銀河腐れ伝説   作:ウヅキ

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 前話の感想が多く返信し切れそうに無いので、この場を借りて纏めてお礼を申し上げます。
 反響が多かったブラスター付き義眼。目からビームは男の子なら誰しも考える素敵武器ですが、実際にやったらレンズがブラスターの光で焼き付いて義眼が壊れます。一回こっきりの切り札はロマンなんですけどねえ。
 ともかく今後も更新は続けていくので、稚拙な作品ですがよろしくお願いします。



第40話 超越者

 

 

 7月下旬の帝都オーディン。その日は日差しの強い夏の晴れだった。帝国臣民は誰もが空を見上げ、無数の軍艦が天高く舞い上がっていくのを目を細めて眺めていた。

 帝国軍宇宙艦隊10万隻、将兵は1000万人を優に超える。過去最大級の動員に、民衆は否が応でも帝国の危機が迫っている事を感じ取っていた。

 イゼルローン要塞の陥落によって、自由惑星同盟を名乗る叛逆者の軍勢が押し寄せてくる。その数は10万隻とも20万隻とも話が飛び交い、先の見えない恐怖が民の不安を煽った。

 それでも帝国臣民は白亜の戦艦がゆっくりと宇宙へ旅立っていく様を目にした時は感嘆の吐息を漏らす。宇宙艦隊副司令長官ローエングラム元帥の座艦、白銀の戦乙女ブリュンヒルト。帝国軍の新たな象徴の美しさに、誰もが心を奪われる。きっとローエングラム元帥なら侵攻する同盟軍を蹴散らしてくれる。民は童心のような純粋な期待を天翔ける戦艦に抱いた。

 実は帝国の支配層は民に比べてそれほど危惧は抱いていない。常勝のローエングラム元帥率いる宇宙艦隊が必ず同盟軍を撃退してくれると信じているわけではない。むしろ新 無 憂 宮(ノイエ・サンスーシー)に巣食う国務尚書リヒテンラーデに至っては、増長甚だしいローエングラム伯爵が敗退してくれた方が都合が良い。戦上手の伯爵なら少なくない損害を敵に与える。かつ同盟は遠征して補給に難がある。弱ったところを残る半分の帝国正規軍をもって磨り潰してしまえば、それで済む事だった。

 老獪な政治家のリヒテンラーデにとって、孫ほどの年齢の武力頼みの若造など幾らでも搦め手で失脚させられる。確実な勝算があるからこそ、遠く離れた場所から戦を眺めていられた。貴族にとって軍人など手軽に替えの利く道具でしかなかった。

 

 

 ローエングラム元帥率いる帝国軍宇宙艦隊が帝都オーディンより出征して幾日。日付は既に8月に代わり、いよいよ艦隊はイゼルローン回廊の手前のアムリッツァ星域まで迫っていた。

 荒れ狂う核融合の炎を生む恒星アムリッツァ。巨大な炎を前に艦隊は事前の会議通り停止した。

 この星域はイゼルローン回廊の帝国側の入り口付近。大軍を展開するには、ある程度開けた宙間が必要になる。つまりここを拠点にして、同盟軍を迎撃するのがラインハルトの戦略である。

 肝心の敵はまだ姿を見せない。帝国軍情報部の予想では最速で同盟が回廊を抜けるのは8月25日。まだ5日程度余裕がある。それまでは演習をしてじっくりと待っていればいい。

 ラインハルトは艦隊司令に任命した七人の提督をブリュンヒルトに呼び寄せる。ミッターマイヤー、ロイエンタール、ビッテンフェルト、ケンプ、メックリンガー、ワーレン、ルッツ。いずれも若く才気溢れる優れた将である。そこに常に傍にいるキルヒアイスは不在だった。

 敵が現れるまでは持ち回りで哨戒を担当しつつ、それぞれ演習やシミュレーター装置で緊張感を保つように命じた。

 ついでに今回の戦に客将として参加するグリルパルツァー准将を提督達に紹介する。彼は800隻の艦を与えられて、遊撃部隊を指揮する。

 彼は他の提督に比べて若く、大軍を率いる経験に乏しいが才気は他に劣るものではない。事実、数日の演習で確かな実力を見せて、ミッターマイヤー達に受け入れられた。

 こうしてローエングラム元帥の艦隊が迎撃準備を粛々と進める間、半身たるジークフリード・キルヒアイスは一体どこで何をしているのか。彼の行方を知るには8月20日に遡る必要がある。

 

 

      □□□□□□□□□□

 

 

