ポケットモンスター ハートブレイク   作:黒影時空

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第7話「BHS開幕!!」

 テンキ村を後にした一行は、再び環境保全の任務がてらアルカデスを目指す旅路に戻っていた。

 空はすっかり晴れ渡り、ウォーグルの鉤爪も完治した今、ラズは胸をなで下ろしていた。

 洞窟で発見した無数のBURSTハートと、その謎の足跡。

 

 回収された痕跡はまだ生々しく残っていたが、今はそれ以上に、ビュウ達がいなくなって村の環境が少しずつ回復し始めたことが何よりの救いだった。

 しかし、次の街──比較的大きな交易都市「イロドリシティ」に足を踏み入れた瞬間、ラズたちは異様な熱気に包まれた。

 

 街の広場では人々が群がり、露店が所狭しと並んでいる。だが、売られているのはいつもの野菜や道具ではない。

 

「BURSTハートだよ! 本物そっくり! これ一つで君もポケモンと融合してヒーローになれるぜ!」

 

 露店の店主が声を張り上げ、ガラスケースに並べられた六角形の透明な石を誇らしげに掲げていた。

 偽物だと一目でわかる安っぽい輝きだが、客たちは熱狂的に手を伸ばしている。

 

 子供たちが目を輝かせ、大人たちは「俺も戦士になれるのか……」と興奮気味に財布を出す。 ラズは呆然と立ち止まった。

 

「……何、これ? BURSTハートが……こんなに?」

 

「いや、ある事自体はいい……カラクダでもオークションで出品されていたからな、なぜこんなにハートが認知されている?」

 

「BURSTハートのことを知ってる人って……今まであまり見てませんでしたよね……?」

 

 ベリーも周囲のざわめきに眉を寄せる。超能力者である彼女は、人々の心のざわつきを直接感じ取っていた。

『憧れ』『興奮』『力への渇望』──それらが渦を巻いている。

 

「しかもこの様子……BURST戦士のことまでおおよそ把握してる? 正気か、あれがどんなものなのか分かったうえで……」

 

 クランも無言で周囲を睥睨していた……彼はこれまで、BURST戦士として戦う際は人目につかないよう細心の注意を払ってきたつもりたま。

 グレートガベルの目を欺くため、そして何より、ポケモンを兵器に変えるような真似が世間に広まらないよう、極力秘密にしてきたはずだった。

 しかし今、この街の至る所に「BURST戦士募集!」「ポケモンと一つになろう!」という看板が貼られ、若者たちが石を握りしめてポーズを取っている。

 明らかに、状況は一変していた。

 

「まさかグレートガベルが?」

 

「いや……奴らはこんな堂々とした手段を今まで見せてない、悪党を増やすならまだしも宣伝目的で自分の武器で財産でもあるハートをばらまくような真似はしなだろう」

 

 ──

 

 どことなく身の危険を感じた三人は街の喫茶店に避難しベリーが近くの書店で買ってきたばかりの雑誌を広げた。

 開いてすぐの一面には派手なタイトルが躍っており、そこで真相が明らかになる。

 

『リーフカンパニーが送る、貴方とポケモンをヒーローに生まれ変わらせる新革命』

 

 ページをめくると、派手な写真とキャッチコピーが並ぶ。

 石を使えば、ポケモンの力を借りた姿に変身できる──まるでゲームから飛び出してきたような、夢のような説明。

 しかしここには生きたポケモンが封印されているという核心は一切触れられていない、ただの「パワーストーン」として、誰でも手軽にヒーローになれる商品だと喧伝されていた。 ラズの顔が青ざめた。

 

「これ……BURSTハートを、商品として売ってる? しかも、こんなに大量に……? ミロカロスやラムパルドのときも、もしかしてこの人が……?」

 

 クランは拳を握りしめ、雑誌を睨みつけた。

 

「ふざけるな……ポケモンを道具扱いするなどグレートガベルと同じ穴のムジナだ。リーフカンパニーだと? 聞いたこともない企業が、なぜこんなタイミングで……」

 

 ベリーが静かに続けた。

「歩きながら心を読んでみた……みんな本当に信じてる。『これで強くなれる』って。偽物まで売られてるのに、本物が市場に出回ってるみたい……」

 

 クランは歯噛みした。BURSTハートは本来、稀少で謎に包まれた存在だった。オークションで高値で取引されることもあったが、製造法も入手経路も不明で世間的には「都市伝説」レベルのものだった。

 それが一夜にして、ヒーロー願望を煽る新商品に成り下がっている。

 だが、クラン達にとっての希望の光はすぐ隣のページにあった……派手な見出しが目を引くその内容は。

 

