銀河腐れ伝説   作:ウヅキ

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お気に入り、作品評価、感想いつもありがとうございます

頂いた一部の感想の答えですが、前話に主人公がパーティーを開きましたが友人の金と赤は呼んでいません
公爵の叔父の名前で開いたパーティーに寵姫の弟を呼ぶのは政治的に結構影響が大きいので他の友人知人はぶっちゃけ埃レベルの影響だから叔父もスルーしますがラインハルトは取扱いが色々と面倒だから許可が下りませんでした


第21話 人生の転機

 

 

 帝国歴483年もそろそろ終わりが近づく寒さの厳しい年末。身が震える夕暮れ時の新 無 憂 宮(ノイエ・サンスーシー)の近隣をフェリクスは一人物思いに耽りながら歩く。通常門閥貴族が一人で出歩くことは無い。大抵は近距離でも地上車(ランドカー)を使ったり、よしんば徒歩でも護衛がついている。彼自身が徒歩で近所をブラブラするのは、ずっと研究所に籠り切りは健康にも悪いから、運動と一種の気分転換も兼ねている。そうした理由があっても貴族の常識をお構いなしに出歩くのだから、大抵の貴族は陰で変わり者と見做している。

 足を動かしながら彼の頭は今も通常稼働中である。

 

(駆逐艦はひとまず完成。巡航艦は来年から兵装の取り付けに移る。R戦闘機は波動砲を積んだ7型まで評価試験を完了。補給機のPOWは練習機に採用して量産体制は整っている)

 

 つらつらと現状の開発体制を反芻して問題点を挙げていく。

 最初に完成した駆逐艦は通常兵装に加えて、艦載機用の格納庫、異層次元航行システム、対異層次元潜行用の攻撃兵装『亜空間バスター』を搭載している。軍艦として非常に高い戦闘力を有するものの、操船に人手が掛かりすぎるのが現状の課題点だろう。

 AI制御による高効率の船舶操作を現在資源衛星のスタッフに開発させているから、しばらく待たねばなるまい。

 巡航艦は駆逐艦の建造で培ったノウハウが多少役立つ。ここから船体の装甲に修復用ナノマシンを組み込んで自動修復機構を盛り込みたい。

 R戦闘機は既にZ式慣性制御機構と高出力波動砲を積み、フォースとビットコンダクターの未搭載以外は、前世でのRの始祖たるR-9Aアローヘッドと遜色の無い性能を有している。帝国のワルキューレ、叛徒のスパルタニアン。現段階でも、どちらの戦闘艇とも比較にならない高性能。

 シミュレーターを使ったRパイロット候補生はある程度確保した。彼らはRと操作系を共用した補給機のPOWアーマーを使った実機訓練に勤しんでいる。POWはRと違って極めて頑丈に作ってあるから、訓練し放題なのが生産ラインや訓練現場にも優しい。

 となると問題はやはりフォースやビット兵器の素材となるバイド体の生産か。

 

「バイド」

 

 思わず口にした、あの(・・)自己増殖能力を備えた粒子によって構成されながら、同時に波動としての性質をも併せ持つ、超束積高エネルギー生命体。あらゆるエネルギー、あらゆる物理的存在を喰らい、生命体への精神干渉まで行い、同時に外部より向けられたエネルギーを選択的に触媒し増幅する。

 その超生命体の特性を活かしたバイド兵器『フォース』と『ビット』。この二つを扱えなければ真のR戦闘機と呼べない。

 現世では人類が接触、交戦、生存競争を繰り広げた生命体バイドは存在しない。ゆえに前世の知識を元に、バイドを模した人造エネルギー生命体を設計。素材に用いた、この世界でのフォースとビットの量産を急がなければ。

 同時に人造バイドを制御するコントロールロッド、バイド粒子汚染対策の波動粒子浄化装置、バイドの精神干渉を避けるバイドジャマー等。汚染力の弱い人造バイドとて備えは決して過剰とは言えない。 

