ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第6話「雷雲嵐武」

 アルカデスを目指して旅を続ける一行が辿り着いたのは、「テンキ村」と呼ばれる寂れた小さな村だった。

 ラズ達はまず村の小さなポケモンセンターに赴き、ウォーグルの折れた鉤爪の本格的な治療を頼んだ。

 処置にはしばらく時間がかかるということで、その間に彼らはHAMとしての本来の任務──環境保全活動に取り掛かることにした。

 

 テンキ村の惨状は想像以上に深刻だった。

 周囲の森は定期的に襲い来る台風や強烈な雷雨によって荒れ果て、木々はなぎ倒され、地面は抉れている。

 当然そこに住む野生のポケモン達の住処も甚大な被害を受けており、ラズとベリーは泥にまみれながら、ポケモンのために新たな花や木を植え直し、壊れた小さな小屋を建て直す作業に追われていた。

 ミノムッチもいつも以上に巣作りを行っているし、ドサイドンは被害状況から大きなポケモンの襲撃に備えてラズ達を見張ってくれる

 

「ひどい有様ですね……近くの山でも土砂崩れがあったと村の人が言っていました。僕達が森で出会ったウォーグルも、もしかしたらこの異常気象から逃げてきたのかもしれません」

 

「……どんなにやっても 足りないくらい」

 

 汗を拭いながらラズは痛々しい森の爪痕を見つめた。

 一緒に木材を運んでいたクランは、空を覆う分厚い雲を険しい目で見上げる。

 

「……それにしても妙だ。いくら自然が厳しい地域だとはいえ、同じ場所にこれほど頻繁に嵐や雷が集中するものだろうか」

 

「クランさん、何か心当たりが?」

 

「いや……グレートガベルの連中がまた何か仕組んでいるんじゃないかと疑っただけだ。だが、今は被災したポケモン達の復興が優先だな」

 

 クランはそう言って疑念を頭の隅に追いやり、再び無言で重い木材を担ぎ上げた。 

 一通り作業が落ち着き、短い休憩を取ることになった。

 

 ラズとベリーは村の状況をもう少し詳しく調べるため、村の奥へと足を進めた。そこで二人が見つけたのは、鬱蒼と茂る木々に隠れるように建つ、寂れた古い祠だった。

 そして、その祠を守るように、2つの巨大な魔神のような像が並んで立っていた。

 

「この像……」

 

 ラズはその姿に強い見覚えがあった。HAMとしてポケモンに関する知識を深く学んできた彼女の脳裏に、古い伝承が蘇る。

 

「片方は『トルネロス』。軽く尻尾を振るだけで、民家を吹き飛ばすほどの凄まじい突風を作り出せると言われている、風の神様として祀られる伝説のポケモンです」

 

 ベリーが横でもう一つの像を見上げる。

 

「じゃあ、隣の雷雲みたいな模様がある方は……」

 

「これは、『ボルトロス』です。あちらは空から見境なく落雷を落とす雷の神様です。時に雨を降らせて豊穣の恩恵をもたらすという見方もありますが……よく知られているのは、面白半分で周囲に深刻な災害を起こす、とても迷惑な側面なんです」

 

 ラズの言葉に、ベリーの表情が曇る。

 もしこの村を襲っている嵐と雷が、グレートガベルの仕業ではなくこのトルネロスとボルトロスによるものだったとしたら。

 一概に「BURST戦士の悪事」だと言い切ることはできなくなるし……トルネロスやボルトロスがそういった悪戯心で環境を荒らすというのも珍しい話じゃなかった。

 

(自然環境を守るのが僕達HAMの仕事……でも、もしポケモン達の平和を荒らしているのが、これらのような他の野生のポケモンだった場合、人間である僕達はどこまで介入していいのか?)

 

 ラズが答えの出ない問題に思い悩んでいた、その時だった。 

 ポツリ、と頬に冷たいものが当たったかと思うと、瞬く間に空が黒く染まり、バケツをひっくり返したような大雨が降り注いできた。

 

「うわっ……またいきなり雨が!? 結構それもこんなに強い……」

 

「ラズ、あっち!」

 

 ベリーが指さす先を探すが、雨足が強すぎて視界が効かない。悩む暇もなく、二人はずぶ濡れになりながら雨を凌げる場所を探して走り出した。

 

「君等、こっちこっち! そこいたら危ないよ!」

 

 轟く雨音に混じって、ふいに男性の声が響いた。

 声のする方向へ向かうと、岩肌にぽっかりと開いた洞窟があり、中から見知らぬ男性が手招きをしているのが見えた。

 

「す、すみません! 助かります!」

 

