森から聞こえてくる声は次第に近づいていき、葉っぱがひらりと落ちてすぐ近くにいることも分かる。
「姿を見せてくれませんか? 僕達何も危害を……加えられるほど力はありませんので」
「己の力量差を理解しているか……謙虚は悪いことではないが、弱肉強食の世界では餌同然だな……何、貶したつもりはない」
言葉と共に降りてきたのは……獣の布ような物を衣類にして顔に模様を塗っている……見るからに野生の世界で生きていたようなワイルドな雰囲気を感じさせる狩人のような女性だ。
これでBURST戦士ということは見るからに強いことが分かる。
「私はカンショウ、この森でBURSTハートを守護するものだ」
「……なぜ現れた? ハートブレイクと言われながらこんな結果となった俺からハートを奪うためか?」
「お前があまりにも無様ならそのつもりだった、だが……そんな負け方をしてもまだ諦めてないようだな」
悔しさや絶望があっても、フシギソウを握る手は変わらない。
何があっても離さない意思は揺るがない……それだけでうない、全部この手で守る責任がある。
「しかし死んでもやらんという意思だけでは強さに繋がらない、だから私が来た……リュウさんの意思を絶やさないために」
「リュウさんとは?」
「かつて……アルカデスだった男だ」
──
リュウさん……ガリュウという男は数年前にアルカデスの力を得てグレートガベルと戦った。
ポケモンを悪用するものと戦うために様々な仲間を増やし……野生児だった自分を拾ってくれたりと大きな組織だったという。
だがガリュウは数年前にアルカデスになったときに行方をくらましてしまった、残されたメンバーはBURSTハートを持ちながら新たなる仲間を探している……カンショウもその一人だという。
「リュウさんはどうしていなくなってしまうことに?」
「さあな……ただ私の仲間は言っていた、アルカデスになったものは死ぬ瞬間まで戦いの運命から避けられないという、リュウさんは生きていないだろう……しかし終わったわけではない、リュウさんには息子がいる」
カンショウ達残されたものの目的はどこかにいるガリュウの息子を探し出してアルカデスに導くこと……その為に必要な事が多くて辺りを散策していたところ、グレートガベルと戦闘をしているBURST戦士を見つけて現在に至るわけだ。
「その人の特徴は何」
「リュウさんは一度故郷に帰って……自分の持っていたBURSTハートを預けたという、そのポケモンは確か……ゼクロム? という名前だったか……?」
その言葉で一同は驚く……覚えがある、ゼクロムの力を持つとんでもないBURST戦士がすぐ近くにいたという話は聞いていた、すぐ近くにいるという他のメンバーの情報を待つのみと思っていたがまさかその人物がアルカデスの息子だったとは……。
ドサイドンもただごとではない流れなことは分かったらしく、大きな腕で器用に小さな端末を操作して暗号を送っている。
「そいつは強いんだろうな、きっと……俺も見習わなくてはならないのに強くなるための方向性すら見えてないんだ」
「あの子は何か言ってませんでしたか? 不完全がどうとか……」
「不完全なBURSTのことか、実力を完全に引き出してないと考えればそう言われても当然だろう」
不完全、つまり自分やこれまで見てきたBURSTもまだまだ完璧に力を引き出していない情報。
アルカデスやキャロラは当然使いこなしているのだろう、その条件とは……ポケモンと心を通わせること。
しかしその内容は多くのポケモンに触れてきたラズにとっては疑問視するようなことだった。
「心を通わせる……というのはわからなくないんです、でもクランさんとフシギソウは元々トレーナーと相棒だったんですよ、はっきりと全部はわかりませんがパートナーとして充分心は通わせていますし……何よりグレートガベルのあの子が悪事に手を染めているのに心を通わせるなんて……」
「後者はともかく前者は思い当たるところもあるだろう? トレーナーとポケモン、互いに助け合う共存関係が突如として武器として一方的に力を使い潰す形になる……お前は相棒に対して後ろめたいと思っているんじゃないのか?」
後ろめたいと言われたら実際そうなのだろう、今の自分はフシギソウの技を借りることしかできない、つるのむち、はっぱカッター、ねむりごな、そしてタネばくだん。
ハートの中でお腹が空かないとしても好きなきのみを与えることも出来ないし、さみしいときにそばで眠ることも……手を伸ばすことすら、こんな小さな石ころが大きな壁となる。
自分はフシギソウを利用しているだけと考えればグレートガベルと変わらない。
ラズは……クランに寄り添う、フシギソウの代わりのように。
「クランさん……あまり自分を責めないでください、どんなに時間がかかっても、どれだけ力を使っても……大事なことはフシギソウが元気に外を歩ける姿を見ることでしょう! 強くなりましょうクランさん! また一緒にフシギソウと旅ができるように!!」