 ジークフリード・キルヒアイス中将は戦艦の艦橋にて、空間振動レーダーで捉えた物体を可視化した3Dヴィジョンを見上げる。

 イゼルローン要塞の銀色の球体はいまだ戦闘体制に移行していない。現在の要塞との距離は6光秒(約180万km)。要塞砲トゥールハンマーの射程圏内にいるが砲撃する様子は無い。絶対的な雷神の槌が振り下ろされる死地にあっても、キルヒアイスは悲観的な境地に無い。相手が撃つ事は無いと判断している。何しろこちらは単艦での航行。たった一隻のために要塞砲を使うほど相手も馬鹿ではない。代わりに同盟のパトロール艦が張り付いて攻撃しているが、全くの無傷のまま反撃すらしないから意図が読めずに困惑している。向こうも何度か通信や光学信号を送って、停船を呼び掛けているが意図的に無視している。

 友人(フェリクス)から大将昇進への前祝いに、半ば無理やり押し付けられた戦艦の超性能には脱帽すらする。代わりに1割でもいいから外見から齎される生理的嫌悪感を考慮してほしかったと思わずにはいられない。

 【ヨトゥンヘイム級戦艦】と名付けられた群青色の禍々しき全長2800mの獣。過去に扱った事のあるヘイムダル級戦艦の艦体フォルムを踏襲しつつ、艦体全体に奇妙な槍状機構が無数に生え、有機生命体の断面より垂れ下がる生体組織を思わせる。同じく艦体下方側面より艦尾下方へ延びる翼状フレームからも板状機構を伸ばしている。まるで無機物の戦艦に生命が宿り、生物個体として成長したかの様な外観には、初めて見る者は例外無く恐怖感と嫌悪感を伴うだろう。

 まして無数の槍状構造物は不自然に揺らめいている。まるで虫の足や海洋生物の棘のように各々が独立可動して管足の如く蠢いているのだ。軍港で初めて友人から艦を見せられた時は、見間違いを疑って何度も目を擦り見直した。やっと事実を認識した瞬間、同席した将官達全員が背筋に汗が流れて全身の産毛が逆立つ嫌悪感が走った。

 今も狂ったように十を超える同盟の哨戒艦がミサイルと中性子ビームを撃ちこんでいるのは、侵入者への拒絶というよりは正体不明の異種生命体に対する恐怖心から来る防衛本能のせいだろう。

 貴族の中には所有する軍艦の装甲に彫刻を施し、艦首に竜や獅子のような動物の意匠を設える者が多い。より煌びやかに飾る事で自らの家の権威を示すのだ。当然ながらそんなオマケはなんの戦術的優位性(タクティカル・アドバンテージ)を持たない。

 兵器を美術品と履き違えた貴族が大多数を占めるのは確かだが、少なくとも友人の生み出したモンスターは見栄や虚仮威しとは無縁だった。

 開発者の友に言わせれば、艦体の槍状構造物や板状構造物はナノマシンによる耐久力の向上と、兵装のエネルギー充填効率を引き上げる効果があるから必要らしい。最初から外銀河へ向かうための護衛艦として設計したから、類を見ない形状なのも当然とのこと。

 人類初の外銀河用航行艦を任せてくれた信頼には友人として応えてやりたいが、もう少し使う側の気持ちも汲んでほしいと思わずにはいられない。それでもこうも袋叩きに遭っても装甲にかすり傷すらつかない性能と、標準戦艦の4倍の巨体は囮に最適である。下手をすればトゥールハンマーが直撃しても耐え切れるかもしれない。だからこうして呑気に構えていられた。

 但し、艦名を【バルバロッサ】に決めたのは、友人の美的センスへのせめてもの抵抗だった。軍艦にお粥やお菓子の名前など御免蒙る。

 

 

 ヨトゥンヘイム級戦艦【バルバロッサ】の接近はイゼルローン要塞指令部の注意を向ける格好の囮である。同盟軍は別方向から十の脅威が迫っている事を知る由も無い。

 R戦闘機部隊。それが要塞にとっての最大級の脅威だった。この時代における戦闘機は偵察任務や艦隊の補助的な運用に限られ、主戦力になる事は無い。ましてたった10機に要塞攻略をさせるなど素人すら考えもしない。まさに狂気の沙汰でしかないが、元よりR戦闘機は異なる次元の22世紀地球人の狂気の結晶として生み出された。既存の全兵器体系を凌駕する為に生み出された超越者であり、敵にとっては殲滅者である。

 イゼルローン要塞から10万km離れた宇宙空間が突如歪曲。浅度異層次元潜行を解除した10機の白を基調としたR戦闘機部隊が姿を現す。一部細部が異なる機体もいるが、全機緑色の球体兵装フォースと機体下部にミサイルや爆弾を装備している。

