今回も頂いた感想が多かったのでこの場でまとめてお礼を申し上げます。
後世の歴史書に銀河帝国建国以来最大の内戦と記される『リップシュタット戦役』の初戦は、討伐軍ミッターマイヤー提督率いる艦隊がシュターデン提督率いる賊軍扱いの貴族連合を撃破した。初戦から大貴族ヒルデスハイム伯爵以下、多数の貴族が戦死する結果に
貴族は生まれた時から全てが叶う地位にあった。欲しい物は大抵手に入り、誰もが自分のために働いて満足させるのが当然と思って生きている。さすがにそれなりの年を重ねれば、貴族間の上下関係や病や身内の死を経験して現実を知る者も多い。それでもたかが平民風情が自分達選ばれし貴族を手に掛けるとは思いもしなかった。
貴族連合を構成する貴族にとって戦争とは遊猟と何一つ変わりがない。ただ、逃げる鹿を銃で撃つ。それだけの遊びと信じて疑わなかった。決して獲物は反撃せず、殺されるために存在する的と思い上がった者から、百戦錬磨の軍人達に逆に狩り尽くされた。戦場においては爵位など何の役にも立たず、己の才覚と信頼する戦友だけが生存を保証してくれる。ぬるま湯に浸り遊び惚けていた貴族にはそれが分からなかった。
誠に滑稽である。
初戦を完全勝利で飾ったローエングラム軍は進軍を再開する。そこで一つ問題が持ち上がった。帝都オーディンから貴族連合の居城
但し、一つだけ無視するには大掛かりな要塞があった。レンテンベルク要塞と呼ばれる小惑星を丸ごと改造した、艦艇1万隻を収容するそれなりに大きな要塞だ。無視して進軍した場合、軍の背後から襲い掛かられては危険と判断して、ラインハルトは攻略を決定した。
数万の軍艦からの一斉砲撃で要塞を丸ごと破壊する意見もあったが、攻略を任されたロイエンタール提督は非戦闘員も多い事を理由に、流血の少ない陸戦隊による要塞の中枢占拠を選択した。
ロイエンタール大将が指揮する艦隊が要塞駐留艦隊をある程度撃破した所で、残存艦隊は要塞に撤退。それから対空砲を全て潰して、強襲揚陸艦が要塞に取り付き、陸戦兵を投入。数時間後には要塞は陥落するかに思われた。
ローエングラム軍の思惑が大幅に狂ったのは、一人の男が率いた集団が理由にある。
要塞中枢へたどり着くためには一本の通路を通らねばならない。ただし重火器は使えなかった。通路にはゼッフル粒子と呼ばれる爆発性の粒子が満ちていた。この粒子はレーザーやビームが接触すると容易く爆発する厄介な性質があった。ゆえに敵味方ともに爆発を避けるために、炭素クリスタル製の原始的な形状の武器―――特に斧型が好まれた―――を使った白兵戦を強制された。
粒子を観測したローエングラム兵は仕方なく、防衛線を敷く兵を排除すべく戦闘員は斧を手に突撃した。彼等にとって要塞通路こそがあの世の入り口とは誰も気付かなかった。先陣を切った中隊はものの数分で全員首を切り飛ばされるか、頭蓋から心臓までを真っ二つにされて屍を晒した。
「ふん、雑魚ばかりだ。これでは体も温まらんわ」
侵入者を皆殺しにした要塞兵の中でも一際大柄な男がさも退屈と吐き捨てる。帝国軍だけでなく同盟を加えた人類最強の戦士オフレッサー上級大将に率いられた帝国軍装甲擲弾兵百名が守護すれば、ただの通路が地獄への最短直通路となった。
ロイエンタールはさらに第二、第三の後続部隊を送り込んだ。しかしやはり瞬く間に兵を肉塊に変えられてしまい、珍しく困り顔を親友ミッターマイヤーに見せる羽目になる。
「これでは埒が明かん。兵の損失も無視出来ぬ」
「かと言って俺達が兵に逃げていいとも言えんのが辛い所だ」
「では我々だけであの
「それで勝てればいいが望み薄だぞ」
親友二人は揃ってため息を吐く。彼等は決して弱くない。むしろ艦隊司令でありながら並の兵士よりも白兵戦に長けた万能の軍人である。それでも帝国最強の白兵戦部隊の装甲擲弾兵には及ばない。ましてオフレッサーには二人掛りでも一蹴されるのが関の山である。せめて火器が使えれば話は違うのだが、そこが気化爆薬と呼ばれるゼッフル粒子の厄介な点だ。
持久戦で相手を疲れさせるのも無駄だろう。連中はフレーゲル博士謹製の医療用ナノマシンを十分に備蓄している。傷の修復だけでなく、疲労軽減や覚醒効果以外にも、数日間の栄養充填も自動で行う。必要なのは用足しぐらいで、文字通り兵士を三日三晩戦えるようにする最高級品と聞いている。
装備の質も問題がある。正規軍の陸戦兵と装甲擲弾兵はどちらもパワードスーツを使っているが、敵の方がより高性能品を採用していた。何年も前から懇意にしていた、やはりフレーゲル博士からの支援だった。
兵の練度と装備、その両方で上に立たれて、戦術と数を活かせない閉鎖空間での戦闘。持久戦も効果が無いとなると、いよいよもって付け入る隙が無い。
手詰まりに陥った所で前線から通信が入る。周波数は突入した兵士の通信機のものだった。不審に思いつつロイエンタールは繋げると、突如左頬に傷のある熊のような厳つい顔がディスプレイ一杯に映し出された。思わずミッターマイヤーは驚きの声を上げる。装甲擲弾兵総監オフレッサーからの通信だった。