『BHS(バーストハート・サバイバル)開催決定! 最強のBURST戦士を決める、史上最大の大会!』

 

 リーフカンパニーの社長であるノウム氏が巨大な私有地を舞台に、選ばれしBURST戦士たちを集めて最強を競わせるという。

 数々の試練を乗り越えた優勝者には、賞金10億円に加え……参加者全員のBURSTハートを総取りできる権利が与えられる、しかしリスクは低い──と、記事は強調していた。

 

 ここに書いてあることはあくまで世間一般的には「ハートが奪われるだけの力比べ」、真実を知らない一般人からすればただのエンターテイメントだ。

 調べてみると参加者はすでに数百人に上り、テレビ中継も決定。

 まさに祭りの様相を呈していた。 クランの表情が硬くなった。

 

「……総取り、か。負けたら、こいつと……永遠に別れることになる」

 

 フシギソウをハートに閉じ込められ意地で取り戻し、アルカデスを目指す彼にとって、これはあまりにも危険な賭けだった。

 グレートガベルもこの騒動を見逃さず、必ず何人か送り込んでくるだろう、間違いなくキャロラと、リョウガが言っていたハリルという者も……。

 

 ラズ達が洞窟で見た大量のハート──あれも、この大会に関係しているのかもしれない。謎の男の足跡が、脳裏に蘇る。

 ラズが心配そうにクランを見つめた。

 

「クランさん……参加しますか? リスクが高すぎます、相手もどんな手段を使ってくるか分かりませんよ」

 

 ベリーも頷く。

 

「でも、もしこの大会がグレートガベルの陰謀と繋がってるなら……見過ごせないとは思う」

 

 クランはしばらく沈黙した後、ゆっくりと顔を上げた。目には、迷いのない光が宿っていた。

 

「俺一人でこれを知っていたら……どちらにしても後悔する結果になっていただろう。でもお前達は頼れる」

 

 ラズとベリーは同時に息を呑んだ。クランの声は静かだが、力強かった。

「BHSの開催地を目指す。これまでにないBURST戦士たちとの戦いが始まるが俺の目的は変わらない──アルカデスになること。そして、グレートガベルを叩くこと……だが今、この大会が全ての鍵を握っている気がする」

 

 三人は頷き合い、テーブルに地図を広げた。ボールのなかでウォーグルが翼を広げ、カフェの外から見張るドサイドンが力強く地面を踏みしめる。ミノムッチもミノを固めながら一行を見守っていた。

 HAMの任務は続くが、今は新たな戦いの舞台が待っている。

 

 今の自分は一人じゃない。

 

 ──

 

 

 一方、リーフカンパニーの本社ビル、最上階の豪奢なオフィスでは、ノウムが満足げに笑みを浮かべていた。

 

 巨大なスクリーンには、世界各地から集まる参加者のリストが次々と表示されている。秘書が報告を上げた。

 

「ノウム様、既に500人を超えるBURST戦士がBHSに申し込んできました……この勢いだと在庫が全て世界各地に行き渡ります」

 

 ノウムは特別製の葉巻をくゆらせ、ゆったりと椅子に背を預けた。

 

「いいね、世の中多いことがいいことだ。テレビ局も呼んで大々的に盛り上がるようにして……ああそうそう、このBURST戦士は注目できそうだからAI使って特集組んどいて」

 

 秘書が差し出したタブレットに、二人の名前が浮かび上がる。 一つは、ゼクロムのBURSTハートを持つ少年──リョウガ。

 もう一つは、その対となる存在、レシラムのBURSTハートを持つという青年。 ノウムの目が細められた。

 

 

「これは……」

 

 スクリーンに映し出された二人の姿。リョウガはすでに一行と出会い、同じ目標を抱いていることをノウムは知っていた。そして、もう一人の青年──炎を纏うような気配を放つ彼は、まだ誰にも知られていない存在だった。 ノウムの唇に、底知れぬ笑みが広がる。

 

「ポケモンと人間の常識を変える大会……バーストハートサバイバルを、存分に楽しませてもらおうか」

 

 街の喧騒はさらに熱を帯び、ラズたちの一行はBHSの会場へと足を進めていた。BURSTハートを巡る、新たな嵐が、今まさに巻き起ころうとしていた。

 

 ──

 

 BHSの開催地となるノウムの私有地を調べてみると、凄い事が書かれていた。

 そこは巨大な島を彼が1人で全部買い取って作り出した人工的なポケモン達の楽園、あらゆる環境が整備されてトレーナー用のレジャー施設まで完備されているリーフカンパニーの名物……その名もダブルパーク。

 

