帝国歴484年4月末日のオーディンには雨が降り注ぐ。
街の郊外の小高い丘にある墓地は、普段は閑散とした死者の寝床ながら、今はあいにくの天気でも多くの参列者が集まっていた。
死者を悼む心は宇宙に飛び出た地球人類とて忘れ去っていない。しかしこの日葬儀に参列した少なくない者の中で、新たな墓所の主に関心を払うものはただ一人だった。
帝国騎士セバスティアン・フォン・ミューゼルの死は銀河帝国にとって、些細どころか微粒子以下の影響しか与えない。ひとえに彼の娘のグリューネワルト伯爵夫人に媚びるために悲しんでいるフリをしているだけだった。
そこにもう一人の子のラインハルトも参列はしても、悲しむ様子は微塵も見せない。むしろ少し清々した様子すらフェリクスとキルヒアイスは感じ取れた。
フェリクスもセバスティアンとは面識すら持たなかったが、友人の父という理由から葬儀には参列している。そして今この場でラインハルトの父親へ向ける感情が怒りと憎しみだったのに気付く。幼年学校の時の、姉を奪った皇帝への怒りの吐露は覚えていた。その同質の感情を実父にも向けていたのは知らなかった。彼にとって姉を売り渡した男は買った皇帝と共に、決して許してはならない存在なのか。
そうした感情は己には理解しえない。もとより今世の両親は物心つく前に事故で他界したため、記号のような価値しかない。親と呼べるのは時たま会う叔父夫婦か、養育した屋敷の執事のホルツだから強い感情も抱かない。
仮に自分に置き換えた場合、両親が死んで兄が皇帝の愛人に連れ去られたようなものか。そして売ったのが叔父。………自分の人生をかけてでも取り戻そうとは思わない。むしろ魔窟に関わらないように逃げの一手を打つだろう。
そんな馬鹿な事を考えているうちに葬儀は終わった。それからキルヒアイスがグリューネワルト伯爵夫人とほんの少し会話を交わしたと思えば、用は済んだとばかりに宮内省の官吏が耳元で囁いて、彼女を
当然弟のラインハルトとその親友のキルヒアイスは、怒気を漲らせて皇帝の居城を睨みつけた。
「あー、お二人とも、これから私の家でお茶でも飲んでいきませんか。戻る前に色々と気持ちの整理も付けた方が良いですよ」
フェリクスが遠慮がちに提案すると、後ろを向いたラインハルトの肩から少し気が抜けた。振り向いた彼の氷のような瞳には既に怒りは消えていた。
「……分かった」
言葉少なめに頷き、男三人は雨の降りしきる墓地を後にした。
軍人コンビはフェリクスの自宅兼研究室を訪れる。玄関からリビングまで廊下には埃一つ落ちていない。
「適当に座っててください」
家主はリビングの隅に備え付けた電気ポットで湯を沸かして茶を淹れる。茶菓子のチョコレートも冷蔵庫から出して、二人の前に置いた。
門閥貴族の出身なのに屋敷に使用人が一人もいない。普通の貴族は何十人も使用人を働かせて、主人は命じるだけ。
軍人の二人ですら大家の老姉妹に衣食住の世話になっているのに、今も自分で客人の茶を淹れている。昔から知ってはいても何ともちぐはぐな男である。
実際は家の掃除は実家の使用人が日を決めて行っているし、洗濯などは業者に全部出している。食事は備蓄した保存食や点滴で済ませているから、ほぼ茶を茶を淹れるぐらいしか家事はやらない。使用人を置かないのは単純に技術の秘匿を考えて、余人を家に入れたくないだけだ。
セキュリティーも過剰なぐらい力を入れている。定期的に近所を巡回する警備員だけでなく、浮遊ロボ、自動式ブラスター、高圧電流、毒ガス。殺傷力の高いトラップを数多く設置している。ここに居を構えた当初は三日に一体は泥棒の死体が転がり、最近は一月に一度は専門業者が侵入を試みてその都度返り討ちに遭っている。
帝都の治安を守る憲兵隊は頻繁に死体が生まれる屋敷を疎ましく思っても、相手が被害者であり門閥貴族だから文句の一つも言えない。