 さらに不慮の事故でフォース等が紛失した場合を考慮する必要がある。バイド粒子の発生を観測する観測機器もなるべく広範囲に設置して、非常事態にも備えなければ。

 兎にも角にもやることが山積みでうんざりする。ここに宮廷医師の業務、ベーネミュンデ侯爵夫人の使用人ハンナの妊娠経過観察、ブラウンシュヴァイク一門として新年の挨拶回り。

 あとは建造した艦艇を実戦投入して、そろそろデータを取りたい。現在はフレーゲル家保有の星系域に出没する宇宙海賊を討伐しているが、正規軍でもない木っ端をどれだけ狩ったところで足しにもならん。帝国軍は論外、ならば叛徒相手に実戦テストを行いたい。

 

(体があと5体は欲しい)

 

 忙しさのあまり無理と分かっても益体の無い願いが漏れ出てしまった。

 そんな疲れからか、思考が明後日の方向に飛んでしまって、正面から通行人とぶつかってしまい、相手の荷物を地面にぶちまけてしまった。

 

「あっああ、本が」

 

「ああしまった、申し訳ない。手伝います」

 

 周囲に散らばった紙製の書籍を幾つか拾い上げて、題名を見て共通性に気が付いた。

 『極点の氷床変動』『地殻均衝』『惑星成形年別の造山活動について』『恒星と惑星間距離の潮力との関連性』とある。地質学や惑星物理学の専門家や大学生が扱うような書籍ばかりだった。

 拾った本を持ち主に渡す。持ち主はフェリクスより少し長身、黒髪を七三に分けた知性的な顔立ちの20歳を過ぎた青年男性。コートの上からでも鍛えられた筋肉が分かる。大学生より軍の士官の方が近いと感じた。事実、コートの裾からはみ出た小さなブラスターのホルスターがちらりと見えた。

 

「前をよく見ず歩いていたのを謝罪します。軍人のようですが専門外でも勉強熱心ですね」

 

「うん?ああ、ブラスターが見えたのか。本はちょっとした趣味さ。君ももしかして軍人か?」

 

「私は幼年軍学校を出ただけで、任官していません。今は医者の見習いです」

 

 医者の見習いを黒髪の青年は医大生と受け取った。

 

「俺も幼年軍学校を出ていてね。どうだい、これも何かの縁だから、ちょっとそこで飲みながら話さないか」

 

「夕食もまだですから良いですよ」

 

 都合の良い事にすぐそばの街路に『摩天楼』という猫の看板を掲げた酒場があった。互いの名も知らぬ二人はさほど混んでいない早い時間の酒場へと繰り出した。

 空いている丸テーブルに座り、長い黒髪の細身のウェイトレスに黒ビールを二つ、焼いたソーセージとジャガイモを頼んだ。先にビールが置かれて、二人はグラスを持つ。

 

「「偶然の出会いに」」

 

 乾杯してビールを数口喉に流す。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はアルフレット・グリルパルツァー。これでも戦艦勤務の大尉なんだぜ」

 

「私はフェリクス・フ…フランケル(・・・・・)。予備役准尉です。先程は失礼しました大尉」

 

「ははは、お前さんは軍人じゃないんだから階級はいらないさ。というかその年で医学部に合格したんだろ。随分優秀だな」

 

「貴方こそ。その年で貴族出身でもないのに大尉になられたのでしょう」

 

 フェリクスは決して世辞を言っていない。実際、グリルパルツァーは今年22歳の平民階級出身ながら既に大尉になった。この昇進速度は相当に早い。

 

「良い上官に巡り合えたのが大きいな。俺は幼年学校は出ても貴族じゃないから士官学校の推薦枠は貰えなかった。けれど何年か前線勤務をして、最初の上官が士官学校に推薦してくれたんだ。おかげで士官学校卒で昇進も早いのさ」