その言葉を聞いて……クランの目に、BURSTハート越しでフシギソウが見えたように感じた。
石の向こうから手を伸ばして……そっと小指を近づける。
こんな形でもやはり自分はフシギソウが好きなんだ。
だから……絶対救うために必要な事。
「カンショウ……頼む、俺を強くしてくれ、アルカデスになりたい……どんな戦いの運命が待っていようと俺は全てのBURSTハートを破壊して解放したいんだ」
「……いいだろう、私に出来ることはリュウさんに比べればちっぽけなものだが、全員揃って優秀な戦士に変えてやる」
──
あのキャロラとの絶望的な戦いは、一行に痛烈な事実を突きつけて課題となる。
生き残るためには、そしてグレートガベルの野望を打ち砕くためには、クランもラズ達も等しく自己防衛のための絶対的な力をつける必要があるということだ。
「まず第一に僕達ができることは、新しいポケモンの力を借りることですね」
「……リグレーは進化が遅い、まだまだ戦力としては……難しい」
「だからもっと良い感じの……森なら何かいますしいいですよね? カンショウさん」
「お前達が認められて同盟を結ぶというのなら好きにすればいい、どの道私には扱えないからな」
森の開けた場所でラズは決意を込めて言った。
足元では彼のミノムッチとベリーのリグレーが不思議そうに首を傾げている。
「この子達はまだ本格的な戦いに回すには幼すぎます。もう少し実戦経験のある、即戦力となるポケモンの力が必要です。幸いモンスターボールは僕とベリーで互いに一つずつ予備がありますし」
「そう……私たちは自分の身を守れるようにならないといけない、この子のために」
頷くベリーを見て、ラズはふと隣のクランに視線を向けた。
「そういえばクランさんはモンスターボールを持っていないんですか? 元々トレーナーだったんですよね? フシギソウ以外にもポケモンがいた方が……」
「ああ、それなんだけどな……」
クランは苦笑いしながら……胸元のBURSTハートに触れた。
「これを使うようになってから以前に持っていたモンスターボールは、全部イカれてしまったんだ」
「故障……ですか? あれが壊れるところなんて聞いたことありませんが」
「考えられるのはこのハートから、特殊な電波みたいなのが出てるのか……持ち主のモンスターボールの機能を狂わせちまうみたいなんだ。だから、BURSTハートとモンスターボールの所持は両立できない」
つまり、クランが頼れるのは己の身と、BURSTハートに宿るフシギソウの力だけということになる。
「だったら、その力を極限まで引き出すしかないだろう……我々の武器は現状これだけだ、己自身」
森の木々を揺らすようなカンショウの一喝と共に、クランの地獄の特訓が幕を開けた。
まずは基礎体力の向上。生身でジャングルのような険しい森を駆け抜け、ツルにぶら下がり、岩を登る過酷なトレーニングだ。
それに加えて、技の精度を極限まで磨き上げる反復練習が課せられる、カンショウはやり慣れているのかゴリランダーにも匹敵する速さだが人間のなせる技ではない。
だが、ただ体を鍛え、がむしゃらに技を放つだけでは足りない。
そのことを身をもって教えてくれたのは、他でもないドサイドンだった。
「ドサイドン……その腰の布、飾りじゃなかったのか?」
息を切らすクランの前で、ドサイドンは自身の腰布から次々と物を取り出してみせた。
攻撃用の手頃な岩の他に、周囲で集めた黄砂、水風船、そしてどこで調達したのかドライアイスまである。
ドサイドンはそれらを大きな掌で包み込むと、腕の穴から凄まじい勢いで射出してみせた。
そのどれもが先ほども自分達を助けてくれた大技──『がんせきほう』だ。
岩を撃ち出せば強力な物理打撃に。黄砂を撃ち出せば目くらましに。水風船は相手の体勢を崩し、ドライアイスは周囲の空気を急激に冷やして煙幕を作る。
「なるほど……!」
クランが感嘆の声を漏らす。
「HAMでポケモンバトル以外の荒事も想定して訓練されているとは思っていたが……。状況に応じて弾を使い分けることで、『がんせきほう』という一つの技を万能な手札に変えたか。しかもこれだけで残りの3つの技を相手に隠せるという情報的な優位性も持てる……!」
ただ与えられた技を撃つのではない。
ポケモンの性質を深く理解し、その全てを活用することこそが真の戦術に繋がるのだ、必要なのは強力な必殺技ではなく武器の理解力。
「俺が今覚えている技で、応用できそうなものは……新しく覚えた『タネばくだん』か」
クランは足元の砂を無造作に掴み、そこに意識を集中させた。
咄嗟に砂を掴んだ時、フシギソウの自然のエネルギーを手から流し込むことで、強固な『種』を作り出していることが分かってきた。
(もし、この種を作り出す時に、爆発だけでなく少し別の力を加えられたら……?)
