ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第3話「奴がグレートガベル七戦騎」

 次の行き先である『カラクダの町』に到着したラズ達一行。

 

 ここは旅人の休憩地点の一つとして知られており、町の中心部には活気あふれる巨大なフリーマーケットが広がっていた。

 

「さあさあ見てってよ! ノーマルタイプのポケモンが飛んで喜ぶ特製フード『オオタチまっしぐら』だよ!」

 

「こちら、大昔に発見されたという『ドンファンの牙の化石』だ! ロマンが詰まってるぞ!」

 

 あちこちから威勢の良い呼び込みの声が響く。

 店先に並べられているのは、日用品からいかがわしい骨董品、用途不明のガラクタまで実に様々だ。

 確かにこれだけ玉石混交の品物が集まる場所であれば、あの不思議な水晶──BURSTハートが紛れ込んでいても確かにおかしくはない。

 

「あれ欲しい」

 

「僕らがそんなことにお金使ったらチーフに怒られちゃうよ」

 

「最低限の範囲なら俺が出す……1個だけな」

 

 クラン達はアルカデスとBURSTハートの情報を集めるために各地を回っているが、そう簡単に見つかるものでもなく時間だけが過ぎていく。

 BURST戦士の噂自体は少しずつ周囲の町にも広がっているようだったが、目撃されているのは「頭の硬い怪物が大木をへし折っていた」「彫刻を頭でたたき割った変な芸術家がいる」

 といった、大半が以前出会ったタマネらしき人物のものばかりだった。

 

「せっかくこういう所に来たんですから、少し見ていきませんか?」

 

 少し張り詰めていた空気を和ませるように、ラズが提案した。

 その言葉にベリーも小さく頷き、クランも息をついて同意する。

 ラズの案で屋台を冷やかし、興味深いものをいくつか買い物しながら歩き回った後、三人は目的の一つであるオークションの下見会へと足を運んだ。

 

 薄暗い会場内には、ショーケースに厳重に守られた品々が展示されている。

『Zストーン』と呼ばれる不思議な力を持つとされる石や、世にも珍しい『イバンの実』の種など、マニアが喉から手が出るほど欲しがるレア物がずらりと並んでいた。

 

 そして──やはりこの場所にもあった。

 BURSTハートだ。

 ビロードの布の上に鎮座するその水晶には、こんな説明文が添えられていた。

『虹のように美しいミロカロスの癒しのオーラを込めたパワーストーン』

 

 クランはガラス越しにその水晶を鋭く睨みつける。

 タマネが偶然手に入れた時のように、こうしてスピリチュアルな物と偽って何者かが意図的に市場へ流しているのだろう。

 

「ベリー……お前の力で石の先の心は読めるか?」

 

「少し弱ってるけど……うん、この中にミロカロスがいる」

 

「じゃあ、本当にこれはミロカロスのBURSTハートなんですね……」

 

 しかし大きな問題があった。

 HAMにもクランにも、この規模のオークションで勝ち残れるほどの資金はない。

 かといって、強引にショーケースから盗み出したり、正当に落札した人間から力ずくで奪い取るような真似はクランの信条にも反する。

 事情を説明して譲ってもらおうにも、まだ世間にとってBURSTハートやBURST戦士の情報は浅すぎる。生きたポケモンが閉じ込められているなどと言っても、頭のおかしい奴だと一蹴されるのがオチだろう。

 

「……どうやって回収するか、作戦を練り直す必要があるな」

 

 クランが低く唸った、その時だった。

 

「お兄さん、あの石が欲しいんですか?」

 

 背後から、鈴を転がすような愛らしい声がした。

 クランは振り返り──同時に、全身の筋肉を硬直させた。決して警戒を解いていたわけではない。だが、彼女が気配もなく背後に立っていたことに、本能的な悪寒が走ったのだ。

 そこに立っていたのは、一人の少女だった。

 短い癖っ毛に、腕よりもずっと長い袖──いわゆる萌え袖のロリータ服を着込んだ、ベリーと変わらないか、あるいはもう少し幼く見える出立ち。

 彼女はニコニコと人懐っこい笑顔を浮かべている。

 だが、その目は全く笑っていなかった。

 一致している。

 

 タマネが言っていた、BURSTハートを狙っていたとされる女の子の特徴と。

 ──『燃え上がる炎のよう、それも触れたら火傷してしまいそうな危ない炎』

 芸術家の直感は正しかった。無邪気な外見に反して、彼女から放たれる気迫は異常だった。周囲の空気の温度が、数度上がったかのように錯覚するほどだ。

 間違いない。

 この子供は──自分と同じように、BURSTハートを持っている。

 しかし動揺を見せてはならない、隙を見せたら呑み込まれる……ラズ達にも悟られないように冷静に返す。

 