 

 本人の言うように良い上官に巡り合えれば人事評価も公正にしてもらえる。それでも当人が優秀でなければ無意味だろうが。

 適当な賞賛と謙遜をしあいながら、焼けた熱々のソーセージを齧り、ビールを流し込む。

 そこそこにアルコールが回ってきたグリルパルツァーはすぐに二杯目のビールを貰う。

 

「実は俺、本当は軍人より探検とか冒険の方が好きなんだよ。けどそれじゃ食えないから、軍に入ったのさ。軍に行けば給料貰えて、各惑星の地質とか地形の詳細な資料が見放題だろ。頑張って上に行って金をためて、あちこちの惑星探検をするのが夢なんだ」

 

「それで休暇中に地質の勉強ですか。立派です」

 

「よせやい!褒めたって払いを奢ってやる程度だぜ。まあ、各惑星に降りるには軍の任務か学会の許可が必要だから、まずは博物学の協会員にならないとな」

 

 どうやら帝国各地の無人惑星を調査するには、帝国地理博物学協会の協会員にならないと殆ど許可してもらえないらしい。その会員になるには同協会の会員の推薦と地理に関する論文を提出して、一定の評価が必要だそうだ。

 

「貴族なら大金を積めば名誉会員になれるんだが、俺は平民だし金も無いからな。地道に勉強して論文書いて、少しは推薦も受けやすい佐官になってやるよ」

 

 現実のままならない境遇を正確に理解しつつ、今の自分に何があれば夢を実現出来るか。それを冷静に分析して未来に備えられるグリルパルツァーをフェリクスは高く評価した。軍人としての資質は申し分ない。夢もある意味己に重なる。これはきっと良い出会いなのだろう。

 

「ところでお前今年16~7だろ。ラインハルト・ミューゼルって金髪の幼年学生を知っているか。あとキルヒアイスだったかな」

 

 知った名前がグリルパルツァーから出て、ちょっとだけ驚いた。

 同期の有名な首席とその友人とだけぼかすと、彼はいかにも納得した様子で頷いた。ちなみにビールは三杯目になっている。

 

「ちょっと前に俺の所属していたパトロール艦隊に居たんだよ。俺より6歳も年下で駆逐艦艦長でな。噂じゃ姉が皇帝の寵姫だからトントン拍子に出世したって話だが、それだけじゃ無かったんだ」

 

「彼は優秀ですよ。それに一緒にいるキルヒアイスも」

 

「やっぱりか~。あの少佐、駆逐艦一隻で叛徒の巡航艦を撃破したからな。並の指揮官じゃねえ。レンネンカンプ大佐、ああ俺の今の上官なんだけど、ベタ褒めしてたぜ。今はさらに昇進して巡航艦を乗り回す中佐さ。運と実力があるから出世も早いね」

 

 付け合わせのザワークラウトを頬張り、酸味に顔をしかめる。ただ酸っぱい以外にも年下が自分を追い抜いてバンバン出世して行くのを眺めるのは、相手の力量を認めていても少しばかり面白くないのだろう。それでも寵姫の弟だからとか、上官に体を売った等、謂れの無い中傷を口にしないだけ上等である。

 フェリクスはグリルパルツァーの四杯目のビールのお代わりと、無くなったつまみの追加を頼む。

 

「グリルパルツァーさんは惑星探検がしたいと仰いましたが、帝国以外にも叛徒の領域のようなデータの乏しい惑星にも行きたいですか」

 

「そりゃあ探検は未知の場所だからこそワクワクするものさ。現実的には難しいが可能なら未発見の星を真っ先に調査したいよ」

 

 この人は当たり(・・・)だ。可能なら口説き落としたい。

 

「実は私の夢はこの銀河を離れて、別の銀河への探索に向かう事なんです。今の技術では不可能ですが何十年先になっても諦めません」

 