 ラズとベリーは転がり込むように洞窟の中へと避難した。洞窟内部は意外にも広く、奥の方まで空間が続いているようだ。外では風の音が次第に強さを増しており、ひゅおおおという不気味な唸り声を上げている。

 このままでは竜巻も発生するかもしれない。

 

「ふう……危ないところでした。あの、助けていただいてありがとうございま──」

 

 ラズが息を整え、お礼を言おうと振り返ったが、そこには誰もいなかった。

 つい先程まで自分達を呼んでいたはずの男性の姿が、忽然と消え失せている。

 

「……あれ? どこに行ったんでしょうか?」

 

「奥に……行ったのかな?」

 

 ベリーと顔を見合わせ、暗い洞窟の奥へと少しだけ足を踏み入れる。

 その時、ラズの足元で『カチャリ』と硬質な音が鳴った。

 

「ん……? 何か踏んだ?」

 

 小石とは違う、妙に滑らかでひんやりとした感触。

 薄暗い中、ラズは足元に視線を落とし、目を凝らした。

 

「え……?」

 

 それは、見間違えるはずもないものだった。

 六角形の、透き通った水晶のような物体。中にポケモンの力が封じ込められている証である、独特の輝きを放つ石。

 

 BURSTハートだ。

 

 しかも、1つや2つではない。

 暗順応してきた目で周囲を見渡すと、地面に転がる無数の石ころに紛れて、相当な数のBURSTハートが洞窟のあちこちに散らばっていたのだ。

 

「何故、こんなところにBURSTハートが……?」

 

 吹き荒れる嵐の音をかき消すように、ラズの呟きが冷たい洞窟内に響き渡った。

 

 ──

 

「何……!? ラズ達があの村の奥に!?」

 

 一方で別の場所で休憩していたクランもドサイドンから話を聞いてラズ達が大雨に巻き込まれていることを知る。

 草タイプのフシギソウにBURSTすれば雨も多少は防げるだろうと思い、変身した状態で追いかけようとするが突如として強烈な勢いの追い風が全身を襲い身動きが取れなくなり、休んでいた小屋の瓦が次々と吹き飛んでいく。

 

 

「ひゃっひゃっひゃ、ゴローのやつ余所者が来たんで楽しそうにからかってやがんの、いい歳こいて大人げない奴じゃて全く……なあ? もう一人のよそ者?」

 

 風の中からひょうきんに現れたのは全身が大きく盛り上がる……例えるなら魔神のように屈強な老人、胸元にはつむじ風のような模様があり、立派なヒゲは奇妙なことに緑色に変色している。

 ……そして、この風はあの老人から発せられている……そこから導き出される状況は一つだ。

 

「BURST戦士か貴様……グレートガベルのものか!」

 

「はぁ? バス? ぐれ? ワシは横文字なんか言われたところでちーっとも分からんっつうのに、ワシの名はビュウ! どこのなんでもない、この嵐と共に生きる史上最強の男じゃ!」

 

「……ならアンタにも分かりやすく言ってやるよ、この雷雨はお前の仕業で台風でポケモンを荒らしたのもお前かって聞いているんだよ」

 

「ん? ああ……雷雨の方はゴローじゃ、あいつが担当しとる……まあワシだってついさっき竜巻作ってぶん投げたりはしたがな」

 

「竜巻だと……分かっているのか、この怪物のように全てを壊す風がどれだけの人やポケモンを傷つけるのか、何のためにそんなことをする!!」

 

「さっきから嵐にさらされとるのに騒がしい奴じゃなぁ……で、なんでワシがこんなことするのか、だったなぁ……理由などないわアホンダラ、そこでやりたいと思ったら風をぶちまけた!」

 

「……分かりやすいな、なら俺は敢えてポケモン達という大義名分の為に貴様のお遊びを止めさせてもらう!」

 

「頭が高いわ、風神にひれ伏せ、風の重みで地を這いつくばって平伏せよ」

 

 文字通り災害が人の形をしたような傍迷惑な存在に啖呵を切るクラン、しかしあれだけ言うことはありビュウの放つ嵐は凄まじいものだ。

 大口叩いて攻略できないなんてみっともない真似は出来ない、この風をなんとか攻略しないことには……。

 

(……待てよ? あの技……使えそうだ)

 

 ポケモンの技を応用する上で試してみたいことがあったクランは地面に手を突っ込み植物の力を使う。

 

「身体を地面とくっつけて止まるつもりか? しかしワシの嵐はなぁ大木を引っこ抜いたこともあるんじゃ」

 

「……へえ、なら試してみるか」

 

 腕から根を張り、地中から移動してビュウの真下に到達……ここから伸びていったのは、つるのムチ。

 草タイプのポケモンは肉体が植物に近い構造の為に身体からつるのムチを伸ばすことができるか、見方を変えてみれば身体以外から……地面からツルを生やす使い方も出来るじゃないか? そう考えて作り出した変則的なつるのムチだ。