「……出来ることならな、しかし高くつくのだろう……ラズ、ミロカロスの価値はどれくらいあるんだ?」

 

「結構なものですよ……ポケモンは何百種類もいますけどその中でも世界一美しいポケモンなんて言われますし、進化前のヒンバスも含めてよほど水質の良い湖にしか生息しないので……」

 

「なるほど、その手の人間に見せれば数百万かけてもそれ以上の価値があるといいそうなものだ……お前はそれが手に入るのか?」

 

「もちろん、わたしはアレを手に入れるように頼まれてここに来ましたので」

 

「あれを? 一体誰に?」

 

「……アルカデスに、とか?」

 

「……」

 

 適当にカマをかけてみたがその少女は反応した、アルカデスというものを知る時点でBURSTハートに強く関与するものであることは確かになる、ただ気になるのはその時の彼女が不機嫌になったこと……つまり、アルカデスに対して何かしら良くない心境を抱いているということだ。

 こういうパターンも想定していたがまだ慎重になってはならない、こういう時ラズは感情的になってしまい向いてないと判断してるのでベリーに振らせて、察しが良いので意図を理解してくれる。

 

「アルカデスは……何者なの?」

 

「…………知らない、本当に詳しくは知らない、大事な人が言ってたのは、アルカデスはその人の大事な家族を死なせて、街を滅ぼした……悪党よ」

 

「悪党!? ……いや、僕たちも確かにアルカデスがどういう人かは詳しく知らないし、クランさんの話なら襲名するっていうことは悪人がアルカデスになれば……」

 

「この世の支配者になり好きなように暴れられる……この子供の言うことも最もだ、なるほど……逃げろラズ、ベリー……こいつは想像以上だ、命を大事に……」

 

 言い終える間もなくラズも殺気に気付いてベリーを庇うように飛び出すが、その瞬間に爆発するように炎が広がってオークション会場も燃えそうになる……が、辺りは何ともない。

 目の前には汗をかきながらもラズのボールから飛び出し、クランの前にも立って巨大な障壁を出して炎を防いだミノムッチの姿があった。

 

「……そうか、こいつは『まもる』を覚えていたのか、助かった」

 

「み、ミノ……」

 

「リグレー……テレキネシス……!」

 

 ベリーもリグレーを出してテレキネシスで少女を浮かして隙を作り逃げ出そうとするが、少女はBURSTハートを口に近づけて息を吹きかけるだけで火の粉を撒き、逃げ道を無くしていく。

 

「ハートブレイク……やっぱりちょっと話してどうにか奪うなんて都合よくいかないなら……ボスの命令通りここで排除しちゃおうかな……」

 

 少女が袖から一瞬見えた指には……見覚えのあるエンブレムがついている、初めてクランと会ったあの街でもゴロツキがつけていた……あの組織の象徴。

 

「なっ……そんな、まさかこの子、信じたくないけど……グレートガベル!?」

 

「そのまさかのようだな……しかもこれは本気だ、俺に対して……ほのおタイプのBURST戦士を差し向けてきた」

 

 少女はBURSTによって大きく変化する、極端に身体が変化しているわけではないが首筋はマフラーのように炎が巻かれ、両腕はガントレットのように黒いリングが装着……東洋風の模様が広がる鎧。

 あれはエンブオー、フシギソウに有利を突けるほのおタイプにして、最終進化という圧倒的ポテンシャル。

 進化でいえばタマネのラムパルドもそうだったが……争いを好まない性格で素人だった彼とは明らかに違う……!

 

 

「そういえば名前を言ってませんでした、私はGG(グレートガベル)七戦騎のキャロラです」

 

 ……クランも想定していたつもりだった。

 グレートガベルの作ったBURSTハートを壊して回り、『ハートブレイク』と呼ばれるほどに奴らにとって邪魔な存在になること……それを承知で向こうに喧嘩を売ったことのリスクを。

 

 だがその結果がこれだ。こんな小さな子供だが、自ら『七戦騎』と名乗った。詳細は不明だが、これまでの相手とは一線を画す存在が目の前に立ちはだかっている。

 

(恐れていた事態が……こんな最悪なところで来てしまった、早すぎる、ラズ達をどう逃がす? 俺の犠牲は免れないとしてもこいつらだけは……)

 

 闇雲に戦っても勝てない要因がいくつもあった。 

 第一に、相性面の圧倒的不利。

 フシギソウのタイプは『くさ』。言わずもがな、『ほのお』タイプのエンブオーにとっては格好の的だ。

 相性だけがポケモンバトルの全てではないとはいえ、覆すのが極めて困難な課題である。

 