ドサイドンのように、状況に応じた『タネばくだん』を撃ち分けることができるかもしれない。
クランが新たな可能性に目を輝かせ、ミノムッチ達の力も借りながらさっそく特訓のアイデアを練り始めたその時だった。
「クランさん! チーフ! ちょっと協力してほしいんです!」
森の奥から、ラズが慌てた様子で駆け出してきた。
「新しいポケモンを探していたんですが……もしまたエンブオーと相手をすることになった時、弱点を突くことができますし、もしもの移動手段や上空からのレスキューにも使えると思って、ひこうタイプのポケモンを狙おうとしたら……!」
ラズが言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、彼が飛び出してきた森の奥から、バサバサと葉っぱを切り裂くようなけたたましい羽音が響き渡った。
『シャァァァァッ!!』
鋭い鳴き声と共に飛び出してきたのは、巨大な翼と鋭い爪を持つ、いかにも獰猛そうな大型の鳥ポケモン。
「ウ、ウォーグル……!?」
クランが目を見開く。
空の勇者とも呼ばれる強力なポケモンが、鋭い眼光で地上の一行を睨み下ろしていた。
どうやら、ラズの狙いは少しばかり大物を引き当てすぎてしまったようだ。
カンショウがウォーグルを見てすぐにBURSTハートを取り出し突っ込んでいく。
「BURST!!」
カンショウはBURSTハートでニューラと融合し変身、即座に爪で先制攻撃を仕掛けるがウォーグルは軽く動いただけで回避し、逆にいわくだきでニューラの弱点を突いて軽く吹っ飛ばす。
BURST戦士相手でも何の迷いもなく攻撃をする姿は『暴れん坊』と表現するに相応しい。
「カンショウさん!」
「……あれは近く山から逃げてきた主だな、近頃はグレートガベルの影響で住処を追いやられるポケモンもいる」
「じゃあ……ここにいたら、この森の生態系が崩壊するかも……」
「大変だ……すみません、僕のせいで」
「何、こいつが暴れるより先にお前の手で保護すればいいだけだ……チーフもやる気みたいだしな」
ドサイドンは直ぐ様腕の中に岩石を詰め込んでがんせきほうを発射するがスピードを維持したまま華麗な旋回や軸移動で弾丸を回避して地上スレスレを飛びながら……近くの木や岩場で鉤爪を研いで力に変える。
あのウォーグルは完全に爪を武器として使っているようだ……だから低空飛行してまでこっちを狙ってくる。
「……あのウォーグルに近づいたらむしろ、やられる……早すぎてテレキネシスで抑えきれない……けど、リグレーの新しい技ならうまくいくかも……ガードシェアなら」
リグレーもずっとここで超能力を鍛えて新しい技を覚えた。
ガードシェアとは、自身と相手の防御力を均等に……わかりやすく言えば、この場合だとリグレーとウォーグルの能力を組み合わせた上でそれぞれ半分ずつの数値にするというもの、リグレー自身の防御力が低いため、均等にするとウォーグルも多少柔くなるということだ。
それを聞いてカンショウは爪を光らせる。
「なるほど、それなら楽に奴を仕留められる……隙は私が作るから確実にやれ!」
カンショウは再び飛び上がって、爪を翻してウォーグルに向かい……ウォーグルも獲物が見えた途端、また一目散にいわくだきを発動しようと鉤爪を向ける。
だがカンショウも同じ手は2度もくらわない、受けるのではなく木の枝に爪を引っ掛けて回転しながら地面へ急降下。
空の勇者も甘くない、地面へ降りてくるのなら構わず追いかける……地面に当たることなど怖くもない、むしろ地面は自分にとって立派な『砥石』だ。
地面を擦らせながら爪を研いで行く。
「地面と加速する勢いを利用して爪研ぎを!?」
「……リグレー、ガードシェア!!」