フェリクスの生み出す技術は巨万の富を生む。軍に卸している治療用ナノマシン他、製造したパワードスーツ、麻薬の治療薬等の特許料と売上は年間50億帝国マルクに届く。平民のキルヒアイスの父親の年収が4万帝国マルク。如何に巨額か分かる。ゆえに砂糖に群がる蟻のように、貴族も犯罪者も富の源泉をつけ狙う輩は後を絶たない。
「それで最近の軍務はどうですか。ベーネミュンデ侯爵夫人の刺客は来ていないと思いますが」
「ああ、ここの所あの女絡みで命を狙われた事は無い。姉上もな。卿が手を打ってくれたのか」
「そんなところです。今の夫人は陰謀の糸を巡らせるより、心躍る関心で頭がいっぱいですから」
ラインハルトとキルヒアイスは侯爵夫人が世話をしている皇孫エルウィンを思い浮かべる。それも関心の一つだが、本命は彼女と皇帝の受精卵を宿した使用人のハンナと知っているのはフェリクスだけだ。
週に一回検査をして胎児が順調に育っているのを確認している。二ヶ月後には出産する予定。
侯爵夫人は過去に何度か流産を経験していて、無事に産まれるか心配しているが、皇帝の精子から遺伝子疾患を除去してから受精させたので遺伝子レベルでは杞憂だ。
以前皇女アマーリエとその娘エリザベートの遺伝子を解析した折、彼女たちの遺伝子に見られる『血液凝固制御因子』の異常のルーツが、皇帝フリードリヒ4世にある仮説が立証された事になる。
無論この事実を世間に漏らす気は無い。皇帝への不敬罪に当たる可能性が高いし、『貴方の遺伝子のせいで多くの子らが生きられなかった』などと60歳を過ぎた老人に突き付けるのは無情に過ぎる。既に去年『劣悪遺伝子排除法』は完全廃止されたものの、ルドルフ大帝から続く慣例や偏見を駆逐するにはまだまだ時間がかかった。
皇帝の遺伝子を知っているのはフェリクスのみ―――と思いきや、この場に居る友人二人も、つい最近とある極秘任務の過程で皇帝一族の秘密を知っていた。なんとも世の中は狭い。
「ひとまずアンネローゼ様とラインハルト様の危機は去りました。感謝しますフェリクス」
「友人の危機ですから、力は尽くしますよ」
キルヒアイスの最大限の礼をやんわりと受け取る。友人の為の行動もあるが同時に己と一族の利の折衷の結果なので、そこまで感謝されるのは据わりが悪い。
だから話題を変えるために、今後は大きな戦があるか軽く尋ねる。
「叛徒は二年前にイゼルローン要塞の攻略に失敗して兵を多く失った。暫くは大人しいだろうし、帝国も攻め込む兆候は感じられん」
ラインハルトは叛徒(自由惑星同盟)の不甲斐なさに、少々苛立ちを見せる。軍艦を駆って華々しい武勲を増やす機会を奪われているような状態が今後も続くのが面白くない。
現在は艦を降りて憲兵隊の大佐として殺人事件の捜査を担当しているが、そんな事は別の暇な奴にさせればよいと思っている。とはいえ失敗して上官から無能の誹りを受けるのは断固拒否したい。よって現在も精力的な捜査に明け暮れている。
フェリクスも戦が無いのを残念に思う。もし大規模な戦があれば、こっそり新型艦とR戦闘機を持ち込んで実戦テストを計画していた。私設軍の軍人に最低限戦場の空気を経験させてやりたかった。
となるとやはり自ら叛徒の領域へ進み、辺境のパトロール艦でも襲うか。ついでにイゼルローンとフェザーンの細い回廊を通らず、宇宙に広がる航行不可能領域を飛び越える、異層次元航行推進システムを用いた長距離航行試験もやっておきたい。
問題は叛徒の領域に行っても、土地勘を持った人間が居ないと迷子になってしまう。それこそ惑星同盟人か、帝国とも取引をして各地を転々とするフェザーン商人の道案内がいる。
正直フェザーン商人は対価を払えば仕事はしてくれるが、連中は金のためなら親でも売り飛ばすなどと揶揄される商人だ。その後の守秘義務まで遵守するか疑わしい。