 グリルパルツァーはビールを飲むのを止めた。現在の人類にはこの天の川銀河の外に飛び出す技術が無い。その知識はそれなりの高等教育を受けた者なら知っている。当然大学生の(グリルパルツァーが勘違いしている)フェリクスも理解しているのだろう。分かっていてもなお不可能な夢を本気で追いかけている。自分以上の夢を追いかけている年下に眩しい想いがこみ上げる。

 

「もし私が外銀河へ行ける技術を揃えたら、グリルパルツァーさんは一緒に来ますか?軍人として艦長でも、地質調査の学者としても構いませんよ」

 

「もし行けるんだったら今すぐだって付き合ってやるよ。だからなるべく早く、俺が爺になる前にしてくれよ」

 

「言質取りましたよ。実は基幹技術の雛型は既に揃っています。足りないのは人と技術を成熟させる時間です」

 

 呆けたグリルパルツァーに、宮廷医用の身分証を見せて本名を明かす。彼は一気に酔いが醒めて、その場で直立不動の敬礼をした。周囲の酔っぱらいや店のマスターがポカンとして店内を静寂が支配する。

 

「き、貴族の方とは知らず、とんだご無礼暴言を致しました!お許しください!」

 

「お気になさらずに。最初に本名を出さなかった私の方が不作法ですから。ともかく他の客にも迷惑なので座ってください」

 

 言われた通りグリルパルツァーは着席する。緊張で喉がカラカラに乾いても、これ以上酒を飲む気になれなかった。

 

「先程話した事は全て事実です。私が開発した治療用ナノマシンは数年前から正規軍にも納品しています。ご存じですね」

 

「ええ、私の部下も何人かあの治療器具のおかげで命を拾いました」

 

「あれ以外にも秘匿している技術がかなりあって、実は準備に20年あれば外銀河へ行ける目途は立っているんです。それまでに私の所に来て頂ければ旅に連れて行けます。まあ、今からでも山のように仕事はありますが」

 

「といいますと?」

 

「今後建造する護衛艦の艦長や教官職が務まる士官が全く足りません。何分私は医師で軍人の伝手が全く無いので」

 

 グリルパルツァーはアルコール入りの脳みそをフル回転させる。門閥貴族からの直々の引き抜き、これは人生最高のチャンスかもしれない。

 しかも相手は人手不足に喘いで困っている。そんな時に自分が居れば重用される。上手く行ったら組織の№2にだってなれるかもしれない。まるで手つかずのダイヤモンド鉱脈を見つけたような高揚感が駆け巡って、ドーパミンの大量放出すら感じ取れる。

 

「これは命令ではありません。それに正規軍から抜けてしまうと、出世街道から外れてしまう事になります。今すぐ返答はせず、酒を抜いて熟考の末に返答をしてください」

 

 確かに正規軍から移籍すると出世レースからは外れてしまう。だが平民の自分では、これから何十年軍に居ても将官まで上がれない事だって十分ありうる。

 慣れ親しんだ職場に留まって戦死と隣り合わせの青春を過ごすか、あるいはやや博打めいた誘いに乗って夢を追いかけるか。答えは決まったようなものだが、今は無言を貫いた。

 

「……では返答を待っています。今日の払いは任せますが、次は私が奢りましょう」

 

 残ったビールを一気に飲み干したフェリクスはテーブルに連絡先を載せた名刺を一枚置き、酒場を軽い足取りで出ていく。

 一人残されたグリルパルツァーはしばし沈黙の後、喜びの咆哮を上げた。

 

 

 年の明けた帝国歴483年。グリルパルツァーはフェリクスの前に膝を着き首を垂れた。

 さらに上官のヘルムート・レンネンカンプ大佐に転属願を出した。レンネンカンプは詳細を聞き、目を掛けた若手士官を惜しいと感じつつも、新たな地に激励を添えて送り出した。

 

 

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