 

 更にそれだけではない、ツルは植物だ……当然ここから種を出すことも出来る。

 つまり設置型……不意打ち気味にタネばくだんを発動することも出来る。

 

「くらえっ!! ツルまき爆弾!!」

 

「ぬおっ」

 

 つるのムチで巻き付けて逃げられないようにしてからタネばくだんを作り出して起爆、腕を地面に張り付けたりするので身動きが取れないし外部からツルを作る必要があるのという欠点も多い技だが、不意打ちには使える。

 しかし……煙の先で、少しダメージは受けたようだが全く堪えてないビュウの姿が出てくる。

 

「少し驚いたがその程度か! 伝説のひこうタイプのワシにくさタイプの技が通用すると思っていたか間抜けがあっ!!」

 

「ああそうだな、お前相手には致命打にもならない……だがこっちに集中してくれたし、爆発を受けた間は風も出せないだろ!!」

 

 ビュウが爆発を受けたわずかな間、風の勢いは収まった……自分に気付いてまた嵐を作り出したとしても、背後に回ればそれは追い風となり強力な推進力になる。

 ビュウを許せないやつはいる、面白半分で住処を奪われるようなポケモンがどこにでもいる。

 すぐ後ろを取られていることに気付いたがもう遅い。

 

 自分の住処を荒らしたのはこいつだ、つるのムチで絶対に逃さず急所を狙える。

 

「いくぞウォーグル!!」

 

「グボォ!!!」

 

 追い風を利用したウォーグルの超高速ブレイブバードが見事にビュウの首筋に直撃し……200センチはある巨漢がキリモミ回転しながら空を飛び上がった……!

 

 ──

 

 同じ頃……ビュウが吹っ飛んだのと同時に竜巻の勢いも落ちていった。

 後は雷雨さえ収まれば帰れるところだがそれどころじゃない……洞窟に溜まっているこの沢山のBURSTハート。

 持ってきた金槌で叩いたら割れるものもあり、洞窟の中でポケモン達が増えていく……こんな所にGG製とオリジナル、両方のBURSTハートがこんなにもある。

 それに自分達を呼び出した声の主らしき男はとこにもいない。

 BURSTハートはなぜこんなにあるのか、もしかして……意図的に誘ってきたのか?

 

「ほう……部外者のネズミかと思えば、随分不相応な物を身につけているな」

 

 稲妻の音、真っ白に光る視界……歩く度に雷が轟き……水色の髪の巨大、雷模様の左腕で空を叩くように振るう老人。

 クランの会ったビュウによく似た……雷神がそのままこの場に現れたような……ラズはベリーを下がらせて守りながら恐る恐る……。

 

「貴方はまさか……ボルトロス?」

 

「……小僧、何故分かった?」

 

 あの像によく似ていた、老人は正体を悟られたと分かるとまるで蜃気楼が溶けるように……水色の肌、浮いた雲による飛行、とがった尻尾が腹部に巻き付くように展開された化身……伝説のポケモン、ボルトロスになった。

 よく見るとボルトロスは口を開いてない……伝説のポケモンはテレパシーを使って人間に話しかけることが出来ると聞いたことがあるが……。

 

「テンキ村で嵐や雷を撒き散らしたのは貴方……いや、もしかしたらトルネロスもいるんですね」

 

「ワシは一応ゴロー、向こうはビュウという名前があったりする……ワシ達はお前達現代人の言葉を借りるならライバル関係にある」

 

 ボルトロス……ゴローの真相はこうだ、トルネロスとボルトロスは対になって人々に伝わっているが非常に仲が悪く、嵐で作物を荒らすのが好きな彼と稲妻で土壌を良くする……なんてこともしていたが、今となってはただの喧嘩ばかりになってしまったという。

 

「ポケモン達の住処が貴方のせいで酷いことになったんですよ……」

 

「それは……実のところ悪いという気持ちもあるが、昔は雷に耐えて耐性がつき、強靭な環境を持つ強き者が生まれていたのだがな……これも時代か?」

 

 ラズにとって幸いなのはゴローとして雨や雷を真面目に環境のために行っていたと認識できたこと、テレパシーを通して話が出来たことだ。

 しっかりと話を通してテンキ村の被害や対策、自分たちのしてきたことをラズは語るとしっかりとゴローは聞き入れてくれて、雨の勢いも落ちていく。

 

「ふむ……人類が率先してポケモンの手助けを、ワシが知っていた頃と言えば奴隷にしたり兵器に変えてしまったりもあったが、奴らも進歩したものだな……」

 