しかしこのリグレーのガードシェアで防御力は変化……地面の勢いを利用して研いでいたウォーグルの爪は……
ぽっきりと折れた。
これにはウォーグルも驚いて加速が止まったが……その分隙が出来た。
「今だ……ねむりごな!!」
クランは一瞬だけフシギソウにBURSTしてねむりごなを当てることに成功させ……ウォーグルはそのまま眠りについた。
こうして無力化させ、後はモンスターボールを当てればいいが……ラズは暗い顔をしていた、爪を折ってしまったことに罪悪感を感じているのだろう。
「気にするなラズ、ポケモンバトルとは戦いだ……こういうこともある」
「ええ……その、捕まえるより先にウォーグルの足を治したいです」
「何を甘いことを言っている? 弱き物は潰される……それが野生の生き方だ、奴の爪は優れていたがより上がいた、それだけだ……」
「そんな言い方は……よくない、貴方だってニューラの爪が折れたら……きっと、悲しい」
ベリーもリグレーも、あんなに暴れていたウォーグルの足が少し痛々しい形になってしまったことに申し訳なさを感じることくらいはある……ただし、カンショウだけがどうにも理解できてない顔をしている、理解出来ないのでなく……まるでその発想がないような。
「ここにいるニューラが怪我をして私が悲しむ……? 勘違いしていないか? この爪は私の身体が変化したもので、ニューラはずっと石の中だ、あいつは笑うこともないが泣くこともない……BURSTハートに入った時点でな」
お前は何を言っているんだ?
咄嗟にクランはそんなことを言いそうになったがぐっと堪えた。
……彼女はニューラのことを相棒と思っているのか?
こういう時は……いつもハッタリ交じりの話術に頼ってきた。
「完全なBURST戦士とやらが聞いたら腰を抜かしそうなジョークだな、心を通わせる以上……石で離されてもコンディションを案じるのがトレーナーだったぞ」
「ああ、損傷によって全力を出せなくなるのが不安という意味か! それならニューラは心配はない、常に健康体のまま永久に保存される……仮死状態といえば聞こえが悪いが永遠にベストコンディションを維持した力を使えるからな、皆そうして戦っていた」
「……!!」
だがこの返答にはクランも動揺を隠せなかった、この一瞬で職務と本能が『敵』と判断したドサイドンががんせきほうを発射する態勢に回るが……ラズが止める。
しかし……ドサイドンでも冷や汗をかく、あのラズでも許容しきれない範囲の怒り、ベリーも止めることが出来ず、ご主人の見たことのない顔にミノムッチもあわあわとした動きしか出来ない。
「……まさかと思いたいんですよ、僕も、最初に会ったクランさんやタマネさんのような方が特殊な例だったと思いたくないんです、まさか、本当に人によっては失礼すぎる事を言います」
「まさか貴方達BURST戦士というのは、最初からハートに封印されたポケモンを解放する気なんて無いんですか!!?」
「………………???」
「リュウさんのゼクロムは自らリュウさんの力になるべくBURSTハートになった、彼らポケモン達がハートになったのだから……飼い犬をどうするかなど持ち主の自由ではないか? 封印こそ酷だが、言い返せば何があっても死ぬことはないのだから実に安全ではないか?」
「……」
「むしろポケモントレーナーと呼ばれるものこそ、全てがそうであると断言はしないがポケモンというものを解っていない、火を吐き、水を操り、雷を落とす……人の承認欲求を満たすだけの愛玩動物と勘違いしている奴らがいる」
「ポケモンとは力だ、そしてその力をコントロールし武器や権威として人々に知らしめたのがリュウさん、ポケモンという恐るべき力を正義の為に振るうリュウさんとその息子こそ……世界を変えるアルカデスの素質ある者!」