「そこにいるのはミッターマイヤーとロイエンタールだな。
カメラの画面が切り替わり、映し出されたのは兵士の首が高々と積まれた小山だった。脳漿と血だまりの池、割れた頭蓋と肉片の小島、刃の砕けた戦斧の橋。何とも血生臭い戦場の庭園である。
「もう二つ三つ同じものを作らなければ学習せんか?返答は態度で示せ」
オフレッサーは言いたい事を言い切って通信を切った。
高々百人程度で7万隻の艦隊の足を止めてしまう。オフレッサーは蛮人やもしれぬが、紛れも無く歴史に名を遺す英雄である。
途方に暮れた大将二人は、恥を忍んで主君ラインハルトに意見を仰いだ。
叱責を甘んじて受ける覚悟していたが予想と違い、年下の主君は芸術家が生涯を賭して生み出した彫刻の如き美麗な顎に手を当てて、数秒だけ思案する。
「卿らは艦隊司令官であって戦士ではない。それに私とてあの石器時代の勇者には殴り合いで勝てん。ならば知略をもって戦おう」
「ではいかがなさいますか」
「二人は士官学校の筆記試験で時間のかかる難問は順番通り解く口か?それとも一旦後回しにするか?」
この問いに、優秀な軍人二人は目を見開いた。ラインハルトの目論見をある程度察したのだ。
すぐさま戦術の変更を艦隊に通達。次の作戦の準備に取り掛かった。
ローエングラム軍は要塞占領を一旦取り止め、艦隊はレンテンベルク要塞全域へ砲撃を敢行。要塞に籠った兵は悲鳴を上げて耐えるしかなかった。ただし被害は思ったほど深刻ではなく、通信アンテナと観測所が壊滅した以外は主だった要塞機能は無傷に近かった。
続いて艦隊は、要塞の無数の軍港の出入り口を砲撃で破壊。粗方瓦礫で埋めた後に撃破した軍艦の残骸を爆薬ごと詰めて、さらに工作兵が即興でダメージコントロール用の補修材を使って塗り固めてしまった。こうなると要塞というより、宇宙に浮かぶだけの巨大な岩塊である。
要塞は機動艦隊を自由に出撃させるからこそ軍事的価値がある。ならば出入り口を塞いでしまえば、それは巨大な牢獄に変わる。
「我々の目的は叛乱の収束にある。このような目先の些事に囚われて時を無駄に過ごしてはならん」
ラインハルト自ら攻略を命じたのに作戦の即刻変更は酷いと思えたが、味方の無駄な犠牲を避けるには致し方ない決定だった。
湾港封鎖を完了した軍は監視と継続した工作のために二千隻ほど残して、すぐに
放置された事に一日経って気付いたオフレッサーや、初戦の後に命からがら逃げ込んだシュターデンは追撃を目論むが、艦隊を出撃させる湾港は全て埋まっている。いっそ被害を覚悟で港内から艦砲射撃で強引にぶち破る意見も出たが、工作兵が定期的に外の隙間からゼッフル粒子を注入して火器使用を封じてしまった。敵に白兵戦を強いる手段が今度は自分達に返って来て、要塞の装甲擲弾兵は歯噛みするしかない。
要塞側は外部との連絡手段と情報を得る手段を失い、艦隊も動けずローエングラム軍は彼方へと遠ざかっていた。
結局レンテンベルク要塞は戦乱が終わるまで封鎖が続き、多くの兵は終戦を聞かされて死なずに済んだ事を喜んだ。
無事に要塞を無力化したローエングラム軍。ここで義眼の参謀長オーベルシュタインの策略が炸裂する。
わざと通信管制を解除して貴族連合に向けて、オフレッサーとシュターデンが寝返った事を大々的に宣言した。
ご丁寧に二人とローエングラム陣営が仲良く酒盛りをしている映像まで送り付けた。ラインハルトとオフレッサーが仲良く肩を組んで、寝返りの報酬に領地の加増を約束する姿に、貴族連合の盟主と幹部達は激怒した。
無論これらの映像はフェイクである。たまたまオフレッサーとシュターデンに似た兵士を化粧でさらに似せて、映像を補正加工したものにすぎない。専門家が見れば加工した形跡がはっきりと分かる程度の雑な仕上がりでも、素人には見分けがつかない。
それでも門閥貴族に疑心の種を蒔くには十分だった。元より門閥貴族は日常的に他者を陰謀で陥れる習慣がある。警戒と猜疑が魂に刻み込まれており、同じ陣営だろうが真に相手を信用しない。
(オフレッサーとシュターデンが寝返った。次は誰が裏切る)
彼等の心には疑惑の種がばら撒かれた。後は貴族の猜疑心が水となって注がれ、軋轢の芽を大きく成長させる。いずれは内紛と離反という大きな果実を実らせるだろう。
数日後、連合の副盟主リッテンハイム侯爵が一門と妻子を連れて
彼等はローエングラム軍との戦いを続けても、既に協調関係は崩れていた。強敵を前にして早くも連合は分裂状態に陥った。
前回の感想の殆どがキルヒアイスへの風評被害だったのが愉快でした。ラインハルトは外伝でキルヒアイスを教師に向いていると評していましたが、実際に小学一年生を受け持ったらおそらく女子児童全員の初恋相手になるでしょう。
キルヒアイスはペド野郎ではないがロリキラーですよ。