 ダブルパークに行くにはリーフカンパニーが所有する豪華客船に乗っていく必要があり……ラズ達が船の近くまで来てみるともう既に行列が出来ていた。

 BURST戦士として参加するものだけじゃない、活躍を一目見たくて参加した観客もこれだけいることになる。

 ただBURST戦士にしても色んな所から参加している……。

 何十分か経ってようやくラズ達はチケットを手に入れる……これを掴んで船の中に入ったらもう後戻りは出来ない。

 覚悟を決めて船の中に入る……これだけの企画をしていることはあり船の中もかなり豪華で数時間ここで待たされても全く退屈しないことだろう。

 

 ……それにしたってなんでもありすぎるが。

 

「ここにいる人達の殆どがBURST戦士なんですね……クランさんみたいに前から変身出来る人、どれだけいるんでしょうか」

 

「さあな、それより気になるのはリーフカンパニーについてだ、どうやって珍しいハートをここまで確保したのか……どうやって作ったのか」

 

 警戒しているのを悟られないようにしながらどんな人がいるのか探るがあまり踏み込まないようにする。

 ……その答えがすぐに分かる、ダイニングルームで自身の体格の何倍の量もあるバイキングを1人で独占し、どこに詰め込まれるのか何の苦もなく次々と食べている少女が見える。

 

 キャロラ……以前クラン達が手も足も出なかった、エンブオーのBURST戦士にしてグレートガベルの精鋭『七戦騎』他の人々も存在するだけで発せられる覇気か、それとも食事量の方で圧倒されてるのか全く近寄ろうとしない……すぐ隣には少年もいる、リョウガが戦ったというハリルとは彼のことだろう。

 

 それ以外にも沢山いるが、脅威になるのはキャロラだ……いや、グレートガベル自体参加してるだけで面倒なことになる。

 優勝すればBURSTハートは総取り、これに組織で参加すればたとえ誰か敗北しても一人でも優勝すればメンバーは後から自分のものを回収すれば誰もハート失わないのだから。

 

「あっ、クラン見つけた!」

 

 ここでリョウガとミルトと合流。

 アルカデスに会いに行くことが主でポケモンの解放はリョウガとしては目指してなかったはずだが、強い相手と戦いたいバトルマニアなところがあったらしく、ここに来たのも色んなBURST戦士と戦えるからということらしい。

 一体どんな奴が相手になるのか……リョウガからなるべく離れないようにして行動していると、メインホールにスポットライトが当たり、今回の企画者にしてリーフカンパニーの社長、ノウムが姿を現したではないか!

 

「やあよく来てくれたね! BURST戦士に憧れた君も、今回は純粋に新たなヒーローを応援しに来たキミも、BHSに挑戦だ!!」

 

 ノウムは高らかに宣言する、もうすでにバーストハートサバイバルは始まっていることを告げると周囲は熱狂に包まれる。

 まだBURST戦士達の活躍ぶりがどんなものかも解ってない人は多いものだが、何やら凄い事が始まりそうという流れになると自然とそうなるものらしい。

 

「じゃあ間髪入れずに第1回戦」

 

 ノウムが指を鳴らした途端、メインホールとダイニングルームの床が全部開いて巨大な穴になり、間髪入れずに全員が奈落の底……になるかと思われた。

 

「ヒャヒャヒャ!! 秘技・太陽の糸!!」

 

 しかし掛け声とともに太陽の記号を表すように大きく糸が伸びていき、穴をぴったり防いで落ちそうになっていた船客全てが海の底に落ちずに済んだ。

 糸を出した中心部にいたのは……真っ赤な蝶の羽を翻し、肩に角のようなものが生えたBURST戦士……よく見ると、リョウガはその姿を知っていた。

 

「お前はヒルグレイツ!」

 

「よう、また会ったなあの時のBURST戦士!!」

 

「リョウガ知り合いか?」

 

「あいつもGG七戦騎だよ、前に俺が倒してドリュウズを解放したはずなんだが」

 

「新しいハートくらいいくらでもあるに決まってんだろ! しかしウルガモスか……こいつも中々使えるな」

 

 リョウガが倒したヒルグレイツはどうやらクラン達が見ていないところで戦い、そのときはドリュウズのBURSTハートを使用して激闘を繰り広げた……リョウガにとっては初めての対BURST戦士だったとか。

 それが今……新たにウルガモスの力を手に入れてまた立ちはだかろうとしている。

 しかし彼は今……リョウガ達を助けた? いや、自分が助かろうとして結果的に全員を助けることになった?

