個分の生物の肉片を蜥蜴の尻尾切りのようによく分離できたものだな」
「…………」
「まあ無事ではすまないか……言語能力はまた後で俺と同じものを流用しよう、イベルタルは回収したし……またしばらくはこの場所で冬眠をする、そんなに大事か? ベリーという存在が」
「……」
「そうか、聞くだけ意味のない決まりきった答えか……しばらくはこの場所にいよう、なあ……」
言うだけ言って肉は収束してゼルネアスに戻りムシャーナの頭の上に鎮座する。
ミルトを中心にして包むように鳥ポケモン達が連れてきた人間はバラバラの細胞になっていき……包みこまれて、巨大なジガルデの卵になる。
──
一方、日本の中心にある大都市……クラン達が数時間前に逃げ出したばかりの研究所に繋がる独立した都道府県『白革県』では……第二の国の支配者として、そして絶対的な正義を掲げる大総統が玉座に座っている。
しばらく司令官だったのが瞬く間に権力と力を手に入れて現在に至る……そのきっかけとなった存在こそまさに、地下で発見された未確認生物『ポケモン』であった。
大総統は即座に資料を受け取り、アルカデスの敗北を知った後に丸めて捨てる。
「解体して作り直せ、いつでも他国に圧をかけられる怪物を用意するんだ」
「大総統、新しいポケモンが発見されました1026種類目です」
「くだらん、種類などどうでもいい……我々の利益のためにどれだけ使えるか観察を続けろ」
「大総統……鹵獲した『プロジェクトC』についてですが、確かに体内に独自の生態クレーターこそあるものの生命反応はゼロ、本体に逃げられた様子です」
「構わん、あの肉塊は約10000人の人間の塊だ、遺伝子状態は徹底的に解析してポケモンを量産する体制に入れ……ポケモンを教育・監視する専用の土地……そうだな、翡翠市とでも名付けるとしよう」
「大総統、また日本列島を拡張するのですか?」
「当然だ、ポケモンさえいればいくらでも増やせる……それに昨今の人口爆発問題を誰が解決してやったと思っている?」
日本はかつて、小さな島国で都道府県は48種類といわれていたが……現在、大地をポケモンの力で動かし、形を作り替えて土地を支配し……今は若干、本当に若干ではあるが体積を徐々に増やしていき白革県が生まれて48種類。
人の力では出来なかったことだが、これもポケモンによるものだが……情報を聞く側近は難儀な顔をする。
「しかし……人間を改造した存在に否定的だった貴方が、それらを更に作り変えた化け物を利用することには……」
「化け物ではない、独自の環境に適応し進化した一つの生命体の形だ、目的のために利用していることには否定しないが……奴らの権利は認識している」
ポケモン達はカプセルの中で培養され、その詳細を徹底的に解析した上で野に放たれる。
そうして品種改良され糧となる畜産物や人と寄り添う愛玩動物と同じように……当たり前に生活環境に組まれる『動物』のあるべき姿となる。
世界において哺乳類や爬虫類達のように『ポケモン類』としてそういった生物として世界にコントロールされる日もいつか訪れるだろう……無論、本格的に運用されるまでまだまだ何十年もかかりそうだが。
ポケモンはこれから先、日本でどのように扱われていくのか? それは分からない。
しかし翡翠市の開発プロジェクトはAIプロンプトと手を組みながら作られ……あの体内で作られていた環境を再現するようになっている。
「しかし『ジガルデ人』は別だ、人間とポケモンの遺伝子を複製して人間の真似をしているだけの奴らは見過ごせば面倒な事態になる、もっと安全な新世代の人間が必要になることは有賀未瑠兎の実験のとおりだ」
寿命をすり減らす覚悟で複数の仕事をこなしている彼女の元に、また一つ情報が入る……それは荒唐無稽だが、見過ごしてはならない事態だった。
「……2078年の情報が出てきた? 監視しろ」
──
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この星の不思議な不思議な生き物。
空に、海に、森に、街に、世界中の至る所で
その姿を見ることができる。
遠い土の中で、『秩序』を元にして進化した存在は……故郷を離れ、銀河に近く地球から離れない場所に住処を移した。
アルカデスという英雄を求めたり、友との再会を誓ったり、ポケモンの安全を守り、世界の平和を守り……様々な目的で旅をしていた彼らは……人間と同じように生きている……彼らもまた不思議な生き物たち。
出会いとわかれを繰り返し、クランと、その仲間達の旅は今日も続く。続くったら続く。
しかし今は眠り続ける、しばらく頑張った彼らは眠り続ける。
実のところジガルデ人は寝ない、身体を休めるための動きを動物を真似するために機能まで模倣しているだけだ。
ジガルデ人は食べない、お腹がすくという反応の真似はするのだが栄養は機嫌に関わるだけで特に必要ない。
……しかし今はこれでいい、やることが決まってからまた夢という空間から形を出して行動を共にしていくだろう、それまでの間ラズもムシャーナの力によってゆっくりと眠る、その時皆は聖母の夢を見た。
まるでベリーが言っていた『ももいろさま』のようにラズを優しくゆっくりと包み込む、これまでの疲れや想いがすっと晴れるように楽になりそうだ……。
そうして時が来たらまた目が覚める。
「……あれ? あれからどれくらい経った? というか、俺はいつから寝ていた……?」
そして……クランはまた時が来て目を覚ました。
リョウガやミルト達が包み込まれていた殻がズルズルと分離されて人のように……あるいは、少し成長してみせるように背が伸びている。
ムシャーナの煙がちょっとした階段のように斜めって向かえと示しているかのようだ。
ミルトとリョウガも目を覚ましているが、相変わらずほかの人達は起きないがポケモン達は守るように覆っている。
「いつの間にか寝ていたのね……あれ? 何か伸びてる」
「そっちに行けって言ってるんだなムシャーナ!」
「……ただの勘だろ、しかしここにいても何も始まらないし行ってみるか……ラズ?」
ラズはまだ寝ている……しかし、クラン達も話している途中でラズを残して眠ってしまったので邪魔をしては悪いと思い、そのままムシャーナに任せて寝かしつけることに。
それに今はこの場所を守ることが先決だ。
「よし! ポケモン達の為に頑張るぞ」
「リョウガはいつからそんな志持つようになったの?」
「え? うーん……寝てる間にやる気が出たとか?」
「調子のいいやつだ……」
三人は意気揚々とムシャーナの煙に乗って下りていき、ポケモン達の為に様々な冒険を三人で続けていく……う、三人で。
その様子を銀河からパーフェクトジガルデが眺めていた。
「コノ世ニ古イ世代ノ生物ハ不要 秩序ヲ維持スルニハ 繰リ返シ新シイモノヲ生ミ出サナクテハ 世界ハ追イツケナクナル」
「少シデモハヤク 古イ人類ヲ消シテ コノ星ヲ我等『ジガルデ人』ト ソレヲ受ケ継グモノガ管理シナクテハ」
こうして少しずつ、ジガルデによって人間から『心』を奪われていく。
【第4幕】
『ポケットモンスター ハートブレイク』
おしまい。