いっそ敵対する同盟人を口説き落として終身雇用したほうが安心かもしれない。帝国にある矯正区―――帝国に捕虜収容所は無く、皇帝への悪質な叛乱者を思想矯正する施設―――を探せば自由欲しさに転ぶ者は必ずいる。差し当って矯正区に居る叛徒の軍人の名簿でも手に入れるか。
当面の方針を纏めて、客の空になったカップに二杯目の茶を淹れる時に、ふとグリューネワルト伯爵夫人の頼み事を思い出した。
「ところでお二人は健康面は大丈夫ですか。特にラインハルトは日常的に飲酒をしていますが」
「心配いらん。俺はちゃんと節度を守って酒を飲んでいる。あんな男のように酒で寿命を縮めるような間抜けで恥知らずじゃない」
ラインハルトはあからさまに不機嫌になった。今日墓に放り込まれた父親の死因は酒の飲み過ぎによる肝硬変。友人からそんな酒浸りの恥ずべき父親と同一に見られるのは気分が悪い。
キルヒアイスもラインハルトとアンネローゼの父親の事は記憶にある。それも常に酒臭さと共にある酔い潰れた親父として、今も脳裏に刻み込まれていた。あのような男と主君を同一視されては、善良の塊のような赤毛の青年でも非難の目を向けてしまう。
「気分を悪くするのは謝罪しますが、何分私も貴方の健康を姉君から強く頼まれているので」
「待てそれはどういう意味だ」
ラインハルトの顔から露骨に焦りが現れる。隣のキルヒアイスは、向かいに座る友人が宮廷医なのを思い出した。そこからアンネローゼと知己を得た真相にたどり着いた。
「酒の味を覚えた弟を姉君は心配して、健康管理を私に委ねました。ですのでこれから診察しましょうか」
「俺は自分の健康ぐらい管理している!いらん」
「病院嫌いはみな同じことを言います。特に子供が。キルヒアイスも一緒になら受けますね」
あからさまな挑発と分かっても、言いたい事を言われっぱなしは癪に障る。診察でも手術でも受けてやると、ラインハルトは軍服を脱ぐ。
診察と言いつつ、実際は採血した血液を機械で分析するだけ。問診すらしないのだから、二人はフェリクスがヤブ医者に見えた。
十五分程度で二人の遺伝コードを全て確認し終えて、結論から先に伝える。
「キルヒアイスに異常は見当たりません。ただ、ラインハルトの方は遺伝子上の欠陥が肺にあります」
「肺?何を言っている。俺は健康そのものだぞ」
「自己免疫機能が他より高い自己免疫疾患かな。今は若く体力があるから顕在化していないだけで、将来的に発症するリスクは常にあります。最悪長期間の発熱からの衰弱死ですね」
己すら知らなかった欠陥を指摘されたラインハルトは動揺した。まさか姉を取り戻す前に倒れ、銀河を手に入れる野望も潰える。そんな未来が脳裏を掠め、柄にもなく胸に当てた手が震えた。
「どうにかならないんですか!?天才の貴方なら何とか治療出来るでしょう!」
「出来ますよ」
キルヒアイスの悲壮な叫びなど歯牙にもかけず、あっさり治ると断言してしまった。
フェリクスはポカンとした二人に苦笑しつつ、順序立てて治療手順を説明する。
「遺伝子異常をナノマシンで書き換えてしまえば発病はしません。今すぐは無理ですが一ヶ月待ってもらえば調整したナノマシンを用意します。それを投与して、体を作り替えるまで約一ヵ月、余裕を見て二ヶ月かな。早ければ今年中に終わります」
金赤コンビはふつふつと怒りがこみ上げる。散々に命の危機を煽っておいて、風邪薬を処方するような軽さで治ると言われたら、一発殴りたくなってきた。
友人たちの胸の内など気付かないフェリクスは、さっさと軍に提出する診断書と病気休暇の意見書を書き上げる。これがあれば軍も療養のためのスケジュールの便宜を図ってくれるだろう。治療はなるべく早い方が良いので、遅くとも今年中には施術しておきたい。