 戦闘機集団は通常次元に帰還と同時に後部スラスターを全開。Z式慣性制御システムの起動によりキャノピー内のGを中和。ノズルからの噴射炎の発生と同時に最高速度到達。要塞との相対距離を一気に縮める。

 10機の超越者を駆るパイロット達は計器を頼りに目標の銀色の球体を確認。ブリーフィングで命じられた突入後の各々の破壊対象を再認識する。

 1~3番機は兵器工廠のミサイル製造設備。4~6番機は港設備。7~9番機が貯蔵施設の保守部品。10番機が要塞中央指令室。彼等の作戦目標はイゼルローン要塞の奪還ではない。侵攻する同盟軍の拠点にさせないため、一時的な使用停止に追い込むのが目的である。

 

「10番機カーテローゼ少尉。貴官は初陣だが大役を任された。サブプランは用意してあるが失敗は許されん」

 

「了解。命を捨ててでも任務は遂行します」

 

「優先順位を間違えるな、敵にR戦闘機を拿捕されるのが最も重大な失敗だ。無理と判断したら迷わず撤退せよ。気負い過ぎると死ぬぞ」

 

 中隊長に指摘を受けたカーテローゼは平静を取り戻す。いかに訓練で高い成績を修め、最新型のR-9Cを任されても新兵には変わりない。部下の緊張を和らげて最高のコンディションにするのも隊長の仕事だった。

 

「……よし、全機突入10秒前。要塞の流体金属層を波動砲で撃ち抜き、各隊は侵入地点を作れ」

 

 全R戦闘機の機首に波動粒子の青い光が集束する。敵はまだこちらに対応し切れていない。

 数秒後、凄絶な閃光と共に一斉発射。無数の波動弾体は流体金属を容易く貫通。基地外殻をも引き裂いて大穴を開けた。

 10機のRは勢いそのままに要塞内部に突入。

 全機突入成功の情報は中間地点に配置した複数の電子哨戒機R-9E2のリレー通信により、ヘイムダル級戦艦2番艦【メロマカロナ】の艦橋で指揮を執るフェリクス・フォン・フレーゲル大佐にも届いていた。

 

 

 カーテローゼの操るR-9Cは要塞内部をナビゲーションの指示通り通路を進行する。元は帝国の持ち物ゆえにデータは豊富に揃っている。たった三ヵ月で大規模な改装は不可能なので信頼性は高い。

 時折同盟軍の兵士が小火器で応戦しようとしても、個人携帯する火器では装甲表面を焦がす事すら無理。よって無視して突っ切り、閉じた隔壁にはフォースからショットガンレーザーを発射。弾体が接触して隔壁は木っ端微塵になった。射程こそ他のレーザー兵装に比べて短いが、狭い閉鎖空間では高い破壊力が有用になる。

 何度か隔壁をぶち抜き、奥へ奥へと進むと何も無い行き止まりになった。道を間違えたわけではない。冷静にレーザーから波動砲にモードをチェンジ。ヘルメットのバイザーに、チャージが2ループのMAXに到達した表示が出る。

 

「発射」

 

 短い音声命令に従い、愛機の前方に暴力的粒子の奔流が生まれ、拡散した無数の波動弾頭が要塞の分厚い障壁を悉く蹂躙する。

 通常の波動弾体に加えて、より広範囲に弾体をばら撒いて破壊力を向上させた新型の拡散波動砲。近接で使用すれば、戦艦をも一撃で沈められる圧倒的な破壊力になる。敬愛する主はこの新型を『突き抜ける最強』と評した。R-9Aを超える性能ゆえに通常のパイロットには扱えず、人体の一部に強化処置を施す事で操縦の負担を軽減。さらにコックピットに簡易型脳波操縦機構、通称『サイバーコネクト』を使用している。複座型のR-9Aから単座に変更、小型化にも成功して機動性が大幅に向上した。

 最強の一撃により障壁は意味を失い、新たな道が生まれた。これで目的の指令室まで最短で行ける。R戦闘機は正しく兵器の常識を超えた超越者、最強の存在。既存の常識に囚われない運用こそが最大の強みである。

 スラスターを起動して新たな道に侵入。転がる無数の死体を無視して一秒でも早く目的地を目指す。いつの間にか即席のバリケードを構築した敵にはフォースを前面に投射。進行方向全ての物体を文字通り喰らい尽くした。

 カーテローゼは兵士を一顧だにしない。情けや殺人への拒否感などという感傷はとうに無価値となり果てた。主のためなら己は幾らでも手を汚そう。とはいえ主は合理性を尊び、無意味な大量殺戮は望まない。可能な限り効率的に成果を出す事を望まれる。よって最短経路上で迎撃する兵以外は全て無視する。