 

 この結果にはノウムも驚いた様子だがそのまま進行を進める。

 

「なんと一人の青年の力によって第一回戦敗退者ゼロ人! 凄い救援精神です!」

 

 ノウムの持ち上げセリフにも全く動じないヒルグレイツは、そのまま糸からよじ登って挑発的に答える。

 

「そんなんじゃねえさ、せっかくこんなに集まってんのにこんなつまらねえ形でやられちまったら張り合いがねえじゃねえか、どうせやるなら島でめちゃくちゃしてやりたいところだ」

 

「いいねそうでなくちゃ! それくらい血気盛んな方が大会は盛り上がるものよ、それでは休憩後に第2回戦を始めます!」

 

 なんとあっという間に第1回戦が終わってしまい退場者ゼロ、しかしヒルグレイツも意図してなかったとはいえヒーロー的な認識をされているBURST戦士のデモンストレーションとしては順調な滑り出しをしており、周りからは拍手で包まれる。

 その喝采を受けている相手が……人々を恐怖に陥れる悪の組織の幹部であることを知るものは少ない。

 簡単な社交辞令の素振りを向けながら、ヒルグレイツはリョウガに耳打ちする。

 

「どうやら参加者の中に俺たちグレートガベルのボスがいるそうだ……誰だろうな? 俺たちも知らねえ」

 

「何!? グレートガベルのボスって……」

 

「じゃあな、次やるときがお前の最後だぜゼクロム……ギヒャヒャ」

 

 

 余計なことを敢えて喋ったヒルグレイツにハリルは悪態をつくがキャロラは落ちそうになっていた残りのフルコースを器用につかんでいた。

 実際グレートガベル側から見てもボスが参加者に紛れているのは確かなので、順当にいけばその人物が優勝するか、あるいはそうなるように誘導しなければならない。

 いい加減教えてもらいたいところかもしれないが、ハリルもキャロラも言われた通り任務を遂行するだけだ。

 

「BURSTハート、多くのハートを集めればアルカデスの元に辿り着ける……俺から父さんを、全てを奪ったアルカデスの所へ……」

 

 ──

 

 2回戦が始まるまでは寝室で待機ということになり……クランは今後のことも考えてラズ達に相談しようとするが客席から腕を掴まれる……そこにいたのはリョウガと組んでいたミルトだった。

 

「クラン……だったかしら、ちょっと付き合ってくれる?」

 

「ああ、それは構わないがラズ達かリョウガじゃなくていいのか?」

 

「ラズ達にはもう伝えてあるわ、その……2回戦の内容を盗み聞きしたの」

 

「それは確かに知られたらまずいな、それで……2回戦は俺に伝えなければならないほどまずいと?」

 

「ええ……その内容というのがね、BURSTハートを没収される……といえばわかるかしら」

 

「なっ……」

 

 ミルトの聞いた内容によるとこういうことらしい、2回戦は自分達が寝ている間に行われるがBURSTハートを1人でに奪われてしまい、島の中でばら撒かれてしまう。

 それを1つ拾っていき勝ち上がれば元のBURSTハートが帰ってくる……つまり、経験者からすれば絶対に慣れないハートを使う上で戦う、戦士なりたての大多数に配慮したハンデ付きの戦いだ。

 

 しかし……クランにとっては自分のハートが無くなるということの重みが違う。

 

「これを知らないまま戦いに出たら……貴方本当にどうにかなっちゃうんじゃないかってラズが心配してた、私たちはハートを持たないから観客にしかなれないけど……」

 

「……どうすればいい? 参加した以上俺だけフシギソウを取られるのが嫌だなんて通るわけない」

 

「そうね、だから……私にフシギソウのBURSTハートを貸して、他の人には露店で買った偽物を渡しておく……後はこれを私が特定の場所に埋める!」

 

 ミルトが意図的に何かしらの場所に埋めることでクランが改めて再回収しやすいようにするということだ、しかしこれも確実に上手くいくわけではない。

 隠し場所によっては他のBURST戦士に見つかることもありえるし、そうなった場合慣れないBURSTハートで一度勝ち抜かなくてはならない。

 ただほんのちょっとだけ、これを聞いて自分が安心できるだけだ。

 

「……ラズ達はどこだ」

 

「リーフカンパニーについて調べてる……リョウガから聞いたの、メンバーの中にグレートガベルのボスも紛れてるって、それが本当なら……」

 

「グレートガベルのメンバー……キャロラやあのヒルグレイツという男はなんとしてもそいつを勝たせようとするわけか、覚えておこう」

 

 だが、クランやリョウガ達の戦いは都合よくいかない。

 

 何せここにはBURST戦士がたくさんいる、ポケモンの能力を存分に使えば……何が起こるか分からない。

 

 たとえばそう、眠る直前まで一人のBURST戦士の力が船全体に生き渡ったりとか……。

 

「悪いねェ……アレは想定外だったけど、この勝負もう僕様の優勝が決まっちゃってるんだもんね……」

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