「念のため伯爵夫人も次の回診の時に検査を勧めてみます。貴方と同じ両親なら、発症の危険は等しくある」
「そうだな、姉上の事を頼む」
さっきまでどの部位を殴ろうか選んでいたのに、姉の話になると途端に怒りが治まるのだから、この弟はシスコンを極めている。
同期の友人との短い休息は終わった。これからラインハルト達は再び幼年軍学校に戻り、殺人事件の解決に奔走しなければならない。
友人たちが帰った後、フェリクスは幾つかの伝手を使って、矯正施設に放り込まれた同盟軍人の名簿を手に入れた。そこからフェルナーとグリルヴァルツアーが取引に応じそうな者を拾い上げた。
目を付けられた同盟軍人は門閥貴族の一声で、早々と矯正区の惑星から連れ出された。その軍人は同時期に収容された同僚からも蔑まれ、疎まれ、嫌悪の目を向けられ続けた。
彼が矯正区から居なくなっても誰も話題にしない。周囲からまるで最初から居ないもののように扱われた。
男の名はアーサー・リンチ。かつて自由惑星同盟軍少将の立場にありながら、非武装の市民300万人を見捨てて敵前逃亡した、恥ずべき軍人である。
□□□□□□□□□□
アーサ・リンチなる自由惑星同盟生まれの軍人の評価は、人生の半ばを境に激変した。40歳を超えた頃は少将の地位にあり、軍人として出世街道に乗り、妻子にも恵まれた。転機が訪れたのが今から5年前のエル・ファシル星域への帝国軍の侵攻だった。
侵攻する帝国軍に敗退したリンチ少将は、守るべき民衆を見捨てて一部の部下と共に逃亡。動きを読んでいた帝国軍に捕らえられた。
民間人を見捨てて敵前逃亡。この時点で軍人としては恥以外の何物でもない。加えて残されたエル・ファシル星系の同盟市民を纏め上げて、無事に脱出させた若き士官【ヤン・ウェンリー】を英雄として祭り上げて、失態を糊塗するため必要以上にリンチは貶められた。
ヤンを『エル・ファシルの英雄』とすれば、リンチは『エル・ファシルの卑怯者』だった。
捕らえられた同盟人は辺境惑星の思想矯正施設に放り込まれて、囚人としてゆるやかな監視の下で自給自足の生活を送る。
ある種のどかな田舎の集落でリンチは腐り果てていた。どう言い訳しても軍人として軽蔑される逃亡者。しかも彼は全責任を負う指揮官の立場にある。ゆえに酒に逃げ、溺れて、毎日死体のように眠りこけた。そうすれば侮蔑の視線を気にせずに済む。時折入ってくる新しい捕虜から、同盟内のニュースも聞かずに済んだ。彼の妻子は『卑怯者』の家族として毎日後ろ指をさされて誹謗中傷を受け続けるのに耐え切れずに、一方的に離婚して人目を避けて生きている。
命が助かった代償に、命以外全てを失った男は現在、帝都オーディンの湾港内に係留した駆逐艦の一室にいる。
矯正施設から連れ出されて、大した説明もなく何日も閉じ込められているが待遇自体は悪くない。部屋から出る自由こそないが三度欠かさずそれなりの食事が出る。部屋も狭く薄暗い独房のような部屋と違って、士官用の個室が宛がわれた。
久しぶりにアルコールの抜けた頭で色々な可能性が頭を駆け巡る。それしかやることが無いからだ。
そして待ち続けた末に、リンチは兵士に部屋から出るように命じられた。
連れて来られたのは艦内にある作戦会議室に使うそれなりに広い部屋だった。そこに数名の装甲服を纏った屈強な兵士に守られた、身なりの良い青年が座っていた。
「アーサー・リンチ。椅子に座れ」
青年の横に立つ、若い帝国士官アルフレット・グリルパルツァー少佐が命じる。リンチは言われた通り、青年の向かいに置かれた椅子に腰かける。
「船旅はどうでした。一応手荒な真似はしないように命じておきましたが」
「悪くなかったよ。帝国に居て、一番いいベッドと食事だった。あんたが用意してくれたのか」
「それは何より。私はフェリクス・フォン・フレーゲル。貴方に選択を迫り、今後の処遇を決める権限を持っています」