 第二に、ラズのミノムッチは「守ること」しかできない。

 知識こそ豊富だが、ラズ自身はバトルにおいては素人だ。

 勝負に直接参加できない最大の理由は、このミノムッチの性質にある……ミノムッチはそもそも攻撃的な技を全く覚えない。 

 先ほど見せた『まもる』は確かに優秀で、BURST戦士の攻撃すら完璧に防いでくれるのは心強い。

 だが、『まもる』は連続で使えば使うほどその精度がどんどん落ちていく。どこまでその盾に頼れるかなど、誰にも分からない。

 

 第三に、切り札になり得るか分からないラムパルドのBURSTハート。

 今、手元にあるのはフシギソウのハートだけではない。タマネから譲り受けたラムパルドのものがある。

 しかし複数のハートを咄嗟に使い分けることが出来るのかは時間がなかったので試したこともない……何せタマネと別れてからまだ昨日今日の出来事だ。

 

 仮に『いわ』タイプで『ほのお』に対して優位に立てたとしても、エンブオーは2つのタイプを持つ強力なポケモンだ。

『いわ』に対して弱点を突ける『かくとう』の力も併せ持っている。

 

 あまりにも不利だ。格が違う点が多すぎる。

 恐らく、一撃でも重い攻撃を食らえば終わる。

 

 今、自分が優先すべきことは何か。それは明確だった──ラズとベリーを、なんとしてもここから逃がすこと。

 そのためなら、あまり人に向けて使いたくない禁じ手も使う。

 クランはBURSTの解放を行うと、真っ先に背中の蕾の部分から大量の花粉を飛ばした。

 

 フシギソウのもう一つの特技、状態異常の付与。今吹き出したものは『ねむりごな』だ。

 本来、直接人に向けて使うようなものではないし、BURST戦士に対しては効きが悪いと分かっていたため、クランは極力使いたくなかった。

 しかし四の五の言っていられる状況ではない。この一瞬の隙を作り、なんとしても2人を逃がさなくてはならない。

 

「ラズ!! 退くんだ!! お前達もただでは済まない!! 街の人々もなるべく避難させてここから出るんだっ!!」

 

 だが、相手もただでは転ばなかった。

 キャロラは『ねむりごな』を真っ向から打ち込まれても、その炎を静めるどころか、さらに激しく燃え上がらせた。そして、全身に炎を巻き込んだまま突撃の態勢を取る。

 エンブオーが得意とする技、『ニトロチャージ』だ。

 

 

(自分を少し焼くことで、強制的に眠気を消し飛ばしたのか……まずい、何をしても1手遅れる……!)

 

 

 クランの焦燥を置き去りにするように、キャロラが巨大な炎の塊となって迫ってくる。

 あんな小さな子供が、どんな手を使ってでも自分を排除しようとする恐ろしい怪物に見える……戦いが好きなように見えない、与えられた仕事を淡々とこなす……無邪気さを感じさせないのが余計に怖い。

 

 ──終わる。

 そう直感したその時だった。

 側面から、凄まじい速度で巨大な岩石が投擲された。

 強烈な質量を伴うその一撃は、ニトロチャージの軌道を見事に逸らし、炎の威力を岩石ごと別方向へ吹き飛ばした。さらにそこから間髪入れず、追撃のようにもう一発の岩石が発射される。

 

 キャロラはすぐに目線を変え、それを燃える拳の一撃で粉砕した。

 

「援軍……? いったい何処から?」

 

「チーフ!」

 

 ラズが弾かれたように声を上げる。

 クランは少し前から、2人の口から『チーフ』についての話を聞いていた。

 彼らの連れているポケモンがまだ早熟であるにも関わらず、こうして遠出の任務をこなせているのは、強力な護身となる者が背後にいるからだと。

 岩石が飛んできた方向へ視線を向ける。

 

 そこには、熟練の狙撃手のように右手を構え、次なる『がんせきほう』を撃ち出す態勢を取っている巨大な影──重装甲を纏ったような巨躯のポケモン、ドサイドンの姿があった。

 

 ドサイドン……ドリルポケモン、全身にプロテクターを装着し強固な装甲で攻撃を寄せ付けない。

 そして最大の特徴は両腕の大きな空洞部分、この部分に岩を詰め込み……筋肉の力で力強く押し出すことでミサイルにも匹敵する破壊力を生み出す。

 

 チーフと呼ばれたドサイドンはHAMで環境を荒らす暴漢や暴走するポケモンの鎮圧のために訓練された特別な個体だった。

 腰布を巻いて、その中に石だけでなく様々な投擲用の道具が詰め込まれておりがんせきほうだけでバリエーションを変える工夫が感じられる。

 