 レーザーと波動砲の蹂躙による進行で屍の山を築き、とうとう目的の要塞中央指令室の扉を破壊した。

 基地指令室には数十名の同盟軍人が血の海に沈んでいた。もはや敵兵は抵抗すら出来ない有様でも、一殺人機械と化したカーテローゼは躊躇無くフォースからレーザーを掃射。名も知らぬ将兵らは高出力レーザーに焼き払われて、指令室諸共爆散した。

 

 

      □□□□□□□□□□

 

 

 イゼルローン要塞襲撃から1日経った21日。緊急要請を受けた先遣隊のウランフ提督率いる第10艦隊が要塞に到着した。未だ要塞は帝国の手に落ちていないのを確認したウランフは安堵したが、今度は要塞指令室が壊滅して主砲のトゥールハンマーが使えない事、軍港が瓦礫になってまともに使えない事に頭痛を覚える。ともかく後から合流したヤン・ウェンリー提督と共に被害の全貌の把握に努めた。

 要塞内部は大半が無傷だったが一部は入念に破壊されている。中央指令室、兵器工廠、港、軍用品の貯蔵施設、これらは徹底した破壊に遭い、復旧の目途が立っていない。軍関係の重要施設だけを破壊して、ご丁寧に時限式爆弾をばら撒いて去ったおかげで今も不定期に爆発が起きていた。幸い留守を預かる13艦隊の人的被害は軽く、中枢の核融合炉、水耕農場のようなライフラインはほぼ無傷だった。

 帝国の目的は要塞の再奪還ではない。侵攻軍が要塞を使用するのを防ぐ事にあると同盟軍司令部は結論付けた。流体金属層による防御は健在だったが主砲の制御は不可。手動による主砲の使用は可能だったが、大規模コンピューターの照準無しに6光秒先の敵を正確に仕留めるのは不可能だった。よって現在のイゼルローン要塞は、最前線に繋がる小規模な城塞都市以上の価値を持たない。

 断続的な爆発もあり、要塞を司令部にするのは不適切と判断した同盟軍は、遠征軍総司令官のロボス元帥の座艦アイアスで緊急会議を開いた。

 

 遠征の道半ばから暗雲が立ち込める状況に、八個艦隊の半数の提督が先行きの不安を抱く中、総司令のロボスは要塞の襲撃は些事と言い切った。もとより同盟軍の主旨はイゼルローン要塞の先の帝国領解放にある。こんな場所で足踏みしていては、同盟政府と市民が求める成果は得られない。

 総司令官の主張は一理ある。遠征に要塞が必要になる機会は無く、遠征艦隊20万隻は全く損なわれていない。行軍を止める理由にはならなかった。

 先遣隊のヤン提督は先んじて要塞に残ったデータを分析して、襲撃の際に姿を見せた巨大戦艦と要塞に侵入した小型戦闘艇を議題に上げる。

 しかしこの二点はロボスや参謀達の関心を刺激しない。特に戦艦は過去に第4次ティアマト会戦で1隻確認した敵艦の派生艦としか見做されなかった。その時の戦で大きな被害を受けたことは確かでも、数が揃わないなら大きな脅威ではないと切り捨てられた。いかに高性能な兵器とて20万隻の自分達に抗う術は無い。本当に一騎当千の戦力、あるいは纏まった数の艦隊が居たら、先遣隊の10艦隊、13艦隊を攻撃して痛打を与えられた。それをせずに撤退を選んだのなら、そこまでの脅威にはなり得ない。常識的に考えれば結論はそのようになる。数は力というヤン自身が大嫌いなトリューニヒト国防委員長に言った軍事の基本そのままを返されては、それ以上に弁を用いる事は出来なかった。

 付け加えれば、その戦艦や新型戦闘艇の確保もこの遠征の目的の一つだった。こちらは軍部というより軍需企業からの要望になる。企業はより高性能な帝国の兵器を手に入れて、参考あるいは模倣して一儲けしようと企んでいる。軍は企業から軍需物資の支援を受けたり、軍上層部は退役後の天下りの席を貰っている。このため企業からの頼みを断れない。軍も今以上の高性能な兵器が揃えられるなら利になり、正当な理由さえあれば断らない。

 よって当初の戦略通り、艦隊はイゼルローン回廊を抜けて帝国領に侵攻する事を決定した。無論十分に警戒をして襲撃に備えるのが前提である。

 市民の復讐心と政治家の功名心による、明確な戦略構想の無い大侵攻は最初から受難に満ちていた。

 一兵卒から叩き上げで中将まで登った老兵ビュコック提督などは、遠征軍3000万人の将兵の何割がハイネセンに帰ってこられるか、悲観的な数字が頭の隅に浮かんでいた。

 

 

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