柔らかい物腰と視線。それにフォンの名からすぐに青年が貴族、この部屋の中で最も年若い彼が最上位者と察する。
「俺みたいな卑怯者の負け犬に貴族様が何の用だ。裸にして首輪をつけて本物の犬みたいに飼う気かい?」
「貴様、無礼だぞ」
兵士の一人が小銃の銃口を突きつけるが、リンチは薄ら笑いを浮かべただけだ。
「そこまで暇ではありませんよ。帰ったら患者の出産準備とか、新型機の設計のために徹夜作業が待っているんですから。本題に入りましょう、私に雇われて叛徒…同盟軍と戦ってもらいたい。正確には同盟領域内で新型艦の実戦テストをしたいから、土地勘のある者が要る」
「へへ仲間殺しをさせるとは、貴族様は良い趣味をお持ちで」
皮肉に周囲の兵士が殺気立つ。特にグリルパルツァーは腰のブラスターに指が触れている。同じ軍人として彼が最もリンチを侮蔑していた。
対して揶揄されたフェリクスは涼しい顔のままだった。第一声に拒否する、あるいは顔色を変えて言葉を荒げる事をしなかった反応から、同盟への忠誠心は消え失せていると判断した。
「承諾すればそれなりの地位と待遇を用意しましょう。嫌ならこのまま矯正区に帰って、また酒を飲んで朽ち果てるのを待つだけの生涯です」
一瞬リンチの瞳の奥に絶望と諦観の影が躍る。あの悪意と否定の渦巻く場所に戻るのは嫌だ。あんな所に比べたら、まだ半生を過ごした戦場に居た方が良かった。
「俺が頷いた後に、母国に戻って返り咲く心配はしないのかい?」
「全ての同輩が卑怯者と唾棄し、妻子にまで見捨てられた男に帰巣本能が残っているとは思えませんね。今更数名の帝国人を引き渡したところで、何が得られるのか」
もはや貴様がどれだけ同盟に忠を尽くしたところで、失ったものをすべて取り戻す事は叶わない。残酷なまでに惨めな負け犬の境遇を突きつける。同時に、だからこそ手に入るものも世の中にはあると告げる。
「これは私の経験論ですが、いっそ卑怯も悪名も極めてみればいい。半端なままでは蔑まれるが、突き抜けた所業はある種の偉業だ。侮蔑と罵倒の行きつく先には畏怖がある」
リンチは自分の半分も生きていない青年の瞳に宿る、おぞましい狂気に心臓を鷲摑みされる恐怖を覚えた。一体何を見て経験を積めば、こんな怖気の走る怪物になる。そして己に畏怖と呼べる感情が渦巻いているのに気付く。
ああ、こんな気持ちになるのは久しく無かった。五年も放置して錆び付いた心臓に、生命の火が燃え上がる。ようは同盟ならビールも買えないような年の若造に引き込まれているのだ。
気合を入れ直すように、リンチは何度も自分の頬を叩いてボケた脳みそに喝を入れた。
「いいぜ貴族の若様。あんたの言葉に乗って極めてやるよ、悪の道ってやつをな」
そこにいたのは誰からも罵られて屍と化した負け犬ではない。悪魔と契約して覚悟を決めた、一端の軍人アーサー・リンチだった。
数日後、元同盟軍人アーサー・リンチ少将を情報提供者として、開発したフレースヴェルグ級駆逐艦3隻を同盟領内へと送り出した。指揮官はグリルパルツァー少佐である。
前回頂いた感想の一部にフェリクスがバイドの模造品を作る事に懐疑的な意見がありましたが、あらゆる次元と時間軸に現れるバイドの性質を理解していれば最優先で作って事前に対抗手段を講じないと銀英伝世界の人類が滅ぶ可能性があります
それに兵器利用以外にもエネルギー増幅器と物質生成機能は外銀河探索への長い航海に必須となるため、フェリクスが何よりも欲していました
リスクはあれどメリットも大きいのがバイド。目的のためなら倫理観や道徳心など簡単に捨て去れるTEAM R-TYPEだった主人公が手を出さない理由は無い
最後にこのお話の題名は『銀河腐れ伝説』です。主人公が腐れ外道なのを忘れないでください
それでは今後ともよろしくお願いいたします