「ボルトロス……いえゴローさん、どうにかテンキ村に落雷を落とすのを……なるべく控えてくれませんか」

 

「そうか……だが簡単に首は振れん ワシも土壌を支える身として横文字で言うプライドと呼ばれるものがある、何よりビュウのやつは言っても簡単に収まらんしい奴は一生迷惑をかけ続けるじゃろ」

 

「貴方は……トルネロスの抑制でもある……」

 

「うーん……そういえばどうして人間みたいな姿をしているのですか?」

 

「威厳、恐怖……ポケモンとしてのワシらは目立ちすぎた、ビュウの奴は中身も変わらんが……時折全く別の自分を模索したくなる時はポケモンにもあるものよ」

 

「なるほど……あっ、そうだラズ、いい方法あるかも」

 

 ──

 

 

 空が晴れた、雨は止んでテンキ村を大きな虹が包み込む。

 ようやくラズ達とクランは合流することが出来た、ウォーグルは元気な姿を主人に見せて満足したような顔をしている、鉤爪もすっかり元通りになっているが地面の勢いを利用して研ぐなんて危険な真似は今後させられないだろう。

 お互いに情報共有してクランがビュウ、ラズがゴローに会ったことを知る。

 ボルトロスが人に化けている……ということよりもビュウを見たトルネロスのBURST戦士の方が隠し事として都合がいいので、そちらに合わせる。

 

 下りてきたゴローも首が斜め向きになっているビュウを見る。

 

「まさかあの男……ビュウの奴を……? なるほど、下界の進化した人間共の環境というものは確かに捨てたものではないということか」

 

「けっ、あんな小僧大したことないわ、そんなことよりなんじゃゴロー、今更になって笑いに来たか」

 

「いいやビュウ、ワシはほどほど愛想が尽きた……何、環境整備の新体制? とやらにも興味が出てきたのでな……」

 

「何……? ラズ、まさかこの人をHAMに入れるのか?」

 

「なにィ!!?」

 

 ラズからの提案は、このままボルトロスにゴローという人間のふりをしてもらって外に出てもらうということだ。

 雷の力で土壌を豊かにしてきた神の側面もあることは一つ、ここは環境保全の先輩に助けてもらおうということで……早くもゴローは旅の支度をしてテンキ村を去ろうとするが……ビュウはその背中を風に乗って舞い上がり追いかけていく。

 

「んぬぬゴロー!! ゴローよ!! まさかお前のみいい思いしようってならそうはいかんぞ! ワシがこんな思いをしたというのにお前だけ……許さん! どこまでも追いかけてお前の思い通りにはさせてやらんからな!! 待ていゴロー!! 待たんかぁ〜っ!!」

 

 ……結果的にこうすることで、テンキ村の嵐の原因となっているものは排除された。

 環境は守られるが……台風が辺りに飛び回っただけのようにも見える。

 

「お前のウォーグルも故郷を荒らした元凶に一矢報いたんだ、満足しただろう」

 

「ウォーグル……近いうちにこのウォーグルの山も元通りにしませんとね」

 

「……」

 

 災害の種、環境が荒れる要因はまだまだ多い。

 BURSTハートを解放した先の居住区の安全を確保するためにも……HAMの戦いは続く。

 というところでラズは肝心なことを思い出した。

 

「あっ……そういえば来てくださいクランさん、実は洞窟の中でBURSTハートを沢山見つけたんです」

 

「なんだと……BURSTハートが複数? まさか自然に取れるものでもないし……」

 

 ラズの発言に多少疑いを持ちながらも例の洞窟に入ってみると……綺麗さっぱりBURSTハートはなくなっていたが、嘘ではないことがクランにはすぐわかった。

 直前まで大雨だったこともありぬかるみやすいことで、洞窟内に足跡が出来ていた……靴の中にラズ達のものとは全く違うものが一つある上にまだ新しい、まるであとからBURSTハートを回収したような……。

 

 更にラズ達は一度男性の声に呼び止められてこの場所に来ている……何故わざわざこんなに落としてから姿を消し、回収している? クランは見当がついた。

 

「BURSTハートを見せつけた……?」

 

 1つわかることは、その男は大量のBURSTハートを所有している……GG製、オリジナル含めて多く。

 何のために? だが手がかりが足跡と声しか無い以上……本格的に探しようがない。

 

「……もしかしたらこの先、とんでもないことが起こるもしれませんね……」

 

 

 そして……その予感は近いうちに現実となる。

 

 

「ノウム様、準備が出来ました」

 

「世界各地にBURSTハートは届いたかな? じゃあ始めようか……ポケモンと人間の常識を変える大会……バーストハートサバイバルを!!」

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