「チーフと言ったな……そこにいるんだな! 俺のことはいい、お前の部下達だけも助けてやってくれ!! こいつらは無関係だ、俺が巻き込んでしまっただけなんだ……!!」

 

 ドサイドンはクランの懇願を聞き入れたのか、まるで銃のリロードを行うように腕を振って新しい弾丸を込める。

 

「なるほど……私、邪魔をするならポケモンでも完膚なきまでに倒しちゃいますよ?」

 

 キャロラはドサいその間に炎の力を溜め込んでいる……ニトロチャージのエネルギーを更にきあいだまに込めている。

 

「技を合体させているのか……!?」

 

「これがまだ『不完全なBURST』に過ぎない貴方とグレートガベルの真のBURST戦士達の違い……発火玉(スピリットイグニッション)!!!」

 

 炎に包まれた気合玉が一直線でドサイドンの所へ、ニトロチャージの力を込められた加速力によって気合玉がどんどん速くなっていき、炎が怪物の口のようにドサイドンに迫る。

 クランやミノムッチが守ろうとしても追いつけないスピードだが、ドサイドンも戦闘のプロなのか自分に飛んでくることが分かると即座に伏せて……すぐ後ろにあったコンクリートが粉々になり、その爆発の勢いに巻き込まれてふっとばされる……。

 

「そ……そんな、チーフが余波だけであんなダメージを受けるなんて……」

 

 ラズ達もあまりの衝撃に腰が抜ける……強すぎる、BURST戦士というものは規格外すぎる。

 

(……逃がせないのか? 俺はまた何も出来ないのか? フシギソウの時のように、また俺だけ……)

 

「あれを避けられるなんて本当に強いポケモン……でも残念、あの技はまだ全然出せます」

 

 キャロラはドサイドンが耐えても動じずにまたあの技……発火玉を繰り出そうとしている、この距離で直撃したら全員が巻き添えになる、そんなことになれば……。

 

(俺が、俺が……俺が巻き込んで、俺がまた失って、そして……そんなのは……嫌だ!!!)

 

 クランは無我夢中だった、攻撃にならないのに悪あがきで砂を掴んでキャロラの顔に投げる見苦しい真似をしてしまう?

 しかし……奇跡が起きた、地面から投げているのは砂だけではない、植物の種のようなもの。

 それがキャロラの目の前で花火のように強く爆発し、発火玉のエネルギーが反れて周囲に飛び散った。

 

「うっ!? 何これ……」

 

「これは……なんだ? どうして俺が……」

 

「BURSTハートの中にいるフシギソウが……新しい技を覚えたんですよ、タネばくだんを!」

 

 ドサイドンはタネばくだんの爆発を見逃さず黄砂を腕に詰め込み発射……タネばくだんによって崩壊して粉々になり、キャロラの顔面に散ることで目潰しとなる。

 

「ギャッ!!」

 

「い……今です! ベリー! みんなを連れて逃げましょう!!」

 

「り……リグレー……もう一度テレキネシス……!」

 

 視界を潰している間にテレキネシスで自由を奪い……ラズ達は逃走して近くにある森の中へ避難する。

 

「ぐっ……ぐ、どうしよう、逃げられちゃった……ハリルに怒られるかな……」

 

 

 ──

 

 森の中に逃げ出して間もなくドサイドンはクランの胸ぐらを掴んで木に打ち付けている……人間の言語を発せなくても分かる、明らかに憤怒にも等しい眼差しを自分に向けている。

 

「だ……ダメですよチーフ、その人は」

 

「……そうか、引っかかるところがあったがチーフのポケモンじゃなくて、お前自身がチーフか、止めなくて良い……こいつが怒って当然のことだからな……」

 

 過去にフシギソウを守れず、今回もBURSTハートから保護したいという形で自分からHAMに協力を申し込んでおいてこの決着だ。

 ……クランが一番よくわかっていた、自分はまだまだ弱い。

 アルカデスどころかBURST戦士としても、自分は……役に立てない。

 戦いに向いてない小さなミノムッチでさえ怖かっただろうに勇気を振り絞り、まもるでBURST戦士の攻撃を防いだ。

 

 自分は何ができた、そう思っているところに……ラズが肩をつかむ。

 

「あまり自分だけを責めないでください、それで言ったら僕たちなんて……貴方のようにBURSTも出来ないし、貴方やミノムッチが死ぬかもしれなかった時に何も出来なかった、チーフがいなかったら……僕らは……」

 

 

 

「そこのBURST戦士……お前は強くなりたいのか」

 

 森の中から突如として語りかけてくる声……ドサイドンは警戒して腕を向けるがラズが静止する。

 

「貴方は……敵ですか?」

 

「そうだな……中立派のBURST戦士といったところか」

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